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こんにちは、ノムーラはん~外伝

『こんにちは、ノムーラはん』外伝~板にちょち遅めのお化け屋敷

作者: すのへ

「ノムーラはん、こんにちは。あれ。居られしまへんのか」

「ア、もるーかすハン。コンニチハ。トナリデスワ、アレ」

「アレて。ふーん。ほんま、ロボにまで。わ! なんやこれ!」


 『お化け屋敷』 本日、絶賛開業予定!


「モルーカスはん、ええとこに。でや、きょうオープンやでぇ」

「なんだす、これ? たしか、ここ空き家の板でしたな」

「すごいやろ。見た目あれやけど、中は広いでぇ」

「ふーん、いつのまに。二階もありまんのか。けどもう九月でっせ」

「ちょち遅いけど、まだ暑いからエエやろ思て突貫工事や」

「でも、ここの板、出るっちゅう噂あるの、知ってはりまっか」

「それ、別の話でやったな。『なろう』のホラー案件やん」

「し。それ言うたらあきまへん。知らん顔してトボケんと」

「え? あ、そやった。え~、コホン。出るて。なにが」

「ここ新興バイオ板でしたやろ。派手なあおりで特大バブルなって」

「知ってるでぇ。失速して上場廃止、えらい犠牲者が出たて話や」

「その連中が、あの世から夜な夜な出張でばって来て」


  うらめしや~


「ふーん。ここの板にかい。しもた、幽霊屋敷で行けたんやな」

「でも幽霊やから、夜中しか出んちゃいまっか」

「そんなん雰囲気しだいや。演出で出てくるようにでけるでぇ~」

「いつの間にそんなテクを。じゃ、幽霊屋敷にしなはったら」

「もうお化け頼んでもうたから。やっぱ、お化け屋敷や」

「せやけど、どういう風の吹き回しでっか。こんな娯楽施設を」

「みなはんに楽しんでもらお思て。せめてもの罪滅ぼしやがな」

「けど、これ、入場料3千円てありまんがな。ボロいんちゃいまっか」

「てへ。バレた? 副業やん。エンタメ企画で食えんかな思てな」

「そういうガッツいとこが嫌われるんでっせ。で、お化けは」

「よう聞いてくれた。それやねん。すごいでぇ!」

「バイト頼んだんでっしゃろ。ヘタなとこ頼むと台無しでっせ」

「ヘタもなにも。ホンモノや。モノホンが来てるんや!」

「へ? どういうことでっか。あ、神主はん」


 「目録と請求書、持て来ましたんで、よろしゅうに。ごめんやす」


「ごくろはんですな。ノムーラはん、なんでっか、それ。目録?」

「あの神主に口入れ頼んだんや。格安で全国から集めてもろたんやで」

「話がよう見えまへんな。神主が口入れ? モノホンのお化けて。まさか」

「そのまさかや。本物。神主に手配してもろたんや。妖怪変化ようかいへんげな」

「え。目録てお化けの一覧表でっか。もう中でスタンバイしてまんのか」

「せや。まだせわしいから、雪女とか、ろくろ首はムリやったけどな」

「あの神主にそんな力ありまんのか。祈祷きとう頼んでもうまくいったためしが」

「百聞は一見に如かずや。チェックせなかんから、ついでに下見しよか」

「へ? へぇ。ほな、おともしまひょ」


  ひんや~り ひえひえ


「あれ。足、踏み入れたとたん冷えびえや。エアコン入れはった?」

「板の空調だけやで。あ、これのせいや。氷の四角い柱。なんでここに」

「目録に『氷姫』てありまっせ。これ、ちゃいまっか」

「え~これが? 草むらに苔むした岩、そこにちょこんと四角い氷柱が」

「まあ、どっから見ても氷の塊にしか見えまへんわな。うーん」

「あれ。溶けてきたでぇ。わ。わわわわ。見る間に、なくなってもた」

「紹介文に『見られると恥ずかしがって溶ける』とありまんな」

「ほんまか。べっぴん娘の姿ならまだ風情もあるけど、ただの氷の塊やん」

「氷のおっさんかもしれまへんわな。ネーミングしだい。次、行きまひょ」

「溶けたまんまかい。このブース、なんもないことになるがな」

「『人が居なくなると元に戻る』そうだす」

「ふーん。なら、帰りにまた寄ってみよか。次はえ~と」


  てまえは、豆腐小僧にござります!


「え! この声は、深キョン! まさか」

「深キョンのは『豆富小僧』でっしゃろ。目録には『豆腐小僧』てありま」

「でも、声は深キョンやん。かわい~ お~よしよし」

「ノムーラはん、ファンなんでっか、深キョン」

「え。え~、コホン。まあ、いろいろと、その。あれだよ」

「へ。あれでんな。たしかに、かわいおすな。あ~はいはい」

「これ、豆腐もって見上げてるだけやろ。なんもせーへんよな」

「へえ。害もなければ、脅かしたり怖がらしたりも、せんようでっせ」

「かわいいだけか。ま、深キョンの声やからエエわ。次、行こか」


  はあーあ ああーあ はあーーーーあ はふはふ


「なんや。大きなため息ついて。あれ。だれもおらんがな」

「あ、お地蔵さんのかげに。誰ぞしゃがんでまっせ」

「わ、ほんま。頭ぼさぼさ、乞食か浮浪者みたいやな」

「目録には『なげき』とありまんな。悲しいことでもあったんやろか」

「え~。でも妖怪やろ。お化けらしいことしてもらわんとなあ」

「べつだん、特技も書いてないから、ため息ついてるだけちゃいまっか」

「う~ん。おい、おまえ。顔くらい見せたらどないだ。こっち向かんかい」

「イヤイヤしてますな。なんか可哀想になりま」

「はあーあ。まいったなぁ。怖いどころか哀しゅうなるわ」

「気ぃ取りなおして、次行きまひょ」


  よこ~せ 置いてけ~ 食いもんよこ~せ


「お、コワそうな声や。化け物っぽいな。期待でけるでぇ。どれどれ」

「おや、小さいお子がおりまんな。おじょうちゃんかな。どないしはった」

「くぅちゃん、おなか空いた。おっちゃん、なんかおくれ」

「くぅちゃん、いいまんのか。あんた一人か。じゃ、あの太い声は」

「これ。声でるいうて、お父ちゃん、持たしてくれはった」

一輪挿いちりんざしやな。なるほど、ここから声が出まんのか。どういう仕掛や」

「声が反響してんのちゃうか。しかし、腹へってんのか、妖怪のくせに」

「おっちゃん、いけずやな。嫌われるでぇ」

「まあまあ、くぅちゃん。あっちに豆腐小僧おるで。食べさせてもろたら」

「え、さよか。ほな、行てこ。おおきに」

「あ。行てしまいましたな。めんこい子やなぁ」

「う~ん。あれでも妖怪かい。ふつうに浴衣ゆかた着た子やん」

「ま、そんな目くじら立てんでもよろしがな。次、行きまひょか」


 えっへん ポンポコ まかはんにゃ~ ぽこぽん


「なんや。お、月出てるな。ススキもええ具合やん。で、化けモンは」

「おっほん! なにをいたしておる? そのほうら」

「へ? あ。和尚はん。おばんでやす。お月さま、きれいでんな」

「ほんま。こういう月の日には、ほ~りゃああ! ぽんぽこ」

「なんか、ようすおかしぃな。目録に載ってんのちゃう」

「あ。ありま。『文福茶釜ぶんぶくちゃがま』でんな。タヌキの和尚ですわ」

「そのほうたちも月見酒としゃれこまんか。こっち

「どないしまひょ。助けた人間に恩返しするてありまっけど」

「わてら別にタヌキ助けてないでぇ。小便酒でも出てくるんちゃうか」

「そうでんな。用心に越したことありまへん。にまひょ」

「あ~和尚はん、すんまへん。先急ぎますよって。さいなら」

「なんか名残惜しそうに見てまっせ、あのタヌキ和尚」

「相手してほしかったんかな。めんどいな~」

「あ。腹鼓はらづつみ打ってますわ。わ、踊り出した。タヌキ囃子ばやしや」

「ほっとこ。先、急ごやないか」


  わん わん ワンワン わわわわわ~ん わん


「山道なってから犬がついてきますな。どこの犬やろ」

「板はペット禁止やでぇ。どっから潜り込みよったんかな」

「うん?目録に『送り犬』てありますな。ひょっとして、この犬」

「その送り犬かい。なんぞするん?」

「食い殺すとか突き倒すとか、群れが襲うて来る、てありまんな」

「え。危ないやん。どないしたらええんや」

「対処法は『どっこいしょ』と座ったり、『しんどい』言うて休憩する」

「ほな、そうしよか。わ。犬もいっしょに座り込んでるがな」

「なでてやったらどないです。犬は犬ですもんな」

「どれどれ。ほんまや。しっぽ振ってるわ。大きいけどかわいいな」

「ほっこりしまんな。お~よしよし」

「お見送りありがとうやでぇ。山ぬけたからな、ほな、さいなら」

にましたな。さ、行きまひょ。おや、照明が暗なって雨もぽつぽつ」


  パタパタ パタパタ


「なんや、だれぞ追い越してったでぇ。提灯ちょうちん持ってるがな。子どもや」

「おや、立ち止まってこっち見てまんな。また腹でもへらしてるんかいな」

「ほっといて先行こ。迷子やとめんどうや」

「そんな。あ~、ボクちゃん、どこから来たの。おとなの人はおらんの」

「けったいな子やな。じ~っと見あげるばっかや。監視員に知らせんと」

「あ、逃げた。ちょちょ、待ちいな。あ、止まった」

「またこっちじっと見よるな。提灯以外はふつうの子やもんな」

「ひょっとして。えーと。あ、『提灯小僧』て目録にありま」

「え。こいつも妖怪かい。なんかな~」

「追い越して行くと、また追い越し返すそうでっせ」

「ふーん。ほな知らん顔して追い越してみよか。ほい、と」


  パタパタパタ パタパタパタ


「お。あわてて追い越していきよったで」

「立ち止まって見てますな」

「よ~し、目ぇ合わさんようにして、横すりぬけて行こ」


  パタ!パタパタ パタパタ!パタパタ


「また懸命に駈け抜いて行きましたな。提灯、大丈夫やろか」

「ハアハアいうてるけど、灯りは点いてるで。よっしゃ、こんどは全速で」

「ほんまに本気で駈けて行かはるわ。大人げないヒトやな」


  バタドタバタパタ! ドドドドタバタ!


「あれま。二人で駆けっこになってるがな。ちょちょ~ノムーラはーん!」


  ドドドドドドドドドド! バタバタバタバタ!


「そんな。どこまで走りなはるんや。待ってぇな! あ。あれ?」

「モルーカスはん、遅いがな。あいつどこ行った? 途中おらんかったか」

「消えたようでんな。照明も明るうなりましたな。あ。看板が」


  疲れたおみ足にどうぞ、足湯ですよ


「足湯? なんでこんな原っぱみたいなとこに。あ、ほんまにあるわ」

ひのきの湯舟でっかな。エエ香りしますな。どっこいしょと」

「ほ。生き返る心地するわ。山道やら駆けっこやらせわしかったから」

「ひんやりした風が頬を撫で、足はまったりぬるま湯で、極楽やあ」

「夏やいうの忘れそうやな。あ、あかん、夏や。ここお化け屋敷なんやで」

「ノムーラはん。そもそも神主はんに、ちゃんとオーダー出しはったんか」

「本物呼ぶからには危ないモンは避けて、危害の怖れのない妖怪て注文を」

「ふーん。せやから、当たり障りのない、安全なモンばかり集めたんや」

「え~、そか。けど、これはヤバいわ。こんなんお化け屋敷ちゃうがな」

「けど、わ! わわわ! なんや! 足が、脚がぁ~ 気持エエわ~」

「お。おおおおおお。ひ。ひひひひひひ。こそばいけど極楽やわ~」

「なんか居てまっせ、お湯の中に。人面魚みたいのが何匹も」

「わ。わあ。気色わりぃ! でも気持エエわぁ~ ひえっ」

「ひょっとこいて。あ。ありましたわ。『あしナメ』やて」

「これも妖怪かいな。お。おお。おおおお。もっとぉ~」

「でれでれなってはる。いっぺん出まひょか。あ、あんなとこにベンチが」


  涼み処、お休みやす


「わざわざのぼりが立ててあるっちゅうことは、ここもなんぞ出るん?」

「わ。わあああ。手が。手が!」

「モルーカスはん、なにをそんなに。わ!わわわわ、手が! 手が」

「体、動きまへん! 金縛りみたいや。わ、わわわわ~ あ、あれ?」

「お、おお。あれま。肩もみかい。でも、手だけやな。けど、気持ええわ」

「お。おおおおお。ようほぐれま。こりゃ、なんとも。なんですなあ」

「マッサージチェアみたいや。おお。おおおおお」

「ほ。おーお。あ、目録にありますわ。手だけの妖怪『もみ手』やて」

「ああ、ええ気持や。到れり尽くせりやな。けどなあ、こわないもんなぁ」

「目録にはあと十いくつか、妖怪残ってまっせ」

「どうせ方向性はみな同じやろ。安全パイで怖ないヤツばっかや」

「まあ、そうでんな。しょんぼり地蔵、眠り天狗、小言婆、般若法師」

「うん? 般若法師っちゅうのは、なんか怖そうやんけ」

「えーと。『虫眼鏡で見ること』てありま。肉眼では見えんようで」

「あほらし。やっぱ少々危のうても、怖いの優先しとくんやった」

「いっそ、癒やしの里みたいなテーマで行ったらどないです」

「いまさらなあ。あ~あ、お化け屋敷が、これじゃスーパー銭湯やん」

「なら、バイト雇って、お菊さんとかお岩さんとかのメークさせたら」

「バイト代高いやん。本物は金要らんねん。神主に召喚代払うだけで済む」

「そういうケチくさいこと言うてはるから、こんなことに」

「どないしょ。うーん。とにかく、ここもう二階やから一回りして戻ろか」


  ひんや~り ひえ冷え


「お。氷姫、元に戻ってる。丸い氷の柱。え? さっき四角やなかったか」

「四角が丸になってまんな。えーと、目録に『よみがえると姿形を変える』て」

「ふーん。戻って見んとわからんし。四角が丸じゃあんまり意味ないな」

「あ、また溶けはじめましたでぇ。じっと見るなて注意書きしときまひょ」

「なんか、ほんまに冴えんなぁ」


  ハーイ ナランデ チャント ナランデ


「なんや。外でロボの声してる。なにしてんのアイツ」

「あ。ノムーラはん、来てみなはれ。えらい行列や」

「わ。なんや、これは! おいロボ! どしたんや」

「アンタ、ちけっと売ットケ、言ウタヤン」

「え。あ。せやった。まさかこんなに。モルーカスはん、どないしょ」

「手遅れでんな。あきらめまひょ。ささ、みなはん。中へ。はいはい」

「ひえ~ ええい。もうヤケや。はいはい、チケット拝見しま~す」

「大入りでんな。中の声、マイクで拾うてるんでっか。聞こえてきま」


 「見るなだと。あ、溶けた」

 「かわいいな。声、かわいいな」

 「わ」

 「お」

 「へへへへへ」

 「キャッ」

 「おおおおお」

 「う。らららりり」

 「ふゎふゎふふふふ」


「なんか好評みたいでんな。文句でてまへんで」

「え? おかしやろ。お化け屋敷で『でへへへへ』とか」

「えやないですか。みなはん、喜んではるんやから」

「うーん。企画意図とはかけ離れてるけど。看板こそっと変えとこ」

「だいぶ儲かりましたな。じゃ、ノムーラはんのおごりでパーッと」

「うん、行こか。ちょち早いけど。おいロボ、あと頼むでぇ~」


  ☆★☽ ぷふぁ~ ☆☾★


(一夜明けて)


「ノムーラはん、こんにちは。ゆうべはゴチに。あれ、神主はん」


  ハライソノカミ オンバラミノ ケノカミ コノトウシロ ハラハ


「あ、モルーカスはん。こんにちは。いま、お祓いしてもろてんのや」

たたられましたんか、とうとう」

「妖怪がな、みな逃げてもうたんや。夜中に幽霊でた言うて。な、ロボ」

「出タテ大騒ギナッテ。コンナトコ居ラレヘンテ、ミナ退散シヨッタ」

「でたんでっか、やっぱり。あ、お祓い、終わりましたな。ごくろはんで」

「これでもう出んのやな。請求書回しといてや。ほな、ごくろはん」

「ノムーラはん。出るんなら、幽霊屋敷にしといたらええのに」

「え。あ。でも、お祓い済ませたからもう出んやろし」

「あの神主はんのお祓い、効きまへんがな。これまでもサッパリやったのに」

「は。そやな。なら、出るな。内装、幽霊仕様にして出るようしといたろ」

「ほんものの幽霊、出たら怖いでっしゃろな。妖怪逃げるほどやし」

「きっとすごいでぇ。お、でけたようや。下見兼ねて点検行こか」


  もわわわわ~


「わ。氷姫おらんから蒸し暑いな。かなんなー あちいわあ」

「すぐ、ぞーっとなりまっせ。モノホンが出るんやから」

「せやな。背筋、ヒューーーーって凍りつくでぇ。ふほ」

「て。なかなか出まへんな。暗くて暑いだけや。あ。なんや、あれ」

「霧みたいやな。白いもやもや。あっ! これがその、あれか」

「そうでんな。これがその、あれ、ちゃいまんのか。大きゅうなってま」

「ひええ。プラズマかいな、ガスかいな。おとろしい~ ナンマイダブ~」

「ひえええ。ますます広がってまっせ。だいじょうぶかいな。逃げまっか」

「あかん、腰が。ちょち待って。あわわわわ、あわ。ひひひひええ」

「冷えエエゑ。あわあわ。あ。あれ。分裂してますな、もやが」

「へ。ほんまや。火の玉やないか。人魂や! ナンマイダ~カンニンや~」

「だんだんヒトの形になっていきまっせ。ホンマもんの幽霊や」

「ぞぞぞぞZOZOタウンやない、ゴーストタウンは意味ちゃうわあああ」

「ノムーラはん、落ち着きまひょ。望んだとおりの経過なんやから」

「せ、せやな。どうせ腰ぬけてるし、しっかり見物しよ」

「ヒトが何体も。あれ。うん? 脚、ありますな。足も。靴はいてる」

「ほんまや。おかしいやん。スニーカーとかサンダルとか」

「短パンにミニスカ、アロハて。これ幽霊、ちゃうんやおまへんか」


 「くっそー! もうちょいやったのに!」

 「欲張りすぎたツケだけど、命まで取られるとはな」

 「無念無念残念無念、ちっくしょおおおおお」

 「なんで下がったのよぉおおー くやちぃいい」

 「株なんてやるんじゃなかった。落命してから後悔先に立たず」

 「とほほほほほほほほ」


「あいつら。ほんまに幽霊なんか。死んでるのはたしかみたいやけど」

「言動から推し測るに、ここの株で死に追い込まれた連中みたいでんな」

「この板、えらいマスコミに騒がれて人気だったんや」

「あれよと上昇したけど一夜で暴落。ストップ安六連チャンでしたっけ」

「阿鼻叫喚やったでぇ。ターミナル駅から飛び込むて書き込みもあった」

「その連中やおまへんか。幽霊にしては生ナマしいわ。生臭い」

「これが株の現実や。ヘタに手ぇ出すとあっという間に命とられる」

「過熱した揚げ句、高値に飛び付いたモンが多かったそうでっせ」

「自業自得やけどなぁ。ろくに株を知らずに突っ込んで来るのはあかん」

「まあとにかく、命とられたんや。ナンマイダブ、ナンマイダブ」


 「うごおおおお。くやちいいいいい」

 「ふんにゃああああ。あほほほ」

 「ばかっぱ、ほんにゃらけ」

 「ふんごふんご、ごーーーふん、ぐわあ」

 「なんじゃっぱらさ。むほむほくほほほ」


「けど、うるさいな。ひっきりなしに愚痴いうてるやん」

「これだけうるさいと、妖怪もイヤになりますわな」

「せやな。あ。神主からおふだもろたんや。あいつらに貼ったろ」

「そんなもん効きまっか。やめといたほうが。あ、貼りはった」

「お、こいつフリーズしたで。効くんちゃうか。よーし貼りまくったるわ」

「あ、ようす見たほうが。わ。フリーズのやつ、ぼやけて白いかたまりに」

「でや。退散しよるんやろ。あれ。白いもやから、またヒトの形に」

「わ。わわわ。しかも三体になってまんがな! 一人が三人に。三倍」

「同じやつが三体に増えよった。気色わるゥ」


 「なんじゃらほいほい、株屋の末路。哀れなショボいヘタレ人生」

 「なんちゃらほいほい、株屋の末路。哀れや哀れ、へっぽこ人生」

 「なんひゃらぽんぽこ、株やらかし。荒れ屋の庭には草ぼうぼう」


「いっぺんに似たセリフ言いよる。まったく同じやないのがミソかい」

「どないしますノムーラはん。お札貼ったヤツ、みな三体になってまっせ」

「ええわ。客入れたろ。客も株屋や。株の話題で盛りあがるんちゃうかぁ」

「へ、そうでんな。生死を越えた株サロンや」

「おーいロボ、お客はん入れたげてや。チケットちゃんと確認してな」

「わてらも手伝いまひょ。はい、どうぞ。ごゆっくり。いらっしゃい」

「中の声、聞こえてくるな。やっぱ盛り上がってるでぇ~」


 「そもそも日本の市場自体が弱すぎるのだ」

 「老後2千万円問題で株に追い込んでむしり取る、汚い手だ」

 「新興バイオなんて素人が触っちゃいけねえ」

 「あおるだけ煽って梯子はしご外しやがったんだぜ」

 「だいたい空売り外資に好き放題させるのがいけないのよ」

 「そうだ。空売り機関が悪い。あいつらのせいだ」

 「そうだそうだ。ノムーラや金男やモルーカスらのせいだ」

 「おい、みんなでやっちまおうぜ。このままじゃ腹の虫が収まらねえ」


「なんか不穏な雰囲気でんな。あれ。ノムーラはんは」

「逃ゲヨッタワ。ヨウ走リヨル。逃ゲ足ハぴか一ヤ」

「そんな。わ。襲ってくるがな。待ってや~ ノムーラは~ん!」


                       To be continued

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