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レノがギルド内に併設された食堂へ入っていくと、一瞬視線が集まった。けれど入ってきたのがレノだとわかると、視線は好意的なものに変わり、散っていく。中には手を振ってくる者もおり、それに手を振り返しながらレノは奥へと進んだ。


「ぷぎ」

「そっち?」


鼻をひくひくと動かしながら、ロディが先導を始める。人が多いので途中で抱き上げると、鼻の向きで教えてくれた。


「ゼファーお兄ちゃん!」

「レノ?」


朝食をとっていた青年がこちらを向いた。夜は酒場になる一角で、人がそこだけまばらだ。


「レノちゃん、そのまま仔ブタちゃんと座っていいわよ。小型の騎獣だってそのまま入ってくるんだから」

「女将さん、ありがとう」


責任者である女将が許可をくれたので、レノはお礼を言って青年の隣の席に座った。


「おはよう、レノ、ロディ」

「おはよう!」

「ぷ!」


魔術師のゼファーはゆるゆると笑うと、サラダの葉野菜を一枚、ロディの口元に差し出した。仔ブタはむしゃむしゃと食べ始める。


「レノ、ご飯は?」

「朝のお仕事にいく前の、レティシアお姉ちゃん達とたべたの。あ、おとうさんはギルドマスターとお話中です」

「そっかぁ。早起きして偉いね。ぼくはまだ眠い」


茶色い髪の頭がゆらゆらと動いている。ゼファーは朝が苦手なのだ。


「お兄ちゃん、夜更かしだったの?」

「んー、ついうっかり」

「そっかー」


ゆるゆるした会話に、周囲の気も緩む。

レノはギルドへ冒険者として登録するにあたり、かなり多くの約束をしている。その中の一つが、支部や人が集まるところで騒がないこと。物分かりの良い子なので、今までそれを破った事がない。幼いながらもここにいて怒られないのは、存在がきちんと周知されていることと、黒髪黒目という“縁起の良さ”からだ。


「クラインが直接ってことは、仕事かな……」

「わたしも行けるお仕事かな」

「ものによる……。でもそうか、今回から馬車を使う仕事にレティシアさんとエリアスは来ないか」

「うん。お姉ちゃん達は、遠出しないんだよ」


レノの姉であるレティシアは、初期からの三人のうち一人、エリアスと婚約をした。相談の結果、スヴェンに家を買い、在住しているメンバーに加わる事が決まっている。エリアスがまた馬車に乗る仕事、つまり泊りがけの仕事をするようになるのは、子どもが産まれて大きくなってからだろう。


「レノはこのまま、馬車に乗っているの?」

「わたし、おとうさん達みたいな冒険者になるんだもん」

「そっかー」


ゼファーが小さく、「トバリ君、奥さんいないのに完全に父親だな……」と呟いたが、レノには聴こえていなかった。かわりにロディが小さくないて同意していた。


「まずは採取とか、たくさんおぼえるの。アンナお姉ちゃんと、リデルお兄ちゃんが教えてくれるって。あとね、サガお兄ちゃんが石の投げ方を教えてくれるの」

「サガ君が? へえ」

「ぷぎぃ」


ロディがなにかを見つけて鳴いた。レノがロディの視線を追うと、黒い外套を着た黒髪黒目の剣士と、レノの兄のレックスがやってくるところだった。


「サガ君、レックス君、おはよう」

「ゼファーか。レノも」

「ぷ」

「ああ、ロディもいたか」

「おはようございます、ゼファーさん」


二人は飲み物だけ注文すると、ゼファー達と同じ席についた。


「レックス君の稽古?」

「はい、見ていただいていました」

「よかったねえ。サガ君はいつ戻ってきてたの」

「昨夜だ。トバリには報告をしてある。……レノ、ゼファーの髪を結んでやれ。スープに入る」

「はーい。ロディ、待っててね」

「飲み物お待たせ。いやぁ、贅沢なテーブルね。出立前の連中が拝んでたわよ」


女将がサガとレックスの前に飲み物を置き、人差し指を唇にあててから、レノと床に座るロディの前に飲み物を置いた。


「……人を縁起物にするな」

「黒髪黒目が三人に、まっくろな小動物よ? 冒険者なら拝むわよ」

「サガ先生は特に黒が濃いですから、きっとみんな嬉しいんですよ」

「……そうか」


レノ、レックス、サガは髪も目も黒い。《闇の塔》の守護者、ノワール:ロデリックは冒険者の守護者でもある。その姿は黒髪黒目とされており、冒険者はその特徴を持つ者を有り難がる風習がある。


「はい、ゼファーお兄ちゃんむすべたよ」

「ありがとう」

「じゃ、ごゆっくり」


女将がはなれ、ゼファーもゆっくり食事を再開する。レノはロディを気にかけながら、レックスと話していた。サガは地図を広げている。


「ゼファー」

「トバリ君、仕事?」


ギルドマスターと話し終えたらしいトバリがやってきて、レノの隣に座る。


「ああ、黒の森の植生調査。一ヶ月だ。近くの村を拠点にして、馬車持ち込み」

「エリアス達は今回から乗らないよね」

「親方のとこのエリザが乗る予定だ。遠出の許可が出た」

「すみません、あの、お義父さん」


レックスが声をあげた。その目には期待か見え隠れしている。


「どうした」

「俺は、参加できますか」


レックスの言葉に、レノもじっとトバリを見る。レックスは十四歳、レノは九歳。保護者であるトバリ監督のもと依頼をこなしているが、内容によってはスヴェンに残る。


「サガ、どうだ」

「森の奥はやめておけ。浅いところから半ばまでならいいだろう。単独はなし」

「よし、お前も来い」

「はい!」

「わたしは?」

「ぷぎ」

「ロディも!」

「大人と二人、馬車から見えないところには一人でいかない」

「まもります!」

「ぷ!」

「ならついてこい。村の中の作業もある。ロディから目を離すなよ」

「やったー!」


ロディを抱き上げて喜ぶレノと、にこにこしているレックスを、大人達は微笑んで見守っていた。

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