はじまり
連載が難しいなら書き終えてから投稿すればいいんだ!というわけで、完結済みの作品を投稿します。多分十話くらいです。
ライブラ、という世界がある。
科学はまだ誕生しておらず、それよりも錬金術が重宝され、銃よりも剣と魔法が力を持つ世界だ。
いくつかの大陸と海、空に浮く島が存在し、人々は国や宗教をよりどころとしている。
さて、この世界には二つの天高くそびえる塔がある。
片や《光の塔》、司るは陽の光と生命の誕生。
片や《闇の塔》、司るは夜の闇と生命の終わり。
この二つの塔は神界に属するものであり、地上にありながら光と闇のバランスを調整し、世界の均衡を保つという役割を持つ。
もちろん、塔そのものがそれを行うわけではない。塔の住人であり守護者である二柱の小さき神が、大昔からその役割を担っている。
《光の塔》、昼の守護者ブラン:アルテラ。
《闇の塔》、夜の守護者ノワール:ロデリック。
かつては人であったと伝えられるこの二柱の小さき神は、塔を拠点とし、地に生きるものに寄り添い、その力をふるうという。
しかしながら、神といえど人気不人気というものがどうしてもある。昼を司るブラン:アルテラはあらゆる職業の人々に大人気だ。子どもが生まれても商売がうまくいっても、唱えられるのはアルテラの名前である。誕生を司るゆえに、そういったものの守護者としても奉じられているからだ。
対して、夜を司るノワール:ロデリック。はっきり言って、人気がない。とてもない。なんなら彼の色とされる“黒”が忌まれるほどに人気がない。誰かが死にそうになっていれば「ノワールが連れ去ろうとしている!」と叫ばれ、なにかが失敗すると「ノワールが手を出した」と嘆かれる。生命の終わりを司るゆえに、なんかそういうことになってしまった。
ただし、とある職業においてノワール:ロデリックは有り難がられている。その職業とは冒険者だ。
時に死と隣り合わせである彼ら彼女らは、その旅路や仕事の成功をノワールに祈る。野宿や夜の行動の安全を、夜の友である彼に願い、たとえ死を迎えてもそれが穏やかで苦しみがないものであるように請う。その人気は、黒髪黒目の冒険者を幸運の証とするほどだ。
「あ、目を覚ましたよ! お兄ちゃん」
「どれどれ」
黒い髪と黒い目の幼い少女が、籠の中の存在を見て喜びの声をあげる。のぞきこんだのは十代半ばの少年で、こちらも黒い髪と黒い目だ。
「良かった、大丈夫そうだね」
「そうだな。レノ、俺はお義父さんに呼ばれてるから、お前はこの仔についててあげて」
「うん、任せてレックスお兄ちゃん!」
少年が部屋、正確には幌馬車を改造した仮眠室を出る。残された少女はにっこり笑い、籠の中のそれを優しく撫でた。
「なんともなさそうで良かった! そうだ、あなたの名前をきめなくちゃ、ええと」
少女はじっくりと考えて、ぱっと顔を明るくした。
「あなた、わたしみたいにまっ黒だから、そうね、ロディにしましょ! ノワール:ロデリックさまがきっとまもってくれるわ!」
ロディ、と呼ばれて。
「ぷぎ」
小さな黒い仔ブタが返事をした。