第83話 逃避
「本当に良いのかい?」
「はい。今までありがとうございました。」
物静かな部屋に万年筆が紙をなぞる硬い音が響く。
「まぁ。何があった、なんて事は聞かないけど、これからどうするつもりだい?」
「少し行商・・・というより旅をしてみたいと思います。」
「そうか。またこの街に戻ってくる事があったら、声をかけておくれよ。旅の話は大好物なんだ。」
「はい。」
「ほら、これで正式に退学したんだから、行った行った。」
「・・・本当にありがとうございました。」
俺は校長室の厚い扉を開く。
俺、野口隼が国立戦闘騎士魔術師育成学校を退学した瞬間だった。
学校を出た俺はガレンダ商会へ向かった。
馬車や、馬等の必要な物を用意してもらっているのだ。
「おぉ。来たね。準備は出来てるよ。」
「私としては一度しっかり慎太郎君と話をして欲しいんだけどね。」
「あ、はは。すいません。」
ジョンさんと従業員の人が出迎えてくれた。
「馭者は出来るのかい?」
「はい。一応は。」
俺は馬車へ乗り、馭者台へ座る。
「くれぐれも犯罪は起こさないでくれよ。その通行証はガレンダ商会が発行した物だから、顧客からの信用が薄れてしまうからね。」
「また戻って来いよ~」
二人の声を背に俺は馬車を走らせた。
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クラスメイト達が全員席に付き一日が始まろうとした時、オルタ先生が発した言葉に俺は戸惑いを隠せなかった。
「え~皆に知らせなきゃいけない事がある。
本日付けでハヤテ=ノグチ君が自主退学した。」
「り、理由はっ!理由は何か聞いてはいませんか!?」
ガジャが思わずといった感じで立ち上がり、先生へ質問する。
「いや、僕も校長から聞いただけだから知らない。」
「・・・そうですか。」
ガジャが静かに席へ付く。
この後の授業の内容を俺は全く覚えていない。
その日の昼。俺達は昼食を取りながら、考えていた。内容は言うまでも無いだろう。
「なんで退学なんかしてしまったんでしょう。」
ガジャの疑問にコハクが答えた。
「大方、私達がドラゴンと戦っていた時に何も出来なかった不甲斐なさが原因で旅にでも出たくなったんじゃないんですか?馬鹿ですよね。私達は全く気にしていないというのに。」
コハクも昼食がいつも取っている量より少ない。
寂しいのだろうか。
「慎太郎様。もう少し食べないと、体が持ちませんよ。」
コハクが心配してくれた。
仕方ないじゃないか。
何も相談も無かったなんて悔しいじゃないか。




