第81話 襲来
カッ、カッ、カッ
俺は心地の良いリズムの中目覚めた。
そのままゆっくり視線を音の方へと向けると、隼が紙に何か書いているのが分かる。
隼が日記をつけているのは知っているが、ペンを向けているのは、日記帳では無く、一枚の紙だった。
よく見ると図の様なものも書いてある。
・・・あれは教科書だろうか?
いつの間にか寝台から立ち上がっていた俺に隼は声をかけてきた。
「おぅ起きてたのか。おはよう。」
「おはよう。」
俺達はそんな短い会話を済ませると、隼は机へと向き直り、俺は洗面台へと向かう。
洗面台となる桶には既に水が張ってあった。
隼が気を効かせてくれたのだろう。
「水、ありがとうな。」
「まぁな。最初に起きたんだからそれくらいはするさ。」
俺の感謝に隼は手を止めること無く応えた。
余程教科書を書くのに夢中らしい。
「ほんじゃまぁ。ランニングでもしてくるわ。」
俺は宿の外へ出た。
途端に聞こえてくるのは、鳥の鳴き声や、出店を用意する商人達の声。
朝の街は昼間の様子からは考えられない程静かで、海の方から吹いて来る潮風が心地良い。
俺は僅かに聞こえる数多の声と、少しの追い風の中走り出した。
「ふぅ。」
山の中腹くらいまでは来ただろうか。
そろそろ折り返して、宿に向かわなければ朝食には間に合わないだろう。
そう思い今来た道を振り返った俺の視界の写ったのは、空から街の方へと飛来する巨大な生き物の姿。
何処か曲線的な印象を受ける胴。
その背に生えた一対の翼。
口から覗く鋭い牙。
そう。ドラゴンだ。
「ヤバいヤバいヤバいヤバいっ!」
気がついた時には街に向かって駆けていた。
その時の俺には恐怖心など微塵も無く、
ただ愚直に宿へと走る。
ドラゴンが街へ降り立つ。
その衝撃で建物が崩れてゆく。
ドラゴンが体の向きを変える。
回転した尻尾が建物に触れ、また崩れる。
ドラゴンが歩き出した。
宿とは逆の方向。
少し安心してしまった自分に腹が立つ。
そして、宿に着いた頃にはジョンさん達は荷物をまとめ、応戦出来る様な装備に着替えていた。
何故かコハクの姿が見えないが。
「おい。隼、コハクは何処だ?」
「残念ながらこの鎧を着ているのは私ですよ。慎太郎様。」
「そ、そうか。じゃあ隼は?」
「ほら、そこで小さくなっているでしょう。」
コハクの指差す方を見ると隼が頭を抑え、ガタガタ震えていた。
「ドラゴンを見た途端こうなってしまったんですよね。仕方ないので魔術系の才能を持つ私が変わりにこの鎧で戦うことになったんです。」
「自分も持ってるんスけどね。」
「あなたは魔術を使うというより剣の方が断然上手いでしょう。」
「そ、そうっスね。」
「ともかく、ここは島です。あのドラゴンを倒さない限り救助船も近ずけないでしょう。」
俺とガジャとコハクはドラゴンの方へと走った。
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不甲斐ない。
俺の頭の中がそんな言葉で埋め尽くされる。
慎太郎達はドラゴンを討つ為に走っていったというのに。
恐怖で足が上がらない。
恐怖で全身が強ばる。
恐怖で視線が上がらない。
恐怖はドラゴンを見た瞬間突然俺の体を支配した。
強ばって動かない体。
その巨体を見るだけで押し寄せる吐き気。
おかしい。ドラゴンとはここまで恐怖を与えてくる生物なのか。
それを確かめる為に何とか窓から外の様子を確かめると、この街の住人達は怖がってはいるものの、怯えて動けない様な行動は見られない。
とにかく二階にいては危険なので階段を下る。
それからは逃げ惑う人や、ドラゴンへ立ち向かおうとする人がいる中、建物の壁に寄りかかり、小さくなることしか出来なかった。
これからはシリアス全開になると思います。




