第4話 スライム爆弾炸裂
時間は少し戻る
「あ~幸せだな~」
この世界に来てはや十日、慎太郎はこの子専用に作られた馬車の中で至福のひとときを過ごしていた。
たまたま通りかかった街道の縁に並んだ小さな商店同士の路地裏でたまたまチンピラに会い、チンピラはよく分からないけど逃げていって、振り向くと女の子がいるのだ。
本当に自分はラッキーボーイだと思う。
「そう言えば君名前は?」
そう聞くとケモ耳少女はちょっと頬を赤らめながら
「コハク=アレストです。コハクとお呼び下さいね慎太郎様っ!」
ケモ耳少女・・コハクはそう言うと慎太郎の腕を自分の体に密着させる。
慎太郎は自分の腕がコハクの決して大きいとは言えない双丘に包まれ、つい顔を綻ばせる。
その慎太郎のたるみきった表情を見てコハクは可愛らしい笑顔を見せる。
そんなコハクを見て隼が
「このチョロインが!」
と叫ぶ。
そのお返しと言わんばかりに
「うっさいわね!荷物運びの分際でよく言えた物ね!」
とコハクが言い返す。
そんな繰り返しを見ながら慎太郎の時間は過ぎてゆく。
ちなみにチョロインという言葉の意味は慎太郎がこっそり教えた。
そんなこんなで二時間・・・
「ガァァァァァ!」
まるで慎太郎のリア充な時間を壊しに来た様に狼がそのまま大きくなった様な怪物がキャラバンの前に立ちはだかる。
ぱっと見そんな強そうじゃないしここはコハクの親父さんが雇った他の傭兵がどうにか・・・・・
「あいつにこの装備で立ち向かうのは無謀だ!ズラかるぞっ!」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
してくれなかった。
「「ちょっとみなさ~~ん!!!」」
コハクだけでなく割と無口な親父さんまで声を張り上げている。
そんな時、声を上げたのは慎太郎だった。
「あの狼そんなに強いのか?」
「強いも何もあれは風狼。第三等討伐種です・・・・。」
慎太郎の問いにコハクが答えるが、
「いやだからその第三等討伐種とやらの強さが分からんのだが」
「そ、それはもう・・・」
「おい、お前ら話してる場合じゃねーぞ!」
敵の強さについて話していた二人を隼が止める。
二人が前を見ると風狼が真っ直ぐこっちへ向かって来ていた。
ちなみにコハクの親父さんは前の方にいたのだが、荷物の影に上手く隠れていた。
「慎太郎様は下がっていてください。
"母なる大地よ、我が障壁を刺し穿て! アーススピアー"!」
そうコハクが呟くと、地面が流動し、巨大な針となり串刺しにせんと風狼の腹に迫る!
しかし、余程毛が硬いのか針の方が砕けてしまう。
「やはりこの程度では・・・」
コハクが唇をかみしめて風狼を睨む。
そんなコハクの攻撃をもろともしない様に風狼の進撃は止まらない。
「ええい!仕方ねぇ!」
そんな隼の声が聞こえると共にコハクの目の前に広がったのは、
一面に広がる灼熱の爆炎だった。
「「え?」」
コハクと慎太郎は振り向く、そこには右手を前方に突き出した隼の姿があった。
ただただ 何故? と呆然としている二人を見て隼は言う。
「別に俺だってただ遊んでいた訳じゃないんだぜ?まぁ今ので用意していた分がごっそり減ったけどな。」
「あれは魔術?」
平然と佇む隼にコハクが問う。
「いや俺お手製のスライム爆弾だ。」
そう慎太郎が街道の路地裏でコハクを助けて(?)連れてくるまでの間、隼はただひたすらスライム爆弾を作り続け、いざという時のために懐(ズボンの後ろに付いたポーチ)に忍ばせていたのだ。
「えっとスライム爆弾って何?」
「それはだな・・・・」
「危ないっ!!!」
二人が会話している間に迫っていた風狼の攻撃を慎太郎が拳で殴り弾く。攻撃を横から弾かれた風狼は見るも無惨な姿だった。
皮膚が剥け筋肉が剥き出しになり、魔法を弾いて見せた毛も大半が燃えて無くなっている。
そんな風狼にトドメを刺したのはコハクだった。
「"アーススピアー"!!!」
流動した地面が今度こそと風狼の体を貫く。
「ギャャャャャャャャャ!!!」
風狼の断末魔の叫びが木霊する。
そうして三人の初陣は幕を下ろしたのだった。