5.売り子のリコ
まずは準備をしないとね。
可愛い子、名前をコルトくん。
コルトくんのお母さん、名前をコロナさん。
ぜひメロンのお礼にお話聞くだけじゃなく、売り子をさせて欲しいと名乗りを上げた。
コロナさんは、いいんですか?とおずおずしていた。
ただ、売り子に必要なものがあるのでちょっと待っててくださいと購入したメロンを預けて2人の場所から離れた。
来たのはキャラバンの人達のエリアだ。
キャラバンの人達は農具や、台所回りのお鍋とかが売っているので、大人ばかりだ。
欲しいものがどのお店あるか背伸びをしながら歩いていたら、キャラバンのお兄さん(推定17歳)に声をかけられた。
「お、ライルさん家のお嬢さん、さっきはありがとうな。」
「?こちらこそありがとうございます。」
た、たしかなんか野菜いっぱい買ってくれかも?
バタバタしててあんまり記憶にないけど向こうがそういうのだから、きっとそうなのだろう。
「さっきの客捌きはうちも見習いたいぐらいだったぜ。何か探しているのかい?」
「あ、あの……。」
せっかくだし聞いてみるかと思ったら、わざわざしゃがんでくれたお兄さん。
と思ったらお兄さんの顔がぐいっと近づいた。
「いいもん見せてもらったからうちの店にあるものだったら特別に安くしとくぜ?」
……耳元で囁くのは反則じゃない?
相手は年上だけど、メンタルは私の方が年上なのに……うぐっ。
そんなことをされたことの無い28歳のメンタルはダメージを受けた。
絶対顔が赤くなってるに違いない、顔が熱いよぉ…。でも、なんて素敵な申し出か!!
さっきメロン買ったから、残りは200エーン
買えるかな?
「子供が使えそうな小さいのでいいんですけど……200エーンしかないから……」
とドキドキしながら欲しいものを伝えた。
お兄さんはにこやかにお目当ての物を用意してくれた
本来400エーンのものだけど、150エーンでいいよとおまけしてくれた。
ありがとうお兄さん。また来たとき我が家の野菜なんかサービスできないかなぁと思った。
顔覚えなきゃ……覚えられるかなぁ。め、目が合わせられぬぅ。
…必要なものは手に入れたぞ!いざ、お手伝い!!
コロナさんの所に戻り準備を始める。
地元のパン屋で新作商品が出た時に行なっていたこと、試食!!
別にパン屋じゃなくてもスーパーでも試食はやっているけどね。
じゃじゃーん、さっき買ってきたのは包丁でーす。って言っても果物ナイフサイズです。
この小さなメロンぐらいは切れると思う。
そして気づいた、まな板忘れた。うっかりしてたぁ。
うーん、たぶん50エーンじゃ用意できないだろうな、仕方ないその辺の平らなところで切ろう。
周りを見渡し平らな所を探す。
商品を置くための布を抑える石がちょうどよさそうだ。
コロナさんにこの石を使わせてくださいとお願いをして、許可をもらったので、カットスタート。
私が2個もらったうちの1個を石の上でまずは半分。
そして半分になったうちの一つは、一旦保留にして、残りの半分を4等分にくし切りにした。
さらに、くし切りのメロンを一口サイズに切っていく。
そんな様子をコロナさんが目を点にしながら見ていた。
そういえば、2人はメロンを食べた事があるのだろうか?
さすがにあるよなって思っていたら、無かった。
王都でも1000エーンしているという高級品を食べることを遠慮していたのと、家計の足しにしたいからと手をつけていないんだと。
おいぃ!味がわかんなかったら紹介できないやーん!
試食1号2号はコロナさんとコルトくん。
さぁ!メロン好き増えろ!!
ってあぁ…、爪楊枝的なものも忘れたぁ、うっかりしてたぁ。
ま、手でいいか。
早速食べてもらいました。
コロナさん?大丈夫?言葉を発して?目が飛び出そうですよ。
コルトくんは美味しい~を連発している。
こら、2個目食べようとしない。これは試食用です。
「リコちゃんありがとうね。味がわからないとおすすめ出来ないわよね。こんなにおいしいものだって知らなかったわ!」
コロナさんも興奮していた。
2人が落ち着いたころ、販売再開!!
コルトくんに呼び込みをしてもらうことにした。今さっき食べたメロンのおいしさをこれでもかと叫んでいたので、集客に苦労しなかった。何事かと周りの村人たちは様子を伺っていたのだ。
私は試食のメロンを店に寄ってくれた人達に配っていく。
食べた皆様は一様に目を落としそうなぐらい見開いてしばらくフリーズしてから、メロンを買って帰って行く。
突然の人だかりに、コロナさんは慌てふためいていたが、懸命に会計をしている。
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一人の男は呆然としていた。
どういうことだろうか。私はお金の計算について、教えたことはない。
私は人に教えられるような教養ある頭を持ちあわせていないからだ。
なのに、はじめてのバザーで何食わぬ顔で娘のリコは私よりスムーズに会計をしている。
何が起こっているのかわからなかった。
だけど、リコはさくさく計算し、その金額が合っているみたいでお客さん達に「よくできたわね。すごいわ!」等と声をかけられている。
さくさくとお客様を捌いていくリコ。
私は言われた野菜をかごに入れていくだけが仕事になっていた。
林に行った時に見つけた赤ん坊。この子はリコと刺繍の入ったおくるみに包まれていた。
私達夫婦は子供に恵まれなかった。
神がそんな私達を憐れみ授けてくださったのだろうとその時は感謝をした。
それから、大切に大切に育ててきた。
そんな大切に育ててきた娘は、計算を教えていないのに出来る。神の子なのか?
そんなことをグルグル考えていたら、気がつくと持ってきていた商品が完売していた。
今起こっっていた出来事を理解したくないと脳が現実逃避をしたがっていた。
我に返るとリコはバザーを見て回りたいと店の前をウロウロと忙しなく動いている。
その前になぜ計算ができるのか?誰に教えてもらったのか?
色々聞きたいことがあるけれど、はじめてのバザーにわくわくする気持ちもわかる。
家に帰ってから、聞くことにしよう。
諦めてリコにバザーを見てきていいと言った。
……言ったけど、何で人様のところで売り子やっているんだ?
しかも人だかりを作っている原因じゃないか?
うちの子何やってるの?
なんなの商売の女神なの?
一人の男はただ呆然と人だかりに目を奪われ続けていた。
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ありがとうございます!!
あっという間にメロンは完売した。
ですよねぇメロンおいしいですよね、わかります。
村人の皆さん今日から認識を改めてくださいね。網網のメロン美味しいのです。
前世のバイト後みたいだなぁと程よい疲れにちょっと楽しくなっていた。
振り返ってコロナさんにメロンまた作って下さいねって言おうとしたら、おかしな光景がありますねぇ。
なんで土下座してるのコロナさん?
コルトくんもなに当たり前みたいに一緒に土下座してるの?そしてこの世界にも土下座ってあるんだね。
「な、何しているんですか?」
「女神さま、この度は誠にありがとうございます!!ほら、コルト!女神さまにありがとうございますは!」
「おねえちゃんありがとうございます。」
「こら、女神さまにおねちゃんなんて口のきき方!申し訳ありません、きちんと躾けておきますので何卒ご容赦を。このご恩は忘れません!このような御恵みありがとうございます。私にできることだったらなんなりとお申し付けください。」
「コロナさん?私は女神じゃないですよ?コルトくんおねえちゃん呼びでいいからね?大げさですよコロナさん、さっきみたいにリコちゃんって呼んで下さいよ。あははは……」
乾いた笑いしか出てこなかった。
あれ、まずかったの?
試食販売したのってまずかったの?
「リコ様!何かございませんか!このご恩をお返ししたいです!」
うん、まず様付けをやめてください。
して欲しいこと特にないんだけどなぁ。
色々考えてひとつお願を。
「じゃあ、コルトくんのお友達になりたいです。」
……コロナさん。拝まないで。
なに小さな声でありがとうございます連呼してるんですか。
コルトくんは目を輝かせていた。とても可愛い!はぁ~心がほわほわです。
しかし大の大人に拝まれているこの状況、困ったことになったとおろおろしていたら後ろから知った声が聞こえた。
「すみません、何かうちの娘がしてしまいましたでしょうか?」
ライルおじさんがコロナさんに申し訳なさそうにしている。
しまった、ライルおじさんに迷惑を掛けてしまった。
言い訳することはない。私が出しゃばった真似をしてしまったのだから。
「な、なにを言ってるんですかライルさん、リコ様は何も迷惑になるようなことはしていません!!」
「リ、リコ様?」
コロナさんの勢いにライルおじさんが怯んでいる。
「そうです!リコ様です。リコ様は私の畑で作っていたものの素晴らしさを、私の代わりに広めて下りました。おかげで売れ残ると思っていたモノがすべて完売したのです。リコ様は女神様なんです!しかもうちの子と友達になってくださると仰っていただき、もう……本当に……感謝しか」
コロナさん泣かないで。
そんな女神とかそういう存在にしないで普通に接してください。
10歳の子供ですから~。
「い、いや、特にご迷惑がかかっていないようで安心しました。ぜひうちの子と今後も仲良くしてください。」
「はい!もちろん!こちらこそよろしくお願いします!!」
コロナさんとコルトくんに別れを告げ、我が家の馬車を止めているところへ向かった。
なんとなく気まずい雰囲気が流れている。大事にメロンと包丁を持って歩く足取りは少し重い。
やりすぎたつもりはないけど、この村ではやりすぎだったようで。
なるべく目立たないようにしたいと思っていたのに失敗した。
ふと目線を我が家の馬車に向けると、どういうことだろう何故か人が集まっている。
ライルおじさんも原因がわからず不思議そうにしていた。
私達が馬車に戻ってきたのを見つけた1人がこちらに向かって駆け込んできた。
「ライルさん、お嬢さんを貸してくれ!!」
わらわらと後を追って駆け込んできた人たちに囲まれた。
リコ達は逃げられない。
「おい、おめぇ卑怯じゃねぇか。ライルさんうちにお嬢さんを貸してくれ!駄賃はちゃんと払う。」
「うちもだ!」
「うちはあっちより多く払うぞ!」
どうやら村人達の中に
【リコが売り子をしたら完売する】
という噂が独り歩きしていることがわかった。
そんなことないから!
おじさんの野菜が良かったから皆買いに来てくれたんでしょ?
メロンもおいしさがわかったから買ってくれたんだよね?
私が売り子したからじゃないことに気がついて!!
困った表情をしていた私に気が付いてくれたのかライルおじさんは、私が初めてのバザーで疲れているからと囲んでいる村人達を説得し、早々に家に帰ることにした。
おじさんありがとう。そして巻き込んでごめんなさい。
そんな様子を、キャラバンで包丁を売ってくれたお兄さんが見ていた。
すみません。
前回更新から一年経ってる・・・私は一体・・・。