4.バザーがあるだと
あれから数日。
休みの時間は魔法の練習をしてどれぐらい魔法を使ったら疲れてしまうのかを検証していた。
ところが初回以上に魔法を使ってみても、疲れて爆睡することはなかった。
あの日は単純にお手伝い疲れだったようだ。
しかし、自分の中で低級だと思っている魔法達をいくら使っても使い続けられるので、自分のMP的なものがどれぐらいあるのかわからない。
上級魔法使うような環境がここにないから、実験出来ずに悶々としていた。
また、空を飛ぶことを練習したいがさすがに畑の敷地でやるには難しい。
畑仕事をしてるライルおじさんが振り返った時に
浮いちゃいました~☆
とかになってしまったら絶対大変な事になるに決まってる。
一人で林(あまり人が立ち寄らない)に行って来ても良いかおじさんおばさんに訊ねたら答えはノー。
今の立場上うまくいかないなぁ。
そりゃ子供だし心配されるよね。
そんな生活を繰り返していたら、ライルおじさんからバザーに行ってみようかと誘われた。
ここ最近夕食の度に気になったことをおじさんやおばさんたちに質問攻めをしていたら、
なんでも知りたい年頃になったのね。とミーシャおばさんが楽しそうにいろいろ教えてくれた。
それをみてライルおじさんがバザーに誘ってくれた。
村のバザーは月に1回行われている。大きく分けて二つのエリアがあるそうだ。
各家々が作った野菜や小物などの販売エリアと、大きな町からくるキャラバンの人達の販売エリア。
このバザーは強制参加ではないので出店しなくてもよいが、なるべく生活の足しにしたいのでほとんどの家は出店側で参加している。
なので我が家も参加。おじさん曰く、「ありがたいことに我が家の野菜達は村でかなりの人気」とのこと。
人がたくさん集まるなら、私にも友達出来るかも知れないし魔法の情報とかが得られるかもしれない。
楽しみが増えて嬉しい。
バザー当日。
馬車も修理が終わり使えるようになったので、我が家で作った野菜たちを馬車に積み込んで行く。
もちろん、私は馬車には乗らない。
元気だからとバザーが行われる広場まで走ると決めていた。
畑仕事を手伝っていたので体力には自信がある。
だが、ライルおじさんは走らなくてゆっくり歩いていこうとまったり歩きながら村に向かった。
おじさんと話しながらだったから、思っていたより早く着いた気がする。
前回は長距離に感じたからやめたけど、これからは一人でもいけるかもしないなぁ。
我が家と変わらない木で出来た家が数件建っている。そんな中、石造りのしっかりした建物が一軒ある。
おじさんに聞いてみたら、それは教会だった。
教会には魔物を村に寄せ付けないように、クリスタルが安置されているという。
ク リ ス タ ル キターーーーー!!
駈け出して見に行きたいけど、おじさんからバザーの手伝いを頼まれてるから、今回は見れないかなぁ。
次は絶対見に行くから待ってろ~クリスタル!!
そんな建物群の中央に広場があり、すでに商売を始めているところもあった。
私達も準備していざ販売開始!って顔を上げたら既に行列が出来ていた。
え?そんなにうちのお野菜達は人気なの?
野菜達の値段は種類が少ないので覚えられた。
そしてなんなの?日本がお手本になってるのかしらここの通貨単位?
【エーン】
銅色の小さいコインが10エーン
銅色の大きいコインが100エーン
銀色の小さいコインが1000エーン
銀色の大きいコインが10000エーン
金色の小さいコインが100000エーン
金色の大きいコインが1000000エーン
そしてこんな小さい村には無いらしいが、
黒色のコインが10000000エーン
黒はサイズが一つしかないということを後で商人の人に教えてもらった。
さて何故我が家に行列が出来てるのか、それは品質もさることながら、おじさんが数字に弱いからだった。
お客さんが注文してきます
「きゅうり5本とかぼちゃ1個」
「はい、ありがとうございます。え~っと・・・……。」
「……」
「え~っと」
数が少なくても計算ができない。
ちなみに、
きゅうりは1本 30エーン
かぼちゃは1個 50エーン
なので、合計200エーンだがその答えが出るまでになかなかに時間がかかるのだ。
それを村人達はわかっているので、早めに並んでいるようだ。
このままでは野菜達を捌ききれないかもしれないので、助け船をだした。
「私も手伝う~、30エーンのきゅうり5本と50エーンのかぼちゃ1個で200エーンです。」
「お!?小さいのによくできたね!?」
びっくりしながら笑うお客さんと、目を丸くしているライル。
ライル自身がやっと辿り着いた答えを特に指も使わず答えを導きだしたリコ。
そりゃぁびっくりするだろう。
このあとはひたすら、会計のお手伝い。
「すみませんきゅうり4個とピーマン4個ください」
「ありがとうございます。え~っと、きゅうり4個ピーマン4個だから……」
「30エーンのきゅうり4個と10エーンのピーマンが4個なので、160エーンです。」
これぐらいなら地元のパン屋でバイトしたことのある私には朝飯前だ。
ライルおじさんは初めは私の計算が合っているのか不安だったのか、一緒に計算をしていたが、途中から諦めた。私の計算を信用してくれてるようだ。
さくさくとお客様を捌き、あっという間に完売した。
お客様たちにはものすごく感謝された。ここまで褒められると思わず、照れもありなんだか心がほわほわした。
そして村人から『売り子のリコ』と呼ばれるようになった事を後で知った。
「お嬢ちゃんのおかげで他の店にも今回はいけそうだ。」
「ライルさんのお野菜は毎回長蛇の列だったから諦めていたの。今日はどんどん列が進んでいくから並んでみたら買えたわ。本当に素敵なお野菜達ね、今日の料理が楽しみだわ!」
「ありがとうな、妊娠中の妻に良いものを食わせてやりたかったからライルさんがくるのを早朝から広場で待機して前の方を確保したけど、購入は昼過ぎるのを覚悟してたんだ。だけど一人にさせている妻が心配で。早く帰れるのはお嬢ちゃんのおかけだ、本当にありがとう。」
これは噂のコミケの朝ですか?
おじさんは壁サークルだったの?
そしていままでどれだけバザーで並ばせていたのだろう。
とりあえず売り子としてしっかりお手伝いができた。よし、おじさんの役に立てたぞぉ~!
早く終わったので、ライルおじさんに広場のバザーを見てきて良いと許可をもらい、ほかのお店を見て回ることにした。
おじさんは何か言いたげにしていたが、私のバザーを見たいという圧に諦めたようだった。
そして、お客さん達が何故我が家の野菜達を所望するのか理解した。
他の人たちが販売している野菜達は、貧相なのだ。
きゅうりもかぼちゃもその他野菜達はみな小さい。
同じようにあの畑郡で育てているのに何が違うのだろう?
確かに毎日手塩にかけて面倒をみているから?いや、にしても差がありすぎる。
それもあってか、同じ野菜でも我が家の野菜達より他のお店で売られている小さいものは安い料金だった。
初めて来たバザーは色々見れてとても楽しい、ちょこっとこの世界が広がったんだもの。
この村のバザーがこういうものだと知れるのはいいね。
私より大きい子供(推定12.13歳ぐらいの子)は家の手伝いでバザーにきている。
キャラバンの人達は生鮮品ではなく、道具系が多かった。台所用品だったり、農具系。
そんな中、自分より小さい男の子(推定8歳ぐらい)とその子の母親と思われるお店で珍しいものを見つけた。
マスクメロンだぁ!!メロン好きだぁ!!
ただ小さい。でもこの際小さくたっていいじゃない。
メロン食べたいじゃない。我が畑のレパートリーにないし。
じぃ~っとメロンを凝視してたら当然声をかけられた。
「おねえちゃん、買っていかない?これね…300エーンなの。」
なあああああ!かわいいい!声、かわいいなぁ!!よくみたら顔もかわいいなぁ~!はぁ、癒しだ~。
しかもメロン300エーンって安くない?いや、ほかの野菜とかの値段考えると高いのか?いや小さいし妥当なのか?
わからん。
そして重大な事に気がついた。
「ご、ごめんねお金持ってなくて。買ってもらえるか聞いてくるから待っててくれる?」
「うん、まってるね!」
期待の目で見てくる可愛い子の為に、そしてメロンが食べたいし何としてもおじさんからお小遣いお貰わなければ。
いままで自分の生活にはおじさんおばさんが色々と与えてくれていたから、お金なんて必要なかったけど、バザーで買い物するにはお金が必要だし、今後の為にもお金に関することをしっかり話し合わなければ。
かわいい子供のおねだりでお小遣いを…くそぉ精神が28歳だからなんか恥ずかしい。
だがしかし、やらねばならぬ。がんばれ私!
ライルおじさんのところまで戻ってきたら、おじさんはいつものようににこにこと村の人達と話をしていた。話の腰を折るのを許してください、可愛い子とメロンが私を待っているの。
俯きながらもじもじしつつ話しかける。
「……あのね、そのね、欲しいものが1つ出来たんだけど……」
「何が欲しいんだい?」
「あっちのお店で売ってる……」
その途中でおじさんと話してた村人が援護射撃をしてくれた。
「ライルさん、リコちゃんに今日のお手伝い料でも渡してやったらいいんじゃないか?初めてなんだろう?バザー。きっとたくさん見てきて1つに絞ってきた出来た子じゃないか。奮発してやんなよ。」
感謝ぁぁぁぁ。おじさんと話してた村人さん感謝ぁぁ。名前知らないから村人さんでごめんねぇ。
「そうだな。リコ今日はありがとう。このお金で好きなのを買っておいで。」
「ありがとう。」
満面の笑みで返す。やったぁ!お小遣いだ~。
しかも手に渡されたのは、銅色の大きなコインが5個。500エーン!
300エーンより少なかったら、交渉しなきゃいけなかったからありがたい!
ただ、この金額が子供に渡すには大金なのは感じた。
援護射撃をくれた村人さんにも感謝を伝え、走ってメロン売り場に向かった。
「おねえちゃん戻ってきてくれてありがとう!!」
おっふ。かわいい、癒しをありがとう。メロンください。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
とお母さんがめっちゃ感謝してくる。いえいえ私もメロンが食べたかっただけですよ。
300エーンを支払い、そして渡されたメロン。
何故2個?
1個返そうすると、わざわざ戻ってきて買ってくれたお礼だからと頑なに譲らなかった。
ただで一個もらうのは申し訳ないから何か出来ることはないかと話しかけたら、少し聞いてもらえますか?と、お母さんの身の上話を聞くことになった。
元は王都で旦那さんとまだ赤ん坊だった可愛い子と3人で暮らしていたが、旦那さんがイケメンだったからお偉い人のお嬢さんに好かれてしまい無理やり別れさせられたと。で、そのお偉い人の権力的なものでこの村に移住しなければならなくなったと。
王都で商人をやっている元旦那さんは今でも気にかけてくれているみたいで、時々手紙が来るらしい。
手紙に同封されていた種で育てたものがメロンなのだそう。
手紙には最近新しく入ってきた商品の種で育てたものは王都で1000エーン~2000エーンで売られているから、育てれば生活の足しになるだろうと記されていたらしい。
だがこの村の人に馴染みがなく、網網の見た目が気持ち悪いと購入してくれる人がいないという。
だからわざわざ戻ってきてまでメロンを買ってくれるなんて、まるで小さな女神が来てくれた思いだという。
大げさです。
ただ、王都で安くて1000エーンなのに、300エーンでいいの?そんなことを聞いたら。
王都のメロンは人の顔ぐらいの大きさって手紙に書いてあったけど、ここにあるのは拳骨二つ分ぐらいの大きさだから、300エーンにしてみたと。そうですか。
困った時はお互い様。
シングルマザーとして頑張ってるお母さんの為そして可愛い子の為にも、一肌脱ぎますか!!
超絶スローな更新でごめんなさい