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第六話     『竜喰いのソル』

幕間劇    『魔将ザライエの記憶』



『―――死の都を作る野望を、まさかお前に邪魔されるとは思わなんだぞ、ヴィヴィアンよ。お前も、もはや死の闇に属する存在……そうだというのに、そこまで我が子を恨むのかえ?あのみじめで哀れなかわいい霊姫を?』

 『黒剣の魔女』。かつてわらわの苗床に過ぎなかった娘は、ケインシルフ殿の魔力を帯びて強大な魔族の一つとなった。ヤツはドラゴンの背に乗り、わらわの前にやって来る。黒髪に金色の瞳。かつての外見と、それは全く異なっている。だが、以前より美しい。

「……ああ。貴様にさんざん弄くられたこの穢れた体……今日まで生きぬいてきたのは、貴様とラケシスへの復讐を果たすためだからね」

 あの女は黒い魔剣を構える。二つの名のとおりか。ふむ。

『ケインシルフ殿の力を宿した魔剣かえ?……さすがに、それで斬られたら、わらわの体も痛むじゃろう……じゃが、お前だけで、わらわに勝てるかのう?』

 わらわが密やかに伸ばしておった触手が、床石を割り、傷ついていたドラゴンを下から串刺しにする。ああ、心地よい。温かな肉に触手を挿す感覚、たまらないぞ。

『くくく。こうして、お前も苗床にしてやったのう。何度も、何度も。わらわとキャスリン姫の配偶子を混ぜた卵を、お前の腹に埋めてやった……何度も死産させおって、この無能な家畜めが!!』

「……ふん。貴様の卵が腐っていたんだろうよ、このゾンビババアが!!」

 ヤツが竜の背から飛び降り、黒い魔剣を振る。斬撃の影が伸び、わらわの肉体を切り刻む!!なかなかの強さだのう。しかし、それでは、わらわは倒せん。

『ハハハ!かゆいぞ、わらわをそれだけでは殺せんよ!!』

「―――ふん。テメーに用があんのは、あたしだけじゃねえんだよ!!」

『ふむ?』

「―――奇襲前に、声をかけねえでくれませんかねえ」

 斬撃。これも、相当な一閃じゃのう。わらわの首が刎ねられてしまう。床に転がる頭から、わらわはわらわの首を斬ったモノを見る。

『ふむ。これはおもしろいモノが来た。まさか、貴方が来られるとは、思いませなんだ。久しぶりです……元気でしたか、『キャスリン姫』よ。あの子の母親が三人そろいましたわねえ』

「……悪いけど。私、ほとんどキャスリン姫さんの意識なくてねえ。ここはひとつセリスで呼んでくれない?」

『下賤なモノの名を呼ぶのは、趣味ではありませぬが……ええ。覚えていますとも、たしかに貴方は私が殺したはずの人間……胴体をまっぷたつに裂いてやったはずなのに―――姫さまの器として選ばれたのが、幸いでしたね』

「ハハハ。幸いかどうかは分からないね。でも、まあ……アンタと、もっかい喧嘩できるってのは、悪くねえ……って感じかなぁ?」

「……セリス。来るのが遅いぞ」

「人間どもの手助けしてやらなくちゃねえ……アンタの策は完成しないだろう?」

『ほう。これも策か?ヒトに囲まれて、どうする?……まさか、わらわをヒトの群れで倒すつもりか?』

「サイアクんときはそうするさ。でも、ちゃんとテメーはこの手でぶった斬る気だ、安心して、成仏しやがれバケモノが!!」

 黒の斬撃がわらわの頭を掻き消してしまう。ああ、ご無体な。しかし、滑稽。そんなものを潰しても、わらわの本体が傷つくわけもなし。でも……この茶番に付き合っているヒマもないかもしれません。ヒトどもを蹂躙するためにも……真の姿になり、この邪魔モノどもを駆逐しておきましょう。

「……チッ。ようやく本性を現すってか!!いいかい、セリス!!アンタも知ってるだろうが、コレの正体は化け蜘蛛ムカデ蟹だよ!!気抜くんじゃねえぞ!!」

「言い得て妙だけど……なんか変な呼び方だねえ」

『わらわとしては、『冥府の蠍』と呼ばれたいものですのに』

「うるせえ、どっちにしろゲテモノ虫だろうが!!」

『あははは!!じゃあ、そのゲテモノ虫の子を、何度も孕んだ貴方は、何なのでしょうねえ。みじめな苗床さんッ!!』

「あたしが何だろうが知ったことか!!テメーは、ぶっ殺す!!それだけだ!!」

「そういうこと。まあ、自分が殺されたぶんの復讐と……悪霊姫さんと竜王さんの怒り。そいつを思い知らせてやるよ?私も、八つ裂きにされた痛みは、覚えてるんだ!」

『……フフフ。さすがに貴方たち二人の相手は一人じゃ厳しいかしら?わらわも、助っ人を呼ぶとしよう……お目覚めなさい。ラケシス』

「ラケシスゥッ!!」

「……落ち着け、魔女さん。あの幽霊娘、どこから来るって?」

『下よん』

「なっ!!」

「うおお!!」

 恩などもが床から現れたわらわの傀儡娘に吹き飛ばされる。土煙をあげながら、その屍龍は大地を割って再びこの世に顕現する。

『GHAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHッッ!!』

 屍体といえど、それは美しい。みずみずしさを失っていない!人類で最強の魔力を持っていた者の成れの果て……『勇者』の慣れの果て!!白金のうろこをまといし、七本角の大龍!!うつくしき破壊の獣……『カイザー・ドラゴン』!!

「おいおい……なんだい、これは?魔女さんよ?」

「……コイツは、己を龍に化けさせて、邪神をも退けたって破天荒な女のなれの果てよ」

「ハハハ……伝説の『勇者』さまかい。この霊廟に陣取ったってハナシを訊いたときから悪い予感していたけど、当たちまったねえ」

「だが……ラケシス!!テメーごときに、この魔力が操れるわけがねえ!!」

『そう。ラケシスではまだ力が足りぬ。経験幼き小娘じゃからの……だが、その霊体を術にまで分解すれば……傀儡の糸には使える』

「……傀儡の糸?どういうこった?」

「貴様……あいつを殺して、その部品で、これを操ってるのか!!」

『ハハハハハ!!ご明察!!あの娘……裏切りおったからのう。お前も知っていたのだろう?竜に仕掛けた術で、覗いておったのだろう?……お前がヴァルガロフで作った黒竜を継いだ者に、アレは心奪われおった』

「頭の悪い白魔女に封じられたから、最近は見れてねえよ……」

「……スゲー。『竜喰い』さんは、魔族の娘も喰うのかい。とんでもない性欲だ」

『そう。我ら三人の娘は、極めて愚かであった……ヒトの子を救うため、自ら命を壊しおったのだ!!』

「……ッ!バカな……ッ!!あれが、そんな殊勝なことをするか!!」

「でも、相当弱らないと、あの厄介なラケシスを分解なんて出来ねえんじゃ?」

「……信じられるか、そんなこと!!魔族が、そんなことするわけない!!」

『信じようが、信じまいが……どうでもいい!!もう、アレは自我すら無いわらわの人形よ!ケインシルフ殿の子を、わらわは産ませたつもりであったが……ヒトの腹で孵した分、劣等因子が混じってしまったようじゃの!!』

「私を、バカにするなあああああああッ!!」

「挑発に乗りすぎだ、魔女さん!!後ろには、龍もいるんだぞ!!」

「じゃあ、そっちはアンタが捌きなさい!!」

「ええ?あなたの娘でしょうに?」

「その言葉、まっすぐアンタに返すわよ!!」

『ハハハ!!母子そろって、殺し合おうではないかああ!!』

『GHAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHッッ!!』




第六話    『竜喰いのソル』



「―――君らと出会えるということは、市内はあらかた片付けたようだな」

 私は久しぶりの再会を果たしていた。『カプリコーン旅団』。戦争屋としてではなく、魔狩りとしてのそのメンバーたちと。戦いに疲れてはいるが、返り血まみれの戦士たちはそのいでたちで蛮勇さを知らしめる。赤毛の女戦士は黒い馬を操りながら私に近寄ってきた。40は超えたはずだが、その若さと美貌は健在か。

「レイチェル・シェパード。久しぶりだね。元気そうでなにより」

「そっちこそ。呪いで死にかけていると聞いてたんやが……生きとったんか」

「心配してくれていたのかい?」

「いいや。殺したって死ぬような人やないから……まあ、うちの部隊を壊滅させてくれたことには、恨みもあるんやで。あれらの食い扶持を探すのも苦労する」

「それは悪かった。でも、私を殺そうと企むから悪いんだよ」

「まあ、そこは傭兵。しかたないこっちゃな。それに反乱の芽を摘めんかったアンタが領主としても抜けていたんやろ」

 ……あいかわらず烈女は手厳しい。

「たしかに呪いのせいには出来ないね、アルトの件は―――」

「戦場でくだらん世間話しててもつまらん。敵地のど真ん中でも目指すかい」

「そうだね。道すがら、積もる話でもしようか」

「お前と話すことなんてないわ」

「そうかい?」

「なんもない。うちはザイクリードの外道と、あの醜い『地獄蟲/ザライエ』を殺す算段せにゃならんのやで。騎士さまは民草でも守ってればええ」

「ああ、ザイクリードね……それ、もういないよ」

「……待て。あんた、今、何を言うた?」

「『吸血侯爵・ザイクリード』のことだよね。彼なら、うちの娘の恋人候補が仕留めたようだよ。ほとんど素手で」

「……待て、色々と聞きたくなったが頭、混乱してくるぞ。それ、ホンマのハナシか?」

「ああ。吸血鬼やゾンビどもが消えているだろう?ザイクリードの魔力が消えたんで、下位の構成員は消滅したのさ。おかげで仕事が楽だった」

「ふん。こっちはドラゴンばっかり相手で死傷者続出。大損や」

「それは運がなかった。今度、シャーロットの手作りしたお守りでも贈るよ」

「……あんたのドジなほうの娘の手作りか」

「ん?口に気をつけた方がいいんじゃないかな」

「どないな躾けしとるん?妹は黒魔女の罠にも気づけん、姉の方は悪魔?」

「二人はとてもいい子だけどね」

「……お前は本音言わんから信じられん。さっさと本題話せ」

「ケインシルフの気配は?」

「……目ざといな。アレの関与に気づいとったんか」

「竜がらみは、今でも情報を集めているからね」

「……来てはおらんやろ。白骨山から動いたってハナシは聞いてへん。眷属は大なり小なり混じっているみたいやけどな」

「そうか、安心半分、残念も半分だよ」

「……怖いヤツやな。まだ、アレを仕留める気か?いい年こいて……」

「ソルくんもいるしね。総員でかかれば、わずかな勝機が見える。万に一つぐらいのね」

「それに賭ける気か……ゾッとするわ。しかし、勝因になりえるんか、その男」

「なるさ。なにせ彼は、『竜喰いのソル』だからね」

 ―――そうだ。私は期待している。シャーロットの加護を受けたとはいえ、ドラゴン・ゾンビさえも一刀のもとに屠った、あの若く雄々しく涙もろい天性の殺し屋を。



「巨人のゾンビだああああああああああああああッッ!!」

「怯むんじゃない!!火矢を放て!!」

「おうさ、赤熊ッ!!」

 傭兵たちがロッシの指示を受けて炎の矢を放つ。地下からわき出てきた特大ゾンビにそれは有効らしく。その不気味なバケモノはまたたく間に炎に包まれていった。

「鎖持って来い!!ヤツの体を縛って、拘束するんだ!!」

「了解!!いくぞ、トーマス!!」

「っ!!逆方向、また一匹、巨人!!一つ目のデカいヤツだ!!」

「……サイクロプスのゾンビかよッ!!」

「―――そいつは、オレに任せな」

 ようやく最前線にたどり着いたのに、大した獲物にありつけず、うずうずしていたところだ。あれなら、丁度いい。『黒剣』と『魔将』とやるために、術を磨いておきたい。

「ソルか!!聞いたぞ、あの鬼畜侯爵をぶっ殺したんだってな!!ザイクリードを!!よくやった!!ヤツには何人もの同僚が殺されていたんだ!!」

 ロッシがサイクロプス・ゾンビに向かうオレを見つけて叫んだ。兵士たちがその逸話に歓声をあげる。

「マジかよ、あいつ、高位魔族をぶっ殺したのか!!」

「いいねえ!!イケるぞ、『竜喰い』!!今度は、魔将狩りだ!!」

「おい、ソル。援護いるか?」

「いらねえ。吸血鬼ってのが、思ったよりも貧弱で拍子抜けしてたところだぜ!!大物とやる前に肩慣らしだ!!コイツは、オレが一人でぶっ倒す!!」

 オレはサイクロプス・ゾンビに向かって走り出す。巨人の動きは遅い。だが、さすがにデカい。どうするべきか?体術、武術、暗殺術?……有効そうじゃないな。ゆえに、選ぶべきは一つ。魔術だ。オレが使えるのは、二つだけ『解錠』あらため『解放』と、初等魔術『ファイヤー・ボール』。

「……来いや、『火の球』ッ!!」

 オレは左右の掌を巨人に向けて、呪文を叫ぶ。シャーロット曰く、呪文とは精神集中のために使うだけの文言で、特殊なものをのぞいては、好きな言葉でもいいらしい。なので、オレは単純な言葉を使って、火の魔力を顕現させる。両手の先に発生させた立体式の紋章に、左右それぞれに五つ、合わせて十の火球を召喚する。

「さて……こっからだ!!」

 魔術の威力には反作用がつきものだ。強い術ほど魔力を喰う。しかし、それは魔力のほとんどを術の反動を殺すために費やすからだそうだ。反動を気にしなければ……もとい、その反動に耐えうるタフさがあれば、暴発にも近い高威力の術を、ちょっとした魔力でも使えるらしい。

「……黒竜の加護があって、それ抜きでもバカに頑丈なこのオレなら、その裏技を使えちまうってわけだよなあ、シャーロット!!……うおおおおおおおおッッ!!」

 魔力を火球に注いでいく。火球どもがどんどん巨大化していき、なおかつそれらは高速で渦を巻くように回転し始める。加速させるのだ、威力を上げるために。くくく!さっそく、反動が現れ始めた!!

 オレの周囲に炎が発生する。それらはあまりに不規則で、まったく統制のされていない火柱どもだった。電流が発生する。漏れ出た魔力がエネルギーに変貌し、オレの体に襲いかかっている。だが、黒竜の……クロードの兄貴の力で、オレには無効だ。あとは、オレの筋力で、この超高速の火球の射出に、耐えてみせればいいだけだ!!

「……発射ああああああああああああああああああああッッ!!」

 十の火球を同時に撃ち放った。その反動は恐ろしく、空気が揺れて、世界が割れたかのような衝撃波と破裂音が世界に響き渡った!体が、わずかに吹っ飛ばされる!!ハハハ!!反動だけで、これかよ!!

『ぎゃふううううううううううううううううううッッ!?』

 十の火球が音速をはるかに超えたスピードでサイクロプス・ゾンビの肉体に牙のように突き立てられる。7メートルの身長をもつ巨体が、わずかに浮いたほどの威力だ。火球どもはヤツの肉を大きく穿ち、それぞれが特大ゾンビの体にめり込んでいる。ぎゅるぎゅると回転しつづけ、肉がどんどん削られている。いいね、コントロール通りだ。

「―――とどめだ……『爆』ッッ!!」

 そう唱えながら、十本の指をオレは握りしめる。同時に魔法は世界に放たれる。うずまく火球どもが、一斉に業火を放つ爆炎へと変貌し、サイクロプス・ゾンビの肉体を千々に吹き飛ばしていた!!

「……うそだろ、魔術ひとつで、ぶっ殺したぞ!!」

「ファイヤー・ボールで、サイクロプス殺すって、どうなってんだよ!?」

「……ハハハハハハッ!やるじゃねえか、ソル!!シャーロットさまともいい勝負なんじゃないか?」

「―――そんなわけあるか、失礼な」

 ロッシがジュリィに後頭部を小突かれる。ロッシは、へへ、すいやせん、と謝った。我が師ながら、あいかわらずジュリィの下僕然としていやがる―――調教されるってのは怖いコトだ。

 オレはロッシの露骨な態度を見ても、もうそれが自然な振る舞いであるようにしか見えない。ジュリィってのは、暴力でヒトを支配するんだよな、見事なまでに。

「ソルさま!!いい魔術でしたーっ!!」

「おう!!シャーロット!!お前のアドバイスのおかげだぞ!!」

 オレは両腕を広げて、走ってくるシャーロットを受け止めようとしたが、ジュリィに阻止される。まあ、分かっていたけど、ちょっと残念だった。いいんだ、時間をかけて関係を築いていくってことでいいわ……。

「もう。なんで邪魔するんですか、お姉さま」

「姉だからだろうな」

「う。そう言われると、なんか反論しにくいのです……」

「反論する必要などない。私が全て正しいのだから。さて、皆、霊廟への道は開かれた。あとは突撃する者たちと、後ろを守る者たちに別れるぞ……最前列は、私、シャーロット、ロッシ……そして、ソル・ヴァルガロフだ」

「……おう!」

「お前は妹の貞操を狙う鬼畜な強姦魔だが、性的暴行の過去は今は問わん。今だけな。とにかく私の猟犬として、魔族どもののど元に食らいつくのだ!!」

 さらっとオレの評判を下げる言葉を公衆の面前で言い放つのはやめて欲しいものだ。おい、強姦魔だってよ……って、誰かが言っているのが辛い。まあ、いいけど。他人の評価なんてどうでもいい。今は……『黒剣』と『魔将』を仕留めることが―――。

 ゾッとするほどの魔力の渦。

 ほんと、そう呼ぶしかない気配を感じていた。その場にいる者たち全員が。あまりのプレッシャーの強さに、並みの戦士では動くことも出来ない。動けたのは、オレとジュリィとロッシぐらいだ。

 シャーロットは魔力の感受性が強すぎるのかもしれない、他の者とは異質のショックを受けているようだった。マズい、これをしのげるのは、彼女しか―――。

「動け!!シャーロット!!」

 バシン!!ジュリィの張り手がシャーロットの頬を思い切り叩いていた。シャーロットがその瞬間に我を取り戻す。

「壁だ!!防げ、シャーロットッッ!!」

「は、はいッ!!光の壁よッ!!」

 戦士たち全てを守るために、巨大な光の紋章の壁が発生する。しかし、守らなければならない範囲が広すぎる!!ロッシが叫んでいた!!

「みんな、身を屈めろ!!……生き延びたら、走って、反撃喰らわすぞッッ!!」

『GHAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHッッ!!』

 『龍』の咆吼が大地を揺らし、その強大無比な炎の息が大地を破壊しながら空へと向かった。シャーロットの壁でも持つのかどうか……ジュリィがシャーロットに抱きつく。肉体の盾になる。いい女だ。お前は、そういうヤツだよな。

 だから、オレも!!

 お前たち姉妹の盾になってやるんだよ!!

 オレはふたりをその腕で抱きしめていた。爆発が起きる。守る力と壊す力が拮抗し、崩壊と破裂という結末に落ち着いたのである。大地が弾け、空に炎の線が描かれていき、世界は白く塗りつぶされる……。

 熱い。ドラゴンよ、守ってくれ!!こいつらは、死なせたくねえんだよ!!

 ―――光がおさまっていく。オレは自分の腕のなかに姉妹がいることを確認する。ふたりとも無傷だ。良かった。あの攻撃は……防げた―――いや、鼻が、肉の焦げた臭いを嗅ぎつける。視界のなかに、倒れた兵士たちを見つけた。耳がうめく声を聞き届ける。いてえ、しにたくねえ……兵士たちの三分の一近くが、炎に焼かれて……死んでいた。

「くそがああああああああああああッッ!!」

「動け!!ソル!!作戦を実行しろ!!二度目を撃たすなっ!!」

 ロッシの叫びだった。オレは、それに従う!!

「行くぞ、おらあああああああああああああああああッッ!!」

 怒りにまかせて、オレは大地から這い上がってくる『龍』を目掛けて走って行く。ジュリィが叫んだ。あいつもオレの隣を走っている。あの因縁深い魔槍を携えて。

「我らに続けえええええええッッ!!怯むな!!意味なく死ぬぞ!!戦い、果てたとしても!!勝利のための礎となれ!!これは、ヒトと魔族の……生存競争だッッ!!」

 一番槍はジュリィだった。彼女が魔女の雷を込めた魔槍をぶん投げる。『龍』の顔面にそれは刺さり、空を破裂させるほどの轟音と共に雷撃を『龍』に浴びせた。ヤツがあの強烈な電流にさらされ、動きを止める。

「ソル!!さっきのヤツを、叩き込め!!」

「おうよ、『テン・フィンガー・ファイヤー・ボール』ゥウウウウッッ!!」

 オレは最大火力のファイヤー・ボールを叩き込む。『龍』が強烈な爆炎に呑まれ、ギャオウウウ!!と怪獣じみた声で悲鳴する。

「つづけ!!走れ!!左右に回り込めッ!!」

 ロッシも負傷しているが、動けないほどではなかった。彼は兵士たちを声で勇気づけ、自身も最前線に突撃する。彼の投げ槍が『龍』に当たった、ヤツの白い巨体に槍がずぶりと突き刺さったんだ。ロッシに鼓舞された戦士たちが狂ったように叫びながら、槍やらボウガンでヤツを左右から責め立てる!!

「そうだ!!それでいい!!全員でかかれば、こんなバケモノだって!!」

 ロッシがボウガンを構えながら叫んだ。言葉で仲間に勇気の魔法をかけるために。

「いいカウンターだぞ!!……飛び道具が尽きたら、接近戦でしとめ―――ッ」

「ロッシ!!危ねえ!!」

 『龍』の長い尻尾が空で弧を描き、ロッシ目掛けて振り抜かれていた。骨張ったその尻尾の一撃は、ロッシのクマみたいな巨体を宙に撥ね飛ばしてしまう。戦場の頼れるベテランが、力なく大地に叩きつけられる。

「ロッシいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」

 オレは叫ぶ。その怒りが、『龍』に向かう爆炎と変貌する。それは魔術。名前などない、今この瞬間に怒りによって生まれたオレだけの魔術。ただの炎の強襲……これは、ドラゴンの炎だ!!これは『ドラゴニック・フレア』!!

 右眼のドラゴンが力を貸してくれる。オレと兄貴の魔力が混ざり、怒りによって導かれ、ただひたすら龍殺しの爆炎へと変貌していた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああッッ!!」

 『龍』の体がオレの魔術で焼かれて吹き飛ぶ!!強烈な熱風と爆音が地上を駆け抜けていく。オレは一瞬で体力を大きく失っていた。なんだ、これは……そうか、魔力も大量に使っちまったのか……。

「……ロッシ」

 オレは彼の名前を呼ぶ。ロッシは動かない。オレは悲痛な顔で叫ぶんだ。

「シャーロットおおおおおおおおおッ!!ロッシを、助けてくれえ!!」

「はい!!お任せ下さい!!だいじょうぶ……まだ、命の灯火は消えていない!!」

「前を見ろ、ソル・ヴァルガロフ!!ヤツは、まだ健在だぞ!!」

 ジュリィがオレのとなりに立ち、剣を抜く。オレは彼女の視線を追いかける。オレの魔術で焦げてしまった大地から、そいつは這い上がってくる。体中に火傷と破裂したような傷痕がある。ボロボロだ。しかし、それなのに出血がない……生きているように見えて、これは屍体……ゾンビなのか?


 ―――私があやつれるのは、死体だけ。


「……え」

 ―――おい、なんでだ?

 なんで、こんなバケモノを見ているのに、オレは、ラケシスのことを思い出してしまう?そんなバカなことがあるかよ?あるわけないよな?

 あいつなら、オレに攻撃してくるわけがないと思った。あいつは、そうじゃない。邪悪な面も多々あるが……あいつの心は、それだけじゃないんだ。

 生まれたことを母親に祝福されることもなかった、ただのひとりぼっちな女の子で、愛されたいと願っているだけの……フツーで当たり前のガキだ。

 そうだった。

 そうだったはずなのに……どうして、お前の心が、竜の力を使っても感じない?なんだ、この無機質で幾何学的な魔力の束は?……お前の魔力は、もっと、楽しさを求めて、音楽みたいに弾んでいただろ?

「おい、どうした、ソル!!敵前だぞ!!ふぬけるな!!」

「……お前、なんでだ?なんで、そんなバケモノになっているんだよ……ッ」

 確信があった。魔力とか気配とか、そんなものの全てで、オレは理解していたんだ、それがラケシスだったモノだと……。

 『龍』はまるで人形みたいに硬く動く。操り人形みたいだと思った。ユリアンが見て笑っていた、命のない木彫りの人形みたいに『龍』は動いていた。ああ、これは……ロッシを打撃したのと同じ尻尾の攻撃だ。オレはジュリィを反射的に突き飛ばしていた。何もしなければ彼女とオレはその攻撃をもろに食らっていたし。

「くッ!そ、ソルっ!!」

 ジュリィが叫んでいた。ああ、まずいな、オレは彼女ために力を使った。もう動けねえ―――オレにラケシスの尻尾が近づいてくる。骨張ったそれを避ける術はない。痛みを覚悟する。オレは、そのとき初めて死を受け入れていた。

『―――貴方は、そんな死に方をしては……いけませんッ!!』

 赤毛の髪が視界に揺れる。ロッシによく似たその髪をもつ女が、オレを抱きしめながら体当たりしていた。直後、抱きつかれたままオレと彼女は『龍/ラケシス』の尻尾に打撃され、その衝撃に撥ね飛ばされて大地をゴロゴロと転がっていた。

 死ぬほど痛い。だが、オレよりこの子の方が心配だ。打撃の大半は彼女に命中していた。

「おい、アンタ、生きているか?」

「……おー……くそ、『姫さん』め……ヒトの体だと分かってんのかよ……?ムチャしてくれるぜえ……っ」

 なんだか数秒前と印象が違っていた。なんか端的に言えば品が悪くなっている。しかし、その女剣士は笑う。眼帯をつけ、口と鼻から血を流しながらも、元気そうだ。

「まー、いい。生きてるぜ……骨が、何本かいっちまったけど……」

「ソルさま!!セシルさん!!」

 シャーロットが駆け寄ってくる。いや、それだけじゃない。彼女はやはり『白の魔女』だ。七つの光の剣を召喚していた。それらが『龍』に突き刺さり刻んでいく。致命傷には至らないが、『龍』が悲鳴を上げる―――ラケシスが……ッ。

『……あの子を哀れに思ってくれているのね、ありがとう」

「え……」

「はあああッ!?」

 シャーロットの目の前で、赤毛の女剣士はオレの唇を奪っていた。オレは驚く。あまりに突拍子のない行為だったから。ジュリィまで激昂する。

「き、貴様!!戦場で、何をさらしている、赤毛ッッ!?」

「ちょ、死ぬか生きるかで浮気しないでください!!しかも、私の目の前で!?」

「……うう。すまん。でも、今のはマジで私じゃなくて……ああ……もういい。誰か、私をロッシの叔父上んとこまで引きずってくれえ!!戦力には、もうならん!!」

 傭兵たちが赤毛の痴女剣士を回収していく。オレは混乱していた。命の恩人だけど、命を助けてもらった上、なぜか唇を奪われる……?わからん。

「あれは……いったい何だったんだ……?」

「ソルさま、あんな変な人のことは無視です」

「そうだ。あんな色魔のことは忘れるのだ」

「そうです!!」

「今は、このドラゴンに集中しろ!!」

「……ああ」

 オレは『龍』をにらむ。ラケシスを見据える。やはり確認したい。

「シャーロット、アレは……やっぱり」

「……はい。あれは悪霊ラケシスです……正確には、あの子が『龍』を動かすための道具にされた姿……」

「道具……だと?」

 オレの怒りにシャーロットが怯える。だからだろう、ジュリィがつづけた。

「悪霊を術のレベルにまで分解体することも出来るそうだ。そして、『それ』を魔物に組み込めば、術者の意のままに操れる……高位の魔族ならな」

「……分解?……どっちが、やった?」

「知らん。だが、勘を頼りに言わせてもらえば、ゾンビや死霊を操るのは『地獄蟲』であるザライエの本領なのだろう」

「……ザライエ。あいつの、母親……ッ!!それなのに、あいつをッ!!」

「……おーい、『竜喰い』……こいつ、預けるわー」

 ロッシの姪っ子らしき赤毛の痴女が、オレに剣を投げ渡す。足下に痴女愛用の大剣がぶすりと突き刺さった。

「……いい宝剣だ……魔を封じる……仕留めるんじゃなく……止められるぞ」

「……なんで、そんなもの持っているんだ……てか、マジか?シャーロット?」

「はい。それはおそらく『魂魄封じ/ソウル・フリーズ』。悪霊を縛る剣。それで仕留めれば、剣の玉石に悪霊は閉じ込められる……でも、部品になるほど分解されてしまったのであれば……おそらく、あの子を助けられる可能性は……ゼロに等しい」

「……うん。それでもいいさ。ラケシスは、子供の命を助けてくれたんだよ……オレにはさ、それで十分だ。殺さない……あいつは、止めてみせる―――もしも、出来ないとしても、オレが殺して……その罪を背負って生きていく……」

「ソルさま……っ」

「ふたりとも、どいてろ。アレは、オレに任せろ」

「……ふん、いくぞ、シャーロット。我々も魔力がない。体力バカのコイツに任せるしかない……『ザライエ』も、控えているんだぞ。体勢を整えるのがベストだ」

「……は、はい。ソルさま、ご武運を」

「おう」

 そして……オレとラケシスは対峙する。赤毛女の大剣を地面から抜き、それを構える。シャーロットの光剣に刻まれていた『龍』が、うめきながら立ち上がる。オレたちの攻撃で無残に破壊されたその体は、じつに痛ましい有り様だが、稼働を止めない。

「……ラケシス。そんな苦しそうにうめくな……これで、止めてやる……」

 『龍』が機械仕掛けみたいに感情無く叫んだ。『龍』の爪が、オレ目掛けて振り落とされる。さすがにオレたちが散々攻撃しただけあって、ダメージが大きいようだ。その動きはいくらか遅くなっている。これなら、オレが躱せないわけがない。

 『龍』の掌打を躱しながら、その腕を深々と剣で切り裂く。大物相手だ、足を狙って動きを潰す。定石通りに動いてやるぜ。オレは斬撃を浴びせたその場所に、ファイヤー・ボールを叩き込む!!

 刻まれた肉のあいだを縫うように火球は進み、骨へと当たると炸裂していた。ボキリと樹木じみた乾いた音を立てて、『龍』が体勢を崩す。前脚の支えの一つを失ったそれが、深い穴の底へと落ちていく。地下霊廟の床へ、仰向けに叩きつけられた『龍』……オレは好機と見る。

 自ら大穴へとダイブしていた。落下していく。祈りを込める。神さまよ。アンタはオレのことも魔族のことも嫌いかもしれねえが……でも、コイツは命がけでヒトの子供を助けたぞ?生まれた意味も知らず、あのまま無残に死にゆくはずだった魂に……未来をくれてやったんだ!!同じぐらい無残で、母親にも愛されていなかったあの子がな!!

「―――頼むよ、神さま……どうにか、してくれッ……ラケシスうううう!!」

 祈りの叫びは斬撃となって振り落とされる。オレは『龍』の胸元深くに、心臓を狙って『ソウル・フリーズ』を突き立てていた。『龍』を操る魔力の糸が千切れて破綻する。『龍』が断末魔の叫びをあげた―――オレは理解する。

 剣の柄にはめられていた宝玉に……ラケシスを感じない。ちくしょう、ダメだった。その事実だけが分かり、オレは、意味も無い音を叫んだ……。

「……どうして、そんなバケモノのために……泣くの?泣けるのよ……?」

「……誰だ、お前は」

 そう言いながらも、オレは言葉の途中で察しがついていた。こんなところにいる黒い三角帽子をかぶった美女?……分かっている。『黒剣の魔女』だ。ラケシスを出産した女。いや、無理に出産させられたか……おそらく、あそこのゲテモノに。

『―――興味深いですわ。かつての『勇者』の力を、この野蛮人は一瞬とはいえ超越していたように思います……人類最高の魔力を?うふふ。面白いサンプルね』

 それは、たしかに『地獄蟲』だった。地下霊廟の天井に、その蜘蛛みたいな脚と蟹みたいな爪とムカデみたいな胴体と、巨大な牙と無数の眼球をもつ不気味な生物が、音もなくとまっていた。吐き気がするほどの醜悪だ。

「なるほど、たしかに『地獄蟲』だな」

『わらわを卑下する言葉ですわね。罪深い人間ですこと。でも、興味深い素材ですわ。ねえ、貴方、その魔女を妊娠させてくれません?』

「はあ?」

『そしてね……その胎児に私の魔力を注いで歪ませるんです。悪霊を作る。今度こそ、完璧な悪霊姫を産み出すのですよ』

「……フン。なんだか、お前が諸悪の根源って思えてきたぜ」

『諸悪の根源。いい響き。魔族にとって最高の賛辞ですわね……わらわは確かにそう在りたいと願い、いつも行動をしてまいりました。その魔女を改造し、苗床にし、ラケシスを産ませた時も……世界の悪意の始原にいる……そのような気持ちを抱いておりました』

「……しゃべんな」

『いい物語でした。邪悪を産まされ苦悩するその魔女も……愛されるわけもないのに、愛して欲しいと心の奥で叫びつづけていたみじめなラケシスも……その物語は、今、完結したのです!!すばらしい悲劇ですわ!!見て?その朽ちた『龍』のなかで、原形もなく崩れたあのかわいそうな魂の欠片を?最後はね……自分が最も愛していた殿方の手で、壊されちゃったのよ!!ああ、素敵ですわ!!素敵!!なんて、素敵な物語ッッ!!』

「しゃべんなって、言ってるんだよッッ!!」

 オレは怒りのままに火球を撃ち放っていた。『地獄蟲』はその大きな蟹みたいなハサミで火球を受け止めていた。不気味なほどデカいくせに、動きが速い。

『あら?わらわの声が気に入らない?ラケシスとそっくりですものねえ?貴方が殺してしまったラケシスと?キャハハハハハ!!……こんな風に、あの子は笑ったわね?』

 激昂したまま、オレは火球を乱発した。『地獄蟲』は爆撃されながらも笑い続けていた。クソ!ムカつく!!こんなにムカついたことはねえ!!なんだ、コイツ!!こんなもんが、なんでこの世界に存在しちまってるんだ!!

「……がはッ!?」

 激痛が全身を走り抜けていた。そうか、これが魔力の枯渇ってやつだな。さっきから回復してこねえぞ。ああ、クソ、頭に血が上って、自分がどれだけ疲れているか……そんなことにも気づけなかったのかよ!?オレは膝からその場に崩れ落ちる。

『キャハハハハハ!!無様なソルさまぁ!!』

「……るせえ。その声で、しゃべんな……ッ」

『私は、命をかけて、貴方を助けたの!!魔女の呪いからも守ってあげたわ!!貴方の泣き顔を見るのが辛くて、その涙を止めてあげるために、命の大半を消費して、あの子供を助けてあげたんですよ!!……なのに……ソルさまは、私を殺しただけ。あんなに愛してあげたのに、あなたがくれたのは、心臓に突き立てた冷たい剣だけじゃない!!……なーんてね?あの子の声まねよ?どうかしら、似てる?』

 噛みしめた奥歯が割れるような音を立てる。体中の傷口から血が吹き上がる。怒りで狂ってしまいそうだ!!『地獄蟲』は大きな口を開けた。わかるぜ、あのクソ蟲!!笑っていやがる!!オレを、ラケシスを、笑っていやがる!!

『キャハハハハハ!!ひどい男ぉ……ゴミくずみたいな産まれ方をした、みじめで孤独なラケシスを、アンタは殺しちゃったああ!!キャハハハハハ!!』

 魔族ってのは……なんで、本当のことばかり言いやがるんだッッ!!

 オレは『地獄蟲』をにらみつけ、火球を放とうとする……が、その手を魔女に掴まれていた。『黒剣の魔女』……ヴィヴィアン。ラケシスの母親の一人で、ヴァルガロフのみんなを殺した女だった。

「……お前ッ……お前が、なんで止めやがる……ッ」

「ムダ撃ちするな。死んじまうぞ」

「うるせえ、知ったことか、あのクソ蟲ぶっ殺せたら、他はどうでもいい!!」

『あははは!!うれしい。殿方に想われてるぅ』

「はあああああッ!?」

「……安い挑発に乗るな……お前の拳は、まだ砕けてもらっては困るんだよ」

「……なんだと?」

「見ろ……」

 ヴィヴィアンは自分の腹を見せた。そこには深くて大きな傷がある。フツーの人間なら即死しているはずだ。コイツ、『地獄蟲』にえぐられたのか……。

「……私も長くはもたない。だから年上のお姉さんの話を聞け、若者。なあ、お前……なんで、あの蟲がそこまで憎い?」

「決まってんだろ!!アレは、あの蟲は、ラケシスを弄んだ!!馬鹿にして、愛してやらず苦しめて……最後には殺して道具にしやがったッ!!」

「だからか?……ラケシスは―――あの子は、悪霊だぞ」

「だからどうした?あいつは悪霊だとしても、ただの女の子だった!!愛されたいって願っていただけの、ちっぽけで、フツーの……ひとりぼっちのガキだった!!あいつは、世界の誰にだって、バカにされていい存在なんかじゃねえんだよ!!」

「ああ……まったく。青臭いガキだなぁ……」

「なんだと―――」

 オレという男は、なんでこう女に弱い。『黒剣の魔女』は笑っていた。天真爛漫に、まるで子供のように。そして……それは、ラケシスにあまりにも似ていたんだ。彼女は、たしかにラケシスの母親だった。

「……バカな子。愚かで。考えなしで……単純で……そんなゴツい体しているのに、なんで泣き虫なんだ?バカじゃないのか?あはは。ほんと、笑えるよ」

「ボロクソ言ってんじゃねえよ。テメーも、泣いているだろうが」

「うん。そうだね、ゴメン。でも……良かったよ。今ここに、君がいてくれて。ねえ?使うと、君は死んじゃうかもしれないんだけど……あのクソ蟲、確実にぶっ殺せる呪文があるのよ―――どうする?」

「使え」

「……即答するんだ。そうね、その強さ……貴方なら、竜さえ呑み込む強さがあるのかもね―――でも、ホント、その強さより、泣き虫なところに惹かれちゃうなんて……まったくもう。あの子も、私の子供よね」

 ヴィヴィアンがまた笑った。それは少しだけ涙を浮かべながらの、悲しそうな笑み……それでも笑ってた。たぶん、これはさ、ラケシスへ捧げられている感情だとオレは思ったんだ。なあ。良かったな、ラケシス……たぶんお前は、生まれて初めて、お母さんに愛されてるぞ。

『あら。悪だくみは終わったの?魔力の切れた魔術師と魔女なんて、わらわの敵じゃないのだけれど……殺すことよりも、わらわの実験の材料に―――』

「さっさと使いやがれ、その術。あのクソ蟲が、ラケシスみてえな声で話しているのには、もう一秒だって耐えられねえんだよ!!」

「……いいわ。とびっきりの呪いをかけてあげる」

「おう!来やがれ!!」

 オレはクソ蟲をにらみつけたまま、腕を組む。さあて、来やがれ魔女め。どんな呪いだろうが、耐えてやるぜ。そうだろう?兄貴?……アンタにやれたことを、オレが出来ないわけがない!!

 ヴィヴィアンが魔力を高める。全身の魔力を解放する気か。この女も命がけだ。いや、オレもだ。いいのさ!あのクソ蟲ぶっ殺せるなら、オレたち二人は命もいらねえ!!怒りと憎しみと、たぶん、それ以外の大切な想いのためにも!!

『あらあら。何をしてみるのかしら?わらわに届く術なんて、存在しないわよ?』

「―――『白き魔女の血脈に流れる呪詛において、我が眷属たる騎士に試練を授ける。汝は楽園の果てより来たりし、戦の竜……世界の理すらも喰らう、暴虐の化身と成り果てよう。その身を邪悪に堕としてやろう……しかし、その魂の気高さを我は信ずる。ヒトの心が、邪悪をも喰らう聖なる力を持つと、竜すらも喰らい……我が物にすると。その力をもって、新たな楽園を打ち立てると』―――龍式解放、『ヴァルムート』!!」

『……え……それ、『龍化の術式』?……バカじゃないの?そんな呪いで『龍』になれたのは、歴史上で二人しかいないのよ?そこの『勇者』と『魔王』さましか―――』

 体が熱い。炎で焼かれているみたいだった。いや、体が内側から変わってしまうような感覚だな。全身の骨が破裂して、肉や臓器が焼けて融けて、なんかごちゃ混ぜになりながら膨らんでいく感じ?

 ククク!なんだよこれ、ヒデえもんだぜ。気が狂いそうになるぐらい痛いしよ。でも、いいさ。これであのクソ蟲ぶっ殺せるんならよ。ああ、でも、マジで熱いぜ。たぶん、魂の奥底から炎があふれているのさ……なあ、クロードの兄貴もこんな感じだったのかい?


 ―――いいや。これはオレの時の比じゃないぞ、ソル。


「……ククク。そうかい。なら、あのクソ蟲でも、ヨユーで、ぶっ殺せそうだなあ!!フハハハハ、ハハハハハハハハハハーッッ!!』

『笑うな、笑うな!!ありえん!!お前などが、『龍』に至るなど!!ありえていいはずないのだああああ―――ッ』

 オレは『尻尾』でブン殴っていた。さっきラケシスがオレにやったヤツだ。『お前から教わった技』で、このクソ蟲、ブン殴ってやりたかったんだよ。

『……これ、ほんとうの……『龍』ぅううッッ!?』

 クソ蟲が霊廟の天井にめり込みながら叫んでいた。なかなか頑丈だ。殺気全開で叩き込んでやったのに。こりゃ、いい……即死させちゃ、つまんねえ!!

「おい!お前は『龍』に至った、炎を使って焼き払え!!」

『ククク!ああ、了解さッ!!』

 オレは口に炎をためていく。出し方が分かる。兄貴が見せてくれた。『龍』ってのは、ガチで火炎を口から吐けるんだよな!!

『うそでしょ?……なんていう魔力を集めるのよ―――ッ』

『GHAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHッッ!!』

 赤い閃光が視界を焼き尽くしながら、オレの牙だらけの口から吐き出された炎の激流がクソ蟲ごと地下霊廟の天井全てを吹っ飛ばしていた!!世界を灼熱の爆風が吹き抜けていく。地下霊廟を崩壊するほどの威力だ。『地獄蟲』も相当のダメージを負ったはず。だが、あいつの緑色の体液が空から落ちてくる。土煙に曇る視界の果てに、醜い蟲が飛んでいた……クソ蟲め、空に飛んでいっちまいやがった。あいつ、羽根もあるのか!!

「行きなさい!!翼は、アンタにもあるのよ!!」

『―――おう。なあ、ヴィヴィアンよ。オレさま、ちょっと行って、アレぶっ殺してくる。だから、お前はここにいてやれ……ラケシスはそこにいるんだ』

「……ええ。わかったわ。さっさと仕留めなさい。じゃないと、ヒトに戻れなくなるどころか、死んじゃうかも?いいえ。それどころか……意識無くして世界を滅ぼしちゃうわよ」

『ああ。なんでか、そんな気がするよ。コレ、ほんとは使っちゃダメな術だな』

「そうよ。アンタ、これで神さまに呪われるかもね」

『オレは昔からそうだ。じゃあ、行ってくるわ!!』

 オレは背中にある翼に命じ、天空目掛けて飛翔していた。さようなら、ヴィヴィアン。お前はヴァルガロフの仇だが……今は、憎しみも怒りもお前にはない。お前がクソ蟲への復讐よりも、ラケシスのそばにいてやることを選ぶのなら、オレはお前を憎めはしない。



「……まさか、ほんとに『龍』に至るなんてね。スゴい子……はあ……とんでもない子に惚れちゃうもんよね、アンタも……」

 私は……『娘』に寄り添う。『龍』の屍体の動力として消費されてしまった、ラケシスに。それはとても冷たい。そうだ、産まれたときから死んでいたから。温もりなんて知らないままだったはず……。

「……それともさ……あのバカな子に、教えてもらえていたのかしら?……ねえ……ヒトを想うときの熱量を……あなたは死ぬまでに、知っていたの?」

 ラケシスの頭をなでてやりたいと思った。

 そうだ、産まれたときに浴びせかけたのは呪詛だけだ。抱いてもやれなかった。あなたの重みも、私は知らないままだ。

 もう全ては手遅れだけれど。それでも、あなたの頭を撫でてやりたいと思う。そして、それを後悔する。この痛みを、この辛さを、私は罰として背負いたいのだ。

「ごめんね……愛してあげられなくて……ごめんね……ラケシス」

 死に行きながら、その名前を私の魂に刻みつけよう。死んでも、忘れてしまわないように。これから地獄に堕ちたとしても永遠に、その名前を叫んで呼び続けてあげよう。私はそれでも愛せないかもしれない。

 でも、もう憎しみはない。

 怒りもない。

 ただ……あなたのことを祈らせて欲しいと願う。そして、いつかあなたを愛してもいいとあなたに許されたなら、私はあなたを抱きしめたい。

「……ああ……ごめんね。子守歌を歌ってあげたいのに……覚えておけば良かった……ひとつぐらい、空で歌えるぐらいに、覚えておけば……よかったかな……ねえ。いつか、歌ってあげる……だから、わらってよ……ラケシス……―――」



「……ソルさま」

 私は大地を破壊して空へと昇った漆黒の『龍』を見つめている。お姉さまにも分かるようだ、あれがソルさまだということが。

「ザライエ退治まで、あいつに任せることになるとはな……しかし、あれは『龍』か。あそこまでバケモノになってしまっては―――」

「―――ソルさまは戻ってきます」

「シャーロット……だが」

「龍式なんかに負けたりしません。私が、そうさせたりしないんだから!!」

 そうだ。私は『白の魔女』……ちがう、そんな肩書きはどうでもいい!私は、シャーロット・ヴァレンタイン!!ソル・ヴァルガロフを世界でいちばん愛する女の子だ!!



『キャハハハハハッ!!まさか、本当に『龍』に化けるなんて!!しかも、空まで飛ぶなんて?……魔族に堕ちてしまったわねえ、人間がッ!!』

『知ったことかああああああああああッッ!!』

 灰色の雲を貫いて、オレはザライエに迫っていた。体が飛ぶことになれてくれない。スピードはこっちの方がはるかに上だが、小回りはあっちのが上だ。『地獄蟲』め、ハエみたいにブンブン飛ぶんじゃねえ!!

『GHAAAAOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHッッ!!』

 天空さえ焼き払うようなサイズの業火を、オレは口から放っていた。ザライエが素早く上空に飛び、それを躱す。だが、躱しきれずに、その身が炎に炙られて赤く変色していく。

『ぬうううッ!!わらわの外殻を、融かすのかッ!!……わらわの、体を、よくも、この人間があああああああああああッッ!!許さんぞおおおおおおおおッッ!!』

 ザライエの肉体がぐにゃりと歪む。黒く広がったヤツの体から、おびたたしい数の蟲が飛び出してくる。どれもこれも見たこともない不気味でデカい蟲ばかりだ。

『億万の地獄の蟲に喰われてしまえ、愚かな『龍』よッ!!』

『ちいッ!!』

 オレは空中でボクシングする。腕というか前脚をブンブン振り回し、その鋭く太い爪で人間サイズの蟲どもを次から次に切り裂いて殺していく。十、二十、三十匹……だが、あまりにも数が多い!!どうなってやがる?サイズと合わんぞ?まさか、地獄から呼んだってのかよ?なんでもありだな、高位魔族!!

 ついにオレの体に蟲どもがまとわりついてくる。ヤツらがオレに噛みついてきた。肉を噛みちぎられる、それら一つ一つはわずかなダメージにしかならないが、いくらなんでも数が多い!!こいつら、オレを喰ってしまう気だな!!

『キャハハハハハハハッ!!翼が動いておらんぞ!?そのまま、堕ちて死ねえ!!』

「―――させません!!」

 シャーロットの声が響く。蟲に覆われていく視界の先に、翼の生えた箒に乗った彼女の姿をオレは見る。彼女が魔術を使っている。その瞳は、オレを見ている。何かを伝えるために。そうだな……なるほど、いい案だ!!

「『炎皇』……『イグニート・ランサー』ぁああああああッ!!」

 そして、彼女が呼んだ炎の『槍』が、無数の蟲に呑まれていたオレの体を爆撃していた。ザライエが天空で笑い声をあげる。

『キャハハハハハハハ!!信じられぬわ!!仲間を殺しにきおったか、『白の魔女』め』

『……そうじゃないさ』

『ぬう?』

「黒竜に守れているソルさまに、炎は効きません!!」

 そうさ。この程度の熱、オレにはまったく効かねえ。あんがとよ、クロードの兄貴!!蟲どもが焼け死んだあとで、オレは翼を広げて邪魔くさい死骸を空に振り払った。そして翼を操り風に乗る。落下しながら得た加速で、今度は急上昇だ!!あいつに向かって!!

 ザライエがオレの軌道に気づいた。ヤツは再び蟲の群れを召喚してくる。だが、同じ手を何度も喰うようなオレさまじゃねえんだよ!!

『GHAAAAOOOOOOHHHHHHHHHHHHHッッ!!』

 『龍』の業火が世界を焼き払う!!『地獄蟲』の呼んだ蟲の軍勢を瞬時に焼き払いながら天を昇り、それはザライエをも爆撃する!!やったぜ!今度は命中だ!ヤツの不気味な肉が焼き払われて、装甲みたいに硬い外骨格が吹き飛んでいく!ククク!手応えはあったぞ、クソ蟲がッ!!

 ザライエが狂ったように叫びながら暴れてやがる。さすがに魔将と言ったところか?しぶといが―――でも、勝負は見えた。オレとシャーロットが魔力を集めていく。次の攻撃だ。そいつで仕留めてやるぜ、クソ蟲め!!

『ぎゃああああああああああッ!!おのれ、おのれえええ……負けぬ、負けぬぞおおおおお!!わらわは、わらわは……あのお方の后に……なるのじゃああああ!!』



 炎に包まれていく中で、わらわはあのお方の声を聞く。


 ―――ザライエよ。ぶざまだのう。

 ―――お前は本当に醜い。

 ―――姿も、心も。

 ―――せっかく、千年も前に魔力を与えてやったというのに。

 ―――貴様は、何をしてくれた?

 

『わ、わたしはああ、あなたに相応しい霊姫をつくりあげ……そ、そして、そして、魔界を……あらゆる世界を……あ、ああ、あ、あなたとともに……しはいしたくて』


 ―――我には力こそ全て。

 ―――群れる意味も意志も我にはない。

 ―――そして、我のそばにいて良い者は……強く美しい者のみ。

 ―――このままヒトに滅ぼされろ、弱く醜い者・ザライエ。ではな。


 そして……あの方との交信が消える。理解する。わらわは永遠にあのお方との絆を断たれたのだ。もう許してもらえない。最高の霊姫を用意すれば、彼の関心を惹けるはずだった。魔女を作った彼と、私の計画……いったい何が違うという?

 ……これだけ、貴方のために捧げたのに。

 貴方に世界を支配していただきたかっただけなのに!!



『うわあああああああああああああああああああああああああああああッ!!もういい!!滅びてしまえええええええええ!!世界も、ヒトも、魔女も!!ケインシルフぅううう!!お前も、私が喰らい尽くしてやるううううッッ!!』

 『地獄蟲』のヤツめ、様子がおかしい。オレは翼の箒で空に浮かぶシャーロットの側に並んで飛ぶ。こういうときは専門家に訊くに限るぜ。ときどき、やらかすけど。彼女は『白の魔女』なんだ。

『おい。シャーロット、あれ、どうなってやがる?』

「……あれもまた『龍式』です。ソルさまが、『黒剣の魔女』にかけられた術を、ザライエは、自分に使っているのです……」

『ほう。ヤツもドラゴンに化けんのかよ?』

「いいえ。闇の眷属では、『龍』には至れない。心の強さが足りないのです……暴走する力に呑まれて、崩れて死ぬだけ……でも、崩れるその身から魔力を取り出し、己を焼き尽くしながらも絶大な力を振るうことは出来ます」

『へへへ。時間限定のパワーアップかい。オレといっしょだな』

「ソルさま、承知の上で……はい。そうです。ソルさまにも時間がありません」

『なるほど。そっか。うん……じゃあ、とっととやっちまわないとな!!』

「……はいッ!!」

 泣き虫め。シャーロットが泣いている。でも、オレは笑う。『龍』の顔は、どんな風に歪んだのだろうか?……シャーロットは、笑い返してくれた。そうさ、こういう時は強がって笑うもんだ。

「―――来ます!!」

 炎が弾けて、紫色の光につつまれた『地獄蟲』が姿を現す。その身はどんどんと崩れていく。だが、その飛翔は先ほどよりもはるかに速い!!幾何学的に飛ぶその動きに、オレとシャーロットの飛翔はまったく追いつかない。

「ウソ!?なんて、速さッ!!」

『くそ!!ムチャクチャだな、おい!!』

『ゆるさんぞおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』

『ぐおおおッ!!』

 ザライエの爪が左腕を切り裂いていた。大量の出血が空に飛び散る。それを目の当たりにしたシャーロットが悲痛な声でオレの鼓膜をふるわせる。

「ソルさま!!今……今、私がおそばに参ります!!私が、そのケガを治してあげますからッ!!」

『バカ!!オレに、ち、近づくんじゃねえ!!こいつ、オレを狙ってる!!』

 シャーロットから離れて上空に飛ぶ。ザライエの軌道がこちら目掛けて変わった。速い。躱せそうにねえ!!痛みを覚悟して、オレは牙を噛みしめた……そして、再び激痛が走る。右の翼がえぐられる。ああ、もう上手には飛べないかもな。致命的な打撃だ。避けることも出来ず、嬲り殺されることが決まった。

 打撃戦なら負けねえ。地上に降りるか?―――そんな発想が頭をかすめるが、すぐに否定する。もうこの体にドラゴンの体重を支えて立ち回る力は残っていないと判断した。それに、炎に包まれているザライエが街で暴れたらどうなる?……どれだけ殺されてしまうか分からない。あそこには、ヴァルガロフの何千倍もの命がある。守らなくちゃならない命があるんだよ。

 だから、ここでいいのさ。そいつら全員、オレが守ってやる。

『来やがれ、蟲女!!』

『……ころすうう!!ころしてやるうう!!』

 空中でオレはザライエの高速飛翔の餌食になる。何度も何度も。全身が痛い。角が折れた、尻尾が切り裂かれてしまう。でも、そうだ、それでいい。オレしか眼中にないぞ、あいつ!!いいぜ、シャーロットも街も狙わないでくれたことが、どこまでもありがたい。

 だけど。ヤツの融けかけた爪が、砕けた肢の尖端が、オレの体をどんどん切り裂いていくんだ。くそ、やっぱり時間切れが近いんだな、オレの体。『龍』の皮膚がよ、こんなに脆いはずがないのに……。

 オレの体が崩れていく。外から壊されるだけじゃない。内側からも解けていく。さっきまであったはずの膨大な魔力がどこかへと消え去り、オレは自分のなかに冷たい空虚を感じる。生きていくために必要な何かが、自分からどんどん失われているに違いない。

 呼吸をしたいだけなのに、咳き込み空に吐血してしまう。己の血の霧雨を顔に浴びた。どっとくたびれたような気持ちになった。死―――心にその概念が浮かぶ。どうやら、世界を滅ぼす獣にはならずにすむらしい。だが、やっぱり死んじまうのかよ?……あーあ。ちくしょう、さっさと倒しておけば良かったな、失敗したぜ。

『―――でも、テメーを殺せるんだ。絶対に許せないお前をな、ザライエ!!』

 ヤツはムチャクチャに飛び回りながらオレを攻め立てる。しかし、あいつも限界が近い。体は時間と共に崩壊していく。それでも地獄蟲は世界に呪詛を吐いた。オレへの無念と怒りと憎しみが、空を震わせていやがる。

『ころす!ころす!!ころすうう!!きさまは、きさまはああああ!!わらわのけいかくを、ぜんぶ、ぜんぶ、こわしやがったあああああああ!!』

『くくく!ハハハハハハハッ!!ざまあみやがれ、クソ蟲め!!オレといっしょに、あの世に行こうぜッッ!!』

『ゆるさん、『龍』ぅうううううううううううううううッッ!!』

 ザライエが、オレに向かって飛んでくる。

 ボロボロにされた翼じゃ、もう避けられない。フン!かまわんさ。やれることは一つだけ。あいつの体当たりに、カウンターを喰らわせてやるぜ!!ヴァルガロフで鍛えたこの右腕で、クロードの兄貴に教わった殺し方で、ロッシに習った戦い方で、ラケシスの母親が与えてくれたこの姿で……テメーと刺し違えてやるぜ!!

 オレは覚悟を決めたんだ。

 死にたくないなんて思っちゃいなかった。ホンモノの戦士か殺し屋の境地に達していたのさ。命さえもコストに支払い、成すべき願いを果たすために、すべてを捧げる。ドラゴンの口元を嬉しそうに歪ませる。闘うための笑みじゃない。勝利を喜ぶ笑顔さ。刺し違えることぐらいなら、絶対に完遂できる自信があったから。

『くくく!さあて、死んでやる!!その代償に、お前の命を道連れにしてな!!』

 覚悟はしたぞ。まったく、自分の命を惜しまない捨て身の一撃さ。それをするための姿勢を空のなかで形作る。ザライエの軌道は速いが、単調なんだよ。もう読めている。視界がかすんで来ているが、あの醜い巨体を見逃すことはない。

 覚悟はした。迷いはない。

 それなのに―――あの子は叫んでくれたんだ。

「死んじゃやだあああああああああああああああああああッッ!!」

 シャーロットがオレの目の前に現れる。盾になるつもりか?いや、ザライエの突撃してくるスピードでは呪文が間に合わない!!ああ、シャーロットよ。お前、何しに来た!?……そうか、そうだな、ただ、オレに死んで欲しくないだけか!!あの子からは呪文じゃなくて、涙と叫びと願いだけがあふれていた。

 死なせたくない。オレのために泣いてくれるこの子を、死なせたくない。守るんだ!!

 オレはシャーロットを自分の腕で抱きしめていた。ザライエに使うためのカウンターにするはずだった右腕で彼女を包み込んでいた。直後、ザライエの突撃を浴びる。オレの腹部が深々と切り裂かれてしまう。腹が破裂して、空にまた血の雨が降る……クソ痛い。でも、やったぜ、シャーロットを守れた……。

「そ、ソルさま!?……ソルさま、ごめんなさい……か、かばうはずなのに……かばわれて……わたし、わたし……っっ!!」

『……いいんだよ。しかし、まあ、追い込まれちまったぜ……なあ、シャーロット。じっとしてろよ?最後まで、守ってやるからさ』

 そうだ。こっちでいいや。

 命の最後の使い道は……憎しみよりも、誰かを愛することに使った方がカッコいいさ。そっちの方が、オレはさっきよりもっと笑えるんだよな。口元がまた歪む。シャーロットにはドラゴンの笑顔が通じるかな?

 君がオレのために流している涙を見ちまうと、心が辛くて、でも、ちょっとだけ嬉しくて……誇らしい。自分が正しいことをしているって確信が持てたよ。

『―――ああ、ずっといい死に様さ、こっちの方が』

『おまえを、ころすううううううう!!』

 ザライエの飛翔がオレに迫る。必殺の気配をまとったそれは、オレの首を刎ねるだろう。ああ、参ったぜ、どうにもならん。でも、シャーロットだけは守る。オレは、世界でいちばん大切なこの子のためなら―――ッ!!

『―――ぐあああああああッッ!?』

 紫電が、天空を切り裂いていた。そのバカみたいにデカい雷を、オレは知っている。仲間のはずなのに、背中に寒気が走りやがるぜ。まったくよう、スゲー女だな。

「お姉さまッッ!!」

 そうだ、ジュリィ・ヴァレンタインだ。オレの眼が地上を見る。槍を携えたジュリィがどこぞの丘で膝を突いて倒れている。あいつも持てる魔力を使い果たしたのだ。そうさ、今のオレには分かる。彼女はあの魔槍に、ずっと呪いを込め続けてきたのか。寝るときもそばにいて、その媒体に魔力と呪いを注ぎ続けてきた。

 おそらく、圧倒的な強さの敵と相対したとき、シャーロットを守るために使うためだった。その魔力を全て解放したんだ。自分に残っている魔力を起爆剤にして。最後の魔術を放ったことでヴィヴィアンの呪いも消えてしまったんだ。魔槍が崩れていく。ジュリィが叫んだ。地上からでも、空まで届くほどの大きな咆吼で。

「そいつを殺せええええ、ソル・ヴァルガロフぅううううううッッ!!」

『……おうよ!!』

 オレは雷に切り裂かれて空中でうめく『地獄蟲』に左腕を向ける。オレが使える魔術はたった二つだけ。兄貴がくれた『解放』と……魔女の姉妹が教えてくれた『ファイヤー・ボール』さ!!

「ソルさま!私の魔力も、同時に!!」

 シャーロットがオレに魔力を注いでくれる。いいね、この感覚。ひとつに融け合っている感じだ。オレたち、今ならケインシルフとやらにも負けねえだろう。万全だ。すべて、整ったぜ。

『―――消し飛べ、ザライエええええええええええええッッ!!』

「―――消えなさい、ザライエええええええええええええっっ!!」

 『龍』と『白の魔女』の魔力が込められた特大の火球が空を駆け抜け、『魔将・ザライエ』の腹にめり込む。次の瞬間、それは太陽みたいに巨大な爆炎へと姿を変えた。膨大な熱量の嵐の果てに、『地獄蟲』の醜い姿が消し飛んでいく。

 空をおおっていた分厚い灰色の雲が、衝撃波のせいで払われていく。そうか、もうすぐ太陽が沈む頃合いだったか。魔術の雲がこの都市をずっと覆い隠していたから、まったく分からなかったぜ。

 沈む太陽の光を浴びて、ザライエの残骸が赤に融けながら消滅していった。魔族の死に様はいつもみじめなもんだな。どこが口なのかさえ分からん、でも砕けた蟲が、末期の言葉を遺していく。

『ああ……わらわの……からだが……そんな……こんな……まけかた、いや……きえたくないわ……ああ……たすけて……たすけてえええええええ…………―――』

 数世紀のあいだ人類の天敵だった生物は、みじめな命乞いといっしょにこの世界から完全に消え去っていった。空にも消し炭ひとつ残さずに。きれいさっぱりとだ。ああ、良かった。諸悪の根源ってのは、ぶっ殺した。やったぜ、ラケシス、ヴィヴィアン……兄貴、みんな。これで全部、終わったよ。

「ソルさま……お疲れさまでした……っ」

『……ん。ああ、そうだな、シャーロット。ジュリィのところまで送るよ』

 オレは誇らしい気持ちだった。世界でいちばん大切な女の子を自分の手のひらに乗せたまま、血まみれになった翼で空をすべるように降りていく。『龍』の凱旋さ。この戦場にいて、空を見上げている戦士たちよ、オレのことを歌にして残せばいい。

 出来れば、滑稽なヤツがいいんだけど?ユーモアたっぷりでな。

 今度ばかりは無礼なふるまいを許してやるよ。だってさ?そんな歌があれば、いつかオレの物語で、シャーロットの涙も止められるような気がするから。今は、たぶん泣き止んではくれないし。

 ああ、英雄の飛行も終わりだ。オレはゆっくりとジュリィのもとに降りて、シャーロットをジュリィの側に運んでやった。シャーロットが地面に飛び降りる。泣いている。死んじまうオレのために泣いているのさ。ありがとうな、シャーロット。

「……よくやったな、ソル・ヴァルガロフ」

 ジュリィがそんな言葉をかけてくれた。

『ククク。お前に褒められると、こそばゆいな……』

「ドラゴンに化けてまで、ヒドい笑い方をするなよ。似合いすぎるぞ」

『そうかい。まあ、オレさまらしいってことでいいじゃねえか』

「……ゆっくり休め。お前のことは忘れんぞ」

 簡潔で、さっぱりした別れの挨拶だ。その強さに憧れる。それに安心できるぜ。お前ならシャーロットをいつまでも守り抜くだろう。お前たち姉妹がそろっていれば、お互いを絶対に守り抜くさ。ずっと仲良くしろよ……。

「……ソルさま……ソルさまぁ……」

 シャーロットが大粒の涙をこぼし始める。今までよりもずっと大きな涙だった。ガマンしていたのかな、今まで。強がることはないのに。戦いは終わったんだ。もうラケシスもザライエもヴィヴィアンもいない……怖い顔して、敵をにらみつけなくていい。

 そうだ。笑顔がいいな。お前がいちばんかわいいのは、その表情じゃないか?

『……シャーロット……オレは―――』

 大切なことを伝えたいと願った。でも、首を支える力さえ消失してしまい、オレは大地にそのまま突っ伏してしまう。横隔膜が痙攣しやがるせいで、言葉を口にすることも出来ない。まずったな。こんなことなら、もっと早くに伝えておくべきだった。

「ソルさまあああああああああああああああ!!」

 シャーロットが叫んでいた。叫びながら、治癒魔術を使ってくれる。ああ、あたたかいなあ。でも、それじゃ間に合わないさ。この死はそんなことじゃ逃げ切れない。そんなことしても、お前がしんどくなるだけだぞ。

 ……ああ、命が消えていくのがわかる。

 それでも『白の魔女』は治癒魔術をかけつづけた。まったく、ムチャしているな。それじゃあ、自分だって命を削ってしまうのに。なあ、ジュリィ……妹を止めてやれ。オレは唯一動かせる瞳を動かした。ジュリィと目が合う。おそらくこちらの意図は伝わったはずだ。だからジュリィは一瞬だけシャーロットに手を伸ばし……途中で止めた。

 妹の願いを、いつだってジュリィは尊重する。

 夕焼けのなかで、シャーロットは泣いていたんだ。ああ、詩人ども。お前たちが描くオレさまの英雄物語で、この子を絶対に楽しませろよ?小さな子供みたいに、わんわんと泣いている彼女に、オレはもう言葉のひとつも遺せないんだからよ。

 想像力を働かせてくれ、詩人ども。

 世界でいちばんみじめな監獄で産まれた、誰にも愛してもらえなかった、ひとりぼっちのクソガキがさ?……そいつがよ、とびきりかわいいお姫さまに愛していますと伝えられたら?どんな気持ちになると思う?それが、どれだけ幸せなことか理解してくれ。

 詩人ども、オレの気持ちを伝えるんだ。簡単なことだろ?このオレさまが、シャーロット・ヴァレンタインを心の底から愛していることぐらい、どんなバカにでも分かるはずだ。だから、頼むよ。オレじゃもう、伝えられねえんだ……。

 あきらめていた。これほど誰かに期待したことはない。もしかしてさ、他人を頼りにしながら死ねることは、オレの旅が孤独じゃなかったことの証なのかな?……ほんと悪くないな、ひとりぼっちじゃないってことは……。

 オレは、安らかな気持ちにいたる。あきらめるとは、こんなに楽なことだったのか。疲れ切った体を大地に横たわらせる。すごく気持ちいい。生きることを放棄したそのとき、オレは死の安らぎを覚えていた―――。

 ……それでも。

 それでも、彼女はあきらめていなかった。

「……『降霊術』は、私たち『白の魔女』にとって絶対の禁忌です。でも、かまいません。ソルさま……私の罪を、許して……それでも、貴方と一緒にいたいの」

 ―――ん?どういうことだろう?

 もしかして、オレをゾンビのドラゴンにしてくれるのかい?いいね。それもいいさ。そうなれば、ずっとシャーロットのこと守ってやるよ―――。

 意識がどんどん遠くなる。希薄になって、真っ黒になっていく。くそ、安らぎが消えた。今はすべてが重苦しい。ああ……そうか……これが……死ぬってことなのか。

 ―――オレは自分の心臓が止まる前に、大きく脈打ったのを知覚する。認識出来たことは、それで最後になるだろう。そういう自覚をしてしまった。あらゆる知覚が消失する。なにもなくなる。臭いも光も音も体温も。すべてが暗黒と極寒と停止の世界に落っこちていく。どうにもならない。

 そうだとしても。命の終わりに、オレは願っていた。あきらめたはずだったのに、オレはその言葉をいつもみたいに口にしようとしたのさ。



 ……死にたくねえ。



『―――それならあ、生き返っちゃえばいいじゃないですかあ』



 ドクン!!

 ……止まったはずの心臓が動いていた。オレじゃない者の力によって、それは一度だけ動いたんだ。そうさ、その力の主はラケシスだ。崩れていくラケシスの気配を感じる。なるほど、シャーロットは、死んじまったラケシスを降霊術で呼んだのかよ。

 そして、ラケシスは……オレに生きるチャンスをくれたんだ。砕けて消え去るその最後に、あの子は死んだ直後のオレに取り憑いて心臓を動かしてくれた―――。

 生きろと、背中を押してくれたんだ!!

 死にたくねえ。

 いいや、死んでたまるか!!

 オレは息を吸う。酸素と魔力を取り入れるために。

 ああ、十分だぜ。これで、もっかいあがける。

 感覚は死んだままだ。何も知覚できない。死んでいるのか生きているのか、全てが夢や幻なのかも分からん。だが、かまうことはない。みじめったらしく、命にしがみついてやるんだ!今までもそうだったように!!

 ククク!

 なにが、『龍』だ。

 なにが、使えば死ぬ術だ。

 知るかよ、そんなことはよ!!

 オレさまは、ソル・ヴァルガロフさまだぞ!!

 羽根トカゲに化けたぐらいで、一々、死んでたまるかあああああああッ!!



 私はラケシスの消失を感じます。それでも、最後にあの子はソルさまのために力を尽くしてくれた。彼女の愛は真実のものでした。命がけでソルさまを愛してくれていたのです。だから、今度は私の番だ。

 私が命を賭ける番。

 私が全てを捧げる番。

 さっきからかけ続けている治癒術の出力を上げる。体中の魔力をすべて捧げるのだ。たとえ、私の命が枯れて尽き果てようとも。ためらわない。なぜなら?なぜなら、シャーロット・ヴァレンタインは、ソル・ヴァルガロフを愛しているのだから。

「ソルさま……死んじゃいやですッ!!もっと、一緒にいたいですッ!!もっと、たくさんのことしたいですッ!!もっと……ずっと、私と一緒に、生きて下さいッ!!」

 私は翼箒を逆立てて、全霊の魔力を込めて治癒術を使い続ける。ソルさまが、ソルさまの体がドクン!と再び大きな鼓動を立ててくれる。

「心臓が、動いただと!?まさか……蘇生するというのか!?」

 お姉さまが驚きの声をあげる。そうです。彼は蘇生しようとしている。ソルさまは今、自分の魔力で心臓に衝撃を与えたのです。死んでるのに。スゴいムチャなこと。そして、無理矢理に呼吸して私の治癒術を吸い取ってくれている。すごい勢いで、私の魔力がむさぼられています。体のなかを痛みが走る。ソルさまは容赦なく私をすすり、食べていた。

 痛い。でも、うれしくて誇らしい。

「いいです……っ。そうです、わたしを……むさぼってください、ソルさま」

 痛みと喪失を感じる。ああ、体の奥にある魂まで、ソルさまに吸い取られてしまいそう。ソルさまの牙に私は食まれている。でも、心地よい。ソルさまに全部を捧げているような気持ちなれる。痛みと悦びと苦しみが、境界線をなくしてしまい、ひとつに融け合っていく。私は、ソルさまになら、どんなことをされてもいい―――ソルさまじゃないと、いや。

「―――だから。貴方に、『白の魔女』の……『祝福』を」

 私は内在していた魔力の尽きた翼箒をポイッと捨てて、横たわるドラゴンに近づきます。えーと、唇が……ないので、ドラゴンの鼻先に私は『誓い』のキスを捧げます。

「え?……お、おい……シャーロット、そ、それ……まさかッ!?」

 お姉さまが私のしている行為の意味に気がつき、顔を赤らめています。怒っているような、戸惑っているような、恥ずかしがっているような。それは当然のことでした。魔女の祝福のキスの意味は、生々しい『生殖』の契約でもあるのですから―――。

 ある種の優越感でしょうか?私はドヤ顔になっています。もうお姉さまにも邪魔されません。だって、もう、しちゃったのですから。

 お腹の奥が熱くなるのを感じます。それこそ、契約の術が私の体に施された証でした。その痛みが誇らしくもあり、やはり羞恥もしてしまう。出来ることならば、この契約はソルさまと二人だけのときにすべきことだったものです。それに、だいたい無断でこれをしちゃうのも、ちょっと破廉恥ですし……。

 でも。これで、私の体は、ソルさまだけのモノになりました。

 私のお腹は、ソルさまとの子供以外を宿すことは一生ありません。ケインシルフに改造された私たち『魔女』は、自分の力を子孫に受け継がせるために、この術を用いてきました。『夫』と定めた男性とのあいだに、自分より強い子を必ず成すための契約術です。

 番う二人の子供を育むのに、最も適した……し、子宮にしてしまうのです。それ以外の男性との子を絶対に孕めなくなることを代償にして。魔力のゆりかごをそこに展開し、胎児へ知識と魔力をより多く受け継がせるための―――ソルさまとの赤ちゃんを作るためだけの専用の臓器に変えてしまう。

 こ、これは、けっして、エッチなことではないですから!?

 神聖なことです!!

 純愛の証ですから、これ!!

 これを使うことで、魔女は世代を重ねながら強さを高めてきたんです。いつかケインシルフを倒す魔女を産むために。だから、はしたなくはありません、そんなに。

 ああ、ソルさまの『魔力吸い/ドレイン』が私の治癒術の式をつたって、私のいちばん奥に入ってくる。今までよりもずっと強く吸われてしまう。しかたありません。だって、もう私の魔力も……体もすべて、ソルさまを受け入れる形に変わっているから。

 魔力の相性というか伝導性というか、そういったモノの性能が、今までとはまったく異なります。私とソルさまのあいだに、固有差という障壁や抵抗はほとんどなく、ダイレクトな魔力の交流が可能なわけです。これなら、貴方に魔力を捧げられる!

 あう。正直、スゴすぎます。このまま力を吸われ過ぎて死ぬかもしれません。もう目眩がしている。でも、いいんです。私は、とても幸せなのですから。

「……ソルさまぁ……っ」

 術で発情状態にある私は、自分でも引いてしまうぐらい蠱惑的な声でソルさまを呼んでいました。体がソルさまの魔力の侵入を知ってしまい、ソルさまを愛しく想う気持ちに歯止めがつかなくされちゃっている。

「もっと……たべてくださぁい」

 ああ、私ったら……っ。なんて、はしたない声を出してしまったのでしょうか。すみません、お父さま、お母さま。でも、魔女ってこうなるように出来ているのだから、ゆるしてください。

 ドクン!!

 『龍』の心臓が再び鼓動する。私を食べて、ソルさまが元気になってる。強くてたくましいその鼓動をより多く感じるために、私はドラゴンの鼻先を両腕で抱きしめる。えへへ。ソルさまのにおいがします。ねえ、伝わっていますか、ソルさま。私の心と肉体の熱量が?

「世界でいちばん愛してますよぅ……私は、ソルさまのモノになっちゃったんですぅ……だからぁ、戻ってきて下さーい」

「しゃ、シャーロット……っ」

「え?……なんですかぁ。お姉さまぁ……邪魔しないでくださいよう、夫婦の営みを」

「こら!色ボケしている場合か!!……お前の魔力だけじゃ足りない」

「ええ!?だ、ダメですよう!!お姉さまともなんて……そんな三人でなんて!!さすがに同時には……お父さまに叱られちゃいますよう!!」

「ああ、ケインシルフめ、我々にとんでもない呪いをかけてくれおって!いいか、シャーロット。そうじゃないんだ。聞け、お前が『龍』に残っている魔力をコントロールしろ」

「え?」

『フフ。なるほど、それは名案ですね』

 あの寝取り痴女です。私は、がるる、とうなります。セシルさんです!!ソルさまにキスをした、あの赤毛がこんな夫婦の営みの最中に現れました!

「―――邪魔したら、殺しますよ」

 自分でも驚くぐらい冷たい声でした。でも、セシルさんは静かに微笑みます。あれ?このヒト、『混じってる』?ひとりじゃない?

『ウフフ。あなたの邪魔はしませんよ、『白の魔女』さん。私も、あなたのお姉さまも』

「だから、私はソルと契約なんてしないぞ……」

 お姉さまはそう言っていますが、信じられないです。こんな気持ちいいことだと知ってしまったら、お姉さまは絶対にソルさまとしちゃうはず。姉妹だから分かります。お姉さま、ソルさまのこと好きですもん。

『いいですか、シャーロットさん。『発情モード』に負けないで聞いて下さい。つまり、我々が伝えたい作戦はですね、そこの蘇ろうとしている『竜喰い』さんに、今度は『龍』を喰わせてあげてってことなのよ?』

「……ドラゴン・イート!……それなら、たしかに魔力を補える」

「そうだ。質量を、死にかけている『龍』の肉体をヒトのそれに戻し、あまったエネルギーを蘇生のための源にしろ!!」

『そうですわ。『竜喰い』さんだけじゃ難しくても、番としてつながっている貴女が導けば、そのヒトは必ず応えてくれる。魔女と恋人って、そうなっているのだから』

「ふふふ。にゃるほどう。『龍』の生命力なら、生け贄としてうってつけ……ソルさま。イキますよ?いっしょに、ドラゴンを平らげてしまいましょう。そして……えへへ」

 ―――私たちの『子育て』の滋養にしちゃいましょうねぇ。

 私はソルさまに貪られるだけじゃなくて、私からもソルさまの中へと手を伸ばします。ソルさまの魂のなかに私はもぐりこむ。もっと混ざって融け合うんです。言葉と力と愛を伝えるために。

「……ソルさまを、私はぜんぶ覚えてます。たくましい体と、さみしそうに強がる瞳。孤独の痛みを知る貴方は、太陽みたいに強くて、熱くて、こわくて、とてもやさしい心をしていました。だから……大好き。愛してます。おねがい、元に戻って下さい」

 祈りと術を唇に込めて、私は再びキスをします。

 ドクン!!

 ソルさまが本能的に私の術を読み取ってくれる。ああ、これが以心伝心。夫婦ならではの愛情伝達なのです。『龍』の体が光り始めます。さすがは私の番うヒト。最愛のヒト。私たちのあいだに、もはや説明はいりません。

 私とソルさまの魔力が融け合う。私の想いに応えるようにソルさまが『龍』に食らいつきます。『龍』の肉体が光に変貌し、ソルさまの形へと戻っていく。



『……ウフフ。まれに見る番っぷりですね。生死の境目さえも超越して繋がりあえちゃっていますわ。ほんと、彼女ったら処女のくせに、とても官能的。魔女って、基本エッチよね、ジュリィさん』

「……ヒトの妹の悪口を言うな」

『え?褒めているのよ、いい子を作ってくれそうでしょ?……嫉妬してるのかしら。妹さんに先を越されてしまったわね?アレほどの雄を見つけるの、まず無理よ。あなたも魔女の一種には違いないものねえ、本能がくやしがるでしょ?』

「うるさい。黙れ。いいか?……私らも魔力をシャーロットに送るぞ。あの子は消耗している。魔女同士なら、やれるはずだろ」

『ええ。そうですわね』

「……しらを切るとか、しないんだな。お前も『魔女の一種』か」

『ええ。どうせ貴女には気づかれていましたから』

「……貴様は、『誰』だ」

『貴女たちの『先祖』ではありますね。だから、手伝ってあげますよ?私は強い人間が大好きなのですよ、貴女と同じくね』

「……フン。大物魔族に助けられるとは、アレは魔王の候補か?……もしかして、どこぞの魔女の子なのか、ソル・ヴァルガロフも?」

『さあ?そういう気配はありません。おそらく、ありえないことに天然自然が産んだ存在ですよ。どうあれ出自は厭わない。『龍』にさえ至ったあの強さ。これからも磨いてもらって、魔王も勇者も―――超えてもらうつもりですわ』

「フン。魔族に知られたと思うと、ゾッとするね。でも、今はいい。手伝え!」

『はい。了解でーす』

 ―――今このときはお父さまの悪霊姫としてではなく、ラケシスの三人目の母として。ソル・ヴァルガロフ。貴方に生きて欲しいと願います。文句はありませんよね、ケインシルフお父さま?それに、セシルさん。

「……まったく、姫さんは人使いが荒すぎるぜ―――あら?セシルさんだって嫌いじゃないでしょう、私が混じっているんだから、強い男にどこまでも惹かれてしまうはず』

「ええい、ひとりで喋るな。気持ち悪い!」



「あう?」

 お姉さまと、お姉さまに酷似した魔力が私に届けられます。私の疲弊していた体が、動きやすくなる。なるほど……あの方は『竜憑き』。高位魔族に体を支配されている方。でも、いいです。今は、どうでもいい。ソルさまを助けること以外は、些末なことですから!

「もう一度、イキますよ?フルパワーで、吸って下さい!!」

 ―――おうよ。

 ソルさまが、『ドレイン』の術を使います。私の魔力に導かれ、貪欲に『龍』を喰らっていくのです。そして、それで得た魔力で、心臓を鼓動させて、空気を吸い込んでいきます。私は、氷のように冷たくなっていたソルさまの体を抱きしめます。

 私の体温を与えたいのです。

「ねえ、ソルさま……ヒトの体のぬくもりと……ヒトの心の熱量って、これですよ。ヒトがヒトを愛しているとき、伝えたい温度がこれなんです……」

 光が輪郭をまとい。そして、その大きな腕が私の肩に回ります。ザライエとの戦いでも守ってくれた、あのたくましくてやさしい腕。いつだって私を守ってくれるソルさまの腕でした。光はソルさまに戻っていく。ああ、よかったです。

 私は熱い涙を流す。

 私は言葉を選びます。

 自分の想いを伝えるための言葉。ソルさまに捧げるべき、私の想いを……。

「―――おかえりなさい。ソルさま」

『……おう。ただいま、シャーロット」

 そして、私は太陽みたいなヒトに、また逢えたんです。




エピローグ



 ―――まったく。世界は不思議に満ちている。まさか、我の計画を上回る生命が、いずこからともなく産まれてくるとはな。

 驚愕してやろう、ソル・ヴァルガロフよ。

 貴様はいつか我が敵に相応しい力へと至るかもしれぬ。

 ……いや。真に興味深いのは、お前と『白の魔女』のあいだの『仔』か。

 じつに待ち遠しい生命である。

 我さえ呑み込む戦士になるかもしれぬなぁ……。

 我の操った運命に、世界の淘汰に晒されながら生き残った野生が組み込まれる。そのときこそ、絶対強者が完成する日なのかも知れぬな。だが、心することだ。魔族とは邪悪でしつこく醜悪だ。お前の人生は、今後それらとの対決の連続になるだろう……。

 ああ、どうか我との対決までは、死なないでおくれ?

 そして、『白の魔女』を守るのだ。我の愛しい血族の娘たちをな。

 我の名は、ケインシルフ―――力を信奉する最強の魔竜。

 白き骨の山の頂で、いつか我に挑むといい……『竜喰い』よ。



 ……本格的に冬が到来しようとしている。今日もゲイル・ボーグの街に雪が降っていた。オレは街の復興を手伝うために、壊れた瓦礫やら壊れかけの建物をぶっ壊す仕事に就いている。ヴァルガロフ暮らしで力仕事には慣れたもんさ。

 それに、あれから一週間、戦うこともなく平和な日々がつづいてくれている。なんていうか、体が鈍ってしまうから、これぐらいの力仕事していた方がいいんだ。まあ働かなくちゃならんのだ。色々と『借金』も作ってしまったしな?

 オレは例の売春宿の女全員をこの街から買い戻す形になった。約束していたからな。市長を脅そうかと思ったが、オレに怯えているのか感謝しているのか、えらく低姿勢で迎えてくれたし、ヴァレンタイン伯爵の知り合いだからブン殴れなかった。

 吸血侯爵なんたらにかけられていた賞金と、市街を魔族から取り戻した戦いに関する功労金?そういうものを得られたから、それで彼女らの自由を買ったのさ。ああ、ちなみにザライエには懸賞金がなかったんだ。吸血鬼よりもはるかに強いから、莫大な賞金を期待したのによ?……なんでも、強すぎる魔族には、懸賞金って賭けられていないらしい。軍事行動以外で倒したことは皆無だからとか?

 まあ、市長のおかげでかなりの割引が出来たらしい。売春宿がひとつ消えちまって、街の男からは恨まれているらしいが……別にいいや、男なんてどうでもいいし。

 彼女たちが村に帰ってもまた売られてしまわないように、そこそこの金も渡したぞ?オレだって、彼女らが貧困の犠牲者だってことぐらい分かるからな。だから、有り金ぜんぶくれてやったんだよ。

 だが。それでも足りんとジュリィに言われたから、伯爵さんから100万シエルほど借りてしまったんだ。シャーロットぐらいの美人なら、リンゴが700万個買えるほどの額だ。大借金王だぜ、まったくよう。

 ……ちなみに、ゲイル・ボーグ・トリビューンの記者によると、どうやらオレは売春婦に誰よりも金を注ぎ込んだ男になったらしいな。なんだか、あらぬ誤解を受けそうな文面が新聞の一面に載っていたのだが……まあ、いいか。男として性豪あつかいされるのって、別に恥じることじゃないもんな?

 どうあれ、約束は守れたぞ。

 悲惨な暮らしをしてきた彼女たちが、ようやく幸せになれたってんだぜ?べつに文句ねえだろ?土木作業も、ヴァルガロフのそれに比べたらクソがつくほど楽だし、なんだかんだで、この街の市民も良くしてくれているからな。

 ククク。顔がいいからかね?……最近、やたらと女にもてんだよ。シャーロットがいなけりゃハーレム作れたんだが……もったいないとかは思っていない。いや、本当だ。本当だとも。オレは満ち足りているのさ。

 市長の計らいで、オレとシャーロット、そしてジュリィはデカい屋敷に住むことが出来ている。ゲスト用だとよ?……貴族ごっこも悪くはないな。あの姉妹がいっしょの部屋で、オレだけ階が違うってのは文句もなくはない。相変わらず、シャーロットと二人きりになろうとすると、ジュリィがどこからか出現しやがるのさ。

 まあ、べつにいいさ。冬はまだ長い。シャーロットといい雰囲気になれるタイミングもあるはずさ。なんか、あの日以来、シャーロットはじつに積極的というか……魔女ってエロいんだな。例の『契約』についても、これはエッチなことじゃないんですよ、純愛ですから。と、説明はされたが、そのまま受け止めることは出来なかった。

 いや、率直に言って、エロいわ。なんだよ、オレ専用の子宮って?……なんだか卑猥すぎるぞ。嬉しいけど、ちょっと怖さもあるぜ?まったくイヤじゃないけども。むしろ、征服感?みたいな感情が満たされていいんだけど。なんか、エロいよな。

 まあ、いい日々さ。

 ちゃんと腹一杯メシが食えて、シャーロットみたいなかわいい恋人がいて、とりあえずしなくちゃいけない労働があるってのは、いいもんだわ。オレはようやく人間らしい幸せな暮らしにありつけているような気がするんだよな。

 ―――二匹の『龍』のブレスで、ぶっ壊れちまった霊廟跡地を見る。あそこは伝説に謳われる邪神退治の女勇者の墓だったが、今度の一件で二人の魔族の墓にもなった。シャーロットの魔術により、あそこには強い封印が施されたのさ。

 二度と、彼女たちの誰一人として魔族に利用されたりしないように。その肉体も魂も、永遠にこの土地に封じられた。オレには、ずいぶんと因縁深い土地になってしまったものだ。一生ここで暮らすというのも……悪い選択じゃないかもしれねえな?

 シャーロットはケガ人やら病人治すのに忙しそうだ。でも、楽しそうだよ、働く彼女はたくましいしキレイだ。ドジなところもあるが、マジメだもんなぁ。ああ、ケガ人といえばロッシは回復していた。

 シェパードっていうロッシの上司と、姪っ子の痴女……セシル。その二人はロッシが目を覚ましたときにはいなかった。もう街を去っていたのさ。彼はそのことを残念がっていたが、生きていればまた戦場で会えると納得していた。

 とりあえず、ロッシも土木作業しているぞ?なんでも、冬は戦も少ないから傭兵稼業での収入は見込めないそうだ。家族に仕送りもしないといけないらしい。

 ファーレンで伯爵家に、いや、ジュリィにぶんどられた金はどれだけだったのか。現在のロッシは、攻城戦の経験を活かして、すばらしいレンガ職人の才を見せている。大工としてもメシが食えそうな勢いだぜ。

 ほんと、多才な男だな。もちろん、武術の指導は継続してもらっているぞ?槍の使い方と、ボウガン。なかなか面白いオモチャたちだ。戦うことを学ぶのは面白いよ、クロードの兄貴。殺し方と少し違うし、共通することも多くて……どちらもオレには大事なモンさ。

 ジュリィは臨時の教官をしているそうだ。この街の頼りがいのない兵士たちに、彼女は地獄の訓練をさせている。兵士たちが日に日に座った目になっているのが特徴的だ。そして、彼らの態度は教官の教えなのかオレに対して悪い。この街を救ったはずのオレさまを何だと思っているのだろうか?

 まあ、ジュリィならいい指導者になれる―――かな?いや、偏ってはいるが、軍事力に関してだけは一流だ。『龍』に化けたオレよりも、彼女についての詩やうわさ話の方が、酒場では好まれているらしい。まあ、恐怖に満ちた物語には、一種の爽快さってものを感じることがある……ってわけだな。

 一日一日、壊れてしまったこの街は立ち直りつつある。オレやロッシの土木作業に、シャーロットの傷病者の手当、それにジュリィに訓練されて人相が変わっていく兵士たち。まあ、この街の復興もそう遠い日じゃない。ここはきっと、かつてよりもいい街になるにちがいない……。

 ……そしたら?

 ……オレが、ここにいる理由も無くなってしまう気がした。

 そうさ。

 オレは正直なところ、これからの人生の在り方を決めようとしている。

 ここでまともな仕事に就いて、ヒトらしい暮らしをするってのも素晴らしいことだと思う。でも、世の中には悪いヤツらがたくさんいることを知っちまったし、苦しんでるみじめなヤツらがいることも知ったのさ。

 ―――そういうもんをさ、放っておくってのはさ、笑えなくねえか?

 オレさまって男は、意外と色んなことが出来るらしい。とくに魔族をぶっ殺すことなんて、なかなかの才能だろう?吸血鬼にドラゴンに地獄蟲だ。たくさん仕留めたぜ?この才能を、平和な街で大工仕事に注ぎ込むってのは、どうだね?ちょっと、勿体ないように思わないか?……それに、借金もあるしな。

 この冬が終わったら。

 シャーロットとジュリィとロッシといっしょに、また旅に出ようと思うんだ。魔狩りの旅さ。バカな魔族どもを見つけ出して、ぶっ殺していくんだよ。

 『いい魔族』に出会ったら?……ククク、そんときは友だちにでもなるさ。旅の途中で、困ってる女の子を見つけたら?助けてやればいい。男も、ユリアンみたいにガキなら助けてやろう。成人男性は自力でがんばれ。そんな身勝手な生き様を貫いてみたいんだ。

 いろんな可能性があるんだよ、この世界には。完璧じゃなくて、不幸も多いけど。それでも、不確かながら可能性が転がっている。だから、オレは自分を楽しもうと思うのさ。世界の広さを確かめに見て回りたい。そして、したいことをするんだ、命の限り!

 なあ、クロードの兄貴、そしてラケシス?

 ……オレといっしょに、世界を楽しもうぜ?

 オレの中に融け合っている二人の魔力が、わずかに高まるのを感じる。賛成しているに違いない。ククク、いいとも。行こうぜ、二人とも!!この世界の果てまで、この『竜喰いのソル』さまと一緒にな!!



                    ―――いつか、また別の物語で。


ソルの物語に一区切りがつきました。肉弾戦バトルは少なめでしたね。魔術とブレスばっかりでした。巨獣との肉弾バトルは最初にやってしまいましたので、同じネタをしてもなという感情が機能しましたね。


『黒剣の魔女』ヴィヴィアン。もっと書き込めた気もしますが、あんまり書くとダークとエロスが増えてしまい冒険物語でなくなりそうだったので。ラケシスへの憎悪で動いていますし、自分の価値を無いと嘆いている自暴自棄な人間です。なので、ラケシスを認めてくれたソルは、同時にヴィヴィアンを救ってもいるわけですね。ラケシスなんかを産んでしまった、という認識が彼女のコンプレックスでしたが、そのラケシスにソルが価値を与えたことで、コンプレックスが解消されつつあります。好きなキャラクターなので、もっと書ければ良かったです。あんまり書くと謎とか無くなってつまんないかとも思いましたが。激しく短い時間で暴れられたかなと。


カイザードラゴン。ラケシスの残骸で動かされている、大昔の女勇者が化けたドラゴンの死骸です。ザライエの傀儡ですが、とんでもない火力を誇るドラゴンです。本来の力はありませんが、それでも軍隊を瞬殺するほどに強い。今までの魔族とはレベルが違いますね。ソルのチームバトルも書きたかったところで、その点では満足です。機動力なしについて、後ろ足が邪神に切り落とされたまま、とかも書こうと思っていたけれど、忘れてました。


悪霊姫キャスリン。セリスに同化している魔族です。ラケシスの母親のひとりで、この物語の冒頭でケインシルフが助けた赤子です。魔竜を父と呼び、慕う高位魔族です。本来ならザライエよりも強いですが、蘇って間もないため、こんなものです。性格はかなり温厚で姫さまらしいですが、なにせ初代の魔女ですので、強い男が好きという性根はあります。


ザライエ。ラケシスの母親のひとりで、本作のラスボスですね。陰湿で悪魔的な性格と、その気持ち悪い姿と強さとしつこさ。魔将って感じは出せたんじゃないでしょうか?ラケシスは彼女に懐いていましたが、ザライエからすればラケシスはたんにケインシルフへ媚びるための道具でした。


地獄蟲という呼び名はなんか気に入っています。いい感じの悪口じゃないでしょうか?ムカデやサソリやカニやクモやハエを混ぜたイメージですね。大量の蟲を召喚するのは楽しそう。これに喰われる兵士たちの描写もどこかで書きたかったですが、また今度やりますかね。ホラー映画のシーンみたいで、文字にすると楽しそうです。残酷ですが、グロさにも魅力はあるわけで。


ソルの化けたドラゴン。火力に飛行能力と、ワクワク要素ですね。ドラクエのドラゴラムみたいなもんです。竜に化けて大暴れ。地獄蟲との肉弾戦はグロさがアレなんで、怪獣決戦をやって欲しかった。ドラゴンに化ける呪いも元々かけられていますしね。


ドラゴンを敵じゃなく味方目線で、主役目線で書きたいという目的は達成できました。ザライエの蟲を蹴散らしたり、蟲どもにたかられたり、圧倒的な火力で焼き払ったりと、書いてて楽しかったです。ゴジラのイメージです。タフで最強。


あんまり強くし過ぎてしまったんで時間制限つきにしちゃいましたし、シャーロットとのエピソードを書きたいがために、どこか純粋なファイトじゃないんですが、ソルとシャーロット、そしてジュリィのコンビネーションはここだけなので満足です。タッグバトルは連携がおいしいとこですからね。


さて、ソルの物語はとりあえず一区切り。楽しかったのでまたつづきをその内に書こうと思いますが。


次は、学園モノ書いてます。魔術とSFとジュブナイルですな……それでは、また。


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