第五話 『血の館にて』
幕間劇 『黒き剣の魔女』
降霊術は『白の魔女』たちのあいだでは禁忌とされていた。むかし、純粋だった頃は私もその掟に従っていたな。『白の魔女』はケインシルフと戦うために結成された組織であり、竜に与えられた知識で人々を救済することもその使命。なぜなら?いい子ちゃんぶらないと、他の人間どもに殺されちゃうからよ。
今では私もタバコを吸う。『白の魔女』じゃなくなったから、麻薬に溺れる日だってある。男も好き。弱い男でも顔が気に入れば寝てる。もう破っていない戒律はないんじゃないかしらね?
……なんで生きているのか?
正直、もうよく分かっていない。こんなんじゃなかったはずだけどね。まあ、ザライエみたいなゲテモノに、悪霊なんて産まされたら……グレたっておかしくないでしょう?
地獄みたいな日々だった。実験材料そのものにされて、『ラケシス』を腹のなかで精製されつづけた。キャサリン/死霊の卵子だ、簡単に命が宿るわけがない。どんな『魔女』でも錬金術師でも、やれなかったことだから、いくらザライエだって簡単じゃないのよ。
長い年月が過ぎるうちに、私の体はすっかり壊れた。魔族の細胞に侵食され過ぎていたから。みじめなもんね。覚えているわよ?すごく苦しかったから。私は吐血していた、血の涙を流してもいた、絶望を叫んで自分の人生を呪っていた……そんな私の深いところから、腐った肉の塊であるアンタが出てきたわよね、ラケシス。
殺してやりたかった。楽しそうに笑うアンタのことを。
私、あのとき完全に壊れちゃったんだろうね。だから、ケインシルフの女になったのよ?『白の魔女』の最大の敵であるあの古いドラゴンのことを、今の私はケインシルフさまって呼ぶの。私のご主人さま。あれは『魔女』が好きだから、私のことを大切に扱ってくれるのよ。あのお方は敵でさえも愛する。むしろ、自分を殺せる可能性があればあるほど、その敵に惹かれてしまう変わり者なのよ。
いろんなことがどうでもよくなっていたの。故郷とか、ずっと昔に愛していた男の人とか。みーんな、ザライエが壊していたからね。なんにもない。ほんと、なんにもないの。
でもね。
許せないのが二人だけいるのよ。そいつらに殺意を抱いているときだけ、私の心臓は脈打ってくれるの。生きている気がするわ、憎しみに突き動かされているだけって理解していても、復讐のために使うすべての時間には命の実感があるの。
この命の猛りはね、あいつらを殺すためにだけ使おうと思ているわ。誰だか分かるわよね?そうよ、ラケシスとザライエ。世界の何もかもを犠牲にしたって、アンタらだけは絶対に殺してやるわ。
第五話 『血の館にて』
ザライエさまには相変わらず慈悲がない。ヒトの都を魔族の対決の場に選ぶとは!ああ、楽しい。あのお方はいつも楽しい戦場を私たちに提供してくれる。吸血の種族として、不死の魔将の眷属として……数千の骸が転がる血塗られた市街こそ、最高の戦場!!
死臭に満ちたこの土地で、己が牙で犯した傀儡の美女どもを貪る。ああ、最高の瞬間ですねえ、たまりませんよ。闇に紛れて我々は死人の兵団をつくりました。ヴィヴィアンの手勢であるドラゴンやリザードマンどもを、数で迎え撃つのです!!
すばらしい。
ザライエさま、あなたにこの戦場をささげ―――
フックってのは色々な打ち方があるとロッシに教わった。なるほどな、遠心力でぶん回して加速をつけておきながら、途中から肘を伸ばして拳をねじ込む。たしかに、いい威力だぜ。
『ぎゃふ!?……あ、ああ?牙が、わ、私の牙が、折れている……ッ!?な、なんだ、なんだ、お前は……っ!!』
吸血鬼らしき魔族がオレをにらみつけながら質問する。ロッシ曰く、戦場で一々敵の言葉に耳を貸すことはないそうだ。確かにそうだな。これから殺すヤツと仲良くなっても仕方がないわけだし。
『わ、私が、侯爵さまに使える名家の出と知ってのことか!?名乗らず、殴りつけるとは戦士の風上にもおけ―――』
今度は左のジャブを試してみる。吸血鬼の目玉をつぶすかんじでな。殴りながら、指を広げてヤツの目玉に傷をつける。グローブの指部分にはざらつく加工をしてあるから、死ぬほど痛いはずだ。
『目が、目があああ!?』
「がら空き過ぎるな」
オレはムダ口を叩いたフリをする。それは誘導のための声。吸血鬼がとっさに身構える。そうさ。それでいい。お前にはオレの初等魔術の実験台になってもらうつもりだ。呪文を唱える。
「……『炎の球体よ』」
左の手のひらに炎の球が発生する。大きさはイメージ通りのリンゴサイズ。いい感じにまとまってくれているな。
『は?ファイヤー・ボール!?貴様、舐めてるのか、この私を誰だと―――』
「シュート!!」
オレは魔力のコントロールが『おかしい』らしい。下手というか、制御できないというか。ファイヤー・ボールという魔術は本来ならば、敵への命中性能を上げるために、ゆらりとした軌道で飛ばすものらしいが……そのテクニックはオレにはない。むしろ、いらないとシャーロットは断言してくれた。
―――ソルさまのは、死ぬほど速くて、ど真ん中。それでいいんです!
オレの初等魔術が吸血鬼の上下の前歯をへし折りながら、ヤツの口の中にズガッとはまり込む。よし、狙った通りだ。吸血鬼はなかなか反射神経が良いとロッシに教わっていたので、外すかもしれないと考えていたが―――。
「さすがはオレ。優秀だわ」
謙遜するのもためらわれるほどの完璧ぶりだった。いいねえ、今日の初等魔術は調子がいい。ナイフと同様に狙った場所に届いてくれる……いや、精度はそれよりも上か?
『ごぎゃあああおおおおおおおッ!?』
吸血鬼はノドを焼く炎に耐えられないのか、右に左に転がり回る。残念だな。大したモンスターじゃない。痛がるフリをしながらオレの足でも狙ってくるかと期待していたのに。これじゃあ、そこらの山賊らと何も変わらないじゃないか?
―――不必要な魔力はつかわないに限ります。シャーロットからそう習った。魔力ってのはムダに使いすぎてしまうと、命を削るそうだ。それは血液みたいに有限に、ヒトの体のなかを巡っている。消費しすぎれば、心臓が止まることもあるそうだ。つまり、死ぬ。
しかも、ここは戦場。体力も魔力も一滴たりとも無駄遣いするべきじゃない。そりゃそうだ。でも、威力を知っておきたくもある。オレはヒトにコレを使ったことはないから、どれぐらいの威力なのか試してみたい。
獲物を殺すには、どれだけの力で足りるか把握したいんだよ。その経験は今後の戦いの指標になるだろうし、節約のプランを立てるにも有効だと思う。そうさ、これは遊びじゃない。戦略のために必要な犠牲さ。だから、お前の死に様を見ていてやるよ、吸血鬼。
「……爆ぜろ」
吸血鬼の口を焼き尽くす火球にそう念と魔力を送った。オレのコントロールから解き放たれた火球が、数十倍の大きさに広がりながらヤツの骨格を破壊し尽くしていた。クソ、想像よりも酷いことになってしまった。
「……うわ。えぐい……頭一つ無くなっているじゃないか」
ダニのようにしぶといんだ、ヤツらはな!だから、頭だ!頭を潰すつもりでぶっ壊してやれ!!……どうやら吸血鬼に個人的な恨みがあるらしいロッシからは、吸血鬼対策としてそう聞かされていた。だが、これはいくらなんでもやり過ぎたかもしれない。もっと弱い魔力でもいいのか?
なるほど卵と一緒だ。外からの圧力には強いが、内側からは弱い。そもそも頭蓋骨まで破壊する必要はねえんだよな。兄貴に読まされた解剖学の知識を引きずり出す。口と鼻の奥の骨だ……イメージとしては『口の天井』の骨を砕けば、それは最大の急所である脳を破壊できる。『口の天井』の骨は、脳を入れている骨の器の『底』だから。
ヒトの場合はそういう構造をしている。だから、ヒトに外見がよく似ているコイツらも、おそらく同じようなもんだろう。
「最小限の威力で十分そうだな……うん。コイツらの牙はムダに魔力を放ってやがるから狙いをつけやすい……これなら、オレひとりでも落とせるな、この拠点ぐらい」
単独でヤツらの巣窟を攻め落とす。
それがオレの役目だ。吸血鬼はその外見からヒトの群れに紛れ込めるそうで、それが戦場では大きな問題になる。こちらの味方に化けて、背後からいきなり襲ってきたりするわけだから。兵士からすれば怖い存在だ。
しかも、コイツらに噛まれて血を吸われれば、ずいぶん厄介な『呪い』をかけられるんだとよ?生きた屍のようになり、ヒトの生き血を求めて暴れるようになるらしい。つまり、仲間同士で殺し合いをさせられるようなるってことだ。ゾッとするね。ヒトに紛れ、ヒトを狂わす怪物なんてさ。
コイツらは大人数で戦いを挑むには不向きな敵だな。仲間がいつの間にか敵にされる危険性があるわけだ。それはどんな強い敵と戦うよりも厄介だろう。だから、『呪い』が利かず、単独でも戦える強さを持つオレが選ばれたのさ―――吸血鬼どもを駆逐してこい。それが『ジュリィ総大将さま』から与えられた指令なんだよ。
しかしまあ、ヒドい命令じゃある。ひとりでヤツらの巣を襲えとさ?……常識のあるシャーロットとロッシは反対してくれたんだぜ。せめて、自分たちだけでもいっしょに来てくれると志願してくれたんだ。だが、オレはふたりの申し出を断って、ジュリィの考えに乗ることを選んでいた。
だってよ、吸血鬼ってのは血を吸うんだろう?……まったく、オレは独占欲ってのが強いらしい。シャーロットの首筋にバケモノが食いつく光景だと?
……それを想像するだけで腹が立って来やがるぜ。シャーロットのあのやわらかい肌に触れる男はオレだけでありたいからな。血吸いのバケモノの巣になぞ、間違っても連れて行きたくはなかったのさ。
ロッシに対しては一つの懸念がある。ロッシは頼りになるベテランの魔狩りなのだろうが、イヤな予感があった。吸血鬼との戦いで、彼は冷静に立ち回れるのか?
正直、吸血鬼のことを話しているときのロッシは、明らかに平常心を欠いていた。基本的に知性を感じることの多い彼にしては、えらく感情が濃くなって、その言葉づかいは激しさを増すんだよ。殺せ、殺せ、という衝動を感じる。それは憎悪ゆえのことだろう。
……きっと、いつか聞くべき物語があるんだろうな。彼と吸血鬼のあいだに起きた悲劇を。だが、まだそのときじゃない。未熟なオレにロッシがその遺恨を話さなかったのは、おそらくオレの冷静さや集中力を削がないためだ。
憎しみがあれば、心は重くそれに囚われる。冷静さを欠けば、戦いにおいて致命的な弱点にもなるだろう。オレがロッシに抱く懸念と同じようなものを、彼はオレに抱いてもいるのだ。だから、話さなかったに違いない。それでいいと思う。
「……いつかそのハナシを聞くときのために……遠慮なく吸血鬼どもを駆逐してやるとするか」
無慈悲でいい。オレは吸血鬼には何の感情もない。だからこそ、容赦なく殺せる。ただただ冷静に、機械のように、死を量産してやれるはずだ―――鋼を心に描く。鋭く尖った鋼のナイフ。何者にも屈せず、冷たく……殺すのみ。
『貴様あああ!!何をしている!!』
『人間風情が、我らの前線基地に何のようだ!?』
吸血鬼どもが現れる。さっきの魔術の音を聞かれたようだな。あるいは魔力の動きを悟られたか?……スラム街にある四階建ての大きな建物。それの門番をしていた連中だ。服はオレよりいいもん着てるな。まったく、魔族って連中はどうして貴族趣味なんだ?さて、『話術』を試そう。相手の知的レベルをはかるには有用だとロッシは言った。
「前線基地だと?情報じゃ、あそこは娼館ってハナシだが?……エロくて下品なバケモンだぜ。それでも魔族かよ?まあ、蚊の仲間ごときじゃ、せいぜい娼館を支配する程度が器の限界ってもんかね」
『貴様あああああああああああああッッ!!』
『侮蔑は許さんぞ、人間がああああああああッ!!』
吸血鬼どもが変身する。身の丈二メートルぐらいの大型で、さっきまでは人間じみていた顔が、すっかりと獣のような形態に化ける。醜い。豚とコウモリを混ぜて、牙を長くした感じだな。ああ、これじゃ女にもてるわけがないな。
『死ねえええええええええええええええええッ!!』
吸血鬼がオレ目掛けて突進してくる。いい動きだ。並みの人間じゃここまで速く動けんぞ。ちょっとした感動を覚える。ヤツはオレに向かって振り上げた拳を落としてくる。いいスピードだ。ただ、軌道が甘い。ロッシなら脇を閉めて打ってくる。そのムダな動作を挟んでいると、オレにいくらでも対応されるってもんさ。
手斧を試していた。それを腰から抜き、ヤツが打ち下ろそうとしていた腕を肘の辺りで切り裂いてやる。血潮が噴き上がり、吸血鬼はただでさえ醜い顔を引きつらせていた。たくさんヒトを殺してきたバケモンのくせに?テメーは死ぬのが怖いってか?
「怖くはないだろう?……もう、終わったぜ」
吸血鬼はタフだ。とにかく首を切り落とせ!!……ロッシの教えだ。いや、吸血鬼じゃなくても死ぬだろうけどよ?まあ、手を抜くなってことだな。オレは返す刀でヤツの首を斬り捨てたいたのさ。ほとんど即死だろう。だが、念には念を押しておくか。
地面に転がる吸血鬼の頭をブーツの底で踏みつぶしながら、さらに呆気に取られている片割れの吸血鬼目掛けて手斧を投げつけていた。オレの視界に収まりながら、いつまでもじっとしているとか、舐めてんじゃねえよ。
『あ……あ……ッ』
「頭を縦に真っ二つでも吸血鬼は殺せると。ふむ。そこそこ常識的な怪物らしいな」
そいつは地面に倒れると赤い火花を散らしながら灰になっていく。そう言えば、他の死体も灰になっていくぞ。なんか、みじめな死に方をする動物だぜ。オレは灰まみれになった手斧を地面から回収する。
「……一匹、二匹じゃ、ハナシにならんな。貧血で苦しむ軟弱な蚊もどきなんて、オレさまの相手じゃねえのかもしれん」
オレは空をにらむ。東の方角……ドラゴンとゾンビの群れが進軍している市庁舎の方では大砲の音が響いている。あっちの戦いに参加しておくべきだったか?オレは耳に手のひらを当てる。シャーロットのくれたピアスが彼女の声で語る。
『ソルさま。そちらはご無事ですか?』
「順調だ。手当たり次第ぶっ殺しながら、ヤツらの巣に直進している。さすがに気づかれずにコッソリという作戦を破綻したがな。そっちこそ無事か?」
『はい。お姉さま、大活躍ですよ!私も、それなりに!』
「だろうな。二人とも強いから。じゃあ、オレもこっちを片付けたら、そっちに合流するよ。気をつけてな」
『ソルさまこそ。お気をつけて―――』
『隙あ―――りッ!?』
ほとんど音も立てずに接近してきていた吸血鬼が、オレの首もと目掛けて背後から噛みついてきていた。余裕ぶって言葉を使うのは悪いくせだな。強いと思い込んでいるってのは、危ないことだと彼に教えてもらえた。
オレは彼に噛みつかれる瞬間に、脱力しながら体を入れ替えていた。みじめに噛みつきを空振りしてしまった吸血鬼を、オレは狩猟者の目で見物していた。人間体のときのほうが気配を消すのは上手いらしい。
『なんで、こちらの動きを……』
「オレは鼻が利いてね。お前らはムダに血の臭いがするんだよ。あと……心臓が動いているからかな?吸血鬼ってのは、イキのいい心臓してるよな」
『う、うそだ……そんな音が聞けるわけがな―――』
フックを試す。ヤツの牙が折れる。牙を折られることは痛いのか、プライドが傷つくのか?まあ、興味はない。オレは吸血鬼の頭を抱えると、そのままヤツの体をくの字に屈めてやりながら、膝を叩き込んでいた。下あごが砕ける。それと顎関節も同時に損傷した感触を手で感じ取る。人間体のときは、肉体の耐久度もヒトと同じぐらいか。
崩れ落ちるその吸血鬼の首を、オレはクロードの兄貴直伝の頸椎壊しのひねりで壊す。やはり、ほとんどヒトと同じ構造をしているらしい。
ヒトの頸椎には『軸椎』と呼ばれる折りやすい骨がある。それに負担をかけるように、上に持ち上げながら、横に振り、遠心力を使って壊しながら首の骨のつなぎを外して殺せばいい。吸血鬼の殺し方も同じ要領でよかった。多少の骨格の違いはあるのかもしれないが、そこらは筋力で補正すればいいんだ。
『―――ソルさま!ソルさま!だいじょぶですか!』
「ああ。なんでもないさ。虫けら一匹潰しただけ。でも、油断は禁物だな、お互いに。また後で連絡する」
『はい!ご武運を!』
そうして愛しいシャーロット・ヴァレンタインの声が聞こえなくなる。オレと一瞬の連絡が途絶えて、彼女の姉は喜んでいたんだろうな。今きっと、舌打ちしているぜ。オレは灰に成り果てていくみじめな死体に、たむけの言葉を贈る。ジュリィに舌打ちさせられて嬉しいんだよ。
「あのな、魔力も感じるのさ。お前らはヒトよりも強い魔力をしている。だからこそ、いきなり消せば、空白が生まれるんだ。『それ』を読めばな、お前らがどこにいるかバレバレさ―――もっと、何時間も前から忍んでおくべきだったな」
疑問についての答えを教えてやる。せめてもの手向けだ。彼はオレに教訓を与えてくれているのだ。より優れた潜入術を成すためには、魔力のコントロールも重要なのである。コイツもまたオレの師匠だ。オレの強さとして、取り込まれたのだから。
オレは音も無くその場にしゃがみ込む。足音がする。吸血鬼の群れが近づいて来ているな、こりゃ。数は……五匹。たぶん人間体が三匹と、怪物体に化けてるヤツが二匹。魔力の高まりを感じるし、荒い呼吸の音も聞こえるな。怒っている。焦りというより、怒りだ。まだ、オレを怖がってくれていないのか……追いかけることに必死?……なら、出し抜けるかもしれんな。
さて、このまま死体のマネをしてみよう。氷をイメージする。呼吸を止める。魔力を自然のそれと完全に同調させる。まったく動かない。動かなくていい。死んだふりだ。呼吸も止めて、どこまでも落ち着き払うことで心臓の動きも減らしていくのさ。死体に化けたんだ。今この街のどこにでも転がっている戦士たちの死体にね。
『どこだ!!』
『くそ、逃げやがったのか!!』
『走れ、まだ離されてはいないはずだ!!』
吸血鬼どもの足音がオレの隣を走り抜けていく。男の死体には興味が少ないってのは本当だな。女の死体なら、見境無く血をすするんだっけ?……変態だな。まあ、それはロッシの妄想かもしれない。嫌い過ぎて、過剰な悪口を言うってことはよくあることだろ。
やり過ごせた。だが……オレは役目を忘れていない。吸血鬼を殲滅するのが役目だ。あいつらに戦場をうろつかせない。シャーロットの血も、ジュリィの血も、ロッシも他の戦士たちの血も吸わせてはならない。殺さなくちゃな。
影のイメージだ。オレは死体から蘇り、大地に音も無く立つ。そしてヤツらを追跡して走った。ヤツらと足音を合わせる。それでいい。ヤツらは周囲を探し回っている。背後への警戒は少ないし、あちこちを探しているせいで歩数の割りにスピードがない。後ろから襲うには理想的な条件がそろっていた。
オレは怪物体の片割れに近づきながら、宙に跳び上がり、ダンクを叩き込む要領でそいつの頭頂部に手斧を叩き込んでいた。頭蓋骨が断裂し、そいつは即死する。オレはそのまま、隣を併走していた怪物体に意識を集中する。ほとんど音も無く殺したが、そいつが崩れる音までは、どうしたって聞こえてしまう。
怪物体がこちらを見る。驚きか?心拍が上昇し、そいつの肩がすくみあがる。ダメだろ、それは間違いさ。オレの投げた斧を見つめるべきじゃない。避けられなくなるぞ?……怪物体に二匹目が投げつけられた斧の刃に、側頭部ごと脳を粉砕されて即死する。
『いたか!!』
『どこに隠れた!!』
『出てきやがれ、クソ人間が!!』
ククク。わざわざ大きな声を出してくれるとは。死体が倒れる音が叫びに消された。ありがたい。オレはまだ背後を取ったままだ。吸血鬼どもは怪物体を信じすぎている。その強さに依存し、背後への警戒心がおろそかになりすぎだ。
「―――こっちだ!!」
声という罠を使う。オレの叫びに反応し、ヤツらがわざわざ立ち止まって後ろを振り向く。人間と同じ姿をしているだけあって、その動きに意外性はまったくない。読みの通りの動きだった。クロードの兄貴に習ったとおり、左右の手から投げ放ったナイフは飛翔し、それぞれが吸血鬼の頭部に命中する。
シャーロットの祝福が込められた、ロッシ伝授の銀製ナイフさ。吸血鬼にかするだけでも大きなダメージを与えられるそれにより、また二つの灰の山が生まれていた。
『な、なんで!?』
「構えろ。なんのために、剣を持っている?」
『くッ!?』
吸血鬼が騙される。ヤツはサーベルを構えなおし、オレに備えるが。オレが放ったのはファイヤー・ボール。炎は剣では切り裂けない。あいかわらず、コントロールがいいったらねえぜ。自画自賛も許されよう。
吸血鬼の口のあいだにオレの火球が再び命中していた。二本の大牙がその瞬間に叩き折られて、次の瞬間には火球は爆裂し、そいつの頭部を破壊する。原形とどめなくなるほどじゃない。威力は減らしてある。脳を支える骨さえ壊せば即死させることも可能だ。ムダに音も立てることはないからな。
こうして戦いは終わる。オレは自信を深めていた。ずいぶん野蛮なものかもしれないが、『魔術師』としての立ち回り方をオレなりにモノにできが気がするのさ。魔術の効果的な使い方に、魔力を消したり強めたりして、環境に合わせることでの隠れ方も学べたから。
「……さぁて。そろそろ、ヤツらの基地を落としてやるかね」
「ドラゴンだああああ!!ドラゴンが来たぞおおおおおッ!!」
見張りの兵士がそう叫ぶ。ゲイル・ボーグ市庁舎に立て籠もった住民は多い。ここを引けば後がない。今までのトカゲやゾンビたちとは桁が違う。本物のバケモノ。それが民家を粉砕しながら市庁舎前の広場に現れます。
「お姉さま!!」
「ああ。なかなかタフな獲物が来たな!!ロッシ、あれを仕留めるぞ!!」
「なかなか大物ですぜ、気をつけてくださいよ!!」
「フン!ソルに出来て、私に出来ぬことはない!!いくぞ、皆のモノ!!怯まず、突撃だあああああッッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
戦場での統率力というものでしょうか?お姉さまの叫びに呼応して、兵士や傭兵たちが一斉に咆吼をあげる。ドラゴンもそれに対応するように叫びますが、鬼神に率いられた軍勢は怯まない。お姉さまが叫び返します。
「うるせえ、この大トカゲがああああああああああああああッッ!!」
熱意は軍勢に波及して、彼らは死をも恐れぬ狂戦士に変わる。先頭を走るジュリィお姉さまとロッシさんは、いつかのソルさまと同じように戦いながら笑っています。ドラゴンが炎のブレスを吐くために首を持ち上げる。
「シャーロット!!頼んだぞ!!」
「はい!!みんなは、私が守りますッ!!」
ドラゴンが炎のブレスを兵士たちに吐きつける。私は光の壁を召喚し、その強烈な炎を防いでみせる!!重たい!!さすがに、ドラゴンの力は絶大です!!でも、負けません!!
「私は、シャーロット・ヴァレンタイン!!『ガレインの勇者』と、『白の魔女』の血を引いているんだああああああああッッ!!」
炎が、尽きる!!私の勝ちだ!!
「今だ、ぶっ殺すぞおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
お姉さまとロッシさんが全力で加速して、その勢いのままドラゴンの首元に長槍を突き立てる。二人はその攻撃を行うと、側面に避けた。背後にいる投げ槍隊に道を開けたのだ。十数本の槍が滑空し、ドラゴンの体に次々と命中する。
「射撃部隊!!左に回り込んで撃ちまくれ!!」
ロッシさんの言葉に従い、ボウガンを構えた傭兵たちがドラゴンの側面にすばやく回り込み、矢を次から次に打ち込んでいく。ドラゴンが悲鳴をあげる。さすがに、これだけのダメージを与えられたら……でも、怪物はやはり怪物。最後の大暴れだ!!
「ん!!まずい!!引け!!みんな、引け!!」
ドラゴンがムチャクチャに突撃してくる。兵士の一部を巻き込んで、ドラゴンが市庁舎の城壁に頭から突っ込んだ。ドラゴンは頭を強打したけれど、それでも生きている。その巨体をぶるぶると振って、突き刺さった矢と槍を抜きにかかった。
「隊列を組み直すんだ!!ドラゴンのブレスにだけは気をつけろ!!シャーロットさまの盾を頼るんだ!!ムダに死傷者を出すな!!焦らなくても勝てる!!」
ロッシさんが指揮を執ります。さすがに有名な傭兵団の副長。なかなかの冷静沈着ぶり。ですが、戦場を支配するのは時に情熱の場合もあります。
「―――妹にばかり、負担をかけさせる姉が、どこの世界にいるかあああああッッ!!」
「ちょ、ジュリィさま!?」
「うおおおおお!!ソルに出来て、私に出来ぬことなど、ないと言ったのだ!!」
とっておきです。お姉さまは背負っていたあの魔槍を使う気です。ドラゴンに走りながらそれを構え、魔力を込めていきます。魔槍に紫色の電流が宿ります。お姉さまが伝説の勇者のごとき力強さをもって、魔槍をドラゴンの首元に投げつけていました。
ズガシャアアアアアアアア!!
轟音と共に槍がドラゴンののど元を突き破っていました。ドラゴンの太い首をえぐり抜き、魔槍はいずこかへと飛び去っていく。ドラゴンの首が爆発したように血の奔流を放ちます。空から血の雨が降りそそぐ……。
「……すげえ、いい意味で女にしておくのがもったいねえぞ」
「騎士団長にすべきお方だ……」
「ガチで人間っぽくねえわ……うわあ、ドラゴンの足下で笑っているぜ」
悪口と賞賛の混じった声を私は聞きます。ああ、お姉さまに聞こえていなくて、本当に良かったと思います。戦場で興奮しているお姉さまは、容赦なく処刑欲を発揮するにちがいありませんもの。
「ハハハハハハッ!!これで、私もドラゴン・ハンター!!竜狩りは、ソルだけではないのだあああああッッ!!」
『ぐるるるるう……ッ』
ドラゴンがうめきながら体を持ち上げる。のど元の機構が破壊されてしまっているはず、もうアレはブレスも吐けない。それどころか失った血が多すぎて、ろくに歩くことも出来ないはずです。お姉さまは、腰の剣を抜いた。
「さあて……殺してやるぞ―――ッ!!」
それは。
一瞬の出来事でした。
『彼女』はまるで赤い疾風。戦場を駆け抜けてきた赤髪の剣士は、死にかけた竜に向かって飛翔し、空を駆け抜けながら斬撃を放つ。まるで、お父さまの剣舞のようでした。わずかにですが……それはお姉さまの剣を上回る威力を発揮するのです。
ドラゴンの首が、落とされました。
戦場に現れた女剣士の一刀のもとに。
兵士たちが歓声をあげた。赤い髪の剣士は、微笑みを浮かべながら喝采を浴びます。お姉さまが面白くないのは当然でした。
「……貴様ぁ。いい度胸だ。私の見せ場と手柄を横取りするとはな……ッ」
「ああ。すまない。だが、あの程度の竜など、この戦場にはいくらでもおるわ」
「セリス!!おお、お前、セリスか!!」
ロッシさんがその赤い髪の女剣士に向かって走り、彼女のことをハグします。
「お前、西の戦線で戦死したと聞いていたんだぞ!!よく、生きていた!!」
「……おお、叔父上か。この通り、片目は失ったけど、生きてるよ」
「そうか……そうかあ」
ロッシさんが人目もはばからずに泣いていました。どうやら、彼女はロッシさんの血縁者のようです。それに、生き別れになってようですね……お姉さまも、その再会を前にしては文句も言えなくなります。ああいうところは、かわいいんですよ。
「……ところで、叔父上。シェパード団長から言づてがある」
「ん?なんだ?そうか、お前が団長が寄越した手練れか」
「カプリコーンの本隊は北東から入った。竜もずいぶん狩っている。南からはヴァレンタイン伯爵の部隊が到着だ。勇者の強さも健在らしい。雑魚はこれで抑えられるぞ」
「なるほど。いいスピードだな。ソルに吸血鬼を抑えさせた甲斐があった」
「ん?ソル?誰だい、それは?」
「吸血鬼に攪乱されるのは戦場では辛いからな……ソルって男に吸血鬼どもを巣窟ごと潰す作戦を与えたのさ」
「おいおい、ムチャだな、そいつ死ぬぞ?」
「―――案ずるな。うちの野蛮人は、蚊もどきに殺されんわ」
魔槍を回収してきたお姉さまは、ソルさまを褒めてくれます。少し、うれしい。でも、なんか怖いです。ソルさまのこと、好きとかじゃないですよね?姉妹でソルさまを取り合うとか、最悪……どっちもソルさまの子を孕むとか、なんか……あれ?それはそれでスゴく幸せなことなのかも……?
「シャーロット!!ロッシ!!そして、赤毛!!」
「セシルだよ。セシル・レーヴァ。『獅子姫』なんて呼ばれてる」
「わかった!赤毛!お前も来い!!」
「んー。どこにだい?」
「『ガルファン霊廟』!!あそこに魔族どもの首魁は集まっているはずだ!!今なら、そこへ全軍で突撃できる!!」
「へえ。よく、そこが魔族の決闘の地だって分かったね?」
「うちのシャーロットの星読みの前では、造作もないわ!!行くぞ!!野郎ども!!すべての魔族を討ち滅ぼし、人類に栄光を取り戻すのだ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!ジュリィさま!!万歳いい!!」
お姉さまに率いられて、兵団は進軍します。
私もそれについて行きます。たしかに、モンスターの気配はまばら。戦線が広がりすぎて、劣勢に陥ったモンスターたちは、ヒトとの争いに関わっている場合ではない。主力を霊廟周辺に集めてお互いの首領をすみやかに仕留めるたに、激しく軍勢をぶつけ合わせている。
敵の包囲は解けた。こちらも攻め込むチャンスなのです。
セリスさんといういい戦力も味方していますし……あれ?セリスさんが私をじっと見ています。なんだか、懐かしい感じがしますね。お姉さまに似ているからでしょうか?いや、今はそんなこと気にしている場合じゃない。決戦です!!
「―――ソルさま。こちらは進軍しますね」
『……了解だ。オレも、こっちをすませたら、すぐに向かう』
「はい!お気をつけて!!」
『―――フフフ。ヒトの心は脆いものだ。だが、君はなかなかに勇敢だね?私に負けているという状況を、仲間に伝えなかった。助けを呼ぶのを拒んだのか?君を助けに来れば、その者は私に殺されてしまうからね。すばらしい自己犠牲だよ、人間くん』
……ヤツは壁に叩きつけられているオレに近づいてくる。なんて嬉しそうに笑っているのか?……吸血鬼ってヤツは、ドがつくサディストに違いねえ。ヤツのブーツの底がオレの顔面に叩きつけられる。ムカつくし、痛いな……。
……痛いさ。
……でもよう。
すまねえ。『お前ら』は……もっと痛かったんだよな―――。
『魔族には、私のように爵位を授かった高貴な存在がいる。単純な力よりも、気品や所有する組織力のほうが、その爵位の上下を決めるのだが……当然、どの爵位のカテゴリーに属していようとも、人類のレベルをはるかに超越した存在であることは間違いないのだよ』
「……ふーん。で、お前は男爵ぐらいかい?いちばん、下の?」
『私は、侯爵だよ、下等な人間くん』
ぐいぐいと頭に靴底を押しつけられる。なんつーか、魔族の貴族ってのは人間と大差ねえな。弱さを見せるとつけあがる。そして、残酷で邪悪。
『いいかね?吸血鬼とは夜の闇を統べる存在なのだ。うつくしく気品にあふれ、ヒトを補食し、生態系の頂点に君臨している。太陽にこそ愛されていないが、私たちは永遠の栄華と退廃の具現者なのだよ』
「そうかい。でも、ザライエってヤツの下っ端なんだろう?お前の部下の吸血鬼だっけ?どいつもこいつも、雑魚だらけだったぞ」
オレは鼻で笑う。ヤツのプライドを傷つけてやるために。『吸血侯爵』……『ザイクリード』は、オレの悪口に対して暴力で応えた。靴の先でみぞおちを蹴られた。痛むし吐き気がこみあげてくるが、この口から吐くのは侮蔑の言葉さ。
「くくく!怒ってやんの……痛いとこ、ついちゃったのかねえ?」
『ザライエさまは、我の上に君臨しているわけではない!!我と彼女では爵位は違えど、その実力は、まったくの同格なのだ!!』
「……饒舌になると、詭弁だ……って兄貴から習ったわ」
『貴様……っ。この私を、愚弄しているな!!』
ようやく気づいたか。吸血鬼としては、オレのような人間にからかわれることは屈辱らしい。だから、からかってみたんだよ。ヤツはムダにキレイな貴族服の襟元をなおしながら、落ち着くフリをした。咳払いがわざとらしい。
こいつは様式美?……そういうものに囚われて、己を大げさに飾り付けるタイプか……ザライエに対するコンプレックスは相当あるんじゃないかね?力で敵わなければ、他の行いで劣等感を満たすしかない。たとえば、大人物を気取ることでとか?
『……人間よ、わざと私を怒らせたな』
「まあね」
『なぜ、そのようなことをする?勝てぬと分かったから、せめて言葉で私を侮辱したいのかね?……残念だが、私はヒトごときに感情をあらわにしたりはしない』
「そうかな?えらく感情的な暴行だと思うぜ?さっきから無抵抗なオレに対してね」
『……君が無抵抗なのは、私への怯えからだよ。おそらく最初の一撃で、君は悟ってしまったのだね。『格の違い』というものを』
「……くくく。そんなところだろうな」
『私にさんざん殴られ、今、壁にもたれて君はうずくまっている。どんなことを考えているのだね、弱者とは?……死に瀕したとき、圧倒的な強者の前で、何を思う?後学のために、よければ教えてくれないか?』
吸血鬼は紳士然とした態度でオレにそう告げる。哲学に興味でもお持ちなのかね、この吸血鬼さんは?自分の考えに自信がないし、神経質……なるほど、根が暗そうだ。
『もう口がきけないのかな?』
「まだしゃべれるぞ……そうさな。さっきから、オレの頭にあるのは『すまねえ』……って気持ちだけなんだ」
『ふむ。誰への謝意だね?もしかして、先ほど君に念を送って来た恋人かい?君が彼女のそばに帰れないから、君は彼女に謝っているのか?ロマンチストだね』
「いや。シャーロットは関係ないな。これは……おそらく、オレの問題だ。なあ、お前、食事中だったよな?」
『ああ。君が来たとき、私は今宵三人目の娘の血を吸い尽くしていた』
「……あれ、まだガキだったろ」
『そうだね。若い娘。たしか11才といったかな?ヒトは残酷なことをする。あんな年若い娘でさえも、性奴隷として娼館などに縛るのだからね。あんな幼い子を犯して、何が得られるのかね?』
「知らねえよ……オレはよう、あの子に謝ってるんだわ」
吸血鬼はオレの言葉に興味を抱いたようだ。首をひねった。その顔は無表情そのものだが、紅い目には好奇心の炎が揺らいでいる。
『ふむ?これは不思議なことだ。よく分からない。君は、他人に謝っている?それも、私の餌にかね?……君とは関係ない子であろう?名前だって知るまい』
「うん。そうだな。たしかに名前も知らねえや。でもさ……オレが、もっと早くに来ていたら……あの子は死なずにすんでたんだ」
『……若いね。若い人間の男は、無意味に万能感を抱いてしまうという。教えてやろうじゃないか。いいかね、君にまったく責任はないのだよ』
「そうかな?」
『ああ。君がいくら早くにここへたどり着こうとも、彼女の運命も、君の運命も、何一つとして変わらなかったよ。彼女は私の餌として命を失い……君も、私に無様に敗北した。彼女の死は、変えられなかった。だから、君はあの少女に謝罪する必要はない』
「……オレのこれ、ムダな感情移入っていうやつかな?」
『そうさ。だから、泣かなくていい。あの子のためには必要ではない。むしろ自分自身のために涙を流すべきだ。なにせ今から、君は私に殺されるのだからね』
「あの子のためには涙はいらない、か……?なあ、侯爵とやら。魔族と違って、オレは人間なんだよ。人間ってのは、アンタみたいな解釈できねえのかもな」
『まあ、いつの時代においてもヒトとは愚かだからね。でも、その感情的な性格を、ときには愉快に思う。君のように錯乱して、意味も無い涙を流す……すばらしい道化だ』
「そうかもな……オレのせいじゃない……うん。そう思いたい。でも、どうしてもそうは思えないんだよ……なあ、侯爵よ、オレの気持ちが分からんと言ったな?」
『ああ。分かるわけがなかろう?私は高位魔族。君は、猿にも等しい下等種族だ。我々のあいだには、あまりに距離がありすぎる……力も地位も、すべてが違いすぎるのだ』
「お前はさ、あの子を哀れに思わなかったのかよ?」
『愚問だな。彼女はこの私の糧となった……現世は彼女にとって酷く辛いことばかりだろう。幼くして、こんな邪悪な場所に入れられ、未来など閉ざされている。だが、私の血とひとつになれば、彼女は永遠に強者でいられるじゃないか?それは、素晴らしいことさ』
「……そうかい」
『ほう。君は、まだ立ち上がるのかね。すばらしいな。怒りか?それが、君をそこまでさせるのかね?恐怖をこらえ、不可能な勝利を目論む?すばらしい道化だ』
パチパチパチ。ゆっくりと立ち上がったオレを、ザイクリードは拍手で迎える。オレはヤツのことを無視して、この淫靡なピンク色に飾りつけられた空間の奥を見つめた。
そこはヤツの食卓だった。全裸の少女が、テーブルの上に横たわっている。彼女には首輪がつけられていた。その首元からは大量の出血があり……彼女の心臓はちょっと前に止まっていた。
吸血鬼どもをぶっ殺しながら、オレはザイクリードの魔力を追ってここにたどり着いた。そのとき、ヤツは食事中だった。あの女の子の首に吸いつき、吸血鬼の本領に従って血を吸っていやがった。彼女の乾いた瞳が、オレを見たんだ。唇が動いた。たすけて。たしかに、そう動いた気がするんだよ……。
そのまま、命の灯火は消えちまった。
……あの子は楽しげな人生なんて送って来ちゃいなかっただろうに。こんなバカなところにいるんだからな、子供のくせに。でも、死にたいなんて思っちゃいなかったのさ。
オレは、助けられなかったんだ。あんな小さな子の命を……なんていう失態だろう?オレは、もっと早くこの場所にたどり着けたはずじゃないのか?吸血鬼どもで試すみたいに戦った。時間をムダにしなかったというのか?……ちがうだろう。たくさんムダにした。オレはやはり謝るべきなんだ。
「ごめんな。まっすぐにここへ向かえば良かった。振り返ることなく、必要のない小細工を使うこともなく。ただひたすらに殺して、走って、ここに来ていたら良かったのに……」
『君、私の話を聞いているかね?』
オレはザイクリードの隣をふらつく足取りで通過していく。オレはあの子に謝りにいかなくちゃならない。オレは彼女のそばにたどり着く。見開いたままになっている青い瞳を、オレの無力な手で閉じてやった。もう怖いモノを見なくていい……できれば幸せな夢を見てくれないか。
周囲を見回す。オレがヤツにブン殴られながら転がり回ったせいで、いろいろな調度品が壊れていた。ここは、何だろう?ホール?回廊?……吹き抜けのフロアに、吸血鬼たちは娼婦たちを鎖でつないで、生きた餌として飼育していたのか。
まだ、たくさんの女たちが生きていた。市長のヤツめ、彼女たちがいることなんて一言も教えてくれなかったぞ。市民は避難させていたんじゃないのか?怯えた女たちが、オレとザイクリードを見ている。ここにはヒトがたくさんいるぞ。
「なあ、侯爵さんよ。博識そうなアンタなら、分かるかい?この子たちが、ここにいた理由。オレはさ、知らなかったんだぜ。ヒトはみんな逃げていると聞いていた」
『彼女らはヒトとして扱われていないのだろうさ。下等な地位にある。おそらく市民の身分ではなかろう。ただ性欲により消費されるだけの、みじめな奴隷なのだ』
「……奴隷ね」
『おそらく、方々の土地から金で集められたのだろう。北方諸国では、貧しい村も多い。彼女らは、生け贄さ。貧しい村が生き残るために、売り払った娘たちだよ』
「……お前が、彼女たちをここに閉じ込めたのか?」
『いいや。彼女たちはこの屋敷から非難はしていなかったのだ。その鎖も首輪も、我々がつけたわけじゃない。最初からさ』
「……この街のヤツらに、つけられていたのかよ?」
『ああ。じつに、好都合だったよ。我々は女の生き血が好物だからね。わかりやすく言おう。彼女たちは、この街の男たちからすれば、市民どころかヒトですらない。ただの家畜なのさ。魔族との戦いに巻き込まれたとき、ヒトはヒトの非難を優先する。当然だね。そして、家畜は置き去りにもなるだろう。優先順位というものが、ずっと低いのだよ』
ヒトの世界を良く知る血吸いのバケモンは、オレに世の中ってものを教えてくれる。なるほど、オレは世界をもっとよく知るべきだ。知らなくては、しなくちゃならないことさえ分からん。したいことさえも、見えないままだろうから。
オレは鎖につながれた女たちを見回していく。どいつもこいつも疲れ果てた目をしている。その目、オレはよく知っているぞ。いつも、オレがヴァルガロフの川や池をのぞき込んだら、そいつに会えたんだからよ。
「……そうか。お前ら、みんな……オレみてえだな。こんなクソみたいな場所に閉じ込められてよ……誰にも助けてもらえない。いつだって置き去りだ。悪かったな。遅くなっちまって。すまなかった、オレはもっと早くにここに来るべきだったのに」
―――贖罪の時間はこれで十分か?
オレは、君の痛みを少しは知ることが出来たのか?
ごめんな。助けられなくて……でも。
「今、生きているヤツらは、全員、このオレさまが助けてやるぞ!!」
ザイクリードはオレの言葉を聞いて、目を見開く。コイツはなかなか演技がかった男だな。自己顕示欲が強いのかね?まあ、どうでもいいけど。
『……んー。ナンセンスだね。いったい、君は何を言い出した?もしや、その発言の意味は、私に勝つ?……そう言っているのかね?』
「ああ。そうだな。もういいや。知らなくちゃならねえことも理解したような気がする。そりゃ十分じゃ無いだろうけど、今日のところはこれで良しとしよう」
オレは背伸びする。背骨をリラックスさせてやる。首の骨を鳴らし、肩を右左と回していく。準備運動はお終いだ。
「侯爵。お前をこれから、じっくりと痛めつけて、殺してやるよ」
『ハハハハハ!!頭が、おかしくなったのかね!!君が、この私を!?殺してやると言ったのか、下等生物の分際でえええええッッ!!』
ザイクリードがかなりのスピードで襲いかかってくる。そうだな、初手もこんぐらいのものだった。悪くはない。なかなかのモンだ。でも、どうということはない。
躱した。首をひねりながら、その大振りをかいくぐる。懐に入りながら、短めのアッパーをザイクリードのみぞおちに叩き込んでいた。ヤツの肋骨が割れる感触を手にする。そして、ザイクリードが、ゴホリと吐血する。さっき飲んでたあの子の血かな?
「それ、いいな。もっと吐けよ」
『な、なにを……ッ!?』
「……テメーなんかに、あの子の血はもったいないよな。もっと吐かせてやるよ」
怒りのままに、オレはザイクリードの腹を殴る。吸血鬼の長身がくの字に曲がった。いいね、ヤツの上物の服は頑丈だ。そのおかげで襟を掴んだまま、ヤツを固定して殴り続けることが出来た。普通の服なら破れて床に倒れ込んでいるところだ。まったく、いい服を仕立ててくれた服屋さんに感謝しないとな?
つづけざまに七発叩き込んだ。肋骨が折れた上に、横隔膜や呼吸を司る神経節も強打しているんだ、ヤツは呼吸もままならなかっただろうよ。酸素を求めた口からは、ゲホゴホと血を吐きつづける。オレの顔に血がかかる。気にしない。気にならない。コイツを殴ることが楽しくてしかたない。
ザイクリードのヤツはくの字に体を曲げたまま、オレをにらみつけてくる。襟元を掴まれていることに腹を立てているのか、ふるえる手がこちらの手首を握ってきた。ああ、首が空いてるな。折れる。隙だらけだ。殺せるけど……殺したりはしない。
「なあ、あの子から吸った分は、全部吐いたのかよ?」
『き、きさまぁ―――ッ』
オレはロッシから習った背負い投げってのを決めて見せた。頑丈な服のおかげで、その体術はオレの予想のままあいつを投げ飛ばし、壁に思いっきり叩きつけることに成功する。背中を強打して、さらに呼吸が破綻したはずだ。
しかし、技術の精度があまい。本来なら腕の骨を折りながら投げるのが本質なはずだが―――まあ、いい。今のは力に頼ってしまった雑な技だったが、そちらの方が痛めつけるのには有効だろう。
洗練さはいらない。こいつは私刑だ。楽に殺してどうする?
『……なぜだ……ッ』
吸血鬼がよろつきながら立ち上がる。隙だらけだ。飛びついて首の骨を折れる。でも選ばない。楽には殺してやらない。慈悲はいらない。そうだ、足払いならいいや。よろつくヤツの足を蹴りで払った。ザイクリードが無様に床へ倒される。
『……き、君は……ここまで強いなら、なぜ、さっきまで……力を抜いていた』
「立てよ。立ったら、教えてやってもいいぜ、侯爵よ」
好奇心のためか、虫けらのように床を這う姿勢を彼のプライドが許さないのか、侯爵は膝に手を突きながら立ち上がる。いいね、いいよ、そういう努力をしてくれ。彼は鼻血を袖でぬぐいながら、オレのことを恨めしそうに見上げてくる。
『……立ってみせたぞ、人間』
「約束だから、教えてやる。アンタはオレに色々と教えてくれたしね?……オレはさ、アンタに殺された子の痛みを知りたくなったんだ」
『なぜだね?』
「知らないといけないと思ったから。オレなら助けてやれる命だったからだろうな。あの子の痛みを、苦しみを、知りたくなったんだよ」
『ヒトの下らぬ感情移入だな。他者の痛みを知ろうとしたところで……君には彼女を理解することなんて出来ないだろう』
「……かもな。でも、もうひとつ理由もあるんだ」
『どういったものだね……?』
「アンタを、いじめてやりたかったんだ」
『いじめる……?』
「絶望させたいでもいい。アンタが言ってたよな、『格の違い』を見せつけられたら、怯えるって?……オレさ、アンタを調子に乗せてやりたかったんだよ。いい気分にさせて、自分を強いと思い込ませてやりたかった……そこからさ、引きずり落としてやれば、アンタは苦しむだろう?」
『……人間が、こざかしいマネを……ッ』
「なあ、オレに怯えてくれているかい?」
侯爵のプライドが彼に怒りをもたらした。彼は首を横に振る。強がるのか、いいね。いいよ、もっと抗え。もっとオレに殴らせろ。もっとがんばれ。
『君になど、怯えるわけがない。君の力は強いが……しょせんは、ヒトの力。真の吸血鬼であるこの私に、敵うはずがなかろうがああああああああああッッ!!』
ザイクリードが化ける。怪物体にだ。整っていた髪型が崩れ、その顔面の美男子然としていた形状は歪み、獣のように醜く狂暴な相貌へと変わっていった。あの頑丈な生地で作られていた上着が、膨れあがったヤツの筋肉によって内側から破裂するように千切れていく。ヤツが大きな口を開けて叫ぶ。
『私が、人ごときに怯えるワケが―――ッッ』
大振りのフックがヤツの左頬に命中する。ヤツの牙が軋む感触を手にする。力の入れ方をいじれば折ることも出来たが、いいや。まだ折らなくてもいい。オレに殴り倒されて、怪物が無様な音を立てながら床に転がる。
「……卑怯だったかな。ごめんな、侯爵。でも、隙だらけだぞ」
『……ふ、ふざけるな……こんなことが、あってたまるかあああああ』
起き上がった彼の頭をやさしく掴む。左右から挟み込む。固定する。次の瞬間に、ヤツのアゴは打ち込まれたオレの膝によってバキリとヒビが入っていた。脳が上下に揺さぶられ、意識が一瞬ぐらいは飛んだだろう。彼はまた床に倒れ込む。だが、オレは待つ。殺さない。だから、起きろよ、さっさと。
吸血鬼は全身を痙攣させながら、それでも立ち上がる。オレを見上げる紅い瞳に強さを感じない。心も折れたか?挑発してやるために、オレは質問を投げかけた。
「―――怖いか?」
ヤツは即答してこない。いい傾向だ。うん、怖がってくれているのかもしれない。魔族も人間みたいなモンだしな。彼の言った通り、圧倒的な力の差を目の当たりにすれば、絶望してしまうらしい。
しばらくの沈黙のあとで、吸血鬼はしゃべった。
『……ありえんことだがね。たしかに、私は……君に恐怖しているようだ』
「そうか、それは良かった。オレはさ……こういうの初めてで、上手く出来てるか自信が持てなかったんだ」
『初めて……だと?』
「ああ。アンタを参考にして、良かったよ。オレさ、山賊とかトカゲに竜に樹霊とか吸血鬼ども?それに、オオカミやクマやら色々……たくさん殺してきたけど。オレはさ、どいつのことも憎くて殺したことはなかった」
そうだ。必要なことだから殺した。だから、痛めつけるとか、そういうことをしたことがない。怒りのままに、憎悪のままに、殺意を向ける。そういうのは、初めてだ。
「あんたは別なんだ。オレの目の前で、あの子を殺しやがったから」
『……ッッ』
醜い顔の怪物が、その表情を歪めたような気がした。怖いのか?そうだとするなら嬉しいよ。怖がってくれ。後悔してくれ。苦しんでくれ。
「あの子の目はよく知っている。死にたくないって叫んでるヤツの目だ。オレもそうだから、よく分かる。あの子は死にたくなんてなかったんだ。こんな、クソみてえな場所に閉じ込められて、ぶざまに首かせやら鎖でつながれようとも……生きたいと願っていた。オレに助けてと伝えて来た。助けられる力があったはずの、このオレにな―――」
それなのに。オレは、助けてやれなかった。
それなのに、お前は、オレの目の前であの子の心臓を止めやがったな。
「―――絶対にゆるさんぞ。お前は、痛めつけて殺してやる」
『ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!』
悪魔でも見たのかよ?侯爵は怯え切った声で叫んだ。彼は後ずさりする。そして、彼の足下にサーベルが触れる。吸血鬼たちの武器だ。彼らは刺す道具を愛する用だ。しょうもないアイデンティティの表現だな。
侯爵はそれを拾い上げる。ガタガタと震えながらだが、彼はサーベルを振り上げて、その巨体でこちらに突撃してくる。いいね。そういう抵抗を折ってやれば、アンタのプライドをもっと傷つけられるかな?
オレは腰裏のホルダーから手斧を取り出す。振り落とされていたサーベルをその剛刃で叩き折る。返す刀で、彼の顔面に斧の一撃を叩き込んでいた!
『ぎゃああああああああああああああああああああああッッ!!』
侯爵が自分の顔を、その大きなバケモノの手で覆い隠しながら、叫んでいた。ふらつく足取りで、この邪悪で隠微なホールを歩いて行く。オレから遠ざかる。だから、オレはゆっくりとだが歩いて追いかけていく。
『目が!!わ、私の、目がああああああああああああああああッッ!?』
「―――目玉ぐらいでガタガタ騒いでんじゃねえよッッ!!」
オレの怒りが叫びとなった。ホールが揺れる。吸血鬼がその動きをピタリと止める。鎖につながれた女たちまで、オレの怒りに怯えていた。
「それぐらいで済むと思うなよ、このクソ魔族が!!テメーは死ぬほど痛めつけて殺すと言っただろう!?お前はな、オレを怒らせやがったんだぞッッ!?お前は、もっと苦しめて、ぶっ殺してやる!!」
『い、いやだあああああああああああああああああッッ!!』
バケモノの背中に大きなコウモリの翼が生える。高位の吸血鬼は空を飛べる。たしかロッシが言っていたな。なるほど、聞いていて良かった。そのおかげで、空中に逃げた侯爵に追いつけていた。ヤツの足を取れた。オレは全身を躍動させる。身をひねり、重量と威力を生み出して、腕力にまかせてアイツを揺さぶってやった!!
『ぎゃひいいいいいいいッッ!?』
飛翔のための運動が破綻する。オレの力で破壊されたその動作は、ヤツとオレを床目掛けて、すさまじい勢いでたたき落としていた。4、5メートルぐらいの高さからの墜落だよ。痛いな。さすがに、オレも痛い。
でも、あの子はもっと痛かったんじゃないか?……熱い血が頭から垂れて来やがる。でも、あの子は流す血さえもない。凍りついたみたいに冷たい体で、死にたくなかったとオレに訴えつづけていたんだ。
怒りが、殺意が、オレを立ち上がらせる。床を這って逃げようとする吸血鬼を、オレの執念は冷酷に追跡させた。
『こんなの……こんなのムチャクチャだ!……こんな人間、私は、知らない……ひい!やめたまえ!!さわらないでくれ!!私の翼に、何をするつもりだね!?』
「これは厄介だからな。さすがに飛んで逃げられたらマズい。ちぎっておくよ」
『……ちぎる?……そんなこと、ヒトの力で、で、できるわけが―――』
「じゃあ、試してみようぜ」
オレはヤツの両翼を握りしめ、その背中を片足で押し込みながら、力任せに引っ張っていく。オレは笑っていた。あいつの悲鳴がたまらなく嬉しいから!!肉が裂ける音と、関節が破綻して骨と骨が外れる感触と、ふきあがるクソ魔族の血潮がな!!
『ぎゃあああああああああああああああああああああああッッ!!』
「ハハハハハハハハハッッ!!もっと、泣いて叫んで、苦しめよッ!!お前が殺したあの子の分まで、他のヤツらの分まで、全員分、まとめて苦しみやがれッッ!!」
『……うう……っ』
「ん?もう抵抗しないのか?あきらめたのか?オレに勝てないと理解したのか?絶望してくれているか?後悔しているか、あの子をオレの目の前で殺しやがったことを」
『……そ、そうだね……もう血が残っていない……吸血鬼である私が……失血死するなんて……ああ、ほんと無様だ。き、君は、怒らせないほうが良かったよ……逃げるべきだった。残念なことだ……四百年も生きた私が、こんな風に滅ぼされるなんてね……』
「そんなに生きたんだ。悔いなんてないだろ」
『……大いにあるさ……でも。私も邪悪さが売りの魔族でね。最後に、君へこんな置き土産を残していこうと思う』
「……なに?」
吸血鬼が血反吐といっしょに呪詛を吐いていた。それは、オレへの呪いじゃなかった。そうだったら、良かったのに。この空間にいる女奴隷たちが悲鳴をあげ始める。何十人もの娼婦たちが、苦悶の叫びをあげていた。
「な、なんだ!?おい……お前、何を、しやがった!?」
『君はぁ……自分が助けてやれるはずの女を助けられないと……泣くんだよね?』
吸血鬼が血まみれの顔を嬉しそうに歪めた。
『ならさぁ、今のこの状況は、どうなんだい?……私の呪いでね、彼女たちの首かせや鎖を締めさせたんだよ!!ああ、彼女らの骨は砕けるだろう、窒息するだろう!!しかもね、私が滅んでも、それは止まらないのさ!!ざまあないな!!君は、また、助けられた命を、目の前で、私によって奪われるッ!!』
「く、くそがあああああああああああああああッッ!!やめやがれ、このクソ魔族があああああああああああ!!止めろ、殺すんじゃねえ!!オレは、彼女たちに、助けてやると誓ったんだあああああああッッ!!」
『無力だね……そんな叫びじゃ、止まらないよ……ッ』
「くそ!!止まれ、止まれよ!!助けてやれ、もう殺すんじゃねえ!!」
オレはホールの床で呻いているひとりの女に駆け寄る。彼女は首を押さえている。首かせが絞まっていく。苦悶の表情で、ぜひぜひと荒い呼吸といっしょに、たすけて、という小さな叫びをオレの耳は聴いていた。
『ハハハハハハ!!最高だよ、私へのレクイエムとして……最高だ!!女たちの末期のうめきと、悪魔のように恐ろしい君の慟哭!!最高の音に―――』
―――うめき声が止まっていた。
死んでしまったのだろうか、オレの心がまっ黒になる。でも……そうじゃなかった。
『……なぜだ?……なにを、しているんだ……君は……』
ひとつの奇跡をオレは見る。あのテーブルの上で死んでいたはずの少女が、立ち上がっていた。その子は、天に向かって腕をかざし、なにごとかの呪文を口ずさんでいた。呪いが、止まっていた。
オレの腕のなかにいる女が、はあ、はあ、と呼吸をし始める。首かせが緩んでいるようだ。あの子が、魔術で呪いを止めてくれたのか―――オレは女をゆっくりと床に寝かせると、吸血侯爵ザイクリードの元へと向かう。
『……なんてことだ。あんな小娘に裏切られるとはね……君は、怖い男だよ』
「……もういい。消えろ」
オレはヤツの頭を踏みつけて、その首の骨をねじ折っていた。吸血鬼が即死し、またたく間に灰の山になっていく……。
もう怒りも憎しみもなかった。オレは、少女を見た。一糸まとわぬ白いからだと金色の髪と青い瞳。その子は、オレのそばにやって来てくれた。
『……やっつけたんだ。ザイクリードを……』
「ああ。おかげで助かった……ありがとうな……『ラケシス』」
それはラケシスだった。あの子の死体にもぐりこんで、それを動かし、術で女たちを助けてくれたのだ。
『あーあ。お母さまにバレるとマズいのに。ソルさまにまでバレちゃったな……ねえ、私のこと見破るなんて、またドラゴンの力を使ったの?』
「……いや。そんなのいらない。分かるよ、お前の気配はな。この街に入ってから、ずっと追いかけていたな」
『……えへへ。うれしいな―――あ』
オレは彼女のことを抱きしめていた。膝を突きながら、その小さな体を抱き寄せる。
「……ありがとう……ありがとう、ラケシス……おかげで……みんなを助けられた」
『……えへへ。別に女どもを助けてあげたかったわけじゃないのよ?私は、ソルさまを助けてあげたかっただけ』
「そうか……でも、みんなが助かったのは、ラケシスのおかげだ」
『あーあ……自前の体がないのが、本当に残念……ソルさまにも、私の温もりを伝えてあげたいな……ソルさまの涙、とっても熱いのね。涙って、冷たいんだと思ってた』
「……ああ。情けねえけどよ、オレは、意外と泣き虫らしいんだ」
『ううん。その涙は、とても素敵な涙……ヒトって、自分が大切にしているモノのために泣くのよね……好きだな、ソルさまの涙は温かいもの……あのね―――』
「ん。なんだ?」
『ソルさまにお話。今度、あんなピンチに巻き込まれても、次は……私が助けてあげられないかもしれない……だから、力の使い方を教えてあげるの』
「力の使い方?」
『そのドラゴンよ。ソルさまの兄貴さんが化けた竜の力……それが叫んでいた。ソルさまは慌てていて気づけなかったのね……』
「兄貴のドラゴンが?」
オレは右眼を押さえる。手のひらが熱い。どうやら、あの赤い紋章が起動しているようだ。
『その子はね、ソルさまを助けたがっている……言ってるよ?『オレの力を使え』って。茶色い目をしたドラゴンがさ』
「兄貴の、力……」
『必死に言ってるのに。いつか、ソルさまの枷を、その子は外したのね?』
「……ああ。そうだよ、たしかにクロードの兄貴は、外してくれた」
『魔銀の首かせ』。ドラゴンに成り果てたクロードの兄貴は、死ぬ直前にそれを外してくれた。オレをヴァルガロフから解き放ってくれたじゃないか!
『自由を求め、『解き放つ力』……それが、クロードという男が竜に化けてまで望んだ力だよ。だから、ソルさま。そのドラゴンの言葉を、唱えてあげて?」
「……『解放』―――」
その魔術をオレは使う。この娼館に縛られている全ての女たちに。彼女たちの拘束が解かれていく……これで、もうザイクリードの呪いは意味を成さない。オレは、ようやく約束を守れたようだ。
『うふふ……ソルさまの兄貴さんは、ソルさまを愛していたのね』
「え?」
『暗殺の道具としても仕込んだのでしょう。でも、それだけじゃなかった……そりゃそうよ。ずっと、ソルさまの側にいたのなら……愛してしまいますわ―――』
女の子の体が力なく崩れた。その顔は苦しそうだ。
「おい、どうしたんだ、ラケシス?……力を使いすぎたのか?」
『……死体にしか、宿れないのよ、私』
「どういうことだ……おい、まさか」
『……スゴい子よ。ちょっとのあいだ、死んでいたのに……私が……乗り移って、動いていたから……術を使うために、魔力を巡らせたから……心臓……動き始めてる』
「ラケシス、お前、この子を助けてくれたのかよ?」
『……想定外よ。でも、居心地がいい……ソルさまみたいよ、この子。温かくてね……死にたくないって、生きようって叫んでいるの……うらやましい。私も……こんな温かい体があったら……あいされたかな―――』
「おい、ラケシス。死ぬんじゃねえぞ?」
『死なないわ、悪霊だから……でも、ちょっと戻る……お母さまに、魔力……わけてもらわなくちゃ……』
「なんならオレの魔力を吸ってもいいぞ」
『……だーめ。さすがにソルさまだって、これ以上疲れたら……この戦場を生き残れないもの……じゃあ、またね……』
ラケシスの気配が消失する。オレは腕のなかで崩れ落ちる少女の体を支え、抱き上げた。生きている。たしかに、心臓が脈打っていた。ラケシスは……自分の命をこの子に分け与えたのか。
「……魔族は、そんなこと絶対にしないって、自分で言ったんだろうが」
オレは笑顔になっていた。ラケシスめ。今度あったら、もっと礼を言いたいな。でも、そうだ……まだ戦いは終わっていない。オレは腕のなかで安らかな寝息を立てている少女をその場にやさしく寝かせてやった。
「……なあ、アンタ。悪いけど、この子を頼めるかい?」
オレはホールにしゃがんでいた女に声をかけた。
「は、はい……ああ。嘘みたい……この子、生き返ったのね」
「そうさ。いい魔族が助けてくれたんだよ」
「いい魔族、ですか?」
「色々いるのさ、ヒトと同じでな」
「……あの。貴方は……もしかして、高名な騎士さまなのですか?」
世間知らずの娼婦は、よりにもよってオレのことを騎士と間違えた。オレはおかしくなって笑う。
「そんなわけないさ。そういうヤツだったらさ、きっと……こんな場所に来ないだろ」
「ああ。そ、そうですね……」
「でも……オレが騎士じゃないから、アンタらを助けられた気もする。騎士なんかじゃなくて、ほんとに良かったぜ!アハハ!」
気の抜けたオレは笑う。いつもの悪党じみた、ククク、という笑い方じゃなかった気がする。まあ、兄貴も止めろって、言っていたしな……。
「……あ」
「……ん?どうかしたのか?」
「い、いえ。その……笑顔が……とてもかわいいなって……」
「か、かわいい……?」
「ご、ごめんなさい。失礼でしたね、私ったら」
「いや。いいさ。貴重な経験だ。初めて言われた気がするぜ」
「そうなんですか?……あの。お名前を。私はユラック村のドロシー・ネイア」
「オレはソル。ソル・ヴァルガロフ……『竜喰いのソル』さ」
「まあ、ドラゴンを、食べたのですか?」
「ああ。そんなところだよ。それじゃあ、ちょっと魔族ども仕留めてくるわ……そのあとで、アンタら全員、ここから助けてやるよ」
「え?」
「せっかく、鎖を外してやったんだ。こんなクソみてえなところに、アンタら置いておくのはもったいなさ過ぎる。金がねえなら、ここのクソ市長からぶんどってきてやるよ」
「そんな……そんなことまで、望めません……」
「いいさ。もうどこの誰にも文句は言わせねえ!!ここにいるヤツら、全員……オレが助けてやるって決めたんだよ!!」
―――ソルさまは、本当にもう……あんなエッチな姿の女の人たちに、あれほど熱い視線で見つめられたりして……もう!!
「どうした、シャーロット。疲れたか?」
「い、いえ。大丈夫です」
私たちは数匹のドラゴンと、無数のゾンビやリザードマンを倒して、『ガルファン霊廟』の手前まで軍を進めています。霊廟のなかでは、ドラゴンとスケルトンの群れがバトルしていて、私たちは休息を兼ねて、その戦闘が収まるのを待っています。私は負傷者の手当をしながら……ソルさまの様子を盗み見していました。
「んー?暗い顔してるな、あの蛮族め、ついに死んだか」
お姉さまが嬉しそうに発言する。私はさすがに怒っちゃいます。
「ひどいです!ソルさまがんばったんです!あのザイクリードも、あっさり倒しちゃいましたし……それに……たくさんの女のヒトを救ったんです……」
「女を救ったか。フフフ。どこかで聞いたハナシだな」
「なにそれ?私のこと言っているんですか?」
「お前が懐いたように、その女どもも、アレに懐いているのかもしれんな……しかも手練れの娼婦か?今ごろ、ベッドの中で複数の女たちと……か」
「そ、そんなことないですから!!私、ソルさまと相思相愛なんですから!!恋人なんです、恋人同士でーす!!」
「フフ。アレは若い蛮族だ。性欲の自制が、いつまで利くかな?」
「ひどい!ソルさま、そんな節操なしじゃないですよ……きっと」
―――夢のなかで、ラケシスとエッチしようとしてた瞬間が頭に浮かんでしまいます。あれは、ラケシスの魔術に操られてでもありますし……夢だし、数に入れなくていいです。あれ、浮気じゃないもん。だって、そもそも私が告白する前のことだったし……。
「……『竜喰い』殿は、なかなか面白い男みたいね」
「あ。セリスさん」
あの赤毛の女剣士が私たちの近くに来ていました。彼女はあれだけの戦闘をこなした直後だというのに、もしゃもしゃとパンを食べています。スゴいな、傭兵ってみんなこうなのかしら。戦場にいながらでも、どこか余裕がある。
「赤毛。『竜喰い』のウワサは方々まで伝わっているのか?」
「んー。そうだねえ、ジュリィさま。私は一度だけ聞いたのよ。ファーレンでも魔族と、騎士が化けたドラゴン・ゾンビを倒したってえ?」
「……そうだな。アレはかなりの戦士じゃある―――だが、お前は遠方にいたのだろう?よくファーレンの事情まで知れたな」
「……フフ。耳ざといのさ、こっちも荒事の話題は、好物だからねえ。彼とも、いつか闘ってみたいもんだ。それじゃあ、ジュリィさま。私はちょっと失礼させてもらうよ」
「フン。抜け駆けする気か」
「ああ。私は単独潜入にも長けているのさ。霊廟に潜り込んで、魔族の首領どもを妨害しておくとしよう……その方が、アンタらの突撃もしやすいだろ?……ザライエにはさ、用があるんだよ。個人的な借りとか……あと多方面への義理とかも?」
「……分かった。行け。お前の犠牲を戦略的に役立ててやる。傭兵の死に場所としては、魔将と黒剣の決闘の地なんてのは、悪くないだろう。骨ぐらいは拾ってやるよ」
「へへへ。戦士だねえ、ジュリィさまは。いつか、闘ってみたくなるよ」
「フン。この手で斬る価値ぐらいは、お前にはあるかもな」
「褒められたよ。それじゃあ、お嬢さま方……叔父上をよろしくな」
「あ……セリスさん。行ってしまいました……止めないで良かったのでしょうか?ロッシさん、心配するんじゃ?」
「魔族との戦い方はヤツの方が慣れている。かんたんに犬死にはしないさ……なにせ、我々も、すぐに追いつくからな―――野郎どもおおおおおおおおお!!敵も数が少なくなった!!たたみかけるぞ!!準備をしやがれええええッッ!!」
「おおおおおおおおおおお!!ジュリィさま、万歳ッッ!!」
「魔族どもを八つ裂きにしてやる!!」
「―――戦場では、本当に頼りになります……」
……でも、お姉さまに言いそびれてしまった。私たちの怨敵、ラケシスが……瀕死の少女の命を救ったという事実を……それに、その代償に、あの子は、きっと―――。
「……ラケシス。そこまで、ソルさまを愛しているのね……でも、私も負けないから」
―――赤毛め、やはり『竜憑き』か。あの斬撃の深さも、それならうなずける。ならば、あれは死者か?……おかしな女剣士だ。まあ、ザライエへの敵意があるのなら今は利用してやろう……。
魔族どもにつぶし合いをさせてやるぞ。その上で、私の手勢、父上の部隊、カプリコーンども、そして……あの蛮族。全ての戦力をもって、魔族どもを殲滅してやるわ!!
バトル多めです。雑魚の吸血鬼とのバトルは工夫が少なすぎた気がしています。あえて首筋に噛ませておいて、でも筋力の強さで牙を締めあげて吸わせないとか、なんならそのまま折るとかもあったような気がします。でも、ちょっと気持ち悪くなりすぎるかと思いまして、やめときました。
ザイクリードも反省。ソルとの会話は好きなんですけど。もっと残酷描写やエロティックな感じも書けたはずですが、ムダにエロくなりすぎても……と、やらんかったです。もっと美青年吸血鬼にして、エロい美学のもとに女性を吸血するというSM的な世界も書けたはずですし、そっちのが面白かったかもしれません。マザコン気味の美少年吸血鬼ってパターンも考えちゃいたのですが、それだとソルに倒されると可愛そうですかね。
ソルが大きな怒りと殺意を抱く敵でないといけなかったので、ちょっとチープになり過ぎましたかね。でも、怒るソルは好きですね。初めての殺意を抱いた戦闘でした。ソルはどんどん感情的になって行きます。いろいろと経験を積んで、ヒトらしさを身につけて行く過程にあるという流れを書きたかった。前回は愛情で、今回は怒りと喜びですね。
小さな子供の死を目の当たりにすることは、ヴァルガロフ監獄ではなかったので、それを見て、異常なほど動揺してしまう。という描写も書きたかったのですが、自虐に寄りすぎました。殺された子供や囚われの娼婦たちに、自己投影しているというイメージを、もっと書けたかなとも。
しかし、吸血鬼って、あんばいが難しい。エロさと残酷さもあるんですけど、ガッツリ書くとムダにエロくなりそうだし、吸血された女性が洗脳されるパターンとかだと、ザライエへの怒りが表現しにくいかなとか、いろいろと試行錯誤して迷ってしまった。
吸血鬼らしい肉弾戦バトルも思いつかなかった。霧になるパターンも考えていたのですが、それだと逃げに徹されたら、逃がしてしまいますし。せいぜいコウモリの羽を生やして、それでも追いつかれるぐらいですかね。
いい感じの吸血鬼の敵って難しい。パワー系のイメージもないし、アンデッドらしくボロボロになっても動くイメージもない。変身能力とか、もっと書ければ良かった。昔に見たドラキュラ映画で、さらってきた子供に群れでたかって血を吸っている吸血鬼っていう影像が、グロさと残酷さとうつくしさを備えていて、なんか良かったな。
あれは吸血鬼のあさましさと、吸血鬼への怒りと、サド心を満たすシーンだとも思いました。小さな獲物に複数でたかるんで、主役からの主観では見えないんですよね、具体的にどんなことされているとか見えなくてもいい。十分に分かるから。
あれは規制を逃れつつも、観客に悲劇をよく伝えていた手法でしたね。最近だとカットされちゃってるかな?なくても吸血鬼ってキャラ立ってますし。今度、吸血鬼を書くときは、そういうのもイメージしながら書こうかしら。あれ、いい手です。
ラケシスのソルへの愛情は強いですね。ケインシルフの魔女の直系だから、他の魔女たちよりも力に惹かれてしまう傾向が強いんです。それに、ソルが『自分のことを気づいてくれるヒト』だから、惚れてもいますね。悪霊として生まれてしまい、幸薄い人生を歩んでいます。同年齢の娘の遺体に取り憑きたがるのも、じつは自分の肉体が欲しいからですね。性的趣向じゃありません。子供の自分にあった体が欲しいんです。ケインシルフの推測は外れています。
ラケシスは登場人物のなかでは、ヒトに最も憧れているキャラですし、誰よりも愛を求めています。ソルに愛されたいがため、自己犠牲を見せました。
ソルの涙は、温かい。のセリフの意味としては、死霊である自分の涙は冷たいという意味と、ソルのように誰かを想って流す涙と自分のために流していた涙の違いにも気づき始めているイメージをもたせたかった。隠し味要素を目指し、隠しすぎてしまった感もあります。
ソルに抱きしめられましたし、裏ヒロインとしての見せ場をがんばりましたね。シャーロットの影が薄い回でもあります。積極的な女の子キャラって、マジメ系や地味系女子を圧倒するパワーがあるので、ラケシスのほうがヒロイン力は高いですよね。地味系ヒロインって、最終的には主人公から愛されているから輝く感じが多いよーな……?
シャーロットはどこかアホというキャラでもありますし、ラケシスと精神年齢は同レベルなんで、正面からのケンカは作りやすそうですが。研究したいところです。いいヒロインって難しい……ラブコメとかたくさん見て研究せんといかんなぁ。
さて、次回クライマックスです。