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第六話「目覚める力」

「イロアス王国騎士団の副団長……まさか、英雄ハルベルトか!?」


 シャリークさんが男性……ハルベルトさんの名乗りを聞いて、驚いた顔をしていた。


「その通りだ、少年。いや、シャリークといったか」


「まさかあの英雄が、こんなところにいるなんて……!」


「……えっと、すいません。そんなに有名な方なのですか?」


「おいおいおい、マジかよ。知らねーのか!」


 そう言ってハルベルトさんについて、シャリークさんが簡単に説明してくれた。

 イロアス王国の繰り広げてきた魔物たちとの戦いにおいて、5本の指に入るほどの活躍をした英雄で、

 その鉄壁の防御と冷気を纏う斧技が、特に有名だということだ。


「しかし、あんたほどの奴がなんでここに……」


「その話は後だ。傷の回復を行っておこう」


 ハルベルトさんが回復の魔法をつかい僕とシャリークさんの傷を癒やしてくれた。

 ――これならやれる……!

 そう思った僕は、再び立ち上がる。ちらりと横を見ると、シャリークさんも立ち上がっていた。


「二人共、私に考えがある。協力してくれるか?」


 ハルベルトさんが、僕達にそっと耳打ちをしてくる。

 僕達が囮となって彼女を壁際に追い詰め、そこをハルベルトさんが仕留めるという作戦だ。

 確かに、今いる3人で一番決定打を与えられるのは彼だろう。

 僕とシャリークさんは、その作戦を了承し再び構えた。


「行くぜ、合わせろ!アゼル!」


「わかりました、シャリークさん!」


 僕はシャリークさんと共に左右から、マギサに攻撃を仕掛けた。

 うまく防がれて、直撃することはないが徐々に彼女を後退させていく。


「良い連携じゃない。だけど、それだけでは私は仕留められないわよ」


 ここからいくらでも反撃できるという余裕があるのだろう。

 彼女は、自分の優位を信じて疑わなかった。


「いいや、俺達が仕留める必要はないのさ!」


「僕達の役目は、お前の逃げ場を無くすことだからね!」


 壁際まで追い詰めたところで、僕達は左右に飛び退いた。

 そこにすれ違いざまに大きな影がマギサへと飛びかかる。


「しまっ――!」


「この一撃、避けられまい!」


 ハルベルトさんの斧が風切り音を響かせ、彼女の頭に振り下ろされる。

 ――これで終わりだ……!

 そう確信を持てる一撃だった。……だが


「なーんてね」


「がはっ!?」


「ハルベルトさん!」


 斧がマギサの頭を捉える寸前で、ハルベルトさんが床に倒れ伏す。

 マギサの持つ杖からは、炎の呪文が放たれた事を示す煙が上がっていた。


「あら? 燃え尽きることはなかったのね。流石英雄、いい鎧使ってるわ」


 彼女は、杖で倒れたハルベルトさんを小突いて転がしている。

 ハルベルトさんの鎧の腹部には大きな焼け跡が残り、彼自身は意識を失っているようだった。


「あの一瞬で、魔法で反撃してやがっただと!? ありえねえ!?」


「即席のチームの割には、中々の連携だったけど、六魔将の力を甘く見すぎね」


「ちっ、確かに六魔将なんて名乗ってるのは飾りじゃないってことか……」


 確かに、あれで決着が付くと思っていたのは甘かったのかもしれない……。

 この危機的な状況に、僕はそう痛感した。


「イロアスの英雄ハルベルトも、これじゃあ形無しね。そろそろお別れの時間かしら?」


 マギサの持つ杖の先が、倒れているハルベルトさんに向けられる。

 彼女の顔には、ハルベルトさんを嘲笑うかのような笑みが浮かんでいた。

 ――このままではハルベルトさんが危ない……。

 そう思った僕は、シャリークさんとうなずき合うと彼女に飛びかかった。


「やらせはしねえぞ、マギサ!」


「まだ僕達もいることを忘れるな!」


 僕の剣とシャリークさんの拳が、彼女に迫る……。

 ――捉えた……!

 そう思った瞬間だった。


「そう慌てないで……、あなた達の相手は後でゆっくりしてあげるから」


「な、なんだこりゃ!?」


 突如として、地面から出てきた木の蔓が僕達の体に巻き付いてきた。

 その衝撃で、僕は剣を地面に落としてしまう。


「くそっ、動けない……!」


「ジタバタしても無意味よ。人の力じゃ絶対に解けないんだから」


 確かに彼女の言うとおり、どれだけ力を入れて振りほどこうとしても、

 締め付ける力がとても強く人の力ではとても振りほどけそうにない。


「その場で英雄様のやられる瞬間を、ゆっくりと見ているといいわ」


「おのれ、魔女め……!」


 目を覚ましたハルベルトさんが、憎々しげにそう言うと、杖の殴打が彼を襲った。


「魔女って呼ばれるの、好きじゃないの。今度から、気をつけてね?」


 そう言った彼女は笑っていたが、目は笑っていないように見えた。


「わざわざ一人でこんなところまで来たのに、残念だったわね。

 おとなしく騎士団の方針に従って、こんな洞窟の些細な事件なんて放っておけば死なずにすんだのに」


「この国を守る者として、このような事件を放ってなどおけん!」


 彼女の軽口に、ハルベルトさんが威勢よく答えた。

 人々を守ることに、本当に懸命なのだとということがよくわかる言葉だった。


「あら、そうなの? 私はてっきり個人的な理由で来たんだと思ってたんだけど……。

 例えば、行方不明になった弟を探しにきた……とかね?」


 その言葉を聞いた途端、ハルベルトさんが驚愕した表情になった。

 それを見てマギサが笑いながら言葉を続ける。


「あら? 図星だった?」


「あいつは……、クロトはここに来たのか!? あいつをどこへやったんだ!?」


 クロトだって? その名前を僕達はこの部屋に来る前に見たはずだ。

 そう、あれは確か……。


「だったら、教えてあげるわ、彼がどうなったのかね」


 彼女が杖を振りかざすと、地面から鎧をつけたゾンビが現れる。

 ゾンビが身にまとう鎧に、僕は見覚えがあった。


「あれは、僕とシャリークさんが扉の前で見つけた遺体が身につけてた鎧……!?」


「ってことは、まさかあの鎧の持ち主ってのが……」


「そう、魔物の餌になってたあの鎧の持ち主が英雄様の弟よ」


「えげつねえことしやがる……」


「全て遅かったというのか……。クロト、すまん……!」


 真相を知ったハルベルトさんが、そう言いながら項垂れる。 

 そんな彼の様子を見て、マギサは楽しそうに笑いながら言葉を続けた。


「『死にたくない、死にたくない』って、ずっと泣きながら喚いていたわ。

 故郷に恋人がいるんだって。だから、こうやって会わせてあげたの」


 そう言って彼女が指を鳴らすと、一瞬眩しい光が走る。

 光が収まったことを確認して、目を開けるとそこには見知らぬ女性が立っていた。 


「姿を変えやがったか!」


「あの姿、どこかで見たような……」


 僕は扉の前で拾ったロケットのことを思い出す。

 あの中には、クロトさんと共にルアナという女性の絵が描かれていた。

 姿を変えたマギサは、その絵の女性にそっくりだった。


「貴様、ルアナの姿で何をした!」


「この姿で、クロトにとどめを刺してあげたの。事切れる直前の、絶望に満ちた表情は見物だったわ」


 この言葉を聞いて、ハルベルトさんの肩が震える……そして、嗚咽が聞こえた。


「趣味の悪いことしやがって……! てめえ、人間を何だと思ってやがる!」


「魔物を増やすための糧に過ぎないわ。別にいいでしょ? 多少殺したところで、ゴミのようにいるんだから」


 シャリークさんの叫びに、マギサがあっさりと答えそのまま言葉を続けた。


「何も彼が特別なわけじゃない、これまでだって何人も同じように消えてもらったわ。


 怒り、嘆き、悲しみ……そういった負の感情が強いほど、生み出せる魔物も増えるしね。だから……」

 

 マギサは杖をハルベルトさんに向けて構えた後、再び魔法で姿を変えた。

 その姿は男性のもので、絵に描かれていたクロトさんのものと同じだった。


「英雄様、あなたはこの姿で消してあげる。あなたの弟の姿でね」


「ぐっ……! 弟の仇も取れぬまま、俺はここで終わってしまうのか……」


 マギサの杖の先に、巨大な炎の塊ができる。

 それをハルベルトさんは、諦観の表情で見つめていた。


「いい顔ね、英雄様。これなら、いい餌になりそうだわ。あの世で弟さんによろしくね?」


 ――僕は、このまま見ているだけでいいのか?

 眼の前の光景を見て、そう思った。

 こんな非道な行為を止められないまま、目の前でまた犠牲者が出るのを見ているだけなんてできない。

 そんな自分を許す訳にはいかない、僕は思わず叫んでいた。


「ふざけるな、マギサ! 人の命は、お前らのおもちゃなんかじゃないんだぞ!」


 僕の叫びに、マギサがこちらに振り向き笑いながら言った。


「あら、立派なことを言ってくれるじゃない。でも、今の状況で動けないあなたに何ができるのかしら?」


 確かに彼女の言うとおりだった。

 木の蔓に体を絡め取られた今、僕は身動き一つできない状況である。

 だが、諦めたくない……そう思った時、首にぶら下げていた紋章が輝き光を放出した。


「この輝き、もしかしてこれは……!?」


 紋章の輝きを見て、マギサが驚いたような声を上げた。

 ……光が収まると、僕とシャリークさんに絡みついていた蔓は砕け散り僕達は体の自由を取り戻していた。


「これなら動ける……! いくぞ、マギサ!」


 僕は地面に落とした剣を拾い、彼女に飛びかかっていった。

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