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第四話「洞窟の地下へ」

「なるほど、行方不明になったイリアちゃんの父親を探してるってわけか」


「ええ、そうなんです」


 ゴブリン達を撃退した後、僕はこれまでの経緯をシャリークさんに話していた。


「わかった、俺も手伝うぜ。その父親探し」


「いいんですか?」


「ああ、関わっちまった以上はこんな半端な状態で投げ出せないしな。乗りかかった船ってやつさ」


「ありがとう!」


「おう、大船に乗ったつもりで期待してな」


 シャリークさんも加わり、僕達はイリアの父親探しを再開した。



「えぇと、話によると確か入口から出口までの間はほとんど調べてるんだよな」


 シャリークさんが頭をかきながら僕に尋ねてくる。


「はい、調べてないのは立入禁止になっている地下だけです」


「だったら話は早え、さっさとそこを調べようぜ」


「僕もそう思っていたところです。ただ、立入禁止というからにはここよりも危険が多いはずです。


 イリアを巻き込むのは気が引けますね」

 安全なはずのこの地上でも急にゴブリンに襲われたのだ。

 立入禁止にされているほどの場所ならば更に危ない目にあう可能性は高いだろう。


「一人にするよりはいいさ。何があっても俺達がちゃんと守ってやりゃあいい……そうだろ?」


 そう言って彼はこちらにニヤリと笑みを向けてきた……、

 相当自分の腕に自信があるのであろうことが伺える。


「そうですね。必ず守りきってみせましょう」


 下で何があるかわからないが、何故か彼が共にいるなら何が起きても大丈夫ではないかと思えた。


 立入り禁止の看板の腋を通り抜け、僕達は洞窟の地下へと向かった。

 階段のようになっている坂道を下る途中で、シャリークさんが尋ねてくる。


「そういやどんな見た目をしてるんだ?イリアちゃんの父親は」


 そういえばそのことをしっかりと彼に話してはいなかった……。

 僕はイリアから聞いた特徴を思い出しながら口に出した。


「銀色の鎧に、がっしりとした体付きで髪型は角刈り。武器は両手斧……でよかったよね? イリア?」


「そうだよ! 大きな斧でずばーっと魔物たちをやっつけちゃうんだよ!」


 斧を振る手振りを真似しながら、彼女は嬉しそうにそう言った。

 本当にお父さんが大好きなのだろう……そのことがとても良く伝わってきた。


「そっか、ずばーっとやっつけちゃうかー。そいつはすごいじゃねぇか」


 彼女の言葉を聞いてシャリークさんが笑顔で彼女にそう言った後、こちらに耳打ちしてきた。


「……言っちゃなんだが、どこにでもいそうな人だな」


 確かにその通りだ……語られてる特徴全てが、一般的な戦士そのものだ。

 全身ショッキングピンクの鎧を着ているなどの特徴があれば、まだわかりやすかっただろうが。


「まぁいいさ。立入禁止の場所に入り込んでる奴も少ねえだろうし、見つけりゃわかんだろ」


「そうですね、先に進みましょう」


 人通りの多かった地上と違い立入禁止となっている地下では、

 設置されている篝火が複数破損して機能を失っていた。


「どうやら明かりが必要なようですね。あたりが随分と真っ暗だ」


「そうみてえだな。まあ、人の通りがなくなるとこんなもんだろうけどよ」


 僕達は用意していた松明に火を灯すと、先に進み始めた。

 通路の所々に、白骨が転がっている。

 噂の事件に巻き込まれた冒険者のものだろうか。


「どうやら、行方不明になった連中はみんな地下に来てたようだな」


「そうみたいですね。……しかし、何故みんな地下に来ているんでしょう?


 本来ならば立ち寄るはずの無い場所なのに」

 僕の疑問にシャリークさんが笑いながら答える。


「案外、俺達みたいに人探しでもやってたのかもな」


 地下の道を進み、曲道の角を曲がろうとしたところで、シャリークさんが片手で制止してきた。


「おっと、ここでストップだ。あれを見てみろ」


 彼が指さした先を見てみると、ゾンビの集団がまだ新しいものと思われる、

 若い冒険者の遺体の屍肉を貪っている様子が見える。

 数はおよそ6匹といったところだろうか……、まだこちらに気づく様子はない。


「あれは……もしかして、噂の事件に巻き込まれた冒険者の一人……?」


「そうかもしれねえな。酷えことしやがるぜ……」


 そう言った彼の手は震えていた。

 恐れではなく、怒りによるものだろうと怒気を帯びた声色でわかった。


「アイツらを仕留めましょう。あのままではあの人が可愛そうです」



「同感だ、人様の体をあんなふうにするのは許せねえ」

 僕はイリアにこの場で待っているように伝え、シャリークさんとゾンビの群れにゆっくりと近づいていった。


 松明の火を消し、二手に分かれて一歩一歩慎重にゾンビの群れに近づいていった。

 幸い、まだゾンビたちは僕らに気付いていない。

 僕はゆっくりと剣を引き抜き、斬りかかれる位置にまで近づいた。


「今だ!」


 掛け声と共に僕は中央のゾンビに斬りかかる。

 驚いたゾンビがこちらに振り返るが、驚愕した表情のままそのゾンビの首は宙を待っていた。

 僕は続けざまに隣のゾンビを殴り倒すと、その顔面に剣を突き刺す。

 ちらりと残りのゾンビを見ると逃げようとしていたので、僕は魔法を使いゾンビを焼き殺した。

 反対側ではシャリークさんが素早い攻撃で残りのゾンビを叩きのめしていた。


 ゾンビ達と戦った後、僕達は遺体を調べていた。

 遺体は損壊が激しく、正直なところあまり長くは見ていたくない有様となっていた。

 ふと首元に書けられたロケットに目が行く。

 側面には所有者のものと思われるクロトという名が刻まれていた。

 蓋を開けて中を見てみると、その冒険者とその恋人らしき女性が描かれた絵が入っていた。

 絵の右下には『スガーリ村にて ルアナと』という文字がある。

 このスガーリ村がこの冒険者の故郷なのかもしれない。


「スガーリ村か、ちょうどこの洞窟を抜けてマーケとの中間くらいにある村だな」


 通り道になるなら、この絵の女性であるルアナさんに事の次第を伝えてあげるべきだろう。

 そう思った僕は、ロケットを外すと傷つけぬよう布に包んで荷物袋にいれた。


「イリア、もう安全だよ。出ておいで」


「う、うん……」


 物陰から出てきたイリアは、不安げな表情を浮かべている……。

 冒険者の遺体を見て、父親の事が心配になったのだろう。

 『大丈夫、きっとお父さんはまだ無事だよ』などと彼女に声をかけるが、

 正直なところ根拠のない気休めに過ぎない。

 それでも、何もないよりはきっと不安は和らぐはずだ。

 シャリークさんも同じ思いなのか、


「笑顔でいようぜイリアちゃん。暗い顔よりも笑顔の方が、きっと親父さんも喜ぶさ」


 と彼女を元気づけようとしていた。


 通路を進むと、巨大な扉が見える……どうやらここが終着点のようだ。

 扉を調べると特に鍵がかかったりもしておらず、簡単に開く状態になっている。

 僕達はそっと扉を開け、中の様子をうかがった。


 すると奥の方に人影のようなものが見えたので、僕とシャリークさんはすぐに駆け寄った。

「おい、大丈夫か? おっさん」


「体はまだ温かいし、呼吸はしています。少なくとも命に別状はないみたいですね」


 奥にいたのは、銀色の鎧を身に着けた角刈りの男性だった。

 近くには彼のものと思われる両手斧が転がっており、その斧にも特に以上は見られない。

 イリアから聞いた特徴と一致する箇所が多く、恐らく彼がイリアの父親なのだろうと確信した。


「良かった……間に合った」


 僕は心の底からほっとした。


「う、うーん。あれ? ここはどこだ?」


 発見から少しの間をおいて、男性が意識を取り戻した。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ。君達は一体……?」


 不思議そうな顔で、男性は僕達を見回す。


「俺達はあんたの娘さんに頼まれて、ここまであんたを探しに来たのさ」


「娘だって……?」


「ええ。イリアという女の子です」


「……すまない、私に娘はいないが」


 ――なんだって? どういうことなんだ……?

 男性の特徴はどう見ても、イリアから聞いた特徴と一致している。

 確かにどこにでもいそうな風貌ではあるのだが、

 行方不明になった時間的にも恐らく彼が父親で間違いないだろう。

 ――ショックで一時的な記憶喪失にでもなったのだろうか?

 などと思ったその時、男性の顔が突然恐怖に引きつった。


「そ、その子は……!?」


 男性は僕達の後ろにいるイリアを見て、恐る恐る尋ねてくる。


「は? 何言ってるんだよおっさん。あんたの娘のイリアちゃんだって」


 シャリークさんがそう言うと、男性は被せるようにこう言った。


「何を言っているんだ!? その女の子こそが、行方不明事件の首謀者だ!」


「なんだって!?」


 僕達は驚きのあまり、イリアの方へ振り返る。

 彼女は、何も言わずに無表情でこちらを見ていた。


「イリア、本当に君がこんなことを……?」


 僕の問が、間の抜けたものに見えたのか彼女はフッと笑うと、その後問いに答える。


「ふふっ、ぜ~んぶそこのおじさんの言っている通りよ。

 この事件を引き起こしていたのは()()()


「なっ……!?」


 彼女の答えは、男性の言葉を肯定するものだった……。

 彼女の声色もこれまでの少女のものではなく、大人の女性のものになっていた。


「……まんまと騙されちまってたみてーだな」


「そうですね……」


 僕とシャリークさんは彼女に対し構えを取り、臨戦態勢に入る。


「これまでたっぷりとお父さん探しに付き合ってくれてありがとう、お兄ちゃん達。

 お礼に、私の真の姿を見せてから殺してあげるわ……!」


 突如として彼女の体が光りに包まれ、僕達はあまりの輝きに目を閉じた。

 ……そして、目を開けるとそこにはそれまでと全く違う姿の大人の女性がいた。

 青白い肌、先の折れ曲がったとんがり帽子、そして手に持つ杖……。

 それはまるで、話で伝え聞く魔女そのものだった。

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