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第三話「洞窟での出会い」

 マーケの町に行くためビギンの町から出発して数日後……。

 僕はビギンとマーケのちょうど間にある洞窟に来ていた。

 人の行き来が多いこの洞窟では、壁に沿っていくつか篝火が置かれており、

 光がなくても出口への進行がスムーズにできるようになっている。

 また以前にイロアス王国の騎士団がこの付近の魔物の掃討を行ったため、

 魔物が出現することはかなり少なくなった。

 そのため、2時間ほど道なりに進めば出口にたどり着ける……はずだった。



「アゼルお兄ちゃん……お父さん、中々見つからないね……」


「うん、そうだね」


 僕は7,8歳くらいの小さな女の子と一緒に洞窟の中を歩いていた。

 喉が渇いているかもしれないと思い、

 水を差し出すが「平気だよ」と彼女は断った。

 彼女の名はイリア、どこにでもいそうな普通の女の子だ。

 何故僕が彼女と共にいるのか……、それは3時間ほど前に遡る。


「ごめんなさい、お話聞いてもらってもいいですか?」


 出口に向かう途中に声をかけられたたので振り向くと、

 そこには小さな女の子がいた。

 不安げな表情で僕の顔を見上げている。

 ちらりと周りを見渡したが彼女の親御さんらしき人はいなかった。

 ――こんな所に子供が1人でいるなんて妙だ、何かあったのかも。

 そう思った僕は足を止めて女の子に問いかける。


「どうしたんだい? 何かあったの?」


「お父さんがいなくなっちゃったの……」


「いなくなった?」


 詳しく女の子の話を聞くと、

 父親と一緒にこの洞窟を抜けてマーケに向かおうとしていたが、

 途中で父親が少し出口の様子を見てくると言い残し、

 そのまま帰ってこなくなったらしい。

 そこで道をゆく通行人に父親を一緒に探してほしいと頼んでいたが、

 断られ続けていた所に僕を見かけて声をかけたようだ。

 話を聞いてどうしようかと一瞬考えたものの、すぐに答えは決まった。


「わかった。一緒に付き合うよ君のお父さん探し」


 困っている人がいるなら助けたいし、何よりこんな子供を1人にするわけにはいかない。

 僕はそう思って手伝うことを決断した。


「本当!? ありがとうお兄ちゃん!」


 不安げにしていた顔が僕の言葉を聞いて、ぱあっと明るくなった。

 頼れる人もなく本当に不安だったのだろう。


「ああ、頑張るよ。……そういえば自己紹介がまだだったね。僕はアゼル。君は?」


「私、イリア。よろしくね、アゼルお兄ちゃん!」


 こうして僕はイリアと行動をともにすることになった。


 出口まではほぼ一本道のためすぐに見つかるだろうと思っていたのだが、

 見つからないまま時間だけが過ぎていってしまった。

 立入禁止とされている地下以外は見回ったし、

 他の冒険者にも尋ねてみたが有力な情報は得られなかった。

 残る可能性は地下かな……と考えたところで、

 以前にダルトさんから聞いた話を思い出す。

 最近この洞窟で行方不明になる冒険者が増えているという話を。

 ――もしかしてイリアの父親はその事件に巻き込まれたのでは……?

 そう思ったところにイリアが声をかけてきた。


「ねえ、何か音がするよ?」


 彼女にそう言われて、僕は周囲の音に耳を傾けた。

 確かに何かが地面を踏みしめる音がしていた……、

 それも1人ではなく集団で移動しているような音だった。

 僕は音のする方向に振り向くと、そこには信じられない物が見えた。


「あれは……ゴブリンか!? どうしてここ……!」


 普段は魔物が出現しないはずのこの洞窟に、ゴブリンの集団が現れたのだ。

 数は大体5,6匹程といったところだろうか。

 まとめて向かってくるわけではなく、

 2つのグループに分かれてこちらに段々と近づいてきていた。


「イリア、岩陰に隠れていて。決して出てきてはいけないよ」


「う、うん……」


 僕はイリアを背後の岩陰に潜ませると、剣を抜いた。

 ゴブリン自体はさほど強い相手ではないと聞いてるけど、

 この数が相手だと流石に勝ち目は薄い……。

 更に集団で徒党を組む魔物と戦うのは今回が初めてだ。

 だけど洞窟の出口までは遠く、

 逃げても恐らく途中で追いつかれてしまうだろう……。

 ならば一か八か戦うしかない……!


「さあこいゴブリン共! 僕がお前たちを倒してみせる!」


 最初のゴブリンのグループに、僕は突っ込んでいった。



「燃えろ!火炎!(フレイム)


 僕は中央にいた先頭の1匹に火炎の呪文を放つと、

 ゴブリンは黒焦げとなり倒れた。

 あたりにはゴブリンの肉の焦げ付いた匂いが漂っている。

 魔法使いというわけではないがそれなりに魔力の素養はあったため、

 ノエルが剣術の合間に教えてくれたのだ。

 強力な呪文は使えないが牽制としては役に立つ……僕は彼女の教えに感謝していた。


「まだまだいくぞ! でやあっ!」


 僕は左側のゴブリンを斬り倒し、

 右のゴブリンに振り向くともう1匹のゴブリンの腹に剣を突き刺した。

「これで後半分……!」

 1つ目のグループを殲滅したが、まだゴブリン自体が全滅したわけではない

 僕はもう片方のグループの方へ体を向けると、剣を構えて突撃した。

 仲間がやられるのを見ていたゴブリンは3匹同時に棍棒を振り下ろしてきたが、

 僕はそれを上に飛んで避け、そのまま真ん中にいたゴブリンを斬り倒した。

 そしてあっけにとられていた2匹のゴブリンを盾で殴らせてひるませると、

 そのまま剣で斬りかかって首を刎ね飛ばす。

 ――終わった……、イリアの元に早く戻らないと。

 そんなことを思っていたその時だった。


「きゃああああ!」


 イリアの悲鳴が後方から聞こえてきたのだ。

 見てみると3匹のゴブリンが、彼女の元に迫ろうとしていた。


「逃げるんだイリア!」


 そう叫んでみるが、彼女はゴブリンの出現に腰を抜かしてその場にへたりこんでいた。

 無理もない、彼女はまだ子供なのだ。


「くそっ、間に合ってくれ!」


 僕は全力で彼女の元に駆け出した。

 だが、先程の戦いで距離が離れていたため戻ることは容易ではない……。

 そして1匹のゴブリンの棍棒が、彼女の頭に振り下ろされようとしていた。


「やめろおおおおおお!」


 思わず叫んだその時だった。


「必殺、飛鳥脚(ひちょうきゃく)!」


 突然現れた謎の男がゴブリンに飛び蹴りを食らわせ、

 彼女に向かっていったゴブリンは悲鳴を上げて倒れた。


「か弱い子供に手を出そうなんざ、この俺の前でできると思うなよ? ゴブリンさんよ」


 そう言うと彼は残り2匹のゴブリンに近づき、即座に手に持つ棍棒を蹴り飛ばした。

 そして素早く打撃を叩き込むと、2匹のゴブリンを地面に沈めたのであった。

 その動きは疾風のように素早く、目で追うのがやっとだった。



「よう、大丈夫か?嬢ちゃん」


「う、うん。ありがとう……」


 男は笑顔でイリアの手を取ると、優しく立ち上がらせた。

 そして、こちらに気づくとゆっくりと近づいてきた。

 男の風貌はまだ若く、僕とあまり変わらないくらいだった。

 だが、浅黒い肌と引き締まった肉体……そして整った顔で底知れない雰囲気を出していた。


「よっ、あんたも随分と頑張ったな。無事か?」


「ええ、ありがとうございます。……その、失礼ですがあなたは一体?」


「おっと、まだ名前を名乗ってなかったな。俺の名前はシャリーク、旅の武道家だ。よろしくな」


 そう言って彼は手を差し出してきた。


「僕はアゼルといいます。よろしくおねがいします」


 そして僕も手を握り返した。


 ……彼との出会いが、僕の旅に大きな変化をもたらすことに僕はまだ気づいていなかった。

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