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複雑系彼女のゲーム  作者: のらふくろう
第四部『プレイヤー』

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9話:後編 プレイヤーとは?

 大悟と春香が向かい合って座るテーブル。その上にはゲームの攻略本が二冊、そしてノートが一冊広げられていた。


「前に見せた一人用のRPGは基本的にシナリオ通りの答えにたどり着く」


 大悟はまず攻略本の片方を春香の方に向けて言った。見開きの形でメインシナリオのフローチャートが書かれている。彼にとってバイブルである名作RPGのものだ。


「実際には途中で一部分岐してたり、複数のゴールが用意されていたりするのもあるんだけど、決められたゴールという意味では大きく変わらない。固定された世界だ」


 ちなみにこのゲームの一部分岐とは、幼馴染とお金持ちのお嬢様のどちらをパートナーとして選ぶかというものだが、今回の話とは関係ない。


 春香がほぼ一本道のフローチャートを見て小さくうなずくのを見て大悟は続ける。


「そして、マギポン見たいな対戦ゲームは、ゴールまでの展開はゲームごとに違う。ゲームを一つの世界として考えた時、この二つはだいぶ違うものになるよね」

「ええ。リンク間の緊密さのバランス、つまりネットワークの温度、ネットワークの複雑さという意味では、対戦型に軍配が上がると思うわ」

「だよね。僕は自分のゲームを作ろうとした時、そこに引っかかってたと思うんだ。でも、考えたんだ。それってそんなに悪いことなのかなって。決まってるストーリーでゴールだとしても、そこにたどり着くまでの体験はプレイヤーにとっては初めて。そして、ある意味唯一でもある。例えば同じ映画を見たとしても感想は人それぞれだろ。その理由はこれは二つの世界にまたがる問題だから。ゲームをプレイしている人間だって、一つの世界だろ」

「二つの宇宙の間…………。えっと、ゲームは固定されたネットワークだとしても、それをプレイするプレイヤーの中にあるネットワーク、脳は複雑だものね」

「そう二つの宇宙。でそう考えると、ストーリーを自分の手で進めることで体験するっていうのは、やっぱり一人用RPGってゲームの強みだと思うんだ。僕がこのゲームにひかれていた理由でもある。ストーリーが決まっているのはストーリーを味わうためなんだ。ならもう決まってるものと受け入れてしまう。ゲーム、一つの世界の中で出た答えでいいんじゃないかってこと。固定されてるかもしれないけど、答えが出ることには意味があるんだ。いや、逆かな。固定されてるからこそ答えを出すことができる」

「でも、答えが出たら宇宙は終わってしまうわ」

「うん。だから、新しい世界を作ればいい。いや、次の世界が作れるんだ。それが仮初の物だということが前提なら、その仮初を繰り返していけばいい。その連続には意味がある、そう思うんだ」

「生物の世代交代みたいなものね。その単位がゲーム一つ一つ……」

「これはさららさんから聞いた話なんだけど。アインシュタインだって、自分の作った方程式が出した重要な答えについて、何度も間違った判断をしたって……」


 天才が自分の方程式せかいの結論である、膨張宇宙やブラックホールを最初は拒絶したという話をする。


「……確かに科学のパラダイムシフトと似てるとこも。でも、そんな話してたんだ。私いなかったよね。いつのこと?」


 春香は少し身を乗り出して聞いてきた。大悟は「ええっといつだったかな」と言葉を濁した。最初のマイクロブラックホールの蒸発のプレゼンの後だ、春香が泣いて地下室を逃げ出した時の話とは言いづらい。


「と、とにかく、ここまではどうかな」



 春香はゆっくりと考える。


「あくまで一般的な意味でのゲーム、それを楽しむって観点かな。そう考えれば、おかしくないと思う。ただ、その決まったストーリーとゴールがあんまり人為的に見えたり論理的じゃないと、私は抵抗あるかもしれないけど。昔から恋愛小説とか映画とかよりも、科学書とかサイエンスドキュメンタリーの方が好きだったから」


 春香はそういってふふっと笑った。大悟は思わず本棚にある『世界を織りなすもの』を思い出した。


「……でも、今の話だと、これまで通りのゲームを、九ヶ谷君なりのストーリーで作ってみるってことだよね。私が言うのもなんだけど、それだけの結論を出すには、ちょっと今の説明は大げさすぎない?」


 春香はテレビのゲーム画面とフローチャートを見て言った。


「……ほんと、春日さんが言うのもなんだね。いや、今のはあくまで前提。ストーリー重視のゲームを作ってもいいんだってね。対戦型じゃなきゃ意味がないみたいな結論になりそうになったから」


 大悟は苦笑した。


「だから、ストーリーに意味があるって強調したのね。でも、ならどうするの?」

「だから考えたんだ。一人用RPGと対戦型ゲームはゲームという枠組みの中でネットワークの性質が大きく違う。なら、その中間に別の宇宙が存在する余地があるはずだ。つまり空白だね」


 大悟はノートを春香の方に向けた。


 そこには中央にかかれた一本のフローチャートで隔てられた二つのフローチャート。つまり、三本のフローチャートがあった。左右のフローチャートは中央のフローチャートとところどころ点線で結ばれている。


「だから、対戦型のストーリーRPGが作れないかって思ったんだ。これがそのフローチャート。世界の答え。最後のゴールは典型的でいい。例えば、世界を救うとかでね。ただし、相容れない二つのやり方があって、その二つのどちらで目的を達成するかを二人のプレイヤーが競う」

「私と九ヶ谷君が洋子に勝つみたいな感じね」

「そう。ただし、基本的なストーリーは固定されていて、でもどちらかは最後まで解らないバランス」

「回転するコインの裏表のように、答えは最後には出るけど、最後まで出ない?」

「そんな感じかな。ゴールまでの過程、つまりストーリーにのめり込めるようにしたいんだ。もう一つ、そうすることで提示されるのは答え(ゴール)というよりも、過程ストーリー。つまり、自由と秩序の間の関係そのものなんだ」

「関係そのもの?」

「そう、二人の違う方針のプレイヤーはストーリーに従って対立と協力を繰り返す。直接ではなく、メインのフローチャートを通じてね。そしてその過程そのものがストーリーを進める。ゴールはどちらのやり方で目的を達成するかだけど、テーマはその過程そのもの」

「つまり二つの宇宙の間の、関係のありようを、表現するってこと」


 春香ははっとしたような顔になる。


「もちろん、実際にはいろいろ難しいこともある。ストーリーを体感してもらうとなると長時間プレイになる。二人同時に拘束するのはネットワーク越しになっても、難しい。勝敗が最後まで解らないといっても、最初に圧倒的な差がついたら破綻する」


 大悟は困った顔になる。だが、すぐに春香を見る。


「それでも、チャレンジしてみたい。固定されたストーリーと揺れ動く対戦の間にある空白を埋めるようなゲームをね」

「それが九ヶ谷君のニッチ……空白なのね。二つの宇宙の間……」


 春香は大悟の答えをかみしめるようにそう言った。考える彼女を見て、自分が力説している物について考えてしまう。それは、自分が表現する宇宙だ。これまでみたいに、春香が関心を持っていることについてではなく、自分のことについて語っている。


「えっと、春日さんからずっと小難しい話を散々聞かされたんだから、多少は役に立てないと、教えてもらった甲斐がないっていうか。なんというか、ほらこういう見方をできるようになったのは、春日さんのおかげかな……」


 大悟は照れて春香に言った。だが、彼が見たのは自分と同じくらいの温度の春香の頬だった。


「ま、まあなんというか。えっと結局さ。一人じゃだめってことかな。だから、そのなんていうか、春日さんがいてくれてよかったって思う」

「うん。私も……そう思ってるから。というか、私ばっかりじゃ不公平だもの。だから、よかったって……」


 二人は顔を見合わせた。互いの瞳に互いが映る。あれ、なんか違う話になってるような。大悟は焦った。春香の視線も落ち着きがない。


「このフローチャート、なんだかこれまでの私たちみたいだね」

「多分春日さんが秩序サイドだ」


 大悟は照れ隠しにそう言った。だが、春香は真顔で大悟を見た。


「私、こっちのサイドにしか立てないかもしれないけど。恋愛小説よりも科学書が好きなままだと思うけど、それでいい?」


真顔になった春香の問いかけ。大悟はこれまでの彼女との出来事を振り返る。答えはすぐに出た。


「うん。だってそうじゃないと、ゲームがすぐ終わっちゃうからね」


 ゲームの話をしているのに、もっと違う何かについて話をしている気がする。それも、どんどん話が深い方向に……。


「大体ほら、このゲームが成立するためには、春日さんみたいに僕に負けても、負けてもあきらめない相手がいるし」


 大悟の言葉が彼女の顔を上げさせた。


「……まだ、勝負はついてないんだけど。今、最大の問題があるの忘れてないかな。九ヶ谷君のお父さんが作った問題」

「そ、そうだったね。せっかく新しいゲームを作りたいのに、その前に世界が終わっちゃったら……」

「そうよ。そっちは全然進んでないんだから。九ヶ谷君がゲームで解くっていった」

「そうでした。でも、確か僕が勝ったら……」


 大悟があの遊園地の観覧車を思い出した時だった。


 バンという意図を立てていきなりドアが開いた。ドアの向こうには小柄な同級生が立っていた。ちなみに口の端にチョコレートの欠片が付いている。


「二人とも外見て」


 まだ余熱のある大悟と春香が慌てて顔を離す。だが、飛び込んできた綾はそれをからかうでもなく、窓を指さしている。




「なんだ、これ」


 窓を開けた大悟は絶句した。南東、東京湾の方向だ。そこに、揺らめくベールのような光の帯が見えた。あまりに異様な光景。それはまるで……。


「オーロラ?」


 春香がつぶやいた。極地の自然現象だ。それが、日本の中心に出現している。


「さららさんがいうには今回の情報重心と同じ位置にある。ただし」


 綾は光の帯の見るものを不安にさせるような揺らぎを指さして付け加える。


「ORZL理論の計算からは出てこないって」


2019年6月2日:

やっとゲームの話が終わり、次からゲームの話が始まります。

といっても、完結まであと少しですが。


来週の投稿は日曜日です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 対戦型のストーリーRPG…最後のゴールは…世界を救うとかで。 エグゾドライブかな?この二人だとどんなスタイルになるやら。
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