『ロマンティック依存症』
気づくかどうかであって、物事には必ず予兆がある。後から見れば明確な原因から、予想が可能だったと思われる些細な出来事、数十年前に書かれた小説まで。時間の流れを無視すれば、将来、起こる大事件に、その前までの時間や出来事が引っ張り込まれる、そんな感覚。
現実の時間でも、少しずつ、少しずつ、危険性は高まるが、人は危険性に慣れてしまい、遂に事件が起きる時には、その流れから逃れられない。
ドラえもんが誕生して、タイムマシンは机の中にあるはずだが、待てど暮らせど、人もロボットも訪ねては来ない。
僕は時間を戻せるんだ。
業を煮やした私たちは、遂にタイムマシンの能力を自らの体内に宿した。
その能力により恋人を救う、幾多の悲しいストーリー。バタフライ効果はストーリーに抑揚を付ける為に欠かせないし、物事を変えればハレーションは避けられない。
実は、私にも似た様な能力がある。
これまで使っていないのは、機会に恵まれなかったからに過ぎない。機会さえあれば、こんなロマンティックな能力を、自分がどうなろうと使わない者はいないだろう。
絶世の美女でも、難しい病気の美少女でもなく、欲しかったのは機会だけだった。
だが、恵まれなかった。
米国は、キューバを警戒しアジアには手が回らない。だから、かの国に対応していないのだろうと、素人ながら考えていた。そして、米国はキューバと和解した。
かの国は実験という名のテロを繰り返す。
どちらの国の指導者も慎重と言うには凶暴過ぎた。
繰り返す金融危機、テロ、異常気象、将来への不安。世界はフラストレーションで充満していた。
フラストレーションという名の危険なエネルギー。
日々、日常のフラストレーションにさえ、私たちは耐えられず、破綻を何処かで望んでいる。正常な者は、その欲望を抑制するが、異常者は身を任せる。そのタイミングは分からず、普通は、ある時、突然に。
一週間の仕事が終わり、土曜日、私は、カフェでアイスコーヒーを飲んでいた。
若い女の子が多い店で気にいったのに、私が来るようになると、おじさんばかりが目立つ様になった。
やはり、機会には恵まれない様だ。
そんな事を考えているうちにも、Jアラートは鳴り響いている。
かの国は遂に核ミサイルの使用に踏み出した。米国との最終決戦を行う、世界を変える為には犠牲を厭わない、米国の傀儡国家日韓は許されないと。
自分にこんな能力がなければ、どうせ何も出来ないのだから、好きにしろと無関心でいられただろう。
だが、私には能力があった。
実は、人生で一回だけ、時間を止める事が出来る。
おっしゃる通り、一回だけなので試した事はない。だが、誰でも人生は一回だけで試した事はないが、生きられると知っている。例えて言うならそんな事で、止められる事には間違いはない。
素敵な機会は、巡って来なかったが仕方ない。日本に3度目の核攻撃は許されない。
私は、能力を使う事にした。
だが、時間の停止を解除する能力を持っている者はいるのだろうか。私にはない。そんな凄い能力を二つも持っているはずがない。
最後の瞬間に考えたのは、素敵な女性の事でも何でもなく、そんな事だった。
まったく、最後の最後まで、ロマンティックでかなわない。




