衝撃
純白に包まれた部屋の中、十数年縋り続けた姿を前にして、俺は言葉を絞り出すことすら出来なかった。まるで、部屋の空白に言葉が溶けて行ったように。
俺の絶句に気づいてか気付かずか有永がいつもの調子で、背を向けているサキに聞く。
「体調はいかがですか?何か変なところや気にかかることはありませんか?。」
その声に少し驚いたようにサキがこちらを向く。そして、俺と目が合った。
するとサキは信じられないという顔をして、すぐに目をそらした。
だが、俺はそれに気づかず、目が合った瞬間俺の身体に衝撃が走る。想像はしていた。いや、想像以上だった。
昔と変わらぬ艶やかな黒髪に、大きな瞳。汚れ一つない純白の肌。少し儚げに見える桃色の唇。
むかしを彷彿とさせながら、ずっと思い描いていた姿よりも美しい姿に、俺は本当に動けなくなってしまった。
俺の葛藤を他所に有永は一通りの検査を終えると俺に向き直って言った。
「行こう...幸原...幸原?」
俺は数秒の空白のあとようやく言葉を理解しあ、あぁ?と言うなんとも返事なのかもよくわからない言葉を返し、本気で友人を心配させながらも、流されるままに部屋を出てしまった。
病室を出て残りの数室を回り終えてから真剣そうな顔をして有永が俺に問うてきた。
「お前...本当に大丈夫か?働きすぎで疲れすぎているんじゃあないのか?」
やはり、病室での様子のおかしさも友人には筒抜けだったようで、あれこれ聞かれたが、まさか、朝から十年前に約束した幼馴染のことを考えていたら、病室にいたのでびっくりしちゃった!などと俺がのたまおうものなら、すぐさま病院に連れていかれるレベルだ。
まぁ、ここが病院なのだが。
なので、無難に
「あ、あぁ、確かに疲れているのかもしれないな。今夜は早く休むことにするよ。」
と言うと、若干疑いの色を見せながらも、友人はため息一つを返礼に納得してくれたようだった。
しかし、よく考えれば何故サキが病院に?いくら病室の端にいたとはいえ目が合って、俺に気づかなかったのか…等と考えは止まらず、大いに友人を心配させ、自宅のマンションに戻った。
自宅に戻ってからも考えは止まらなかった。もしかすると朝から考えすぎたせいで、見間違ったのかも!いや、確かに有原が名前を呼んでいた。
等と考えが堂々巡りし俺はいつの間にか眠りの底に落ちていった。
お待たせしました。次話からようやく胡蝶の夢本編開始でごさいます。医学を学ぶ少年と病人の幼なじみに起きる少し不思議な物語。
人の価値観ってなんなんでしょう。というお話です。