何でも屋人情歌 ~別に私が勝手にやっただけだから!~ 1
「だからそんな報酬じゃ受けられないよ!帰って!」
アイルの怒鳴り声が聞こえ、その後泣きじゃくりながら店から出てきたのは猫耳の小さな女の子だった。その手には小さなパンが一つ握られている。女の子は店から出てきたものの振り返り、店を見つめ続けている。そんな彼女に近づいてきたのは長年冒険者をしている狼の獣人の男だ。
「嬢ちゃん、アイルさんに依頼を断られたのかい?」
「うん・・・ぐす・・・パン1個じゃ受けられないって・・・」
そういってまた涙でぐずついてしまっている少女の横で、冒険者の男は彼女に聞こえるように呟いた。
「アイルさんは貧乏なところの子の依頼はまず受けないからなぁ」
「え?」
アイルが何でも屋をやっているのは有名だし、彼女は普段とても愛想が良い。だから貧乏だと依頼を受けてもらえないという男の言葉に少女は驚いた。
「まぁなんだ、ここにいると邪魔になるからちょっとこっちに来な」
男が少女を店の前から移動させる、そして少女の手を引いて店の入り口付近からでは見えない位置に少女を連れて行った。
普通であれば冒険者の男に付いていくなど危険すぎるのだが、少女は自分が貧乏なこともあり危機感が薄かった。
「ふぅ・・・行ったね。アイリ姉!私ちょっと出かけてくるから!」
そうして男と少女が店の入り口から離れてしばらくすると、アイルが出てきてそのまま走っていってしまった。
「アイルお姉ちゃんどこいったの?」
「それは嬢ちゃんのほうが知ってるんじゃないのかい」
「え?」
アイルが走って向かう場所。そんな場所に少女は心当たりなどない。
「嬢ちゃんはアイルさんに何を依頼したかったんだい?」
「北のリザードバレーに住むトカゲの涙・・・お父さんの病気を治すのにそれが必要だって・・・」
「じゃあアイルさんはリザードバレーに行ったのさ。彼女は貧乏な人からは依頼を受けない。報酬よりも気持ちがあればそれでいいんだとさ」
俺たち冒険者にはありえない話だけどな!そういって狼の冒険者は行ってしまった。
残された少女は祈る。
「ありがとうアイルお姉ちゃん・・・無事に帰ってきてね・・・」




