アイラの戦い
戦闘描写難すぃ・・・
アイラの剣は片手剣として作られているものだ。しかしアイラは十全に振るうため両手で使ってきた。しかし転換した後は膂力が上がっており両手で扱うには軽すぎるため本来の使用法である片手で扱う訓練をしてきた。
右手で剣を構えているが、左手には何も持っていない。小盾を持つことも考えたが元に戻ったとき変な癖が付く可能性を考えやめたのだ。では左手をどう活用していくか。
仮面の女は無手ではあるが放つ雰囲気からしてただものではない。気を抜いていればこちらがやられてしまうと考え、躊躇せずに突きを繰り出すアイラ。縦方向に突き出したその剣を仮面の女は最小限横にずれただけで避けた。そしてアイラの伸びた腕を狙い、右手で肘を逆方向へとたたきつけようとしてくる。当たれば折れてしまいかねないその一撃をアイラは衝撃を逃すように殴られた方向へ回ることで軽減する。その勢いを利用して回し蹴りを放った。仮面の女は回し蹴りを左腕で防いだ。しかし腕の力と足の力では脚力のほうが強い。耐え切ることは出来ずに壁にたたきつけられた。
「っく・・・やりますね」
「鍛えているからな。そう易々と負けはしない」
アイラのことを褒める仮面の女。しかし壁にたたきつけられたはずなのに彼女は一切ダメージのなかったかのように立ち上がった。普通であれば痛みで動けなくなるか多少は動きに精彩を欠くものだが彼女の動きに乱れは一切ない。
「では今度はこちらから・・・っし!」
仮面の女はそういってアイラの目の前まで勢いをつけてやってきた。剣の間合いよりも内に入られているため反撃がし辛い。片手剣とはいえその重さは1キロはある。当然振り回すために力が必要であるし、力を入れればその分速度は落ちてしまう。相手が同じように武器を使っているのであれば気にならない程度の遅れではあるが、相手が素手である現状ではやはりその遅れは致命的になりえる。
そう判断した後のアイラの行動は早かった。持っていた剣を投げ捨てたのだ。即座に肉弾戦に切り替え戦うアイラ。
仮面の女の動きはわかりづらいものが多い。最初は動きづらいだけだろうと思っていたメイド服も戦ってみると足の動きなどを気取らせない効果があることがわかった。それでも空気抵抗の大きいフリルなどがあるのでよほど熟練していなければデメリットのほうが大きい代物ではあるのだが。
アイラと仮面の女はお互い無手で戦っているがその戦い方にはかなり差異があった。
アイラの戦い方は相手の関節を捕まえ極める戦い方だ。これは騎士団で犯罪者と応対した際、相手を殺さずに捕らえるためのものだ。王都内での犯罪者は基本的に身柄の確保、拘留所で取調べを受けた後に沙汰が決まる。
それに対し仮面の女の戦い方は首を折りにきたり、その一撃一撃が必殺のものだ。彼女は今までも裏で暗躍を続けてきた。それこそ関連性を疑われないために容疑者を秘密裏に消すなども日常茶飯事だった。だから彼女の戦い方は相手を殺すためのもの。今だってメイド服の裾の中にはナイフが仕込んであり、間合いが離れて油断しようものなら首に向かって投げるつもりだ。腕で防ごうとも当たれば即効性の麻痺毒も塗ってある。
相手を捕らえるための戦いと相手を殺すための戦い。当然不殺の戦いのほうが難しい。実力差は拮抗していたが徐々にアイラのほうが押されていた。
そこへ新たな人物が現れる。
「ユシィ?」
「メイ様!今はお戻りください!」
仮面の女がやってきた階段から別の仮面。笑顔の仮面をつけた少女。少女が現れたときから仮面の女は動きに精彩を欠いた。仮面の女、ユシィにとって最優先すべきは主であるメイのことである。今戦っているアイラがいかに騎士団に所属しているとはいえ今の現状ではメイに手を出す可能性は皆無ではない。だからこそメイが近づいてきてしまえば、ユシィはメイに気を配らざるをえず拮抗した現状をアイラに打開させることになってしまった。
「そこだ!」
「くっ!」
ユシィの腕をとり背の後ろ側で捻り上げるアイラ、この状態まで持っていけば無理に動かそうとすれば痛みが走りまず動くことが出来ない。しかしユシィはそんなことはお構いなしとばかりに肩の関節を外しメイの元へ走っていた。
右肩の関節が外れたままメイの下まで走るユシィ。メイはユシィの腕がだらりと下がっているのを見て怯えた様子を見せるがユシィが大丈夫ですと声をかける。
「そんな顔をされないでください。私は大丈夫ですから。それよりここは一旦引きましょう。どうやって入ってきたのかはわかりませんがこのままではメイ様が危険です」
「まて!」
「こちらを気にされていていいのですか?」
「何!?」
「まさかここにいるのが二人だけとは思いませんでしょう?」
仮面で表情は伺えないものの声音を弾ませ楽しそうに告げるユシィ。
「まさか!シロウ!」
アイラはアイリに任せてきた士郎に何かが起きているのだと判断し、自分の入ってきた通路を戻っていった。
「ふぅ・・・なんとかなりましたね・・・メイ様、シロウはおそらく連れ出されてしまうでしょう・・・申し訳ありません」
「いいのよユシィ、玩具の代わりはあってもユシィの代わりは居ないもの。それよりその腕・・・早く治療しないと・・・」
アイラにはああ告げたがこの場所を知っているのはユシィとメイだけだ。単純なブラフだったがアイラが引っかかってくれて助かった。それだけ士郎を大事にしているのだろう。ユシィとメイも階段を上がっていつもの何もない小さな部屋に戻り、そしてここが開かない様に通路を閉ざしたのだった。




