遭遇
アイラとアイリが見つけた魔法によって隠されていた通路。通路自体は一本道で3回ほど曲がると小部屋に着いた。そこにも一つ牢屋があり、その中には倒れている士郎の姿があった。
「シロウ!」
アイラは士郎に気付くと牢の近くまで走っていく。声をかけると士郎は体を起こした。
「アイラさん・・・?アイリさんも・・・きっときてくれると信じていました」
牢の中に居る士郎に外傷等は見られない。後はこの牢屋から出しさえすれば良いのだが鍵らしきものは近くには見当たらなかった。
入ってきた通路の反対側には別の通路があった。アイラは鍵を探すためその通路の奥を見ることにした。
「アイリ、私は通路の奥を見てくる。シロウの事を頼む」
「わかった・・・姉さんも気をつけて・・・」
士郎がここにいたということは、連れ去った犯人がいつ戻ってきてもおかしくない。アイラは慎重に通路を進んでいく。こちらの通路も道が別れることはなく一本道だ。
石畳の通路が続いているだけのシンプルなもの、壁には光をともす魔法を込めてあるようで、壁自体が淡く発光しており先が見えないということはない。アイラが少しずつ奥に進んでいくと段々と血の臭いが漂ってきた。
次の部屋に出るとそこには拷問に使う道具が大量に並んでいた。爪を剥ぐペンチのようなもの。指を切り落とす小さなギロチンのようなもの。熱で温め肌に当てる棒の先に鉄を取り付けたもの。内側に棘が付いており串刺しにするアイアンメイデン。
そのどれもが使われた形跡があり変色した血がこびりついていた。マイルナムで拷問を行うことはまずない。精々が尋問程度だ。そのはずなのに今アイラの目の前には数々の拷問器具が鎮座している。
「侵入者ですか、おや?貴方は・・・なるほど、どうやって入ってきたのかはわかりませんがお連れの方を取り戻しに来たというわけですね」
アイラの入ってきた通路とは別にあった通路。その先は階段になっているようだ。そこから泣き顔の仮面を付けた女性が降りてきた。彼女の格好はメイド服。おそらくは王族の身の回りをお世話している人間なのだろう。
「お前は・・・?お前がシロウを攫ったのか?」
「攫ったとは語弊がありますね。あの少年、いえ、少女は我が主が望まれてわざわざ別の世界から呼んだのです。であれば彼女は我が主の物です。それを貴方が余計なことをして、引っ掻き回して、挙句には勝手に連れ出してしまったのですから」
仮面の女の言い方では彼女の主が士郎をこの世界に呼んだということらしい。アイラは一応士郎から誘拐犯達に捕まった経緯を聞いてはいる。しかし士郎は道を歩いていて気付いたら捕まっていたというのであまり要領を得なかったのだ。
士郎に異世界転移などの知識はない。勉強をして生きてきていた士郎にその手の知識は皆無だった。だから精々わかったことといえば士郎の居た世界には獣人は居なくて純正の人間だけの世界だったことだ。
アイラの知識に純正ヒューマンのみで構成された町の情報などはない。そもそもこの世界ではヒューマンは圧倒的に数が少ないのだ。だから士郎の話は荒唐無稽だったといっても差し支えないレベルの話だった。
「お前達がシロウを辛い目に遭わせたんだな?」
「先ほども申し上げたとおりシロウ殿は我が主の所有物です。それをどう扱おうとも貴方達に言われる筋合いはございません」
「きさま!」
士郎は生きている人間だ。それを物扱いする目の前の女性にアイラは激怒した。そして腰に提げていた剣を抜き、構える。
「ここの事を知られたのはよろしくありませんし・・・貴方がやるきなのであればお相手いたしましょう」
アイラが構えたのを見て仮面の女も構えを取る。しかし武器を取り出すことはなく、徒手空拳での構えだ。しかも女は激しい動きには向いていないであろうメイド服。アイラは彼女を殺すことなく捕らえ、彼女の言う主の情報を得ようとするのだった。




