そのころ士郎は
「ここは・・・?」
士郎が眼を覚ますとそこは牢屋の中だった。
「やっと起きましたね。あまり騒がないようにお願いいたします」
牢屋の表には仮面を付けた女性が立っていて、士郎が眼を覚ましたことに気がつくと声をかけてきた。
「貴女は・・・そうだ、店番をしていて買い物に来ていた・・・」
「はい。我が主が貴方を欲しがっているため、身柄を確保させていただきました。これから主を呼んでまいりますゆえ、少々お待ちください」
仮面によって表情も見えず、淡々と受け答えをする彼女はとても不気味に感じられた。士郎はここで騒いでもきっと誰にも気付いてもらえないだろうと静かに待っている。
しばらくするともう一人仮面を付けた少女がやってきた。先ほどの女性は涙の仮面をつけているのだが、今度の少女は笑っている仮面をつけていた。その仮面が少女の気持ちを表しているかのように弾んだ声で士郎に声をかける・・・いや、士郎を見て言葉を紡ぐ。
「そう・・・貴方が召喚された少年・・・いえ、今は少女だったわね・・・」
うふふふふと笑いながら牢屋の前でくるくると楽しげに回る少女。彼女の金の長い髪も同じようにくるくると回っている。
彼女は心底楽しくて仕方がないといったように士郎に語りかける。
「ねぇ、貴方四肢を切り落としたらどんな声を上げるのかしら?その乳房を抉ったら?その綺麗な黒い瞳をくり抜いたら?ねぇ?死刑囚を秘密裏に運んで遊ぶだけじゃ満足できないの・・・でも国民を無秩序に殺すのは面白くないわよね?じゃあどうしようって考えてたらお父様の書斎から見つけた禁書。人を呼び出せるって書いてあるじゃない。関係ない人を呼んじゃえば居なくなっても不都合はないでしょう・・・?」
狂気。楽しそうに少女から零れる言葉は士郎をこの世界に殺す為呼んだのだと告げる。
「ねぇ・・・泣いていいのよ?これから貴方に待っているのは生と死の狭間なんだから。簡単には死なせないわ・・・貴方を呼ぶための素材だって、貴方を実際呼ばせたのだってお金が掛かっているんだもの。簡単に死んじゃ駄目よ?いい声で鳴いてちょうだいね。ここは牢屋の一室を改造した私だけの玩具部屋。きっとだれも気付かないわ」
狂気。殺す為呼んで尚死を嘲るその言葉。
「指を一本ずつ切り落とすのもいいかしら?それなら簡単には死なないわよね?腕ごと切って魔物に食べさせるのは?目の前で自分の腕が食べられるのってどんな気持ちかしら?それともきつく縛って壊死させてみる?腐り落ちるまでは時間が掛かるけどじっくりといくのもいいわよね?」
狂気。命を弄びそれをうっとりとした声音で語る少女。
「あぁ、それとも・・・「落ち着いてください。今日は治癒術師も用意できていませんので実行したら簡単に死んでしまいますよ」
狂気。その妄想を止めたのは涙の仮面の女性だった。それにハッと意識を戻した少女。
「あぁごめんなさい。ついつい想像が膨らんでしまったわ。慌てなくてももう逃げられないのにね?」
「えぇ、この後上でお約束があったはずでは?」
誰と会うのか。士郎の前ではぼやかしながら伝えるが少女には伝わったようだ。
「えぇ、この間の中途半端になってしまった話しを終わらせたいそうよ。それじゃあね、シロウ。今の貴方の青褪めた顔も素敵だけど、次来た時にはもっと素敵な顔にしてあげるから」
そういって階段を上っていく二人。士郎は笑い顔の少女の負の気持ちに当てられ何も言えないままに終わってしまった事を嘆いた。
(せめて情報だけでも手に入れられたら・・・きっとアイラさんが助けに来てくれる・・・!その時にせめて僕を攫った相手のことを伝えたい)
次に少女がやってきたらせめて出来るだけの情報を。そう決意をして士郎は牢屋の中で眠りについたのだった。




