王城潜入
アイリの顧客は冒険者だけではない。町を旅する流れの商人達にも顧客は多く居るのだ。地方の小さな町では薬を作れる人間なども居ないことが多く、基本的に常備薬を置いているだけという町や村も多い。そして使った薬は商人がやってきたときに補充しているのだ。
そんな商人達も扱う品は品質の良いものを求める。そこで王都で有名な「イナバ」に薬を買いに来る。当然作成者との顔繋ぎも求めてくるのだ。アイリ自身は商人たちに会ってくれといわれようと興味は無い為断りたいのだが、アイルがそれを許さなかった。
アイルは人脈が出来るとあればアイリとの顔繋ぎは喜んで応じていた。それはアイリが嫌がろうとも。
しかし今回はそれによって出来た縁によって作戦を実行することが出来たのでアイリは
(会うだけなら良いかな・・・)
と少し心が揺れているようだ。
マイルナムにやってくる商人は朝から夕方まではひっきりなしに訪れている。そして王城に住んでいる料理人のこだわりなのかはわからないが、朝昼晩とその都度料理する分を仕入れているそうなのだ。当然積荷のチェックは厳しいが、商人自体はそれほどでもない。御付が一人二人増えたところで入る場所は王城の階下部分だけであるし、近衛隊は兵士の仲でも精鋭だ。一人二人であれば賊が侵入しようと大丈夫ということなのだろう。
今回アイリがアイラに提示した作戦はこうだ。王都に商品を持ち込んでいる商人に頼んで御付として王城まで連れて行ってもらう。搬入の時間は近衛が夜勤と入れ替わる時間を狙い、人数が変わるのをばれない様にするつもりだ。
商人は積荷を降ろした後、イナバから品物を持ってっていいということで話をつけた。商人としても潜入に協力したのがばれれば危険なことにはかわりがない。しかし彼は生粋の商人であった。
「もし今回の件が表沙汰になれば私は王城と言う大きな客を逃すことになります。流石に陛下に仇なすつもりではありませんので処刑までされるとは思いません。ですが大口の取引相手が居なくなるわけですね。その際には、今後イナバさんでの仕入れ値を現状から3割引にしていただきたい」
この商人が告げた取引をアイリは即答で受けた。値段の設定は妹のアイルに任せているのでどれだけ利益が出ているのかはわかっていない。しかし最悪自分で調達できる素材で出来る薬を作ればその原価はタダだ。もしもこの話をアイルが知ったらせめて2割にして欲しかったと嘆くだろう。しかしアイリとしては失敗しなければそれでいいと軽く承諾したのだった。
「・・・はぁ」
食料を積んだ冷暗所の中でアイリの溜息が零れた。アイリは問題なく王城に入れたのだ。作戦自体は成功したといって差し支えないだろう。問題だったのはアイラの騎士団隊長の肩書きの知名度だった。
「二人御付が居るのも珍しいな」
城門の警備を担当している近衛に声をかけられたときは内心どきりともしたが、彼らは何の気もなしに言葉にしただけのようで疑っているわけではなかった。門を通るまではアイラとアイリはフードを被り顔が見えないようにしていたが、流石に城内に入るのに外さないわけにもいかない。そしてフードを外した際に近衛の人間にアイラが声をかけられたのだ。
「あれ?貴女は騎士団の・・・そう、跳躍隊の隊長ではありませんか?」
声をかけてきた近衛の顔をアイラは知らない。しかし相手はアイラの顔を知っていたのだ。
アイリは作戦失敗かと思いどう逃げるかを考えていたが、アイラはアイリがとめられなかった事を逆に使い囮になることにした。
「ふぅ・・・このままスルーされたらどうしようかと思ったよ」
「それはどういうことでしょうか?」
「商人のチェックが甘いという話を聞いてね。賄賂の線も踏んで潜入捜査というわけさ。あぁ商人の方はお付き合いありがとう。こちらは気にせず行って下さい」
当然アイラの発言はアイリに向けたものである。アイリはどうしようか考えたが商人が歩き出したので付いて行かないわけにもいかず城内に進んだ。
そして冷暗所に荷物を降ろした後商人は出て行った。
「お姉さんのおかげでなんとか今後も王城に商品をおろすことが出来そうです。では、また御ひいきに」
(アイラ姉さんならきっとどうにかして入ってくるはず・・・)
そう思いアイリはアイラがやってくるのをじっと待つのであった。




