下級冒険者
「あの何でも屋ってアイルって奴は何なんだよ!」
南西地区の通り沿いにある酒場で管を巻いている冒険者達が居た。彼らは下級冒険者で魔物の討伐には力量の足りない者達だ。
「俺らの仕事を奪いやがって・・・」
彼らは基本的に街中での雑務の依頼や危険な魔物の出ない場所での採集で生計を立てている。しかしこの王都マイルナムでは、街中での依頼の多くは何でも屋をしているアイルに流れていく。その理由は金銭的問題であったり、築き上げてきた信用だったり、アイルの人当たりの良さであったりするのだが、地方から王都に上がってきた彼らは納得できていなかった。
当然全ての依頼をアイルが受けているわけではないし、アイルが別の用事で仕事を受けれないこともある。それでも彼らに依頼が回ってこないのは自分達の対応に問題があるのだが、彼らはそんな自分達のことを棚上げし、すべてアイルのせいにしているのだ。
「邪魔なら排除すればいいのでは?」
昼間から飲んだくれている彼らの近くに座っているものは全くといっていいほど居ない。店のマスターも注文の品を持っていくとき以外は近づかないようにしているようだ。
だから人が近づいてくればわかるはずなのに、その仮面を付けた女はいつの間にか彼らの近くに立っていた。涙を模した仮面を付けた女。彼女は事も無げに邪魔なら消してしまえと告げる。
「なんだよ?あんたは・・・」
彼らは酒を飲んでいても、下級でも冒険者だ。確かにそんな気を張っていた状況ではない。しかしこの距離まで全く気付かれずに近づいてきた女に無警戒で居られるほど危機感に乏しいわけでもない。先ほどまで管を巻いていたとは思えないほどの緊張感で女に問いかけた。
「名乗るほどのものではありません」
「っは!あんたの実力で名乗るほどでもなかったら俺たちはその辺のごみくず以下だろうな!」
女の返答に男の一人が苛立ち紛れに言う。彼らも気付いてはいるのだ。彼女の実力が自分たちが束でかかっても相手にならないレベルな事は。
「私は言い争いをするために来たわけではないのですが・・・」
「じゃあ一体何の用だってんだよ?」
「アイルと言う何でも屋を営んでいる女性が邪魔なのでしょう?私も彼女には少し苦い思いをしていましてね。貴方達に排除をお願いしたいのです」
彼女の言うことはかなり苛烈だった。確かに男たちはアイルを邪魔だと思っているし、敵視している。しかしだからといって別に手を出すつもりはないのだ。精々が酒場で愚痴を言う程度。
「排除って・・・そんなの俺たちに頼まなくても暗殺者を向け・・・いや、あんたなら一人でもやれるだろう?」
「暗殺ギルドは依頼時に身分の照会が必要なので頼めません。それに私には他にやることがありますので・・・だから貴方達にお願いしたいわけです。当然危険な以来だと言うことはわかっています。ですから・・・」
テーブルの上に皮袋を置く仮面の女。男達が恐る恐る中を覗くとぎっしり詰まった金貨が入っていた。
「こ・・・これは・・・?」
「受けてくださるのでしたらこちらが手付金です。成功時にはこの倍の報酬をお渡しすることを約束いたしましょう」
「この倍・・・!?」
今渡された金貨だけでも男達全員の半年以上の収入だ。更に倍となればしばらくは何もしなくても暮らせるほどの額である。
結局男たちは依頼を受けることになり、依頼が暗殺だったにも関わらず、余計な欲を見せたせいでアイラの介入を許し失敗する。




