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転換の日々 ~アイリの改善努力~

 

 アイラと士郎を元に戻すため、アイリは薬の調合をしなければいけなかったが、薬の材料を集めるのはアイルに任せてアイリは一つの目的を達するべく行動していた。

 それはつまり士郎に慣れる事だ。以前咄嗟の出来事だったとは言え士郎に抱きしめられてからアイリは士郎の事をまっすぐ見ることが出来なくなってしまっていた。冒険者の男性に商品の販売で話すことはあるが肉体的接触は今まで全くなかったのだ。普段のフォローも基本的にはアイラやアイルが務めてくれるので男性に頼る機会もなかったと言っていい。


 アイルの見立てで材料が揃うまで半月強、その後店を閉めた後の夜間に調合をするのでそれも半月ほど。あわせて一月ほどの間アイラと士郎は性別が入れ替わったままの見込みだ。

 その間に女の子としての士郎となるべくスキンシップをはかり、士郎に慣れるつもりなのだ。




「アイリさん、これはどっちに置きますか?」


「それはこっち・・・後この薬は入り口近くに置いて・・・多分今日はいつもより出る・・・」


 ちょうどアイリと士郎が二人で店番をする日が訪れた。アイラは騎士団で夕方過ぎまでは帰ってこないし、アイルも街中の依頼を終えたらそのまま素材の採集に向かうので同じく夕方まで帰ってこないそうだ。朝の準備から士郎と二人でこなしていくアイリ。


「これ・・・重いから手伝って・・・」


「わかりました。あ、これはそっちにもっていきますね」


「ありがとう・・・その薬はあっち・・・」


「すいません。こっちですね」


 二人きり・・・なのだが開店準備は忙しいためのんびりしていることも出来なかった。結局午前中は冒険者達がいつもより多く来店していたこともあり、機会は全く訪れなかった。


(大丈夫・・・まだ午後がある・・・)


 今日のお昼はアイラが今朝作って行ったパスタを温めなおしたものだ。ここでアイリは一気に仕掛けることにした。


「シロウ・・・あ~ん・・・」


 今まで普通にフォークを使いパスタを食べていたアイリが急に士郎に向けてパスタを巻いたフォークを差し出してきたのだ。あ~んと言っているという事は食べろと言うことだろう。しかし今までそんなことはしたことが無い。極稀にアイラが気まぐれでやってくることはあるがアイリにそんなことをされたことは一度も無い。アイリの突然の行動に士郎は混乱するばかりだ。


「はやく・・・あ~ん・・・」


「あ、あ~ん」


 結局アイリに押し切られ、アイリの使っていたフォークを口に入れた士郎、そのまま咀嚼してパスタを飲み込む。それを見届けたアイリは一瞬どや顔で頷いた後、今度は自分が口をあけた。


「あ~ん」


 当然この行動の意味は士郎にパスタを口に入れろと示しているのだろう。なぜ恋人のような事をしているのか?疑問の尽きない士郎だったがアイリは今も口をあけたまま士郎がパスタを口に入れるのを待っている。


「ええい。あ~ん」


 意を決してアイリの口にパスタを入れた士郎。もぐもぐと口を動かすアイリ。何故か満足そうな顔で若干頬が染まっているように見えるのは見間違いではないはずだ。ここで士郎はある結論に至る。


(僕が男だったときにはこんなことをしてきたりはしなかった・・・もしかしてアイリさんは女性が好きなのでは・・・?)


 間違った結論に行き着いた士郎。しかし士郎としてはそう考えれば辻褄が合う事が多かったのだ。性別変換薬をわざわざ作って士郎に飲ませようとしたこと。自分が以前倒れそうになったアイリを抱きしめたらそのまま放心してしまったこと。そして今パスタを食べさせあい頬を染めていること。

 実際はアイリは士郎に慣れるためにこういったことをしているわけで、今笑っているのもスキンシップが上手くいったと思っているゆえだ。

 アイリはなれるためのスキンシップの方法が間違っている事に気づいていないし、士郎はアイリが女の子が好きだからこういう行動をしていると思っている。

 勘違いをしている二人なのだが歯車はおかしいままでかみ合ってしまった。


「アイリさんはこういうのがお好きなんですね・・・」


「うん、もっと仲良くなりたいから・・・」


(やっぱりそうなんだ)


(私が避けているの・・・シロウもわかってたのかな・・・もっと頑張ろう・・・)


 結局この出来事はアイラが士郎と距離を取っていた事、アイルが素材集めで忙しくあまり家に居れなかった事、そしてアイリがこういう行動に出るのが二人きりの時のみだった為、勘違いのまま進んでいってしまうのだがそれはまた別のお話。



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