秘薬を作ろう 1
「足りない・・・」
アイリは困っていた。性別変換薬の作り方はわかったのだが材料が足りていなかった。簡単な素材であればアイリ一人で取りに行ったのだが、残念ながら入手難易度の高いものだった。普段であれば非番のアイラに採取をお願いできたかもしれない。しかし今回は駄目なのだ。なぜなら士郎の性別を変えようとしているのだから、そんなのがアイラに知られたら何をされるかわからないのでアイリは最近の研究をアイラには秘匿していた。
「アイリ姉~なんか仕事無い~?今日は頼まれてること無いんだよね~」
ノックもせずにアイルが入ってきた。頼みたいことはあるのだが果たしてアイルに話してもいいものだろうか・・・もしアイルからアイラに知られたら・・・アイリは身震いする。
「頼みたいこと・・・針長蜂の巣が欲しい・・・」
「随分難しい頼み事だね?それならそれを何に使うのかぜひ教えて欲しいな~」
素材だけ伝えて採取に行ってくれないかとも試してみたが、やはりアイルは興味を持ってしまった。これが姉妹でなかったのならアイルもここまで詮索はしてこなかったのかもしれない。しかし聞かれた以上答えないわけにもいかないだろう。
「これは・・・性別変換薬・・・シロウに飲ませようかと思って・・・」
アイリの言葉にアイルは一瞬驚きの表情を浮かべるが直ぐに考える。
(シロウが女になっちゃえばアイラ姉の貞操は守られる・・・?)
「そうなんだ!いいよ!必要なのは針長蜂の巣だけ?」
「今足りないのはそれだけ・・・」
「でもさぁその薬本物なの?私性別変換薬なんて見たことも聞いたことも無かったんだけど」
アイルの疑問も当然である、しかしアイリは胸を張って答えた。
「これは魔道学園の学園長が作って自分で実験したレシピを極一部に口伝で伝わってきたもの・・・だから間違いはない・・・」
その答えは色々とぶっ飛んでいた。アイルもあんまりな答えに呆けてしまっている。アイルの頭の中で疑問が飛び交っていることだろう。
極一部しか知らないはずの情報を何故アイリが知っているのだとか、自分で実験した学園長の事とか。一体何故そんなものを作ったのかとか。
差し当たりアイルは一番疑問に思ったことだけをたずねることにしたようだ。
「魔道学園の学園長って女性だと思ってたんだけど・・・その話からすると・・・」
「元は男・・・」
「やっぱりぃ!?」
流石に学園長と直接の面識があるわけではないが、アイルの何でも屋のお客様の中には魔道学園の学園生も居る。男子生徒と世間話をする際などに学園長への憧れの話などを聞く事もあったので元が男性と知って複雑な気分になったアイルだった。
「ま、まぁいいや・・・この話はここまでにしとこ?それで針長蜂なんだけど・・・多分私一人だと巣を確実に持って帰れるかは保障できないかな。戦っている最中に巣を壊しちゃう可能性のほうが高いと思う」
アイルは信頼度の高い仕事を誇りとしている。だから無理なものや、難しいことははっきりと言う。安請け合いをしないこともこの仕事で生きていくためにはひつようなのだ。
「うん・・・だから私も一緒に行く・・・」
アイリからまたも爆弾発言が飛び出した。針長蜂の生息している森までは急いだとしても片道1時間はかかる場所にある。そこへアイリが行くというのだ。普段はそもそも引きこもってまず店から出ないアイリが!
「アイリ姉本気?素人が手を出すものじゃないと思うよ針長蜂なんてさ」
「妹にそんな危険な魔物を一人で狩らせるわけには行かない・・・」
「わかったよ。そこまで言うなら一緒に行こう。あぁ、またアイラ姉を士郎に独占されちゃうなぁ・・・」
アイルとしてはアイリの手伝いをしている名目で家を出ずアイラにくっついているつもりだった。しかしアイリの予想外の依頼によってアイラと士郎を二人きりにしてしまうことが嫌だった。しかし姉の貞操を心配するのも今日までだ。
「まぁ士郎には最後の男の日を楽しんでもらうとしますか・・・明日には女になってるんだから・・・」
そう考えるアイルは黒い笑顔を浮かべていた。




