秘密のデート 4
最後にやってきたのは街の北西区域だ。ここには街の治安を守る騎士団の詰所、並びに訓練場が存在している。また、この訓練場は予約を取れば一般解放もされており、冒険者が技の練習などで利用する姿も良く見られる。
街の外で起きた災害や魔物に対応するのが冒険者、街の中で起きた事件に対応するのが騎士団、そして王城で王族を守護しているのが近衛隊だ。大まかにはこの形で住み分けがされている。もちろん大規模な災害が発生すれば協力して事態に当たるのだが。
「ここが私が普段勤めている騎士団だ。でも本当ここでよかったのか?」
「うん、アイラさんが働いている場所ってのを見てみたかったんだ」
食事を終えた後ここに来ることを望んだのは士郎だ。アイラは景色のいい場所を案内しようと思っていたのだが、せっかく士郎から見たいといわれたのでここにやってきたわけだ。
「そうか・・・まぁあまり長居すると私の隊の者に見つかるかもしれないからいこ「あ~!隊長だ~」
アイラとしては早々に立ち去りたかったがそうは行かなかった。帰りを促そうとしたところで後ろから声がかかったのだ。この間延びした声はおそらくビットだろう。
「あれあれ~?隊長そちらの方は・・・以前奴隷商を検挙したときの被害者さんです?」
「おいビットお前何を先行して・・・これは隊長!お疲れ様です!」
ビットが士郎について言及しようとしたところで遅れてクータがやってきた。彼はビットに文句を言おうとしていたがアイラに気付くとアイラへの敬礼を優先したようだった。
「二人ともお疲れ様。クータ、いつもビットをきにかけてくれてありがとう。ビット、クータにあまり迷惑をかけるんじゃないぞ?」
アイラの労いの言葉にクータは照れてその腕に生えている羽で自分の顔を覆ってしまった。逆にビットは注意されているが尻尾が楽しそうに揺れている。アイラは今日は非番の日なので今日はギッツが隊長代理として指揮を取っているはずなのだが見当たらないので、アイラは二人に聞いてみることにした。
「それにしても二人だけなのか?ギッツはどうした?」
アイラからの質問にビットがどや顔で答える。
「今日も走りこみで~す。俺たちは先に着いちゃったんで先に戻ってきちゃいました~多分ギッツ先輩は最後尾を追い上げてるんじゃないですかね~」
つい先日も走りこみをしたばかりなのに今日も走りこみをメインでやっていたらしい。跳躍隊の本領は足腰にあるので異論はないのだが。
「そうか、訓練場を使って武器の鍛錬はやらなかったのか?」
今度はクータが答えた。
「それが・・・切り込み隊の面々が占領しておりまして・・・・隊長がいないとどうしても軽く見られがちですので・・・」
切り込み隊。騎士団の中で一番実力のあるとされている隊で、徹底的な実力主義、しかも正面からの戦闘に重きを置く隊で、撹乱や陽動を担当することの多い跳躍隊とは仲が悪い。彼らが訓練場を使っているとなればアイラが非番の今日はまず借りることは出来ないだろう。文句を言ったとしても決闘を申し込まれるのが関の山だ。
「そうか・・・では明日は訓練場でのメニューを組み込むことにしようか」
休みなのに訓練の話を始めたアイラ、間もなく夕暮れで家に帰って食事の準備をしなければいけないのだがアイラは未だに話を続けている。おそらくは副隊長のギッツが戻ってこなければこのまま離し続けるだろう。士郎はビットとクータが怖かったが勇気を出して声をかけようとして・・・
「あ、あの・・・「あ!アイラ姉~たっだいま~!」
西門のほうからやってきたアイルによって蹴散らされた。
「アイリ、アイル、お帰り、もう夕方か、随分遅くまで収集に行っていたんだな」
「遠出はしてないんだけどね!目的のものが見つからなくてさ~もうお腹ぺっこぺこだよ!」
「あ!」
アイルのお腹が空いたという発言に食事の準備をしていないことを思い出したアイラ。それを察したアイルは士郎に向かいゆっくりと首を向ける。それこそギギギと音が鳴っているような動きで。
「シ~ロ~ウ~?何でアイラ姉の事を止めないのよ!アイラ姉は仕事のことを始めると時間忘れちゃうんだからね!あんたがしっかりしなさいよ!」
いつもであればアイルが士郎を責めるのを止めるのはアイラの役目だが今日はアイラにも責任があるため止め辛い。
「ア、アイリ?アイルのことをとめてくれないか・・・?」
「私も・・・お腹減った・・・士郎は有罪・・・」
そういうとキュゥとアイリのお腹がなった。顔が赤くなったアイリはやはりアイルをとめるつもりは無いようだ。
結局本日の晩御飯は「フラウの酒場」で済ますことになるのだった。
「そういえばアイラ姉はなんでシロウと騎士団のところにいたの?」
「シロウが私の職場を見たいといったからな。連れて行ってたんだ」
フラウの酒場に向かう最中のそんな一幕。アイラは士郎にこっそりと耳打ちで告げた。
「今日のデートは二人だけの秘密にしよう。きっとその方が楽しい思い出になりそうだから」
ね。そういって笑うアイラに士郎は顔を赤くしつつ頷きのみで返すのだった。
なんとなく街の配置は掴めましたかね・・・?




