秘密のデート 3
給仕の二人から謝罪をもらいつつフラウの酒場を後にしたアイラと士郎は、南門の通りを歩いていた。
「シロウ、もう大丈夫か?店主のフラウさんは顔は怖いがいい人だぞ。冒険者時代から面倒見がよかったらしくて、彼にお世話になった冒険者が今でも顔を出すくらいだからな」
アイラが士郎を気遣いながらフラウのフォローもしておく、士郎はまだ少し体が震えているものの落ち着いてはいるようだ。
「大丈夫です・・・謝罪もしてもらいましたし・・・そういえば給仕をしていた二人がフラウさんの事をお父さんっていってましたけど、三人とも違う獣人でしたよね?」
「あぁ、士郎はそのあたりはまだ良くわかっていないのか」
獣人は親と子で同じ種族になる・・・ということは無い。確かに親と同じ種族には多少なりやすいという研究がされてはいるものの、圧倒的に別の種族になることのほうが多いのだ。フラウと娘二人もその例に漏れず全く別々の種族だ。フラウが孤児を引き取ったとかそういう話ではないのだ。
親と子でも種族が異なる。という点においてアイラ達三姉妹はかなり特殊な部類に入っている。なにせ三人ともが兎の獣人なのだ。なので一部の間では白兎三姉妹で彼女達のことだと通じたりする。
アイラは自分達のことも含め士郎に隠さず話した。この話をすると逆に気味悪がられたりすることもあるのだが、士郎の反応はそんなに大きなものではなかった。
「そうなんですね。でも皆綺麗な白い髪ですし、僕はいいと思います」
「シ、シロウ!」
アイラは怖かった。もし士郎がこの話を聞くことによって自分から離れてしまったらと考えると躊躇していた部分もあった。士郎はが自分達以外に関わるのは精々が冒険者だ。当然これから冒険に行くような人間は自分の子供をつれてきたりはしない。だから士郎が親子で種別が違うということは今まで判りようが無かったし、アイラ達も特段自分からそんなことを言うつもりもなかった。しかし士郎から聞かれたのであれば生真面目なアイラは嘘をつくということは出来なかったのだ。
結果だけで言えば士郎は受け入れてくれた。そのことがアイラはとても嬉しく抱きついてしまったとしても仕方の無いことだろう。
とはいえ今歩いているのは正門である南門の主流通りだ。抱き合っている光景を見るのは、別の都市からここまでやってきた商人や、冒険者達である。特に冒険者は危険が多いので恋人はいないものが大半だ。当然向けられる視線が嫉妬や殺意の篭ったものになってしまうのも仕方の無いことなのだ。
落ち着いた二人は南の通りを噴水広場へ向かって歩いていた。
南西地区は一番治安が悪い場所だ。通りに面している部分では最南に冒険者ギルド、ほかは魔法薬を扱う店などが建っていてそれほどではないものの、少し裏へ入れば色町が広がっており、更に奥に進むとスラムが広がっている。当然アイラはこちらの方面へは来ることはまずない。騎士団の仕事で巡回をするときや、通報を受け出動するときくらいのものだ。
色街の人間は表通りには来ない。それが暗黙のルールとしてあるはずなのだが今日は運が悪かったというべきか・・・一人の男が客引きをするため通りに出てきていた。それを見過ごせるアイラではない。
「どうですか、そこの兄さん。昼間から怠惰にすごしてみませんか?今の時間ならいい子がいますよ」
「そこの男、色街の人間が何故通りに出てきているんだ。この付近での客引きはしないのがルールだろう?」
「あ!?なんだこのアマ!ルールなんてしったこっちゃねぇんだよ!」
逆切れする男、士郎はその声にまた発症して怯えているが自分に言われているわけではないので叫ぶのは我慢しているようだ。アイラも騎士としてこの男を取り押さえ、このまま騎士団に連れて行こうかと考えたが、実行に移すまえに他の男がやってきて客引きをしていた男を羽交い絞めにした。
「どうもすいません!こいつまだ入ったばかりで!騎士団の隊長さんの手を煩わせないでもこちらで教育しときますんで!今日のところはそれでなんとか!」
出てきた男は巡回のときによく見かける男だ。あちらもアイラの顔を覚えているのだろう。騎士団が出てきて痛いか痛くないかはわからないものの腹を探られたくは無いのだろう。そしてアイラも今日は非番の身だ。もめずに済むのであればその方が良かった。
「そうか・・・今日の私は非番だからな。何も見なかったことにしよう。巡回中であればそれは聞かないからな?次は無いと教えておけ」
そういって士郎の手を掴んでアイラは歩いていく。後ろで男二人が話しているのが聞こえたがこれ以上は関わらないように決めたようだ。
「何するんすか!あんな女殴って言ってやりゃあ!」
「黙れ新入り。あの方は騎士団に勤めてんだ。しかも跳躍隊って隊の隊長だからな?見逃してくれたが最悪店ごと潰されても何も言えないぜ?」
「あんな細いのが隊長・・・?」
「わかったら店まで戻れ。とりあえず基礎くらいは教えてやっから表通りには出んじゃねぇぞ?」
士郎は後ろを伺いながら付いてきているが握った手がまだ少し震えている。落ち着かせるためにアイラは握った手に力を込めるのだった。




