プロローグ
「これで良いんだよな?」
薄暗い倉庫の中、フードを被った1人の男が魔方陣を描いている。男の手には地面に描かれているものと同じ魔方陣が描かれた羊皮紙があり、それを男は地面に書き写しているようだ。
「見せてくれ。あぁ、これで大丈夫のはずだ。後はこのビンの液体を垂らせばいいはずだ」
隣で別の作業をしていた別のフードを被った男がその魔方陣と羊皮紙を見比べ間違いが無いか確認する。間違っていないのを確認すると机の上に置いてあったビンを手に取った。
「さて・・・本当にこれで人が呼び出せるのかね。ソイ、ドリューたちを呼んできてくれ。暴れられたら面倒だからな」
「わかった。勝手に呼び出して抜け駆けすんじゃねぇぞ?」
ソイと呼ばれた男がビンを持った男に釘を刺してからドアを開けて出て行く。
少ししてから集まった男達。部屋の中で作業をしていた2人を入れても5人と数は多くない。各々がフードを被っていてその下の姿を見ることは出来ない。
「よし集まったな。そんじゃ始めるぞ。これに成功すれば俺たちは一生遊んで暮らせるほどの金がもらえるんだからな。失敗すんじゃねぇぞ」
他の男達が頷いたのを確認して男はビンの中の液体を魔方陣に垂らした・・・。
冬も終わりに近づき春の息吹を感じるころ。莢河 士郎 (さやかわ しろう)は残り少ない高校生活を憂鬱にすごしていた。
彼の両親は優秀な人物だった。父は米国の有名大学卒。母も国内最難関と呼ばれる大学を首席で卒業した人物だ。そんな両親は士郎にも同レベルを求め、士郎もそれに応えるべく努力してきた。しかしそんな彼に突きつけられた不合格。滑り止めには合格したものの両親の対応は冷たいものだった。
「このような所で躓くのか。士郎。がっかりしたよ。生活費は出してやるからもう好きに生きるといい」
両親は人材としては優秀だったが、親としては落第レベルだったようだ。お前にはもう期待していない。そんな意味を込めた好きにしていい。その発言は両親の期待に応えるため努力してきた士郎を酷く傷付けた。
大学受験の為に勉強を優先してきた士郎に友人は居ない。親の期待も支えてくれる友人も居ない士郎は憂鬱だった。今日も学校が終われば家に戻るのが辛く、夜遅くまで町をうろついていた。
そして重い足取りのまま家へ帰る士郎の足元が光った。地面には見たことも無い不思議な模様が描かれている。それに気づいたときには士郎の意識は既に無く、まるで最初から誰も居なかったかのように電灯が道路を照らしているだけだった。
士郎が意識を取り戻すと目の前にはフードを被った人が自分を囲むように立っていた。周囲の光景も様変わりしており、自分が今まで歩いていた道路ではない。そもそも室外ですらなく、埃っぽい倉庫の中のようだ。何が起きたのか士郎にはわからない。ただ彼の知識には転移などというものはない。日本人としての危機感覚の薄さゆえか、彼は目の前の人物に話しかけた。
「あの、ここはどこですか?」
士郎が話しかけると目の前の人物は何かに驚き後ずさった。その時にフードがめくれその人物の顔があらわになった。その人物は赤い髪で赤い眼の男だった。だが髪の色や眼の色は重要ではない。士郎の知っている人物にそんな髪色の人は居ないが、日本では染色料が色々売られているのは知っている。目の色も同じくカラーコンタクトがあるらしいから問題ない。問題はその人物の頭の上に生えている耳だった。その男に生えている耳。何の動物かはわからないが、人間の耳ではないことはわかる。付け耳なるものが売っているというのは知識としてはある。だがしかし、短髪の彼の顔の側面、人間の耳が生えているはずの場所にあるはずの耳がないのだ。
疑問しかないこの現状。そして目の前の不思議な人物。士郎は続けて疑問を口に出そうとしたがその行為は別の人物によって遮られた。突如首に衝撃が来る。とっさに手が首に行くが何か布のようなもので絞められているようだ。酸素が足りなくなり士郎の意識はまた途絶えた。
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「くっそ。脅かしやがって」
魔方陣から出てきた男の意識を刈り取った後、赤髪の男性は毒づいた。
「いきなり詠唱を始めるかよ普通」
「大丈夫かソイ?」
赤髪の男性がソイと言う男性らしい。ソイはその言葉に頷く。
「あぁ、体に異常とかは何もないぜ。こいつは一体何をしたかったんだろうな?」
「そうか、問題ないならさっさとこいつを付けておくか」
そういってソイに話しかけた男は首輪を取り出した。そしてそれをソイに渡す。
「あぁ隷属させちまえば俺らに手出しは出来ないからな。さっさと終わらせて美味い飯と酒だ!その後は女だな」
渡されたソイは首を絞められ気を失っている士郎に首輪をまきつけた。その後士郎の手首と足首を縛って彼らは部屋を出て行った。