第93話:エスパダ第七異能学園(下)
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背中に刻まれた十字形の古い傷跡に、三人は目を見開き絶句した。 一方で流介とエミリーは顔を背け、俯いている。 それはダンブルア学園長のその背中の傷跡を知っているからだ。
同じアメリカ魔導機関に所属で、また大功績をあげたなのもあって辞職した原因は知っていて不思議ではないだろう。
「その、傷跡は……」
背中の傷跡を見つめている一人である小太郎が、詰ませながも訊く。すると、ダンブルア学園長は背中の古い傷跡について語り出した。
「そうですね。この傷跡を負ったのは今から20年前でしょうか。当時、東アジア異能戦争が未だ続きアジア各地が緊迫した中で、私はその戦争には参加していなかったことはわかってるでしょう。その間、私はとある重大な魔物討伐の任務に駆り出されていました。その討伐対象たる魔獣は最上位の魔獣に分類されていましたが、当時に一緒に駆り出されたA級魔導士の後輩と私の二人で倒しました」
あの日の事を思い出したのか、ダンブルア学園長は天井を眺める。
「君たちは、イギリスで最も有名な未開決事件は知っていますね」
しかし突然と別の話に移り変わった。
「それは勿論知ってます」
と、翔真が返した。ダンブルア学園長が言ったそれは、勿論のこと翔真達は知っている。
「切り裂きジャック、ですよね」
続けて優奈が答えた。
ダンブルア学園長が言っているのはーー19世紀にて、イギリスで大きく騒がせた通り魔による数々の人達を殺害していった連続殺人事件という大事件のことだった。
その犯行はまるで舞台のように行うという劇場型犯罪、その犯罪の元祖たる犯人は切り裂きジャックだ。
最も有名な未開決事件故、この場にいる者はみな知っている。
しかしなぜその話を持ち込んできたのか疑問符だったが、
(まさかーー!)
だがその後に翔真、優奈、小太郎の三人はその話を持ち込んだ訳がなんなのか考え、一つの予想をたどりつく。
しかし切り裂きジャックはあくまで通称で、その正体は謎のままだ。その者がダンブルア学園長の背中に十字の傷跡をつけた者でも、流石に切り裂きジャックだと考えるのはバカだ。……だがこの時、翔真達はある人物の事を視野には入れなかった。だがそれはしょうがないことだろう。その者がこの話の中で出てくるなんてことはありえないと思っていたからだ。
そんな三人の表情を見て、ダンブルア学園長は遂に背中の十字傷の跡をつけた人物を言った。
「この背中に刻み込まれた十字の傷跡は、現代の切り裂きジャックだと裏の世界でいわれている、カラス・イルミナティの七人の『鴉公』の1人、『切り裂き者』によってつけられた傷跡なのです」
それは、翔真達の考えの視野に入れていなかった人物だった。
「っな!」
「っそれ、は……」
優奈、小太郎が言葉を詰まらせた。 背中の十字傷の跡をつけたその人物の名を聞き、誰もが衝撃を受けた。流石に流介とエミリーも傷跡をつけた人物までは知らなかったようである。
「『切り裂き者』……」
翔真は確かめるようにその名を呟いた。
現在、カラス・イルミナティの最高幹部たる七人の『鴉公』は前に言った通り素性が知れてはいないが……七人のそれぞれに『鴉王』から“コードネーム”が授けられていることは知っている。その七人の『鴉公』のうち1人のコードネームが、『切り裂く者』なのである。
「最上位魔獣を討伐した後、突如してあの者ーー『切り裂く者』が現れました。しかし、最上位魔獣との戦いで疲労しきった後では、あの者との連戦は流石に危険すぎました。 速やかに退却へと動いたのですが……その寸前に私としたことが、僅かな気の緩みにより、背中をまんまと取られたという失態をおかしてしまい、その時に放たれたあの者の斬撃によって、この背中に十字傷を負ってしまったのです」
『…………』
「幸い、なんとか助かりましたが……あの者の異能の力なのか、はたまた斬撃に何かしらのあの者が振るったダガーに特性があったのか、それはわかりません。しかしそのせいで、私の身体はもう戦うことはできません」
「戦うことができない、ですか? ……それはどういった具合で?」
気になったそれを翔真が訊くと、ダンブルア学園長は答えた。
「この背中の十字傷の跡による後遺症で、魔力を通すための魔力器官に何らかの障害がきたし、魔術を思うように発動することがままならなくなったのです。 そうですね。一日に二度が限界でしょう、それ以上やれば魔力欠乏症になってしまう故、これで戦場にいけばすぐにやられるでしょう」
アメリカの最高戦力の1人だった魔導士ーー『白の重士』が、まさかここまで陥ってしまっていたとは信じられなかったと、翔真達は言葉を失った。
同時に、未だ遭遇したことのない『鴉公』の恐ろしさに身をもって実感し魔導士として連中との戦いに改めて引き締めた。とはいえ、翔真だけはもともとその恐ろしさを知っていたので、改めて連中との戦いに闘志をあげる。
『鴉王』のところまでたどり着くには、必ず合間に『鴉公』は邪魔するだろう。故にその七人の連中との戦いにも心身ともに備えとく必要がある。
(それにしても……イギリスか)
どこかその国に並々ならぬ思い入れがあるように、翔真は内心呟く。
翔真にとってイギリスとは並々ならぬ深い関係にある国だ。しかし、それは決して友好的なものではなく、むしろ嫌悪的ものだ。
(あの国には、できればあまり関わりたくないが……)
しかしいずれカラス・イルミナティとの戦いにおいて徐々に激しさは増すのは確かだろう。
ここ最近、連中の動きが変化しつつあるのだから。
先の巨大海亀ザラタンとの件もそうだ。
あんな怪物まで手中におさめているのだから、いずれ何かしら大きく動き出すに違いない。
「それでは、今後、異能学園に潜む敵との交戦に入った場合には参戦できない、てことですか」
「そういうことになりますね。 それでなくても、戦場から離れて随分年月は経ちますゆえ、もはやこんな老いぼれでは戦力にもなりませんよ」
と、翔真の質問に答えたダンブルア学園長に陰りを感じる。
そのアメリカ魔導機関では畏敬と憧れである元S級魔導士をみた優奈達はーーこれまでも、そしてこれからも、魔導士として頑張らないといけないと心を強めた。
そんな彼らをダンブルア学園長はなぜか笑みを浮かべて生暖かく見ていた。 明らかに嬉しそうな表情だ。 そんな学園長の表情が変わった事に、翔真達は不思議がった。
「どうしました?」
代表として優奈が訊くと、
「いえ、これが世代交代というものでしょうねと思いましてね」
と言った後にダンブルア学園長は優奈、小太郎、流介、エミリーの四人を見て、最後に翔真を一瞥した直後、元S魔導士たる老人は語った。
「世代交代というのでしょうか。 元ですが私含め古い魔導士達は徐々に引退していきますが……世界中に蔓延る異能による犯罪は未だ続き……特に、カラス・イルミナティという世界最悪の異能組織も未だ健在。私達古い魔導士は日々連中との戦いを自分達の代で終わらすと何度も誓ったのですが、やはり無理でした。 だけどそんな私達古い魔導士の意志を、誓いを……次世代の魔導士達へいつのまにか、こうして託されて行くんだと思いましてね。 あなた方魔導士をみてそうしみじみと感じました」
そしてダンブルア学園長は5人へ強い視線を向ける。
「既に私にはこの学園に起きる事件をどうしようもできません。 今もなお学園に起き続く事件を、申し訳ない気持ちですが……どうか、どうか解決してくださること願っています。戦闘以外でなら、私も全力をもって協力させていただく所存です」
真摯に願うダンブルア学園長の姿に、
「勿論です。必ず、その願いを果してみせます」
直向きに流介は応じ、ほかの4人も同じ気持ちをもって頷いた。
それからは翔真と優奈の学生として異能学園に必要な物や、入るクラスは何処にするか、寮部屋をどこにするかなど……暫くの間に送る学園生活においての話を一通りした後、解散するのだった。




