第86話:中東の伝説の亀
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「っぐ……! 耳の鼓膜が破れそうだ……!」
「なんなのよ、もう……!」
軍船の看板前にて、手すりにつかまっていた小太郎と優奈は突如鳴り響く大咆哮により、一時的に耳へのダメージが入り、両手で耳を塞ぎこむ。無論、翔真も同じだ。またその大咆哮によって空気や海が振動した。
「お、おい。あれを見ろよ……!」
「っな……!」
そうして約1分ほど塞ぎこんだ後、三人は再び大咆哮が発生した島へ視線を向けた。
すると小太郎は夢でも見てるのかというような様子で、優奈は口をパクパクさせ信じられないと言った様子で、目の前の光景に呆然とし、青ざめている。 翔真は一層険しく、そして苦難じみた表情だ。 コックピットにいる異能騎士達や、そして他の海上にいる遠征部隊は、顔を真っ青にしているだろう。
彼らがそうなった原因。それは目の前の島が、巨大な生物となってあらわれたのだ。 そして全員がきづく。 島だと思われていたのが、実は巨大な生物だったと。 色や形が変化……いや、元通りになったという表現が正しいだろう。
その島だと思われていた巨大生物は――海の巨亀なる怪物だった。
不気味な闇かかった泥色をした前足二本と、後ろ足二本。さらにその後ろの先端には大きな、大波を引き起こすことなど容易い迫力がある激太い尻尾。
頭部には鋭い眼光が三つあり、口は裂けるような形をし、亀でありながら戦艦を噛み砕く顎力があると窺える。
島の如く大きな闇泥色となった体躯は、まるで、人類の破滅を象徴するであろう悍ましいものだった。
巨亀の尋常じゃない禍々しい気配と魔力、そして存在感の圧倒さに小太郎と優奈は真っ青な顔だ。
コックピットから見る数名の異能騎士、そしてもう一隻の軍船にいる遠征部隊の彼らは二人以上に、絶望を感じているだろう。
誰も彼も目の前の――ザーナ島の変貌したその巨大な海亀の姿に慄くしかなかった。
そんな中で、平然としている一人と一体がいた。
勿論、翔真と彼の何にいるウォーナだ。
巨大な亀の怪物を前にして、ウォーナは翔真へ突然意味深に問いかけた。
『翔真は、異能という超常の力をどう思う?』
(いきなりなんでそんな質問を? ……まぁ、凄い力だと思ってるよ。本音を言えば、とても人間が扱うには危険な力だ)
『そうね。そうでしょうね。 けど、人間には異能力を必ず宿る以上、異能という力は切ってはならない力。それもう身体の一部と言えるほどに、ね。けど、人間の体内にその異能力が宿るのはなぜだと思う?』
何をわかりきった質問をしてくるのだろうかと、翔真はそう思いつつ答えた。
(具体的にいえば、人間の細胞には異能力を宿る機能があるからだ)
『そうね。けど、遥か昔の時代に生きた人間は、その機能はなかったわ。つまり人間は……人類は異能力は、いえ、魔力は宿ってなかったのよ。それがいつのまにか現代では宿っている。 霊力に関しては元々は人間の魂そのものからきてる。それは遥か昔、人類が誕生した時からあるのだから不思議じゃないわ。 じゃなければ中身が空っぽな状態、人間ですらないもの。いえ、生物である以上は魂がある故に霊力は宿ってるわね。けど――魔力はどう思う? なぜ魔力という力があるのかわかる? マスター』
そう言われれば、たしかに魔力がなぜあるのか不思議だ。いつの間にか、魔力という力がこの世の中に溶け込んでいる。しかし、翔真は学者などではないので考えてもわからない。
『それに人類の外敵種たる魔物や魔獣は魔力によってなりたっているわ。まぁそれはともかくとして。なぜ世界に魔力という力が溶け込んでいるのかね。その理由……もとい、元凶があれなのよ』
ウォーナがさし示すあれとは、海に聳えたつ巨大海亀の怪物。
『いえ、間違えたわ。その元凶の一体、という方が正しいわ。無論、その中には終世怪獣も入るわ』
ウォーナは訂正し、後に付け加えるように言った。 ウォーナから衝撃的な真実を聞き、翔真は絶句するほかなかった。俄かに信じられないことだ。この事実は、未だ人類が知り得ない事だった。 そうなると、魔物や魔獣の解明されていない部分も、そこに関与しているのではないか? と頭によぎるが、いまは頭の隅をおくとする。
『わたくしたちは、あれを含めて彼らを【破界種】と呼んでるわ』
(どうしてそれを今まで言わなかったんだ? ウォーナ)
『それは……』
途端に震えた声で発した言葉に詰まるウォーナ。そして一拍の間の後に『ごめんなさい、マスター』と謝った。 察するに、言いたくても言えないのだろう。 まるで何かしらの誓約かなにかで縛られているようだ。
(じゃあ、その【破界種】はなぜこの世に存在する? これは教えてくれるよな?)
『それは勿論よ。【破界種】は大まかに二つの使命によってこの世にいるわ。その一つが、新たな世界・新たな時代へもたらすために、時代のうねりがきたした時、世界を壊し、そして再び新たな世界・新たな時代へ創り直すのよ。創り直すのは世界そのものの機能がそうしてるわけだけど』
事実、恐竜時代だった時に世界は一度滅びている。 しかしなぜこの世に【破界種】という大怪物が存在するのか? それが一番に感じたことだ。それさえなければ、二年前の悲劇はなかったのは確かだ。一気に溢れ上がった怒りが翔真の身体中に熱をあびせる。そんな彼の感情を読み感じたウォーナは悲しく、そして懺悔するような声で謝った。
『ごめんなさい、マスター。ほんとうにごめんなさい』
(どうして謝る?)
『あの時、わたくしたち十二天獣がもっと注意を払っていれば、マスターの妹は……』
すると翔真は深いため息を漏らし、
(またそれか。二年前の時もそうだったけど、別にウォーナ達のせいじゃない。全て『鴉王』達のせいなんだから。 それより、もう一つの使命の方は何なんだ?)
と翔真は続けて【破界種】のもう一つの使命について教えてもらうよう声を掛けるが、
『…………』
ウォーナは答えなかった。いや、答えられないのではなく、それについての答える“資格”という権利が彼女に、『水天』にはないというべきか。とそう考えた翔真へ、
『ごめんなさい、マスター。言おうにもその答えは世界そのものによって拒まれるのよ』
(……なるほど)
どうやらここから先に深く踏み込んではいけないということだろう。その先にウォーナは踏み込んでいる節があるようだが、それを踏み込んではいけない者へ知らせることは禁じられているということか。と翔真は思った。
そして。
【破界種】。
そう呼ぶ怪物の使命。
そしてその根本的な理由は秘匿されている。
この世界の機能によって――。
だが翔真はどこか引っかかる違和感を感じた。
それが何なのかわからないまま、話を進める。
その時には巨亀の怪物が引き起こした大小様々な荒々しい波はおさまっているが、小太郎と優奈は未だ茫然状態だ。
(ともかく、この話の中で言える事はまだありそうだな、ウォーナ)
『あるにはあるわね』
(なら、この話はまた後日だ。今はこの事態はどう切り抜けるべきか、だ)
前方に聳える巨亀の怪物へ注視し、そう締めくくる翔真。しかし、
『マスター、安心して大丈夫よ。あれの甲羅上の森林地帯で滞在してることを、わたくしは危機感を感じただけだわ。既にあれから離れた今、もう大丈夫よ。何故なら今のあれはわたくし達を襲ったりなんかしないもの』
(っは? どういうこと?)
『わたくしにもわからないけど……驚いたことに、あれは何者かによって従属されている。そしてその主たる者へ帰ろうとしているわ』
一瞬、ウォーナが何を言っているのか理解が及ばなかった。 あんな怪物を従属しているだと?と。 度肝を抜くかれた。 しかしそんな翔真の気持ちに、ウォーナは自分たち十二天獣をもはや従属してるようにして我が物としているのに、何をそんなに驚いているのかと疑問を浮かつつ、
『だからこちらへ襲ったりなんかしないわ。勝手にその主たる者がいる所へ行くはずよ』
(だけど、あんな怪物を野放しになんてできない)
『だけどね、今のわたくし達ではあれどうすることもできないわ。二年前ならあれを容易くどうにか出来たでしょうけど』
(そんなことはわかってるよ。 けどあのままにしたら、いずれ近いうちに世間に知られ渡る。そうなったら――)
とそのとき、巨亀の怪物に異変が起きた。 突如として巨亀の怪物の下から、巨大な五芒星の法陣が発光しながら展開された。 それにより、茫然状態だった小太郎と優奈が我を取り戻し、
「なんだ海に発光したあの法陣は……!」
「関心してる場合じゃないでしょ小太郎! ちんたらしてる暇はないわ! 今すぐ遠征部隊と通信して、直ちに退くわよ!」
(ッチ!しょうがない、退くしかないか!)
そうして翔真達が乗る軍船と、遠征部隊が乗る軍船は通信を繋ぎ連絡を取り合い、巨亀の怪物からどんどん離れて行く。
そうしている間にも、その巨大の五芒星の光る法陣の中へと、その巨大海亀の怪物は吸い込まれて行く。 その間に翔真は、あの法陣が何者かによるもの、考えられるとすれば、巨亀の怪物を従属した者の仕業か、あるいはあの怪物が自ら主たる者へ帰るための発動したのか、そのどちらかだろうと思った直後。
「――っ!!」
この時、翔真は見逃さなかった。
いつのまにか、その巨大海亀の頭部に一人の人間が空間魔術で現れたところを。
その者の姿を見て、何者なのかも気づいた。
最後にその者と……巨大海亀の怪物の眼光が、優奈へ向けていたことを。
その優奈へ向けている巨亀の怪物の眼光からは、まさに天敵にむける眼だったことを。
そうして怪物なる巨大海亀は、巨大法陣へ吸い込まれる形で去った。
ザーナ島での戦いの幕は、こうして終わるのだった――。
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大きな不穏因子は残ったものの、ひとまずは一件落着した後――。
人工島・都市エスハダへの帰る中、軍船の控え室にて。
そこで、椅子に座って携帯用のスマホの画面の表示を見つめる翔真と、その両隣に優奈と小太郎もいて、二人もその画面を見つめていた。
「やっぱりか」
「まさか、あの亀のような怪物が……これだって言うの?」
「そうしかありえねぇだろ」
三人はあの巨大な海亀の怪物について調べ、そしてある中東の伝説にある生物と一致した。
そしてそこに表示されている伝説の生物を、翔真は徐に口にした。
「巨大海亀――『ザラタン』」
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