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最強召喚師の舞い戻り英雄譚  作者: 林 小
第2章:呪縛の姉妹
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第72話:『硬水師』たる所以

 ◆◆◆



 ーー時刻は、璃子を担いだ翔真が恵里奈とファーザスの所に辿り着いた頃まで遡り。

 場面は北研究所からかなり離れた通路広場にて。


 そこは、その場にいる者達によって戦場となっていた。それは二人の魔導士と、一人の犯罪者たる異能戦士による戦いが繰り広げられてる。 無論、二人の魔導士は優奈(ゆうな)小太郎(こたろう)で、犯罪者の異能戦士は清水(しみず) 三五(みつご)だ。


「ッチ! なんてやつだよ! オレと優奈ちゃん二人相手に余裕だせ!」


「はぁ、はぁ、はぁ……そうね」


 数メートル先に構えている清水に、小太郎と優奈は愚痴る。 小太郎の両手には手甲型の魔導器が、優奈は愛剣たる魔剣の《黒転浪剣(こくてんろうけん)》が握られている。 二人の身体にはそれほど傷らしき傷は見当たらない。対する清水も同様だ。 だが二人は息が上がっており、相当体力を戦いをしたのは間違いが、清水だけ疲労が全く見えない。


「オレ達二人の連携攻撃を容易に躱されたし、なんて回避力だよ!」


 二人は何度も接近戦に持ち込んだ。翔真が去った後は異能なしの接近戦が繰り広げていたのだ。 だが小太郎は格闘術を優奈は剣術を駆使してのあらゆる攻撃を放ち続けてたが、その全てが余裕で躱された。 清水は一度も異能なしで、B級魔導士たる二人を相手の連携攻撃を躱し続けて見せたのだ。 たとえA級魔導士でも何度か攻撃の掠りや受け止めなどの対応しなくてならないそれを、掠り一つうけずに悠々と躱されたのである。


「それに、攻撃を仕掛ける隙が幾らでもあったのに全くしてこないわ」


 続けるように、優奈は口にする。二人の攻撃は躱し続けた反面、清水は反撃をしてこなかったのである。


「気絶している仲間を守ってるから、反撃はしないじゃないか?」


 その気絶している敵の仲間というのは、清水のさらに後ろで横倒れになって意識を失っているカタリーナ・メアリーの事である。 どうやら彼女は、当初不意打ちによる小太郎からのアッパーをもろに食らってしまい、それが脳へと相当なダメージを受けたようで……暫くは気を失った状態となっている。 戦いの中で気絶してるカタリーナを拘束しようともしたが……それを清水が阻んでもいた。


「そういう理由で反撃しないってことが本当だとしたら、対策のしようがいくつか思いつくけど……」


 ……とてもそうとは限らない。もっと別の理由だと、優奈は思ってる。 尤も、その理由を口した小太郎も同様だ。 だが、それでも言葉したのは、もしかしたらそうであってほしいと思ってのことだ。


「オレの格闘術と優奈ちゃんの剣術の動きが、たった五分でもう殆ど見切ってやがるのがわかる」


 攻撃をし続ければするほど、易々と回避される場面が接近戦の中で時間が経つにつれて増えた故、どこをどういう風に攻撃をしてくるのか、清水は手に取るように先読みしたに違いないだろう。


「つまり、もうさっきまでの攻撃は通じないってこと、ね……」


「ああ、そうだ。 だからここからはオレの裏の、いや、本来の戦法でーー」


 小太郎が言葉を最後まで言い切るその直前、


「ーー待って」


 そこで優奈が制止した。


「小太郎の本来の戦法はおそらくあの男ーー清水 三五に通じないと思うわ。 ここは連携から私が攻撃をする役目で、小太郎はそのサポート役をお願いできるかしら?」


「……二人して接近戦に持ち込み攻撃し続けても容易に回避されたのに、一人で?」


 それでは先ほど以上に相手を負傷させる事は叶わないだろう。では何故?と思った小太郎へ、


「…………」


 優奈が視線を向け、握る魔剣を左右に揺らし、頷く。 するとそれだけで小太郎は彼女の意図に気づく。 魔剣たる《黒転浪剣》の能力を合わせた剣技で行くつもりだろう。彼女が持つ魔剣の能力ならば、清水 三五への攻撃が届くのは確実。 そして視線を向けてくる優奈へと、視線を合わせて小太郎は頷き返した。


「それじゃ行くわよ」


「おう!」


 そして優奈は《黒転浪剣》を構えつつ、清水へ接近して行く。 一方の小太郎は、優奈の後方から遠距離攻撃や支援系の異能を使ってサポートに準備、体勢をとる。 そんな二人に、清水は何故か動く気配がなく、立ち竦んでるだけだった。くわえて、両目も瞑ってもいた。


(……?)


 戦闘中に視界を閉ざすのは命取りになるのに、なぜ目を瞑っている? と優奈の後方でサポートをする小太郎が訝しむ。 それは優奈も同じで、何かあるとわかっていても、それでも罠だろうかそれに乗っかり、攻撃のチャンスを無駄にしない。もちろん、その何かに対しての警戒もしつつ。

 そして優奈は自身が構え握る《黒転浪剣》に魔力を注入。すると、魔剣から毒々しい紫がかった黒色のオーラが、魔力が放出し……


「ーー『硬』」


(っ、発動!)


 刹那ーー優奈を中心に一定領域内で術者を抜いてあらゆるものの時間は10秒間停止された。

 魔剣《黒転浪剣》三つの特殊能力の一つ、『停止』。

 所有者を中心に一定領域の時間を10秒間停止する空間にさせる凄まじい能力である。

 そして停止時間の10秒間、優奈以外は何人たりとも動くことは不可能。 つまり、清水も立ち竦んだ状態のまま、動くことは不可能。回避の余地がない。

 そしてこの10秒間の隙をついて一気に致命傷を与えるほどの一撃をあたえる、というのが優奈の戦法だ。

 無論、万が一回避される場合の可能性もあると考え、速く鋭い一撃で放つ。


「《我が魔なる力よ・十の魔の鎖を以って・鎖刺して縛れ》ッ!」


 一方、時を同じくして、『停止』の効果一定領域外にいる故に効果を受けていない小太郎は、『停止』の効果一定領域の一歩手然までの周囲に十つの魔術陣を展開。

 直後、十つの魔術陣からそれぞれ一本……計10本の魔力生成された闇の鎖が凄まじい勢いで飛び出し、そして対象たる清水へと刺し縛ろうと襲い掛かる。

 小太郎が繰り出したのは、『魔鎖の縛り』と呼ばれる拘束性のある攻撃呪文の黒魔術である。

 小太郎は攻撃した後にまたあの巧みな回避をさせないようため、釘付けにする事も考慮した故に、この魔術を繰り出したのだ。


 そして自分たち二人の攻撃が清水へ放った直後、二人は目を見開いた。


((身体が、水に?))


 そう、清水の全身の身体がいつのまにか水になっていた。無論、ちゃんと人間としての形態を保ちており……言うなれば、水人間となっていた。

 そこで優奈は直ぐに悟った。

 自分が『停止』が発動する1秒前に清水は何かを呟いていたのを耳にしており、おそらくその呟きの一言が何かの呪文だったのだろう、そしてその呪文がこの男を水人間にさせたに違いない。

 だがそれでも、水の身体になったところで、状況は何ら変わらない。

 いや、一つだけ変わるとすれば、それは小太郎の攻撃呪文が通じないことだろう。

 魔鎖では水人間を刺す事はできるが、無機物ゆえにダメージはゼロだ。

 だが優奈の攻撃は可能だ。

 なぜなら優奈の攻撃、その必殺の一撃を与える武器が魔剣《黒転浪剣》だからだ。

 彼女の魔剣に宿る魔のエネルギーには毒素が宿っており、それはケルベロスの持つ毒からなるもの。その毒素を体内へ汚染すれば水か濁り腐り……言わば、水が死んでしまうということ。

 それは水人間も同様である。故に優奈の攻撃は通じるーーのだが、予想外もしない事により裏切られた。


 それは、丁度10秒切った直後のことだ。

 

 ーーキィィィィィィッ!!

 ーーキキキキキキキキキキキギィン!


 金属が弾かれた鈍い音、そして十つの金属が弾かれた鈍い連続音が甲高く鳴り響いた。


「え?」


「マジかよ!」


 優奈と小太郎は視界にうつった出来事の光景に、驚愕した。 それは十つの魔鎖の突きが、くわえて《黒転浪剣》の鋭い一撃が水人間の身体に……刺すことも切り裂くこともなく、弾かれた。 まるで物凄い硬い金属と鬩ぎ合ったかのような弾きであった。 思わぬ展開の後、優奈は一旦後方にいる小太郎の所まで跳び、後退する。


「驚いた表情してるな。 だが、俺の異名を知ってるならば、これしきの事で驚くほどでもないだろう」


 立ち竦んでいた清水は、ゆっくりと目を開け言いった。


「「ーーっ!!」」


 清水 三五の異名ーー『硬水師』たる所以。

 それは至って単純な事だ。

 あらゆる水を硬質化させる術を駆使し戦うことからつけられた。

 これだけなら特に凄まじさや驚くことなのか? と疑問符になるだろうが、それ違う。

 清水の水を硬質化する能力、一言で言うと"異常"なのだ。

  東アジア異能戦争での清水の戦闘記録書にも、そのように書かれている。

  二人はそれを頭に叩きつけられたように、思い出して気づかされた。

 そしてその後に優奈は、以前に義父たる日本魔導機関長が清水 三五との戦いの事を話していたことを思い出した。

 その話の中で、義父は清水 三五の水の硬質化する能力の高さに舌を巻いていた。


(じゃあ、あの全身が水に……水人間状態こそが、清水 三五の本気モードってことね)


 自分達二人は最初から本気で行っても、本気状態かつ回避だけ徹底していた清水 三五には苦戦させられているのに……いよいよ以って清水は本気状態になった。 つまり、これから更は過酷な苦戦が待ち受けられているということ。


「じゃあどうして、それを最初から使わなかった? それこそ翔真との戦闘時に使えば、坂本 璃子をオレ達に奪回されることもなかった。 今の状況にはならなかったぜ?」


「……たしかにそうね」


 それを気掛かりになるのは当然だろう。

 そしてその理由を清水 三五は淡白と答えた。


「別に話した所で、既にこの状態になった以上問題あるまいか。 なぜ出し惜しみしたのか、この状態ーー硬水体に至るには、それまでに一定時間による魔力の『貯蓄』が必要となる。そして貯蓄した魔力を勃発的に全身に走らせる。 そして俺は水属性に対する適性が極めて高いゆえ、それを元に水属性強化魔術を極め続けた結果生み出した水の硬質化と言う能力の派生系統、『硬水能力』を使い、全身に走る貯蓄した魔力へかければーー硬水体になるのだ」


「……なるほど。 そう言うことか」


「けど、その種を私達に明かしてもいいかしら?」


「二度も言うが、この状態に至った以上問題あるまいよ。 既にお前達魔導士二人には勝ち目はなくなったのだからな」


 優奈の挑発をもった笑みの指摘に、清水は既にこの戦いの勝敗が見えてるといった様子で返した。 それに少し眉をひそめる優奈と小太郎は、再び戦闘モードに入る。 本当に言葉の通り勝ち目がないのなら、それを証明してみろと言う気迫で、優奈と小太郎は動き出すーーが、それは島中に響き渡る怒号により止められた。


 ーーガァァァァァァァァァァァァァアッ!


 その夥しい気持ち悪い怒号が聞こえた方面へと優奈、小太郎、そして清水は視線を向けた。 するとそこには、全身緑色の肌で額に二つの角が生えた巨大な魔物がいた。 その巨大魔物は、腰には布を巻いているだけ、それ以外は緑の肌身を晒し、そして右手には大きな太棒が握られている。 その巨大魔物の正体を一目でわかった三人。


「ジャイアント・ゴブリンじゃねぇか! 可笑しいだろ! そんな馬鹿でかい魔物、この島にはいなかったぞ!」


 巨大魔物の正体の名を小太郎は驚き叫ぶ。

 そしてこうなることがわかってる者が一人いた。

 清水 三五だった。


「やっとか。 時間的に少し遅かったな」


「っ! それはどう言う意味だ!」


 その口からでた言葉に、小太郎はそう怒鳴りつける。そして、優奈は鋭い目付きで言い放つ。


「答えてもらえるかしら?」


「この島にいるゴブリン共は、鴉ノ研究会レイブン・ラボに前以て高度な技術を用いて、死したゴブリンの群れを一つに集め巨大させ、ジャイアン・ゴブリンとする異能改造をしたのだ。故にお前達が殲滅させたゴブリン共は一つに集約しジャイアン・ゴブリンとして復活した、と言うわけだ。そしてそのジャイアン・ゴブリンはやってくる。 敵と認識してるお前達二人を殺しに」


「「…………」」


 更なる厄介な事がふりかかり言葉を詰まらせる二人へと、


「さて、戦闘を再開しようか。 もっとも、ここからは一方的な戦いになるだろうが」


『硬水師』は淡々と告げた。


お読みくださりありがとうございます!

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