第65話:エミリーへの協力要請/ファーザス・クランチェロ
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一方その頃ーー。
「……もう翔真様達が乗る軍船は、ザーナ島へ出航した頃でしょうか」
場面はエスパタ第七県の第一区から第五区へと繋ぐ都道にて。
その都道に走る一台の異能騎士団専用の車ーーその車内の後部座席にて座るアメリカ魔導機関所属の魔導士、エミリー・フォリーヌが窓越しに外を眺めながら、そう口からこぼした。
「はぁ〜……本当でしたら、わたくしも翔真様達と共にザーナ島へ行くつもりでしたのに」
と、外を眺めるのをやめて前を向くと、肩をおとしながら溜息を吐きエミリーはそう不満そうにこぼした。
エミリーがこぼした言葉通り、彼女も小太郎と同じく翔真と優奈について行くつもりだったのだ。だが、
「どうしてこんな時、いきなり協力要請がわたくしにきたのでしょうか……?」
軍港へ共に行く寸前ーーアメリカ魔導機関からエミリーにとある魔導士からの任務の協力要請がはいってきたのだ。 そして今、エミリーは異能騎士団の車で、その魔導士の任務場所へと向かっている途中である。
だがエミリーは流されるがままに協力要請を出した魔導士の任務場所に行ってる故……今向かっているその任務場所が何処なのか? そして協力要請を出したアメリカの魔導士が誰なのか? そして何の協力なのか? それがまだ知らされていないのであった。
だかそんなエミリーのわからないといった様子でこぼした言葉を耳に入り、助手席に座っている異能騎士が思い出したように慌てて何やら封筒を彼女へ渡し、
「渡すのが遅れてすいません、エミリー様。 こちらがアメリカ機関から貴女様への協力要請書です」
謝った。封筒を受け取り、エミリーは異能騎士が謝罪してきたことを気にしませんと許した後、封筒を開け、中に入っている協力要請書を取り出し、そして書に載っている内容を見通すとーー、
「……そういう事ですか。なるほど、たしかにこれは一人では至難ですわ。そして選ばれたわたくしが一番適任ですわね」
協力要請書に書かれてある事を一通り見通した後、書かれてあった内容で協力が出た理由と、それがなぜ自分なのか、それらの謎を解けたエミリーは理解した。
(ですが、わたくしをこの任務に協力の要請により加わろうとも……相手が相手ですわね。 しかし、彼は編入生として潜入して一年、未だ敵の正体を突き止められてないとなると……やはり一人だけでは無理ですわね)
協力要請してきた魔導士と、その者が受け持つ一年前からの極秘任務の現在の進み具合を考えると……自分が協力しようともその極秘任務の遂行はそれでも至難かもしれないとエミリーはしみじみと思った。
「ーーけれども、与えられたこの協力の要請は、きっちり果たさなくてはなりませんね」
そしてもう一度、協力要請書に書いてある内容に目を通すエミリー。
そこに協力要請してきた魔導士の氏名と、その者が現在も続けている極秘任務の場所が書かれている。
協力要請を出した魔導士は→アメリカ魔導機関所属の日本人魔導士、佐々木 流介。
極秘任務場所は→エスパタ第七異能学園。
エミリーへの協力要請は……エスパタ第七異能学園へ、彼と同じく編入生に偽装し、協力して潜入捜査をすることだった。
そしてエミリーが乗る異能騎士団車は目的地へと都道を走る。
ーー坂本姉妹の救助へとザーナ島に向かう翔真達の一方、別の所でも事が急激に進み出していた。
◆◆◆
ーー同時刻。
場面は変わり、ザーナ島の研究所の通路にて。
その通路では、研究員がきる白衣を着た50代の白い短髪をした老人研究者が歩いていた。
老人の研究者の名は、ファーザス・クランチェロ。
カラス・イルミナティの研究機関、『鴉ノ研究会』に所属する犯罪研究者。
恵里奈と璃子……坂本姉妹を魔造人間にした張本人だ。
そしてこのザーナ島の研究所はーー北研究所・南研究所・西研究棟・東研究所、そして最も大きい中央研究所の五つあり、それら通路で繋げ……五星形にできている。
因みに、その他に研究所の大きな敷地内でも、様々な実験使用の器具や道具などがある倉庫や、実験使用の植物や動物がいる動植物管理施設などもある。
そして現在、ファーザス・クランチェロは中央研究所に入り、その中央研究所内の通路を歩いている。
(本当なら、昨夜の襲撃で魔導士どもから姫を攫う事が出来たはずなのじゃ! それを、あの雌豚二人は彼らに情を抱き攫う事を放棄しよって! 加えて、『硬水師』からによると、彼らへ助けを求めていたとも聞く。 以前にも幾度か助けを求めておったが、それを悉く失敗させて諦めさせたというのに……まさか再び、希望をだき始め、彼らへ助けを求めるとは……!)
と、恨みがましい表情で坂本姉妹へと恨み言をファーザスは内心ぼやく。が、その直後ーー肩を上下にゆらし不気味な笑いを浮かべだした。
(じゃが……雌豚二人が命令に違反しないように、あのお方が製造したあの魔導具で、雌豚二人を操り人形にしてやるのじゃ。 そうすれば余計な感情が消え、命令違反もしない。 今度こそ忠実な下僕になるじゃろう。ヒヒヒ! そうじゃよ、最初からあの雌豚二人を操り人形にすればよかったのじゃな。 なぜ儂はこんな簡単な事を今の今まで頭に入ってこなかったのじゃろうか……? まぁいいかの)
ファーザスは急いで歩き出した。それは、この男が早く坂本姉妹を操り人形にしたいという湧き上がる気持ちによるものだろう。
あと2分もしないしないうちに目的の室ーーザーナ島に住み着いた時から使っているーー執務兼私室にたどり着くだろう。
その室内には、ファーザスがいう坂本姉妹を操り人形にする魔導具がある。
だがその直前ーー中央研究所内の通路を行く中、ファーザスは前方から来る者と対面する。
(ッチ! 気分が良い時になぜこやつと会うのじゃろうな)
その者と対面したファーザスは、内心愚痴をこぼした。
その者……生真面目な男の名前は、"清水 三五"。
かつて25年前に終結した東アジア異能戦争を生き抜いた者であり、現在ではA級犯罪者で、そして『硬水師』の異名をもつ強者の異能戦士である。
現在はカラス・イルミナティの三大幹部組織の一角、ペティル・ファミリーに属している。
また、昨夜に翔真達との戦いをやめた坂本姉妹を気絶させ連れ去った者でもある。
「……あの姉妹はどうなった? もう操り人形にしたのか?」
「まだじゃよ。今からそうするための能力の魔導具をとりにここに来たのじゃ。それはそれと、貴様は今どこへ行こううとしてる?」
「少し外の空気を吸いに研究所を出て敷地に行くところだ。 ついでに島外の海を一度見に行く。今の状況からして、エスパタ異能騎士団か……またはあの『白銀の召喚師』が来るかもしれん。 クランチェロ殿も一応奴らに対抗するため、戦闘の下準備をし、彼らの警戒をしておくことだ。 では、失礼する」
ファーザスへ忠告をした後、『硬水師』清水 三五はこの場から去った。
そしてファーザスは彼の姿が見えなくなったのを見計らい、
(なんじゃあの態度は……! この儂を誰だと思っとるのじゃ!? おのれ清水 三五……元傭兵の蛮族が!)
この場から去った『硬水師』へ向けて、ファーザスは歯を強く噛み締めそう内心愚痴た。
この男ーーファーザス・クランチェロは、己が崇拝する『鴉王』と尊敬する鴉ノ研究会の会長の二人以外の人間の対しては、下等生物と見下しているのだ。
例え、組織内で自分よりも上の権力を持つ者であろうとも……表では下の者らしく振る舞うが、その本質は見下しているのである。
(気に食わない奴じゃが……まぁ今は儂の手柄のための駒になっとるし、許してやろうかの)
そう内心に言い括り、ファーザスは再び良い気分を取り戻すが……
「あら〜、クランチェロ殿じゃありませんか〜」
と、ファーザスが目的地へ再び歩き出そうとした直後……通った通路から艶めかしい呼び声がきた。
「……今度はお主か」
声をかけてきたのは、黒髪ショートの美女だ。
彼女の名は、"カタリーナ・ケアリー"。
彼女も清水 三五と同じく、ペティル・ファミリーに所属する者で、B級犯罪者認定されている優れた実力をもつ異能戦士だ。
西洋風の名だが、容姿から分かる通りれっきとした日本人である。
その彼女が現れた事に、ファーザスは嫌な顔をする。
「そういやな顔すると〜、私傷ついちゃうわ〜」
そういうが、身をくねらせ妖艶な微笑みをしているので、全くそんな気配などない。
「……カタリーナ・ケアリー。 何か儂にようでもあるのか? もしあるのなら速やかに用を申すのじゃ。 今の儂は忙しい」
ファーザスがそう威圧的に言うが、彼女は平然のまま。怯えるそぶりもなかった。
「清水さんはどこにいるのか探してるのよ〜。 その探す途中に〜、クランチェロ殿を見つけたから〜、もしかしたら清水さんが今どこにいるのか知ってるかなって〜、そう思って聞こうと声を変えたのよ〜」
「彼奴なら、外の空気を吸いに研究所の敷地のどこかにおる。 ついでに島外から何者かが侵入しないかもと確かめにも行くそうじゃ」
「あら〜そうなのね〜。 感謝するわクランチェロ殿〜。 今度このお礼の詫びをするわね〜。 たくさん気持ち良くして差し上げるわよ〜」
その大きな胸を強調し、如何にも誘ってる感じで甘い言葉を口にする。
反射的にファーザスは彼女の柔らかそうな胸に視線が引き寄せられるが……すんでのとこで逸らす。
ファーザスは、以前にもこういう事があり、その時は後に恥をかかせられたのだ。
故に二度もこの手には引っかからない。
彼女のこの言動と行動は自分を蔑めるものだと、ファーザスはわかっている。
「お主の戯言に付き合ってる暇などない。さっさと去れ」
その言いつけ、彼女はいう通りに場からさり、『硬水師』がいるであろう研究所の外の敷地へと行った。
今度こそ、ファーザスは目的の執務兼私室へと向かい、たどり着いた。
そしてーー彼の方が製造したという精神制御の魔導具を持ち、再び坂本姉妹のいる人体実験兼拷問室に戻るのだった。
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