第57話:昨夜の戦闘から、翌日(上)
◆◆◆
ーー昨夜の出来事から、翌日・午前10時00時にて。
場面は、エスパダの第七県第八区の異能警備署にて。
その署舎内の特別応接室にて、加藤 翔真と柳 優奈……そして、江本 小太郎とエミリー・フォリーヌの4人が、中央の四つ並んである一席ソファーに腰を下ろしていた。
「ーーなんと……! お二人も、昨夜襲撃にあったとは……!」
その4人の反対側に、三席ソファーの真ん中に腰を下ろしているのは、エスパダ第七異能騎士団諜報部隊の一人だ。
そして諜報部隊の異能騎士は驚いた表情で、僅かに声が上がってその言葉を出した。
だが、翔真と優奈らその言葉に内に気なる部分があった。
「『も』、と言うのは……」
その気になる部分を、優奈が言うと……その答えを言ったのは異能騎士ではなく、彼女の隣に座るエミリーだった。
「実はお二人と同じく……わたくし、そして翔真様の隣に座っているバカヘッドも、昨夜敵の襲撃にあいましたの。そしてエスパダ第七異能騎士団にも襲撃にあいましたの」
「何ですって……!」
エミリーの報告に、優奈は声を荒げる。翔真も驚きの表情だ。 どうやら翔真と優奈の他に……エミリー・小太郎の二人とエスパダ第七異能騎士団にも、連中の襲撃にあったようだ。
「昨夜の出来事をあらかた報告するとだなーー」
そしてエミリーの報告の続きを、小太郎が答えた。
そうして小太郎から経緯を聞くにーーエスパダの第七県の第一区から第二区に続く道路にて、潜んでいるカラス・イルミナティの者達を探索していたところ……突如道路の右側にある暗闇の森林から敵が襲撃してきて、そのまま道路から暗闇の森林内で戦闘したとのこと。
一方でエスパダ第七異能騎士団の本部近郊でも敵が現れ、そこでも戦闘したとのことだ。
第一区と第二区に繋ぐ道路の隣の森林内にて、エミリーと小太郎が敵との戦闘。
エスパダ第七異能騎士団本部近郊にて、異能騎士団と敵の戦闘。
その二箇所での襲撃、戦闘が始まった時刻は19時00分らしく、翔真と優奈が襲撃された時刻より二時間前のようだ。
そしてそこから1時間に渡り戦闘が続き……1時間後にて唐突に敵が戦闘放棄し、姿を消したのだと。 恐らく退いたのだろう。
「オレ達二人に襲撃してきた敵は素顔を隠してたから、誰だかわからなかったけど……性別は男だったな。エスパダ第七異能騎士団へ襲撃した敵はーー」
「ーーこちらも素顔を隠してたので誰なのかわかりませんが、体形からして女性だと判明しています」
あらかた皆に報告し終わった後に一度間を置いた後、続けて小太郎はそう言い、後半からは繋げ様に異能騎士が告げた。
「相当は手練れた強敵でしたわ。わたくしのシーちゃんの見立てでは、『本物の戦争を生き抜いた強者』と言っておりました」
シーちゃんと言うのはエミリーの相棒である召喚獣、聖獣ペガサスの愛称である。
因みに、この場にいる異能騎士以外の皆はそれを既に知っている。
以前にその愛称を知った時は、翔真と小太郎は苦笑いして、優奈だけは目をキラキラして可愛いわね!と褒めていた。
「そういやぁ、お前の聖獣はそう言ってたな。まぁ実際、戦ってみて実感した。あれは強かったな。オレとドリル女二人を相手に、余裕の優勢だった。多分あのまま戦い続ければ……最悪、オレ達二人ともやられてたかもな」
「そ、そんなに……!?」
昨夜襲撃してきた敵の戦闘力が自分とエミリーの二人の戦闘力を合わせても上だと、真剣な表情で言った小太郎に、優奈は衝撃をうける。
(一流の魔導士である小太郎とエミリー、その二人を相手に余裕の優勢をはった、か……)
江本 小太郎とエミリー・フォリーヌのB級魔導士……やり手の魔導士だ。
その二人を圧倒していたということは、今回の敵は風ノ忍衆よりも強いなのだと認識しなければならない。
それこそ、エミリーの聖獣の言葉からするに……戦争は二十五年前に終結したあの東アジア異能戦争以降は全くない。
故に、二人が相手をしていたのは熟練な強者だ。
つまり、四十代以上の戦士だろう。
翔真はそう考える。
(だが、それよりもーー)
ーー今回の敵側に、友人となった恵里奈と璃子……坂本姉妹がいる。
二人は無理やり連中から従わせられている。
今回は優奈を連中から守りつつ壊滅させ、かつ坂本姉妹を連中から救い出す。
今回の戦いで翔真は自分がやり遂げなければならない目的を頭の中で再確認させる。
一、優奈を守り通す。
二、今回の敵連中の壊滅。
三、坂本姉妹を救い出す。
(風ノ忍衆との戦いよりも、難易だな。 だけど……約束したんだ。絶対に助け出すって。だからここで弱音を口に出してはダメだ)
昨夜、あの時、その場で敵として認識させるために偽りの仮面を被っていた姉妹だが、それが剥がれると……途端に涙を流した。
嘘の涙などではない。
目から流れ落ちたその涙の雫は、悲痛が含んだ本物だった。
心の底から、救いをおとめての涙だった。
それも……なんども流したと、なんとなくわかった。
恐らく、これまで何度か助けを求めていたのだろうと、あの時感じ取れた。
「…………」
あの時の坂本姉妹の事を深く思ったせいなのか、翔真は無意識に両拳に力を入った。
それも、尋常じゃない力で強く。
それにより、左手の平に血が流れ出てしまう。
「ちょ、ちょっと翔真! 左手から血が出てるわよ!」
「こ、これは大変です! 今、救急箱持ってきますので……!」
「待って、私も行くわ!」
「あぁぁぁあ! しょ、翔真様! 早く左手を治療しなくては……待っててください! 」
と、それに気付いた優奈とエミリーに異能騎士の三人が救急箱を取りに特別応接室から退室した。そんな一方で、小太郎は威厳ある顔付きで翔真へ、
「……おい。あの三人は気付いていなかったようだが……お前、なんて顔してんだよ。 そんな顔をするんじゃねぇよ。みっともない」
と、強くキツい言葉を投げた。
「なに……?」
「物凄い思い詰めた顔だ。そんなにーーあの姉妹を救い出さないといけないのか?」
「当然だ。二人は連中に無理やり従わせられている。 二人の戦い方は素人だったとい事は……本来あの二人の僕たちがいる血濡れた世界とは違って………表の世界で、普通に暮らしていたに違いない」
「だが……お前からの情報によれば、あの姉妹の魔力は人間にとって外敵危険生物、魔物や魔獣と同じ魔力だったと言うじゃねぇか。 それに異能を使わず、竜人となったときく。お前から姉妹による情報だけでオレが推測するに、それはつまり……」
「……小太郎。お前は何が言いたいんだ?」
「お前なら直ぐに言われずともわかるだろ? まぁ言って欲しいなら言うぞ。 あの姉妹は、最初から人間じゃなーー」
「ーーそれ以上は言うな」
「…………」
刹那の間にーー翔真は己の魔力を物体化させ、強度な魔力剣をつくりだし、切っ先を小太郎に向けてた。それに小太郎は……怯むことなく、その闘志を燃やした両眼を翔真へぶつけた。
両者、ケンカ即発な雰囲気になりーー。
「ちょっと、なんでケンカしてるのよ!」
とそこで、その直後に戻ってきた三人のうち一人……優奈は驚いた表情でそう二人へ叫んだ。
お読み下さりありがとうございます!




