第4話:呆気ない終わり
突然現れた第三者、褐色肌の美女。
翔真と男異能者は呆気にとられ固まる。
先ほどまでの状況が一変した。
その美女は自分の言葉が2人に聞き入れられたと思ったのだろうか。くるりと翔真へと身体を向けると言い放つ。
「貴方! 一般人なのに異能者相手へ突っ走るんじゃないわよ! 危ないからここから離れて逃げなさい!」
「……え?」
美女の言葉に、翔真は間抜けな声を洩らして反応する。何故か、美女は翔真を一般人と見ている様だ。
何故なら美女の頭の中では、一般人である翔真が異能者である反対側にいる男へ勝負を挑んだ、と。こう思っているのだ。だが、これは翔真にとってチャンスとも言えよう。
(よし! この美女さんが異能者であることは確実だ。 それに僕と男の間に彼女が入り込んでくるまで、僕は全く気付かなかった。 この美女さんは相当高い実力を有する異能者といえる……。なら、ここは僕は一般人ということにしてこの場から退散しよう。後はこの美女さんに任せるか)
そうと決まれば、早速、翔真はこの場から退散する為一般人に装い行動に移す……が、
「え! これは異能反応! 君も異能者だったのね!?」
と、2人の間にいる美女が何やら服のポケットから取り出した小型レーダー機を見た後、驚き顔で翔真へそう言った。
(あれは……小型の異能レーダー!? なんでこの美女さんがそれを!?)
その一方で翔真は翔真で、美女が手に持ってる小型レーダーを見て驚いていた。
もちろん、美女の驚きた顔で言った言葉はちゃんと聞いている。だがそれ以上に、翔真はその小型レーダーの方へ向いていた。
『異能レーダー』ーー簡単に言うと、異能を持つ者、異能者を判別する事が出来るマジックアイテムだ。
この異能レーダーにより、美女は翔真が一般人ではなく異能者だという事実に気付いてしまった。 まぁ、自分が異能者であるという事実自体はバレても問題ないので、翔真はあまり気にとめなかった。
それよりも、美女が何故異能レーダーを持っているのか、それが気になっていた。何故なら、
(異能レーダーは軍の者しか所有していない。なら……この美女さんは軍人って事か? そして異能者。て事は、魔導機関に所属している魔導士か! だが)
そうだとしたら、何故この場に居るのかという疑問が生じる。 魔導士は普通、この都市エスパダにはいない。かく所属する国にいるはず。
例外があるとしたら、流介の様に何かしらの任務で訪れたとしか考えようがない。 もしそうだとしたら、
(美女さんも任務でエスパダに来たって事か)
と、翔真はそう結論付けた。一方で美女の方は、何やらスマートフォンを手に持ち耳へ当てながら話している。
誰かが電話して来て、その人物と話ている様だ。そして僅かな数秒の内に電話を切り、スマホを服の懐にあるポケットへしまった。その時、
「今がチャンスだ!」
と、今まで黙っていた男異能者が美女に襲い掛かる。 手には、お手頃サイズの風の竜巻が出現し、それを美女へ投擲する。
「風遁、《竜巻風球の術》!」
その叫びと共に、竜巻型の風球は一直線に高速で美女へ襲い掛かる。しかし、その高速で向かってくる竜巻風球が美女の間合いまで来た時、ドシュッ!
「な、なに!?」
自分の異能による攻撃が突然消滅し、男は思わず狼狽える。 慌てて前後左右に視線を走らせた男は、美女の近くにモヤモヤとした黒い霞の手が浮かんでいるのが目に入り、
「俺の《竜巻風球の術》が消滅したのもそれのせいかっ! なんだその黒い靄の手は!?」
と、焦りながらの美女へそう叫ぶ。すると、美女は自分の目の前の横にある黒い靄の手を解説する。
「この黒い靄の手は、黒魔術《闇之消手》。向かってくる異能による攻撃を消滅させ、無効化する。私のお気に入りの魔術よ。これで貴方の竜巻の風球を掴み、消滅させたのよ」
(へぇ、凄いな)
美女の解説と共に黒い靄の手は、大きくなったり小さくなったりと、大小を変えた。
大きさを変えられる形態の様だ。
どうやら先ほど見たアレは、黒い靄の手を男異能者が放った竜巻の風球より少し大きく変化させ、握り潰すようにして竜巻の風球を消滅させたということだ。
翔真もそう推察していた。美女の説明から翔真の推察はあっていたことが分かった。
そして美女の言葉から分かる通り、あの美女の異能は黒魔術で、男異能者が放った竜巻の風球を握り消滅させたのが、黒魔術の術の一つ、《闇之消手》と言うわけでなる。
その《闇之消手》の効果を聞いて、翔真は内心素直に褒めた。
(あの美女さんは、黒魔術使いの魔導士って事か。兎も角、もう僕が異能者であるってこと自体はばれているし。一般人を装って退散することも出来なくなったな……さて、どうするか)
と、この場から離脱したい一心の翔真。その直後に唐突と美女が、男異能者に向けて言い放った。
「そこの男、大人しくしなさいよね! これ以上騒ぎに起こすなら実力駆使で抑えわ。いいわね? もう直ぐエスパダ第七異能騎士団が来るから、彼らに連行される事ね」
「そう言われりゃあ大人しくするわけねぇよ!」
と美女へ文句を放った直後、男異能者は再び霊力を、今度は自分の真上に集束させ、そこを基点として周りに多くの大型の風球を展開させる。
空気中から、風の荒れが発生し、台風の様に荒れ狂う。
その風圧に、翔真と美女は両手で顔を覆い隠し、風により宙へ舞った砂埃や小さな石などが目に入らない様にする。
そして大人しくしないで反抗し出した事により、美女は言葉通りに実力駆使で抑えに行く。
「仕方ない、一瞬で終わらせるわ。 ーー《黒転浪剣》!!」
直後、美女の横付近に空間が縦一直に割れ、そこからホワイトホールから放出の様に黒き剣が顕現された。
この黒き剣の刃と握り部分の分かれ目には赤黒き浪のシンボルがあった。
そしてその黒き剣から発せられる凄絶な圧迫、尋常ではない剣だという事は間違いない。
それを感じとった翔真は、男の命運はこれで尽きたな、と思った。
「食らいやがーー」
「ふんっ!」
「ガハッ! 」
男異能者が準備完了といった様子で真上付近にある多数の大型風球を美女へ放とうとしたが、その寸前に美女が男異能者の背後へ一瞬にして接近し、男異能者の首へ手刀を打ち、気絶させた。
何とも呆気ない終わりである。
そして美女は気絶させた男異能者が倒れたと同時に、顕現された《黒転浪剣》を解き、その黒き剣はブラックホールに吸い込まれたかの様に消えた。
「全く! 大人しくしなさいって言ったじゃないのよ」
と、倒れ気絶している男異能者へ、忠告を無視した事への愚痴をこぼした。 一方でその光景を見ていた翔真は、
(手刀して終わらせるなら、どうしてあの黒い剣を顕現した!? 顕現した意味ないじゃないか!)
と、口に出さず、美女へ向け心の中でツッコミを入れるのだった。
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