第3話:褐色の美女、現る!
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「オラあ!」
右拳を使い、殴り掛かってくる怒った男。
それを翔真は容易く、そのうえ、欠伸して躱した。
まさかこうも簡単に躱されるとは、いや、この少年が自分の拳を躱せるとは思わなかった男は、非常に目を見開き驚く。
その直後、今の攻撃をこの少年は欠伸をしながら躱したのだということに気付き、顔を真っ赤にして更に激情しだす。
「こ、のぉおおおおおおおお!!」
怒った男は勢いを出し、叫びながら右足による蹴りを放つ。が、これも翔真は容易く躱す。
男の攻撃が又もや躱されたがそのまま引き続き。
右拳の振り、左拳の振り、右足の蹴り、左足の蹴り、と立て続けに拳打や蹴打と攻撃しに行くが、その悉く容易く躱された。しかし、
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ぐっ、クソ! なんで疲れてねぇんだ!」
既に何十回、いや、既に百に近い回数で攻撃を躱しているはずの翔真は息一つ切らさず疲れていない。
平然としていた。
これには男は何故疲れないのか分からない様子で、更に一度攻撃か当たらない事に悪態を吐く。
(クソ!何故俺の攻撃があたらねぇんだよ!)
「どうした? もう終わりか? 僕は全然余裕だぞ」
と、攻撃して来なくなった事に翔真は男へそう怒らせる様に言うと、
「ぐっ! このガキぃ! いいだろう! お前には特別に俺の異能を食らわしてやるらあ!」
「なに!?」
と、突如として放った怒った男の異能発動宣言により、流石に翔真は動揺する。
周囲の客達も、男の言葉を聞き、客達は顔を真っ青にし悲鳴を上げながらこの場から逃げ出した。
店内にいる客達も、そして喫茶店にいた店長と店員達もパニックになったように慌てて店から出て、逃げようとする。
そして瞬く間にこの場には……翔真、怒った男、その2人を静かに気楽そうに見ていた流介、そしていつの間にか気絶した倒れてる店員、この4人だけになった。
倒れてる店員は激痛の余り気を失ったのだろう。
「おおおおおおおおああおおおお!」
と、怒った男……男は叫び声を上げながら、体内に宿るエネルギーを一点に集中し出した。
直後、男を中心に螺旋状の竜巻を起こす。
すると、周辺にある喫茶店や木に道路の数多くのコンクリート等が、崩れたり、反響して宙に浮かんだり吹っ飛んだりし出す。
最早この場と近辺は、男の異能により荒んだ。
男のそのままエネルギーを一点に集中し続ける。
その中、その一方で翔真は流介へ頼みを言う。
「流介、気を失ってる店員さんを病院へ運んで行ってくれ」
「いいのか? 相手は異能を使う異能者だぞ? お前はもう力を、異能を使わないって決めたじゃないのか」
「なに言ってる流介? お前も知っているはずだぞ? 僕は異能を使わなくても、並の戦闘の特化した異能者でも圧倒するほど強いって事を」
と、不敵な笑みで流介にそう言葉を返す翔真。
2人の会話からして分かる通り、実はこの2人、目の前に異能を使い出す男が異能者だという事を最初から気付いていた。
ここ、都市エスパダは異能者育成兼住居なので街中に異能者はざらにいると思うだろうが、実はそうでもないのだ。
都市エスパダに住む人口は約7割が一般人なのである。よって街中にいる人々は殆どが一般人だ。
それに翔真達が今いるここ、第七区は第一県〜第二十四県の第七区同様に市街地なのである。
故に一般人が住む者達が多く、早い内にこの男、男異能者を止めなくてはならない。でないと、一般の人々へ被害が及ぶ。
「あ〜そうだったな」
そして翔真の不敵な笑みで返してきた言葉に、流介は納得。そしてその流介へ、翔真はもう一つ頼みをいった。
「それと、エスパダ第七異能騎士団にも通報してくれ」
「あ、それなら翔真がその男の攻撃を躱している間にもう通報したぞ。つう事でーーよっと!」
と、言いながら翔真の後ろで気絶している店員の所へ行き、担ぐ流介。
流介は魔導士で軍人でもあるので、この状況でも取るべき行動を取っていた。
「んじゃ、また後でな」
「ああ」
そして流介は、この場から退散し、気を失った店員を担ぎながら病院へ向かった。
去って行く流介を一瞥し、翔真は目の前にいる男異能者へと視線を向け、思った。
(ただ店員さんへの暴行を止めるだけのはずが、こんな事件沙汰にまでなっちゃったな。ははは!)
と、引き攣った顔で苦笑いを浮かべる。
暴行を止めようとしただけで、こんな大事になると誰が想像出来るだろうか。
まぁ今更自らの行いに後悔しても遅い。と言っても、微塵も後悔などしてはいないが。
だが、翔真は今は別の事を考えていた。
(僕は平穏に暮らしたいのに……どうも最近は不幸ばかりだ)
思い浮かべるのは、ここ最近の不幸であった。
昨日は、アルバイトしているコンビニで買った商品を、いちゃもんして来たクレーマー。
一昨日は、何故か道端にあった犬のフンをドジって踏んでしまった。
三日前は、散歩してる間に手持ちにあった財布(それほど金は入ってない)を落とした。
「…………」
…………それほど大した不幸でもなかった。
(と、兎も角! 目の前の男をなんとかするか!)
そう結論付け、翔真は目の前の男異能者へ視線を戻す。
竜巻が舞う中、その中心の男異能者が集中して行くエネルギー、それらを翔真は観察し、その男が持つ異能の正体を瞬時に見破った。
「なるほど、お前は忍者だな」
「ーー!!」
忍者、と言う言葉に男異能者は動揺し反応する。
まさかこれだけでと、そしてこの僅かな時間で見破った事に男異能者は微かに戦慄をする。
だがそれをこの青年に見せまいとするが、
「お前が集中して生み出すエネルギーから忍特有の“霊力”を感じる。そしてお前を中心に舞う竜巻と感じるこの力から判断すると、お前の異能は“風遁術”。ならお前は、風遁術使いの忍者なんだって事が僕は直ぐに分かった」
「っな!」
翔真の適切な説明に、男異能者は驚愕する。
まさか異能職業までもが見破らてしまうとは思いもよらず再度驚く。そして、
「さて、そろそろ行くか」
「ーー!!」
その直後、男異能者はエネルギーである霊力に集中するのを止め硬直する。同時に、顔を真っ青にさせ冷や汗を流し始めた。
それは何故か。
理由は、目の前の青年、翔真から突然凄まじい威圧が男へと放たれたからだ。
そしてこれにより、男異能者は瞬時に悟った。
ーー敵わない相手を敵に回してしまった、痛い目を見るのは自分なのだ、と。
そして翔真は、男異能者へと駆けようとしたーーその時。
「そこまでよ! 2人とも大人しくしなさい!」
と、突如として第三者が2人の間へ入り、そんな事を言い放った。
その第三者はーー艶かな黒髪セミロング、男を惑わしそうな黒瞳、これ又男が涎を垂らしながら寄って行きそうな肉感的のグラマーの身体で褐色の肌をした美女だった。
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