第2話:佐々木 流介
◆◆◆
――都市島エスパダ・第七県の第七区(市街区)にある一軒の喫茶店の外にある隅のテーブル席にて。
付近のほか客席には中くらいの数の客がいる中。
その隅のある一つのテーブル席には、金髪碧眼の18歳の青年の翔真と、同い年と見える黒髪の青年が着席しており、注文した紅茶を飲みながら寛いでいた。
「くぅぅ〜! やっぱ食後のブラックコーヒーは最高だぜ!」
「……お前の味覚はいったいどうなってるんだよ?」
恍惚としながらブラックコーヒーを味わい楽しむその黒髪の青年に、翔真は思わず呆れながら言う。
食後にブラックコーヒーと言う組み合わせは合うのだろうかと、翔真は気になった様である。
すると、翔真の言葉にその黒髪の青年は返答する。
「どうもこうも、俺は普通の味覚をしてるぜ!」
「へ、へぇ〜……」
黒髪の青年の堂々と清々しいまで答える様に翔真は引きつりながら相槌をうつ。
黒髪の青年の名前は、"佐々木 流介"。
年齢、18歳。
彼は都市エスパダの第七県の代表校である、エスパダ第七異能学園の三年生だ。
そして翔真の友達である。
流介は知っての通り黒の短髪と黒目といった一般的な容姿で、ごく普通の青年に見えるが、実は唯の学生の青年ではないのだ。
実は彼、流介はアメリカ国軍のアメリカ魔導機関に所属する、魔導士である。
ここで、魔導機関と魔導士の二つの事を簡単に説明しよう。
【魔導機関】――それは、異能者の犯罪者や魔獣に魔物などを危険生物を捕獲又は殺傷またその者らによる災害やテロの対処等に行う、各政府公認の正規なる異能者組織で、軍に属する組織だ。
そしてこの組織、魔導機関に所属している異能者を『魔導士』と呼ぶのだ。
そして流介は、アメリカ国軍のアメリカ魔導機関に所属している。
何故、既にプロの異能者であるはずの流介が異能者を育成する学園に通っているのかというと、それはとある極秘任務の為だった。
これに関してはいずれその時に来れば説明しよう。
因みに、流介がアメリカ魔導機関に所属する、魔導士である事は翔真は知っている。
「そう言えば、今日は何曜日だっけ?」
「今日は金曜日だよ」
「金曜日かぁ〜……ラッキー! 明日学園休みじゃん! あはは〜!」
「ふ〜ん、そうなんだ〜」
流介の言葉を、翔真はどうでもよさそうに返事をすると、
「なんだよっ! 元気ないじゃないか、翔真! どうしたよ!」
テーブルにダルんと顎を乗せる翔真に、流介はさほど心配してはいないが…どうかしたのかと口にすると、
「どうしたって、バイドの後だから疲れたんだよ、僕は」
「コンビニのバイドだろ。そんなんで疲れるのか訳がないぜ!」
「体力面じゃない、精神面だよ! 本当ならバイド終わって家てゴロゴロしようと言う予定だったのによ!」
「なんだ、それは予定の枠に入らないと思うぞ。て言うか、そんな毎日バイド以外の時間が暇時間だけなら、なんで高校中退したんだよ?」
「僕にも色々と事情があるんだよ。 余計な詮索しないでくれ」
「あ〜、分かった。分かった分かった。分かったよ〜」
「ふざけた謝りだな!」
そんなこんなで、翔真と流介は和気藹々と話していると、
「てめぇ! なにしてくれてんだ! ズボンに掛かったじゃねーか!」
「す、すいません! す、すいません!」
と、翔真と流介の2人は何事だ!? と思いながら自分達がいる隅のテーブル席とは逆方面へ目線を向けると……そこでは、あるテーブル席へと1人の男が店員に怒鳴り、そして店員が頭を必死に下げ謝っていた。
男の方は、怒りに顔が真っ赤で、店員の方は慌てている。
怒ってる男のズボンには、その男が注文したと思えるコーヒーの跡があり、そのズボンはびしょ濡れであった。
これらを見る限り、謝っている店員が男のズボンに誤ってコーヒーを零したようだ。
普通なら、ここで一見するだけだろう。
実際、他の席に座っている客達は、すぐに顔を戻して注文した料理や飲み物を食べるのを再開させている。
だがすぐにそんな客達の動きも止まってしまった。何故なら、
「おりゃあ!」
「ッグハ!」
『ーー!!』
その怒った男が謝っている店員の腹を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
流石にこれには、誰もが唖然とする他なかった。
自身のズボンにコーヒーが誤って掛かっただけで、いきなり暴力を振るうとは思わなかっただろう。
そしてこれだけの事で、暴行に出るとは筋違いだ。
いや、それだけの事で怒り、暴力を振るう者もいるにはいるだろうが。
それでも、これは非道である。と、誰もがそう思ったが、それを制する者はいなかった。
何故なら、先ほどの見た店員の様に腹を蹴り飛ばされたくないからだ。
そして店員は怒った男に蹴り飛ばされたことにより、横に倒れながら手で蹴られた腹を抑え痛みに悶えている。
「おら、立てよゴラァ!」
怒った男は痛みに悶えている店員へ近づきながら、怒鳴り声でそう言葉を放った。
だが、店員はうずくまったままである。
無理もない、余りにも痛すぎて立ち上がるのが困難なのだ。
怒った男は、自分の言った事を実行しない事に更に頭に血がのぼり、直ぐに店員へ目の前へ来て、再度同じ腹へと蹴り掛かる。が、その寸前ーー、
「やめなよ、あんた」
「っな! な、なんだぁガキぃ! そこどかねぇとテメェも痛い目にあわせるぞ!」
怒った男と倒れて悶えている店員の間に、いつの間にか悶えてる店員を庇う為に壁となっていた翔真が男の暴行に制止の言葉を掛けた。
一方で、男の方は突然見知らぬ者が現れ、一瞬ビクッと狼狽えたが、それが取るに足らない少年だと分かると威圧的な荒んだ声を放つ。たが、
「なら……その痛い目とやらを僕にしてみるか?」
と、翔真は男へとこれまた挑発的な言葉で返した。それを聞いて頭に血が上った男は、
(この野郎! ぶっ潰してやる!)
と、まんまと挑発に乗り、男は翔真をぼこぼこにしてやろうといきり立った。
だが、男はこの後思いもしなかっただろう。
まさか、痛い目を受けるのが自分だということを。
お読み下さりありがとうございます!