第123話:一方、高層ビル屋上で(上)
◆◆◆
一方その頃――。
エスパダ第七異能学園を見渡せる北方の高層ビル……既に全ての階のフレアが消灯したそのビルの屋上の広場で……暗き光が放射線に放たれた魔術陣が、その床に展開された。 そこから、その魔術陣を展開した術者が浮かび上がり、その姿を見せる。
「さて、戦況はどうなっているのやら……」
その男の者の名は、カラス・イルミナティの『鴉伯』ルーナイ・オズボーンであった。 彼は得意とする転移魔術からこの場へと、偵察兼目的のブツを密かに回収しにきたのだ。 そしてシュラードたちと優奈たちや異能騎士隊と……彼らが戦っている様子を、ルーナイは一先ず魔導具〈望遠魔鏡〉で見物へ――と、その直前。
「――っ!」
高層ビル屋上の、更にうえの夜空から突然と降り落ちる逆さの火柱。 それを落ちる直前にいち早く察知したルーナイは瞬時に転移魔術で、その場から避ける。 逆さまに燃え盛った火柱はうねうねと散って行き、その床には焦げ跡が残った。 反対側の柵の手すりへと移動したルーナイは、火柱を放ってきた者がいる左の柵へ視線を向ける。 するとそこには――、
「よう、『鴉伯』ルーナイ・オズボーン」
気さくなにそう呼びかけたのは、エスパダ第七異能騎士団の団長クレス・アークレスだった。
「……これはこれは、なんとまぁかの異能騎士長、それもかの『炎の剣聖』と謳われたクレス・アークレス殿とこの場で巡り会うとはなんと不運でしょうと思うところでしょうが――」
ルーナイの目が鋭く変わった。
「――私がこの場に現れることを、予見してましたか」
「おう、その通りだ」
クレス団長はこの男からの言葉をすぐに肯定。
誤魔化しや隠すなどの必要はないからだ。
「ここ最近の立て続けにくる起こる事件――風ノ忍衆の件、ザーナ島の件と。 それらの件の影にお前はひっそりと隠れていた。 だから今回の不可解な現象事件がカラスが起こしていたとすれば、お前もどこかで現れると予期していた。 他にも、彼ら悪魔使いが正体がバレたと現在、どう俺たちから捕まえず切り抜けられるか模索していると読み、そして組織の中でこの切迫詰まった状況でも逃げられる手段を持つ者を呼ぶと見てもいた。 ……まぁたしかにお前の空間系の術なら、俺たちに追い詰められようが逃げられるだろうよ」
そう。 クレス団長と翔真たちはルーナイ・オズボーンが、もしくは強い仲間を自分たちが逃げ果せる為に呼ぶはずだろうと読んでいた。 その中には、異能原爆の水晶も回収して。 故にそうさせない為にきたるその敵の者を出来るなら捕縛もしくは目的を阻止か、最低でも悪魔使いとの戦いが終わるまで足止めを、クレス団長が引き受けて待ち伏せていたのだ。 そして案の定、カラス・イルミナティでも上位につく大物の犯罪者が現れて来てくれたわけである。
「見事に現れてくれてありがたいぞ、ルーナイ・オズボーン。 俺としちゃあ組織のアジトの場所や機密など洗いざらい吐いてもらうために、お前を捕らえたい。 なんなって『鴉伯』だからな。……だが過去にカラスの『鴉伯』階級の者を何度か捕らえようとしても全て失敗に終わってるから、一筋縄じゃいかないだろうが」
過去の事例では、A級魔導士が率いる精鋭の魔導士部隊に相手とっていた事や、またA級魔導士と戦い勝った事もあり、A級魔導士以上の実力があると推定されている。 また、S魔導士とも互角の戦いをした事例もあった。 たとえクレス・アークレスが異能騎士団長だろうとも、この『鴉伯』のルーナイ・オズボーンは油断大敵である。 無論、クレス団長はそれを理解している。
「だが今回は一先ず、お前がここに来た目的を阻止するために足止めさせ、引いてもらう。 ――お前を退けさせてもらうぞ」
クレス団長は右手を肩ほどにあげた。 すると――彼の右手を中心に空間が歪みに歪んだ直後、螺旋を渦巻きながら、炎神のごとく燃え盛る焔が刻み込まれた一本の赤き炎の剣が顕現された。 その剣をクレス団長は掴み取る。
「っふ、あははははははは!! 退けさせてもらう、ですか……まぁ私個人としても、ここで異能騎士団長殿と一戦交わすのは避けたいですねぇ。 しかし」
「しかし?」
「どうしても例のブツを回収しなくてはなりません。 なので、ここは引くわけにはいかないのですよ」
「例のブツ……異能原爆の結晶のことか」
「ええ、そうです。 それにしても彼の報告通り、既に異能原爆を製造してることに嗅ぎつけるとはお見事ですよ」
「凶悪犯罪者に褒めても何も嬉しくないな。だがいくつか解せないことがある。 異能原爆の製造は禁止とされている。 その製造方法も極秘だ。 しかし報告では異能原爆は半分まで完成していた。 ……お前は知ってるんだろうな? どうやって異能原爆を半分まで完成させたその理由、いや方法を」
「それにお答えすることはできませんよ」
「そうか。まぁ答えなんてこないことはわかっていたけどな。 それにどうせ俺の部下達が、危険極まりない異能原爆を処理するから別にいいけどな。結局のところお前は異能原爆の結晶を回収するはできない」
(ふふふ、果たしてそれはどうでしょうかねぇ)
何か意味深な含みある微笑のルーナイに、クレス団長はそれに何かあると疑わしく思いつつ、話を進める。
「ここ最近常々、俺は不審に思っていた」
そしてここからが、自分自身が最近疑わしいと思っている事を、クレス団長は切り出した。 最も解せないことを。
「不審、とは?」
「風ノ忍衆、『硬水師』清水やカタリーナ・メアリーと……カラス・イルミナティの者達が、なぜ人工島・都市エスパダのセキュリティー網を突破し、都市に入り込める事が出来たのか? あのエスパダを守る大結界を潜り抜けられることが出来たのか? だ」
エスパダは外からの敵・犯罪者など侵入することはできない。 それはクレス団長が述べた通り人工島・都市エスパダに厳重なセキュリティーを張っているからだ。 都市の全域に六重式異能大結界が張られているのである。
正式な手続きがない乗り物で不法侵入しようとも、それこそ異能によるもの――転移魔術など――結界がそれを遮断し封鎖すると同時に通報する仕組みもされている。 なので内密に外からエスパダ内に侵入は不可能なのだ。だが今日まで、二件による敵の侵入を許してしまっている。風ノ忍衆や『硬水師』達が、実際に侵入されていた。
クレス・アークレスはそれについてどういうことか?と疑わしく思った。 それから考察した。 なぜ侵入を許してしまったのか? もしかして彼らの侵入の際に、誰にも気付かれず悟られないようにセキュリティー網を一部カモフラージュして解除したのではないか? そして解除には内側ではないとできない。 結果、クレス団長は信じたくないある一つの考えに至った。 それは――、
「いるんだろ? エスパダ上層部にお前らカラス・イルミナティの内通者 ――《裏切り者》が」
:次回の最新は明日です。