第118話:対面、激突、その一方で(下)
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夕陽が沈んだばかりの夜の頃。
エスパダ第七県第五区――歓楽街にある一店の飲食店で。
今日の正午にて佐々木 流介は、今日の夕飯というより夜飯を一緒にとらないか? と電話でシャリル・デネーナへ誘うと……彼女は二つ返事してくれた。
そして約束通り、流介は待ち合わせ時間と場所で彼女と落ち合う。
その後に歓楽街で人気飲食店ランキングのトップクラスの順位にはいる飲食店にいき、流介はそこで彼女と一緒に食事をとることにした。
そして現在、二人は注文したそれぞれの料理をナイフやホークと、食器を使って美味しそうに食べる。
ちなみにシュリルが注文した料理は、チーズをのせたハンバーグステーキで。
一方の流介が注文した料理は、チキンとソーセージいりのハンバーグのステーキだ。
もちろんライスとドリンクも注文している。
そうして二人は食事をして雑談をしながら……やがて食べ終え、会計を済まし、店から出た。
このあとは、話があるとシュリルへ言って、流介は彼女を連れて、誰も寄り付かない人気のない公園へと向かっている。
それから暫くして、木々が左右立ち並ぶ夜道を淡々と、二人は言葉交わすことなく歩く中で。
流介は落ち合った時からシャリルの様子を気にしていた。
(様子が、変だ)
そう。 夜飯をとるために待ち合わせ場所で落ち合った時からずっと、終始、彼女の様子がいつものと違ったのだ。 表情がぎこちなく、暗い感じで。 どこか悲哀感を隠すように必死に表情や雰囲気を取り繕っているのだろうと、見ていて気づきわかった。 だから、
「今日……どうしたのかな? 何か嫌なことでもあった?」
隣で歩くシュリルに、流介は優しくそう問いかける。すると、シュリルは「……え?」ときょとんした顔に。その直後に流介から心配されていることのだと理解し、
「いえ、そういうわけではありません! 嫌なことなんて、なかったですよ!」
「そ、そう」
慌てふためきながら、シュリルはそう返した。
しかしそれは、無理をしてそうしているのだと、流介は直ぐにわかった。
なぜなら慌てふためく彼女は、瞳がうるんと揺らいでいて、悲しみの心を隠すために無理に笑みの表情をしていて……隠さないでいたからだ。
何かに悲しみに嘆いてる感じしてならない。
彼女はいったい何に悲しみを抱いているのか、それはわからない。
しかし、それは流介とて同じだった。
これから向かう場所へ行き、彼女と対話をしなくてはならない。
それは、彼女が不可解な現象事件の容疑者……ひいては、自分たちの敵であるのか、ないのか。
翔真たちやクレス団長らが出した推論は……真なのか、それとも否か。
その出した推論通りの答えが、流介は未だに信じられない。
いや、信じたくないのかもしれない。
それでも、この役割は、自分がやらなければならない。
もし彼女が本当に……自分が信じたくない会議で出た推論通りに、本当だとしたら……
――ッズンッ!
そこまで考えが過ぎると、心に針が刺さったかのような僅かな痛みが走った。
この痛みはなんだと、流介はわけがわからない謎の心の痛みに困惑すると、
「どうしました、流介さん?」
そっと胸に手をおき僅かに硬直した流介に気づいたシャリルが、心配そうな表情で彼の顔を覗くように上目遣いでなげかけた。
「……いや、なんでもない」
僅かな間の後、流介はさも平気なままに取り繕ってそう返し、
「そう、ですか」
少し気になったが、それでも再度問いかけないことにしたシャリル。その直後、
「流介さん。このあとにする大事な話……とはなんですか? それもわざわざ……あまり夜に人気がよりつかない公園に移動してまで」
訝しみ聞いてくるシャリルに、
「……それは、着いたらそのわけも話すから」
悟らせないよう、誤魔化すような笑みを取り繕って、流介は言った。
そして――。
暫くして、二人は凛々とした夜風がよく通る――森林に囲まれた大公園へと到着する。
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今回、佐々木 流介に作戦において課せられた役目は、異能学園に潜むもう一人の敵を捕らえることだ。
無論、既に不可解な現象事件の犯人は二人おり、当然のように二カ国の魔導機関長からあげられた二人の容疑者。
そう。
悪魔使いの一族であるデモネス家の生き残りでもあるだろうシュラード・スミスと……そして、シャリル・デネーナである。
あくまで容疑者で、本当に犯人で敵なのか、そこまでまだ辿り着いてはいなかったが……今日の朝にてクレス団長たちとの会議にて特定することができた。
しかしシュラードが異能学園に潜んでいた敵にして不可解な現象事件の犯人である証拠をつかめたが……もう一方の容疑者であるシャリルは未だ証拠をつかめていない。
だがシュラードが犯人だという証拠もあってその事実を論じて辿っていけば、シャリルも間違いなく犯人もしくは関与しているのだと、その議論があがった。
しかしやはり確たる証拠がない故に、どうしたものかとみなで考え唸っていたその時。
流介が彼女の件はすべて自分に委ねてくれないかと、一同に出したのだ。
当初は殆どの者が反対していたが……なぜかその時の流介の必死な説得により、渋々任せることになったのであった。
(…………)
今頃、他の作戦参加者たちは既に動き始めているだろうなと、流介はシャリルとともに公園のベンチへ座るとともにふとそう思った。
優奈たち三人は、作戦通りシュラードを罠にはめた頃だろう。
一方で翔真や異能騎士隊は『卒業試合の間』にて女悪魔、そして出現の可能性があった鴉兵隊が現れて戦っている頃だろう。
そして――ある突然ふってきた話の通りなら、クレス団長はある敵の新手を待ち構えているだろう。
それぞれの場所で、みんながみんな、やるべき事を全力で果たそうと動いている。
(…………)
自分はどうだろうか。
彼女の容疑をはらそうと探ったが、しかしそれによりますます彼女が事件に関与した敵である可能性が上がり……今となってはもう一人の敵である可能性が、もはや確定に近いところまできている。
どうすればいいのだろうかと、そんな迷いがはしる。
しかしいつまでも迷ってなどいられない。
なら、彼女が不可解な現象事件を引き起こした犯人で、敵だとしたら……。と、そこまで思いに浸った流介は、
(……直接、確かめる、しかない……)
最終的に自分自身との自問自答をした結果、流介は、単刀直入に彼女の真意を暴くことに至った。
たとえ彼女が黒だろうが、または白だろうが。
一人の魔導士として、任務を遂行するしかないのだ。
本当はシャリルは白であってほしいと流介は願っている。
が、その理由で課せられた作戦の役目に、任務の遂行に、支障をきたすことはできない。
幼い頃から魔導士へとなるために育てられた流介は、魔導士の任務に放棄なんてのは、自分の魔導士としてのプライドが許さない。
ここでやるべき役目を全うしないわけにはいかないのである。
だがしかし――、
(なんだろう……なんか、わからないけど……胸が――痛む)
モヤモヤとしたジンっとくる胸の痛みに、流介は徐に隣へ静かに座って話を持ちかけて来るのを待っているシュリルの、その美しい横顔へ目を向けた。
(――っ!)
直後、流介は彼女のその横顔を見て、いつの日か助けたとある少女の面影が重なって見えて、目を見開く。 すると、流介は今自分がやるべきことをつい忘れてしまって……
「……まさか、もしかして。六年前に、アメリカのデルネス市で――」
直後、口から徐にその年と場所のワードを洩らした。すると、
「……え」
右隣に座る流介のその言葉が、右耳から左耳へと通り抜けるように響き聞こえたシャリルは、茫然とし固まった。
しかしすぐに顔を俯かせるが、その数秒後にすぐに顔をあげた彼女は……
「流介さん」
悲壮で、しかし意を決した顔で……
「私は、不可解な現象事件を引き起こした犯人の――」
震える声で……だがはっきりと言い放ち……そして……
「――仲間です」
シンっとまるで世界が静まった中で、突然告げられたその言葉が……
「魔導士である流介様の、敵です」
まるで、繋がってきた絆の運命が果てる前兆の鐘の音のように、佐々木 流介の耳へ響き通った。
:次回の最新は5月28日です。(仕事が忙しくなったり、少し書くのが悩み難しくなる所に差し掛かり中で、最新頻度が週一になっています)
追伸→流介が言った場所名は、現実には存在しません。