第107話:女悪魔との衝突!(上)
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エスパダ第七異能学園の敷地内、北の森林地の最奥にある『卒業試合の間』、そこに閉鎖されている二つの旧校舎の片方、その隠されていた地下の不気味な礼拝場でーー。
『あなた達、ここでワタシに殺されてーー死んで?』
響き渡るその言葉が耳へ入った、
『「「…………」」』
翔真・エミリー・シーちゃんの二人と一匹は、禍々しい魔力が溢れ出し場を漂っったと共に目の前に……礼拝場の中央の中空で、突然と現れた存在に目を見張った。
その存在は、どこか惹きつけられるような魅力を感じさせる雰囲気をした、足膝まである黒髪ロングの妖艶な美女だった。
しかし、その美女は明らかに人間ではないと、本能的に理解した。そうでなくても、彼女の姿を見れば真っ先にそうだとわかることだろう。
彼女の頭の左右から黒き角が生えており、また背中には滑らかだがドス黒い二枚の翅が、引き締まっているいる腰と尻の間から蝙蝠のような長い尻尾が、生えているからだである。
大胆に美脚やお腹周り、肩など露出した扇情的な黒の衣装を着ているその美女の形をした姿、そして周囲と共に場を支配するような感じをさせられる放出された禍々しい魔力、この世の邪悪な塊を美にさせて連想させるその存在は……間違いなく……
「この感じ……! 間違いありません! あの女は間違いなく、この世に降りた女悪魔です……!」
「……どうやらそのようだな」
エミリーの答えに、翔真は同感した。
女悪魔は蝙蝠の翅をひゅうひゅう羽ばたかせながら、小悪魔的にほほえみながら、指をパチンッ!と鳴らした。
直後、場を支配せんと漂っていた禍々しい魔力が数個に塊となって、それが人の形へなって行き……そして、人の形となった濁りある黒いナニカへ。そのナニカから邪気のようなものが所々から漏れ出ている。
『行きなさい』
女悪魔から放たれたその命令の下、そのナニカ達は一斉に翔真達へ跳躍し、襲いかかった。
それは尋常じゃない速さでの突撃だ。
まるでその身が弾丸のごとく、翔真達を撃ちに突貫してる勢いである。
そのナニカの嘔吐が出そうな瘴気からして、食らえば身体に大きな負傷をするだけではない、直撃した身体の箇所が病的に腐り果てる予感をさせられる。
「シーちゃん!」
そうならないように、エミリーは動く。
『ヒヒィーン!!』
主の呼びに瞬時に応えるように、シーちゃんは本来の二メートルの体躯に戻しつつ、聖なる力がその身から発光し、瞬く間に自分達を守る聖なる障壁が展開された。
シーちゃんことペガサス含め、聖獣だけが使える聖獣術、その術の一つである『聖障壁』だ。
特に相反する力、たとえば悪魔の力へはその術の力や効果が増幅する。
突撃してくる数個のナニカは、『聖障壁』に阻まれ、プシュ〜〜ッッっと浄化していくように蒸気をあげ、消滅した。
『ワタシ達悪魔が最も忌むべき力を……? てことは聖属性持ちの使い手なのね。 まぁそこにいる獣が聖獣なのはすぐにわかったけど』
それを一歩も動かず、中空で浮きその場でエミリーとシーちゃんの動きを観察する女悪魔へ、
「《暗闇よりてらす光よ・魔を打ち払わんと槍撃せよ》ッ!」
長椅子を台にし、跳躍し、宙回転しながら、素早く背後に回った翔真が二節の攻撃呪文を早口で唱えた。その直後に眩い光を迸った高熱なる光槍が、背後から女悪魔へ迫りーー、
『ッふふ』
微笑する女悪魔は細長い尻尾へ魔力を纏わせ、鋭い刃の如く、光槍を切り裂いた。更に、両手を広げ、その二つの掌へ魔力を集約し、それぞれに暗黒の濁り球状が出来上がった。
『『魔球散撃』』
直後、二つの暗黒球が拡散し、多数の小玉になって猛速度となって翔真とエミリーへ放たれた。
しかしエミリーにはシーちゃんの『聖障壁』によって守られている。
だがあの小さな魔玉から嫌やな予感をし、エミリーはシーちゃんと共に『聖障壁』を張ったまま後方へ跳び下がった。
その直後に、彼女の予感はあった。
(っ! 『聖障壁』が破られた! どういうことですか!?)
多数の小さな魔玉は、その聖なる障壁を綺麗としか言いようがないまでにあっさりと貫き、先ほどエミリーとシーちゃんがいた場の床へ着弾。 すると、無数の人間の頭ほどの広さをしたクレーターができた。
『っふふ、その表情。いいわぁ』
焦りを見せるエミリーを見て、女悪魔は恍惚とした表情だ。
と、そこへ、同じく女悪魔からの拡散した多数の小魔玉を、素早い動きで弾丸系の攻撃魔術で自らの身体に着弾せぬよう逸らしつつ躱し、避け続けて応戦する翔真が言った。
「どうやら、この多数の小魔玉には術の力を激減させるのか」
「あら、すぐにわかっちゃったの。頭がよく働くことのね、坊や」
「悪魔に褒められても嬉しくないな」
拡散したことになった多数の小魔玉が襲いかかる中……そのうち三つをピンポイントに誘導させ、ギリギリまでの距離になった途端、身体をひねり回転して翔真は跳躍。 直後、三つの小魔玉が衝突し相殺。そして、そのまま翔真は近く長椅子に滑らかに着地。
「っと、こうした対処法をすればいい」
『っ! へぇ』
自分の攻撃魔術では絶対に威力を激減され、対処はできない。
回避するにしても、追尾もできるようで追ってくる。 なら、同じ小魔玉を衝突させ、相殺すれば良い。
そうすれば、力の激減をお互いにかかり、同時に同じ威力で衝突すればゼロになるので追尾してくることもなく相殺されるので、容易い対処法である。
『っふふ、けどあっちの小娘はどうかしらねぇ』
「それも心配ないさ。 聖属性の使い手だからな。お前も実のところ、聖属性の術を一番危惧してるじゃないのか?」
『ーーっ!』
図星を突かれ、女悪魔は微かに眉を顰めた。
すると、二人の左側から聖なる輝きが閃いた。
「《聖なる獣とともに我は命ずる・聖なる輝きを以って・邪なる魔を祓え》っ!」
その呪文詠唱が唱え終えた時には、礼拝堂中かもはや不気味なものではなく、まるで聖域のような神聖な場のように、輝きが包み込んだ。
聖属性の限定白魔術『ホーリー・グリッター』。
自身が契約する聖獣の力を借りて、その輝きは不浄なる存在をこの世である現世からうち祓う。
これは決して黒魔術のような攻撃呪文ではなく、浄める呪文だ。
これは悪魔もふくめ、魔物や魔獣に対する呪文で、邪悪な存在だけその浄めの力が多大なダメージとなって効かせる魔術だ。
『ッヴアアィィァァァァァァァァァァァァーーッッ!!』
その輝きは、多数の小魔玉とともに女悪魔を浄めた。
断末魔の絶叫をあげ、瞬く間に女悪魔は消失。
するとその場の床へと人形の物体が落ちたのだった。
「っふぅ、あ、大丈夫でしょうか翔真さま!?」
「ああ、大丈夫だよ」
息を吐きつつ、シーちゃんとともに近寄ってきたエミリーの心配した声に、翔真は応えた。
そしてーー、
「人形、か」
翔真は女悪魔が消えた場の床に落ちた人形へ行き、拾った。
「どうやら、あの女悪魔はこの人形に取り憑いて現世に降りたのでしょうね」
翔真の手元に握る人形を見て、エミリーはそう見立てる。
しかし、少しばかり……いや、少ないと言えない謎の部分が新たに残っている。 特にあの女悪魔は、相当の高位の悪魔なのは間違いない。 なのにこうもあっさりと破り、祓えたことに一番の疑念を抱く。
(それに、あの女悪魔は出現とともにこの場で僕たちを殺すつまりだったのに、戦いで本気なんて出していなかった。しかも、あの女悪魔が消える寸前、僕は見たーー)
ーー浄める輝きにより消えてゆく断末魔の間際に、微かに口元が尖り出していたのを。
しかし、ひとまず女悪魔は消え失せたので、また何が起こるかもしれないのでさっさと地上へと戻るような再び出入り口へ歩き出す……
「翔真さま」
「ああ、わかっている」
……が、すぐに立ち止まる。
まだ戦いは終わっていないことがわかったからだ。
それは、出入り口が暗黒の闇に包まれ、塞がれているからだ。
それから、あの女悪魔の禍々しい魔力が感じた。
直後。
『っふふ、ワタシの分身をあーもたやすく倒すなんてすごい人間さんね。 主人から聞かされた通り、手練れているわ』
何処からか、女悪魔のその言葉の声が周囲へ響く。
女悪魔の言う通りならば、人形に自らの魔力を注ぎ込ませ、分身を作り上げた。
その分身が、翔真達が先ほど戦った女悪魔……女悪魔の分身、ということになる。
どうりで容易く倒せたわけだ。
そして分身の女悪魔が消える寸前に、なぜ口元を尖らせたのかも納得した。
すぐさま翔真はエミリーと礼拝場中を目で女悪魔を探したが、あの女悪魔の姿は見当たらなかった。
『探しても無駄よ。だってワタシはその地下とは別の場所にいるんだもの。 ワタシの悪魔術で、あなた達のいるその場へ声をとどくようにしてるからねぇ』
「ッチ! 女悪魔。お前が主人って呼ぶ契約者は誰だ? そしてなぜあの祭壇の卓に異能原爆結晶玉が置いてある。そもそも、この地下場はなんだ? お前の契約者の目的はいったいーー」
『ッふふ、そう慌てちゃって可愛いわね坊や。 けど、質問に答えるつまりはないわ。 さ〜て、戦いの続きと行きましょうかぁ。 ーー出てきなさい、ワタシの新しく手に入れた操り人間ちゃんたち。あの坊やと小娘を殺しなさい』
その女悪魔の最後の言葉が発せられたと共に、礼拝場のあちこちからの空間から次々と人間が姿を出現させた。
だがここで、翔真とエミリーはその操られている人間達をみて驚愕した。
「っな、こいつらは……!」
「っ、この人たちは……! 」
その女悪魔が呼び出した傀儡のように操られてる人間達が……
「どうして不登校の生徒たちが……!」
……なんと、不可解な現象事件により不登校になった被害者の生徒たちだった。