第100話:放課後、校舎屋上にて
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ーー放課後、16時00分なるほんの少し前の時刻にて。
エスパダ第七異能学園第一校舎の屋上へと続く階段をあがる流介がいた。屋上へ行くのはもちろん、シャリルから話があるので、放課後の16時に校舎屋上で来るように、という伝言があったからである。
(いったい話って何だろうな……)
そして階段をゆっくりと上がりつつ、流介はこの時になって何の話なのかと思い始め……そこでふと、
(そういえば、ここ最近シャリルの様子が変だったな)
思った。具体的にどのように変な様子だったのかはわからない。しかしシャリルの様子がどこか……まるで何かに警戒するような、そんな気が流介は感じられた。
みんなに慕われている生徒会長にして、天使の会長と名高いシャリル・デネーナ。性格も聖女のように優しく、容姿も優れている美人。そんな彼女が、放課後の校舎屋上で二人だけで話があ……
(ちょっと待てえぃっっ!!)
この時、流介は今になって気づいた。気づいてしまった。いや、こういう状況なら、誰だって意識してしまい思ってしまうだろう。それはーー、
(もしや……告白だったりしてっ!?)
そうだとしたらと思うと、超がつくほどに緊張感が流介にのしかかった。 そしてシャリルに告白されたらと思うと……とついニヤニヤ顔のなってしまった流介。 側からその顔を見れば引いてしまう気持ち悪さである。 しかしすぐ後に流介はハッ!と我に返ったような表情で、
(いや、なにを考えるんだ俺は!? 美人生徒会長のシャリルがこんな俺に告白なんてするかわけがないじゃないか! ていうか、なにも告白してくると決まったわけじゃないし、なに話ってのが告白前提に考えるんだよ俺! 勘違い野郎にもほどがあるだろ! それでも魔導士か俺!)
自分の甘い考えを首をぶんぶんと振って否定し、挙げ句の果てにはやけくそになる流介。 そうしてる間に、いつのまにか階段の最上階ーー屋上へと登り終わっていた。
「……ゴクリ」
一旦冷静になり、流介は唾を飲み込んだ後、屋上の外へとつながる出入り口の扉を、ゆっくりと開けて、通るのだった。
……この時、後ろから気配を殺して追ってきていた人物に、告白か否かの考えに夢中で浮かれていたせいもあって、気づくことはなかった。
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放課後、16時00分。
エスパダ第七異能学園第一校舎屋上にて。
放課後の16時なのもあり、屋上には呼び出し人のシャリルの一人しかいなかった。
わざわざ放課後で、それも二人だけでの話であるならば人気がない時間や場所を選び……それが放課後の校舎屋上なので、他にも人が……それこそ何人もいたとすれば話はまた今度となるか、あるいはなんでもないと中止になるかだろう。
それに、わざわざ伝言で時間と指定場所を選ぶということは、それほど大事な話なのは間違いないだろう。
(いったい、どんな大事な話があるんだ……)
校舎屋上へ出た流介は、もはやさっきまでの浮ついた考えや妄想などは消え去り、今でも緊張感しかない。
そして屋上の右側の端にある手摺りに掴み、校舎屋上から外の風景を眺めているシャリルが、出入り扉の前にいる流介に気づき、近づいていった。
「きてくれましたか流介さん! 待ってましたよ」
「でも16時ぴっただし遅れては……いや、待たせてごめん」
「っあ、謝ることなんてないですよ。 むしろ早めにきて待っていた私の方が悪いですし」
「いや、それでも俺が……」
「いえ、私が……」
「いやいやいやいや、俺が!」
「いいえ、私が!」
と、お互いどうでもいいとこで自分の方が悪いの言い合っていく。すると、暫くして二人はお互いに見つめ合って。
「っふ、ふふふふふ」
「っは、はははは!」
唐突に、流介とシャリルは笑い出した。自分たちが当然何をしょうもないことで言い合っているのかと今更気づいて、可笑しく思ったからだ。
(ふぅ、なんか緊張感がとけたな……)
と、可笑しく笑ってるうちに流介は内心そう呟いた。 すると、もしかして自分がすごく緊張しているのをわかって、それをほぐすために先ほどのどうでもいいことに口論をするように、シャリルが仕向けたのでは? と思ってしまう。
(もしそうだったら、ありがとな)
と、流介はシャリルを見つめて礼を心の中でとどめた。そしてーー、
「それで、呼ばれたわけっていうか……話ってなんだ?」
流介はすぐにシャリルへそう聞き、本題に入った。すると、
「流介さんは……あの留学生二人と、特に黒田 静さんとはどういった関係でしょうか?」
不安そうに聞いたシャリル。彼女の質問に少し驚いた流介だったが、すぐに答えた。
「幸之助とのエスパダに住み始めた時からの友達だよ。で静さんとは、幸之助を通じて知り合って、友達になったんだよ。それ以上でもそれ以外でもない友達の関係だ」
「そうでしたか。 けど、静さんと……彼女と付き合っていたりなんかは……」
「それこそありえないぞ。 朝のホームルームの質問タイムの時だって、彼女は俺のことなんて好きじゃないってはっきりと言ったじゃないか。 ……ていうかあれ、なんか言って悲しくないか? 俺」
そんな自暴する流介をよそに、彼の嘘の様子が全くない受け答えを聞き、
(少し前に静さんと二人だけで話をした時は、彼女は流介様とは貴女が危惧するような関係じゃないわよっていって否定してましたけど……やっぱりそれだけでは不安でしたので、こうして流介様にも聞いて、そして私の危惧するような関係じゃなくて安心です。よかった、よかったです)
と、しみじみと胸をなで下ろすシャリルだった。ちなみにその二人だけの話で、ギクシャクな関係から仲良くなったことでお互い名前で呼び合うことになった。
「それで話は……それだけ?」
と、自暴していた流介が気を取り直し、シャリルへ言った。
「っ! いえ、まだ話がありまして……」
そこで危惧していた関係ではなかったと今度こそ安堵していたシャリルは、言いづらそうに俯いた。 そんなシャリルに、流介はどうしたと声をかけようとした……そのとき。
「流介さんは、今この学園に起こる不可解な事件のことはどう考え、思ってるのでしょうか?」
「ーーっ!」
唐突にしてきたその質問に、流介は身体を一瞬だけ硬直するが、すぐに答えた。
「まぁ物騒だなって思ってるよ。俺ら三年A組は幸い誰一人被害にあってないから不登校生もいなけど、他クラスや他学年の被害は相当大きいし、このままだと近いうちに長期休校とかになるんじゃないか? あ、でももうすぐ夏の長期休暇に入るから……もしかしたら秋からの二学期から長期休校になるかもな」
「そう、でしょうね」
流介の返答に、シャリルはどことなく暗い表情になった。それは生徒会長として、そして一人の心優しい人間として多くの生徒が被害にあったことに心を痛めてるのだろうと、この時の流介は思っていた。
「最後に、流介さんに聞きたいことがありまして。 この異能学園で会う前に、アメリカのどこかで私とお相見えになったことは覚えていますか?」
「……なに?」
彼女のその質問に、流介は不意をつけられたように身体が固まった。 しかし彼女とはどこかであったような気はするが、それがいつどこであったのかは覚えていない。 もしかしたら単なる勘違いかもしれないし、思い過ごしかもしれない。だから、
「いや、シャリルとは一年前にこの異能学園に編入してあったのが始めたぞ?」
そう答えるしかなかった。するとシャリルは「そう、ですか……」と言い明らかに落ち込み、悲しさが見え隠れした表情になった。その直後、
「は、話はこれだけですので、こ、ここで失礼しますね。 では流介さん、また明日。さよならです!」
「あ、おい!」
シャリルは一目散に校舎屋上から去り、女子寮へと帰った。そしてーー、
「うん。 告白してくるって期待する俺がバカで勘違い野郎だったのはわかるけどさ……それでもなんかさぁ……はぁ〜……」
最後に、その期待の虚しさにため息を吐く落胆した流介が残ったのだった。
次回から別サイドに移ります。2話ほど。