第99話:留学初日最後の授業後、更衣室にて
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今日最後の授業である異能力制御の実技が終了した後、高等部専用の訓練所の男子更衣室と女子更衣室で、三年A組のクラスメイトの男子達と女子達が学生訓練服から制服に着替え始める。 そんな中、男子更衣室では室外へうるさく聞こえるほどに歓声を響かせた。その理由は、
「すっげぇぇぇな幸之助! あの流介の魔力圧を押し退けるなんて……!」
「それに魔力射撃も、学園随一の異能者って言われてる流介よりも速く精密だったしさ!」
「これはもしや、異能戦をやったら幸之助が勝つんじゃないのか……!?」
「「「「「俺(僕)たちもそう思う(ぜ)!」」」」」
翔真の驚異的な魔力制御の精度に、クラスメイト達は驚嘆した。 そんな褒めてくるクラスメイト達の男子達に翔真は乾いた笑いを洩らす。
異能力による制御をより上手くなれば、異能の質量が高められるのだ。ゆえに、最後の授業である異能力制御でーー異能力を射撃・障害物レース・対戦相手との押し合い等々……様々な異能力制御の訓練を受けていた。
そんな中で、今まで学園一の異能実技を優れていた流介と同等の測定値を、翔真の異能力制御が様々な訓練で叩き出したのである。剰え、対戦相手との異能力の押し合い時、翔真の魔力が流介の魔力を押し退けさせてもいた。
今まで学園最強の生徒と言われた流介に勝った生徒が出てきて、クラスメイト達は大はしゃぎであった。 おそらく女子更衣室にある女子達もこの事ではしゃいでいるだろう。
(まぁ、あっちはあっちで優奈の事ではしゃいでいるだろうけど)
なにも翔真だけではなく、優奈も驚異的な魔力の制御を見せている。
男子と女子で分かれた訓練ゆえ、異性同士での訓練しないが、同じ訓練所の場所で授業をうけていたので、女子達の異能力制御を目にしている。
その時に、優奈の魔力制御が凄まじい精度で女子達を驚かせた光景は今も頭にはっきりとはいっている。と、そんな少し思い耽っていた翔真へ流介、雄一、エリアスが近づいてきた。
「やっぱ幸之助には敵わねーな……以前にも異能戦でバトったことあるけど、あん時も負けちゃったし」
と、悔しそうには見えない顔で言った流介。
「っえ! それは本当かよ!?」
「これは驚きましたね」
その言葉に雄一とエリアスは驚きの目をする。
二人に……いや、このエスパダ第七異能学園の全校生徒にとって佐々木 流介が異能戦で負けるなんて信じられない事なのだ。
彼が編入してきて一年、その間に異能関連の授業は常にトップを叩き出しているため、もはや無敗と一部では呼ばれていた。
無論、それは学園の生徒達での事なので、異能者の教師や卒業生達など戦えば負けるだろうとは思っていたが……まさか同じ時の留学生に負けていたなんて思わなかったのだろう。
まぁたとえ教師だろうと卒業生だろうと、B魔導士たる流介は敵わないが。その事を知らない雄一達がそう思うのもしょうがないが。
「ッちくしょー! 流介を最初に負かせる男になろうと、今まで異能訓練を頑張ってきたのによぁ!」
と、雄一が嘆く。すると、
「そう嘆かなくてもいいぞ。 雄一の魔力制御はすごかったじゃないか。 魔力球で、少し乱暴なところはあったけど障害物を早く切り抜けたのは驚いたな。タイムだってトップクラスじゃないか」
翔真は励ますように言った。
異能力制御で異能力を球の具現化し、それを制御し障害物レースでゴールまで切り抜けるという訓練。
無論タイムも測っており、雄一のタイムは翔真と流介と優奈、そしてシャリルの四人を抜けばクラストップになる。
「エリアスは魔力射撃が驚くほどに上手かったぞ」
「ありがとうございます。 実は将来は僕の祖国であるアメリカの魔導機関にはいり、狙撃専門の魔導士になる夢でして……だから異能狙撃には積極的に取り組んでるんです」
(へぇ、そんな知的な外形と性格からして、将来の夢がまさか狙撃専門の魔導士だったとは……しかもアメリカ魔導機関、ねぇ)
おそらく異能学園を卒業した後、アメリカの魔導士育成学校へ入学するのだろう。あと半年で卒業なので、既にエリアスは進路が決まっていたようだ。
ちらっと流介の方へ見る翔真だったが、偶然にも目があってしまった。すると流介は「ははは……」と半笑いしだす。その様子だとエリアスの夢を以前から聞かされ知っていたようだ。
「それにしてもよ……流介!」
と、唐突に流介の耳元へ彼の名を大声で呼ぶ雄一。
「うるっせぇ! 耳元で大声で呼ぶなよ!」
「そんなことはどうでもいい! それより、この後放課後の校舎屋上でシャリルさんとあうようだけど……お前、シャリルさんに何かお呼び出しされるような事でもしたのか?」
「してない、と思う」
「思うって……」
「まぁ、何か用があってわざわざ放課後の校舎屋上で、それも二人っきりになろうとしてるんじゃないか?」
と、流介は言いつつも内心ではこの後の放課後で、何はどうあれ、シャリルとの二人きりになることにドキドキしている。今までこういったことはなかったのだ。それに、
(…………)
シャリルという女子生徒は前々からどこか既視感があった。それは、一年前からこの異能学園に編入生として潜入するより、もっと前にあったような……そんな気がするのだ。
「…………」
そんな物思いになっている流介は、こちらへむけている翔真の視線には気づかなかった。
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一方、女子更衣室ではーー。
ここでも男子更衣室と同じくはしゃいでおり、優奈の事で持ち切りであった。
女子達は下着姿でぴょこぴょこと跳んだり室内を早歩きしたりと、淑女として恥ずべきはしたなさだろう。
まぁ、現代の女子高校生にそれを言っても筋違いで仕方ないが。
その乙女の美しく綺麗な手足や柔肌を露わにする下着姿の女子達のはしゃぎっぷりを見て、
(はぁ、疲れるわね)
その健康的で艶がある褐色の美肌の露わにし、抜群のスタイルがよりはっきりとわかる下着姿で、優奈はため息を洩らした。
「静がまさかあんなにできるなんて思わなかったよ! やっぱ留学生なだけあるわね!」
「すごいです静さん!」
その傍で一緒に着替えている途中である下着姿の寧々と美友が褒める。そしてーーまじまじと優奈の身体を見つめ出した。それに優奈は気恥ずかしくなり、制服で自分の身体を隠す。
「っな、なによ?」
「いや、静ってほんとスタイルが良すぎているからねぇ。とくに胸が!」
「静さん。胸が大きくなる秘訣とかないんですか?」
「そんなものはないわよ」
美友の期待するような目でしてきた質問に、優奈はあっけらかんと答えた。 すると美友はガク!と落ち込む……慎ましい自分の胸を見つめながら。
そこへ寧々が励まそうとするが、その時にぷるんっと揺れる彼女の小さくない胸を見て、さらに落ち込む。 寧々の励ましは逆効果を与えてしまった。
そんな二人を優奈が呆れつつも見ていた時、
「……?」
シャリルが自分へと視線を向けてきていることに気づく。
「私になにか?」
豊満な下着姿であるシャリルの方へ少し近づき優奈はそう訊くと、
「いえ、なんでは……ありませんけど、ただ、少し静さんと二人だけで話したい事があったり、思ったりしまして。 それをどう切り出せばいいのか迷ってるうちに貴女の事を見続けしまい……気に触るようでしたら、ごめんなさい」
と、気まずそうに答えつつ謝るシャリル。
そんな彼女の様子をみて優奈は絶好のチャンスがきたと思った。
もしかしたらこれで私は流介とは本当にただの友達だと弁解し、彼女の中の自分に対する恋敵心を解消できる。
そして彼女との初対面からできたギクシャクな関係から良い関係になれるチャンスでもある。
「別に気にしてないからいいわよ。 それより、私も貴女とは話したいと思ってたの」
「え! そうだったんですか! ではすぐに着替えて、帰りのホームルーム前に、今からどこか二人だけで話をしてもいいでしょうか?」
「ええ、いいわよ。それじゃすぐ着替えるわ」
「ありがとうございます! では、私もすぐに着替えますね」
優奈とシャリルはすぐさま着替えた後、二人きっきりになれる場所へと行くのだった。
そしてーー。
それから時間は放課後の15時45分へと過ぎてゆき、シャリルは帰りのホームルーム後に第一校舎屋上にて、流介が来るのを待つのであった。