prologue-鳴神
ほのぼのと冒険とミステリアスでほんの少しのドキドキを。。。
遠くで雷の音がゴロゴロと鳴るのが聞こえる。数秒前に空が明るく輝いていた事から計算すると、雷雲との距離は2km程はある。しかし、この辺りではまだ、雨も降ってきていないことから一過性のものなのかもしれない。
「What took you so long.」
社長室のデスクの上に腰掛けながら、背後に現れた人影等に声を掛ける。
黒のタクティカルベストに革の手袋、ラバーソールのブーツで椅子をくるくると回し楽しんでいる。
「フォックス、、、なのか?」
「Call me whatever you want.」
椅子で遊んだまま振り向かずに応える。
「俺は日本語しか分からん」
唸るように応えるのは、4人の部下を引き連れた白髪混じりの男だ。
「フォックスねぇ。名付けたのは警察だ。俺は名前を教えたことなんてないね。それより、面白いものやるよ」
社長のデスクから立ち上がりおもむろに天板部分を手前に引くと、底には5×8列に並んだ一万円札の束がギッシリと並べられている。
「なかなか良い趣味だよな。きっとひとりでこの光景見てニヤニヤしてるんだぜ」
「警察をわざわざ呼んでその金を盗む気か!?それとも、捕まえて欲しいのか」
「バーーカ。こんなもの要らねぇよ」
「お前!!馬鹿にしてるのか」
駆けつけた警官等は、相手が手ぶらのような状態の為に、所持を許された拳銃を抜ききれないでいたが、挑発とも言える行為に1人の警官が拳銃に手をかける一歩足を踏み出す。
「止めろ」
白髪の男が部下を制止する。
「俺のいるここが、最前線だ」
「けれど、伊達さん!」
「黙れ。ここを超えれば奴のテリトリーだ。勝手に動くな」
「good」
静寂の中、社長室に取り付けられたら防犯カメラだけが赤いライトを点滅させている。
「いつもコイツはそうだ。今回は何が目的だ」
「金に決まってるだろ」
薄暗いせいで顔はよく見えないが、明らかに馬鹿にした笑みを浮かべているだろう。
「どういう意味だ」
「言葉通りの意味だよ」
「その金は要らないと聞いたが?」
稲光が怪しく室内を照らしては消える。思っていたよりも早く雨も到着したようだ。
「ーーーそろそろ、時間だ」
その言葉と共に突然、けたたましい警報音が鳴り多くの警備員が社長室に入り込んできた。
「侵入者はどこだ!?」
バタバタと入り込んだ警備員達に思わず顔める。
「な、何だ?誰だ」
「お前等か?大人しくしろ!」
互いに状況が掴めずに室内は混迷していた。
「誰だ!?警報を鳴らしたのは!?」
「・・・しまった!!?」
ほんの瞬間気を取られた隙にフォックスの姿を見失う。慌ててデスクへ駆け寄るが、デスクに隠されていた現金は微動だにせず整然と並べられたまま残っている。
「伊達警部、何も盗られてはいないんじゃ、、、」
「分からん。奴は何処、、、アレは何だ?」
指差した先には一枚の紙が浮いている。窓の外に張られているようだ。そこに描かれているのは、誰もが一度は目にした事のある人物。整然と並べられたまま動かない一万円札の束。それらと数ミリのズレもなく同じ絵柄が描かれている。
「何だコレは?奴は??」
雨の音が激しくなってきた。
先ほどまで、いたフォックスと思われる人間の姿はこの部屋にはない。
窓の外では、空いっぱいを稲妻が走りその次の瞬間に消えていく。




