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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

欠陥倉庫

有り得ないバッドエンド

作者: 三毛きな粉

 ムセているアスクさんの背を叩きます。

 アスクさんが涙目で、こちらを見上げます。

 うっ、これが世に言う上目遣いですか?破壊力半端ないです。


「大丈夫ですか?アスクさん」

「ゲホッあ、ゲホッあき?」

「はい?」

「な、殴りたい?ケホッ俺を?」

「お店にいらっしゃるまで、そう思ってました」

「俺?カタリナでなく、俺?」

「はい!」

「な、何故」


 綺麗な顔が絶望なると、胸が締め付けられる程の痛みが……。

 しかし、理由が…あまりにも阿呆な理由なので、ちょっと。何故ポロッと言ってしまったのでしょうか。


「えっと……」

「俺は、アキに嫌われた?俺が嫌?」

「そうではなくて…」

「じゃあ何故!!」

「むっ!カタリナさんの乳に触ってたでしょ!」

「……………は?え?」

「覚えてないとは言わせません。しっかり見たんですから!自分の上から退かすのに、何故乳を触る必要があるんですか?!」


 あ、やだな。駄目だ。余裕が無くなる。

 恋人でもないのにこんな責めるような権利、私には無いのに。逆上しては話も出来ない。

 落ち着け、私。

 深呼吸して、アスクさんを見ます。

 ですが、その顔!

 はぁ?何にやついてるのですか?

 抑えた気持ちが再燃します。

 むか、腹立つ。本当にお見舞いしますよ?!


「何ですかその顔。乳の感触を思い出しましたか?殴っても良いですか?」

「思い出さない。うん、殴って良いよ」

「む、余裕綽々ですか。乳の感触思い出して、にやついてる変態には触りたくありません!」

「な、違っ、変態?!」

「それに、よく考えたら、私は、別に、アスクさんの恋人でも何でもない、です、から?

 責める権利も…無いです。どうぞ、カタリナさんの乳を思い出して、にやついて下さ」


 アスクさんが、いきなり抱き締めてきます。

 一瞬固まる私でしたが、大暴れしてやります。

 抱え直され、腕と一緒に抱き締められ持ち上げられて、アスクさんの肩が目の前に来ます。


「は、な、して!触んないで!」

「アキ、落ち着け」

「離して!カタリナさんに触った手で触れないで!アスクさんなんか大嫌い!」

「…だめ。許さない」


 怒髪天を衝く思いとは、こういう感じなのでしょうか。

 こんな阿呆な事で!完全に、逆上します。

 このエルフに離して欲しくて、カタリナさんを触った手で触られたくなくて。

 感情のコントロールが出来ない。


 気付いたら、泣きながらアスクさんの肩に噛みついてました。

 

「ふっぅうー」

「いっ。アキ?落ち着いて」

「やら、あなひへ!」

「やだ。小動物みたいで可愛い。離さない」


 アスクさんが、肩に噛みついてる私に頬ずりしてきます。

 もう、腹立って腹立って!


「やーっ!」

「だめ。本当可愛い。俺の。噛みついてて?」

「ひゃわうないへ!」

「やだ。触りたい。可愛い可愛い!本当にどうしてくれよう」

「はーっ?へうはい!」

「ん、変態。アキ限定」

「うほふき!」

「嘘じゃない。もう、可愛過ぎてやばい。ちっちゃい生き物が一所懸命威嚇してきて、あぁ…本当閉じ込めたい。一生」

「ひっ、ひやー!ひゃめへ!」


 恐ろしい事を耳元で言われ、ついでに頭にキスはするわ、耳舐めるわで。ゾクゾクしてくる。

 止めて欲しくて、より力を入れて噛みつく。


「うーーっ!」

「そのまま噛みついてて。離れたら何するか分からない」

「ひーっ!!やーっ!!」

「本当に、可愛い。可愛い、好き。好き過ぎてやばい。離れるなんて考えられない、このまま無理矢理にでも俺のものにしてしまう?」


 してしまうですって?!それ聞いて、是と答える人がいると思っているのか!


「すき、好き。大好き。愛してる。俺のものになって?このまま、ずっと、お願いだから」

「う?」

「長よりも、こうじよりも、好きになって?俺を一番にして?」

「ちょ?」


 アスクさんがおかしくなりました!

 歯を離して、話しかけます。


「アスクさん落ち着こう。何だかおかしいです」

「ずっと前からおかしくなってる。アキ」

「お、落ち着いて?よく考えましょう?私達、何か変ですよ?頬ずりしてる場合じゃなっわっ!」


 抱えられていたのに、ふわっと浮いたと思ったら、ストンと座っています。

 ……座っています?え?あれ?…テーブル…

 状況を理解する前に、私の両脇にアスクさんが手を突きます。

 顔が目の前に来て…見なければ良かった…。

 深い深い森の色、綺麗な綺麗な翠の目。

 一番最初に見た時は、感情など無い瞳に見えたのに、今は、恐ろしい程激情で溢れてる。

 引き込まれるように、言葉も忘れて見続ける。

 スーと、顔がボヤけてきて、唇に触れるか触れないかまで近付くと、


「変?ずっと変だ。とっくに頭がおかしくなってる。アキのせい」

「…ぇ?」

「ずっとずっと欲しくて、我慢した。いつ堕ちてくれるかと。でもいつも一線を引いて直ぐ逃げる。気が狂いそうだ」

「…」

「店を【私の店】と言われた時死にそうになった。

 【私達の店】なのに…。あの気狂いは煩いし、アキは長に惚れるって言うし。何?俺に長を殺させたいの?」


 ボヤけて見えない顔が、無表情なのが分かります。淡々と話す声が、怖くて震える。


「気狂いを何度殺そうかと思ったか。存在する価値も無い塵の胸などどうでも良い。ただの肉の塊だから」


 そ、それはどうかと…?

 アスクさんの暗いエルフの本質の様なものに触れ、震えが止まらない。


 そういえば、長もアスクさんも、私を拐った国の城を消したと言った。もう、拐われない事だけを喜んでいた。エルフにとって、森に害成すものは、一族に

手を出すものは、存在すら価値が無いと言っているようなもの。


 一番最初、矢で射たれたけど、治る傷だし、ごめんの言葉で終わるかと思ったのに、左腕一本切り落とす程の重罪だった。あれは、森の中だったから。森が私を気に入った故の重罪。

 だから、私は生きてここにいられる。


 思い当たる色々な事を考えて固まっていると、アスクさんの顔がずれていき、耳元に唇を押し付けられる。


「怖い?アキはとても平和な所から来たから、エルフが何かなんて知って欲しくなかった。

 本当は、我々は、一族と森以外、どうでも良い」


 ゾクゥ。

 わざと一句一句放つ言葉が脳に直接響き、寒気と共に背を駆ける。震えが止まらない。


「俺は、アキ以外どうでも良い。

 アキはもう俺のものだし、一族のものだから、大丈夫。反論ある奴は、もう居ないだろう?だから、安心して」


 決して安心できない言葉が聞こえる。


 も・う・い・な・い。


 そういえば、私がここに住むのに反対した人だっていた。人で言うところの壮年のエルフ達。

 閉鎖的なエルフの村。余所者を嫌う人だっている。時間をかけて和解しようとしたけれど、彼らは会ってくれなかった。

 会わないのではなく、会えない?


 もう、いない?


 ……――身体の震えが止まらない。

 いつ?いつからそうだった?

 何処からそうだった?

 ワタシは何を見逃してきた?

 

「クッ、震えてる。はぁ、可愛い。

 もう俺の。これは、俺のもの。

 逃がさないから。諦めてもう、捕まって?」

「落ち着いて、下さい。聞いて下さい。私、アスクさんが……」

 

 今や、心は好意より恐怖しか占めていないけど、これを言ったら暴走は止まるのでは?

 浅はかな考えで、好きと伝えようとするが、言葉が出ない。パクパク口だけが動くが声が出ない。

 好きだと思っていた意思が、畏怖に塗り潰され出てこない。


 無表情。冷たい冷たい目の奥に、泥々したものを感じる。

 いきなりニィィと口元だけ笑みを浮かべ、


「【すき】だろう?」


 ビクッ!

 あぁ、選択を間違えた。

 いや、選択なんて無かったのかも。


 頷く事も出来ず、アスクさんを見続ける。


「そうだ。アキの懸念を取り去ろう」

「……ぇ?」


 何か唱える。

 家の外、店の方から叫び声が聞こえる。


「な、にを?」

「とりあえず、生きてればいいからな」


 ハッ!カタリナさん!

 アスクさんを押し退け、テーブルから降りようとするが、ビクともしない。


「連れていってあげるから」


 逃がさないとでも言うように、ガッチリ抱え込まれ隣の店へ入り、その光景を目にする。


 吐いた。

 汚れた口元を手で拭き、私の服だけ浄化をかけながら、アスクさんが口を開く。


「あんな風になれば、胸も何もだろう?得意の媚を売ることも、股を開くことも出来ない。……それ以前に閉じられないし、人とは分からなくなったな。

 巨大な芋む…、あぁ、アキはあの虫が苦手だったか。大丈夫だ。きちんと処置すれば生きられる。欠損は戻らないが。

 さて、家に帰ろう」


 こうじさんは?こうじさんがいた筈!

 どこにも、優しげな緑の発光体が見当たらない。


 何かを探している私に気付き、アスクさんが言う。


「こうじは、森に呼ばれて行った。進化してしまったから排除対象になったんだ。こうじは、成長すれば驚異となる。アキの守ろうとするために暴走するかもしれないと言ったから、森はこうじを消すだろう。

 大丈夫。今度は意思を持たないよう管理して、アキの故郷の料理は作ってあげるから」


 先ほど見た凄惨な光景に、アスクさんの言葉が追い討ちをかけてくる。


 どう、して?な、んでなんでなんで……――。


「アキが縋るものは、俺だけで良い。アキのために何かするのも俺だけだ。やっと手に入れた。初めから、こうしてれば良かった」





 私を突き堕とす。貴方の言葉。



 

「アキ、愛してる」





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― 新着の感想 ―
[一言] はじめて。 このシリーズの世界観とは違いますが、狂愛バットエンドも私は好きです(^^) 素敵な作品をありがとうございます。
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