りんごの木
翌朝、目が覚めた。
私は布団から出て洗面台所に向かった。まずは顔洗い。次はうがい。そして最後は、顔に気合いを入れるためにバチッバチッ!、と手で叩く。
私は毎回こうしてから一日をスタートする。
「あらっ!今日も早いわねぇ〜」
台所で食器をテーブルに並べている。お母さんはいつもこう言っている。
『私の娘がこんな早く起きるなんて偉いわぁ〜』とか思ってるんじゃないの?って。
私は椅子に座った。
私が早く起きる理由は、りんごの木を見るためである。お母さんには教えていない。
「今日もおでかけ?」
お母さんは聞いた。
「そうだよ」
あっさり返事をすると…お母さんは、
「あら、そう。早く帰ってきなさいよ。 いつもあなたは遅いんだから…」
心配そうに私の顔を見てきた。
「うん。今日はちゃんと早く帰ってくるよ!」
「本当ね?あなたはそう言いながらいつも遅いじゃない‥」
お母さんはまだ半信半疑のようだ。
「大丈夫だよ!お母さん! 早く帰ってくるから心配しないで?ね!」
お母さんを安心させる為に優しい声で言った。
お母さんはその言葉を聞いて、
「じゃあ、約束!」
小指を私の前に差し出した。私も小指を出して、
「うん! 約束!」
私とお母さんは微笑んだ。
「じゃあ行ってきます!」
私は朝ごはんを終え、お母さんにそう告げると、
「早く帰って来なさいよ! 約束!」
歩いて行く私を見送りながら言った。
「うん!約束だから!」
手を力強く振りながら、お母さんも強く振り返す。
「いってらっしゃい‥」
寂しげな声で呟くと‥玄関のドアをそっと閉めた。
……あっ! 私の自己紹介がまだだったね!私の名前は「ナミ」。で、お母さんの名前が「ユエリー」。
お母さんは心配性なの。だからしょうがないんだ。
『えっ? りんごの木の事なんで教えないって?…それは私にも理由があるの。
…でも、教えられない。ごめんね…教える時が来ると思うから。その時まで待っててね。お母さん…』
心の中で想いながら…りんごの木に辿り着いた。
「わぁっ!昨日よりも大きくなってる!」
驚きのあまりその場ではしゃぐナミ。
りんごの木は、ナミが小さい頃に見つけた木。見つけた時は、芽が一本生えていたただけである。その時は勿論りんごとは分からなかったけど、ナミはこの「小さい命」を一人で育てていき、立派なりんごの木になったのだ。赤いりんごがいっぱい熟している。
今すぐにでもお母さんに持っていきたいナミだった。
「もう、こんなに成長したんだね…」
木に手を差しのべて、皮を触っていく。
…ザラザラ‥ボコボコ‥
やっぱり木は、強そうな皮だ。
私はここまで育てたんだよね…。
毎日毎日ここに来ては、水をあげて木に呼びかける。
『どんどん大きくなってね!!』と。
りんごの木は…『私の言葉どおりに大きくなってくれたよ。』
目から自然と涙が出てきた。次々と溢れていく…大量の涙。
「りんごの木、ありがとう… 私嬉しいような‥悲しいような…」
何故か知らないが涙が止まらない。
「私、お母さんにりんごをあげたいの。お母さんは食べたことがないんだって。私は小さい頃食べたって言ってるんだ」
手を皮につけたまま、りんごの木に言った。
りんごの木が人間の言葉なんて分かる訳がない。
でも、私は、止まらない涙を手でぬぐいながら言い続けた。
「私、すごく嬉しい…うっ… ただりんごを取っちゃったら‥りんごの木が無くなりそうで怖いんだ…」
片手だけだった手を、今度はもう片方の手も皮につけた。
「だから、許して下さい」
そういうと、枝に掴まり登り始めた。目の前にはりんごがいっぱいだ。
ナミは、周りにあるりんごを一つも残すことなく全部取り去った。
「赤いりんごだ。なんだか気持ちいい…」
りんごの木を見上げると、緑の葉だけが残って寂しくなった。
私は最後に告げた。
「りんごの木に毎日来るよ。来るからねっ! 約束だよ!!」
ナミは叫んだ。
ようやく止まった涙。手で顔をぬぐいだ。また涙が出そうで…。
『…ん? 約束と言えば…あっ!今何時だろ!っ』
ナミは慌てて時計を見た。
四時一五分だった。
「良かった!お母さんとの約束守ったよ!」
と言いながら… 家へ帰って行った。
いっぱいのりんごをお腹に詰めて。
終わり
読んで頂きありがとうございます!
早く、いろんな人に読んで貰いたいので
どうぞこれからも宜しくお願いします!!(^o^)/