デレられないからツンデレなのよ、仲間、ナカーマ
結局近くの、最近流行りの木製のテラスがある外観のお店に入ることとなった。
中はテーブルと椅子が5つあるだけの小さな喫茶店だが、ちょうと朝食の時間を過ぎたらしく3つほどテーブルが空いていた。
その壁際の席に陣取り、僧侶のリリアーヌ、戦士のカミーユ、弓使いのエレオノールがクリスの横をどうやって取るかとじゃんけんをして、エレオノールが負けていた。
なので必然的にアリスの隣の席になるわけだが、
「……大丈夫?」
「え? ああ、うん。僧侶のリリアーヌさんに治してもらったから」
「そう」
「心配してくれてありがとうね」
「べ、別にそういうわけではないわ。足手まといだけれど、見捨てるのも寝覚めが悪いもの」
そんな事を言い出したエレオノールにアリスは、はっとする。
「ツンデレ……」
「誰がツンデレよ。誰が」
「それ、私の性格とかぶっているんだけれど」
それを聞いたエレオノールは、何かを考える素振りをしながらも、
「……より強い個性に平凡な個性は喰われる。よし、それで行きましょう」
「だがツンデレは、素直になれないので一緒に要られる機会が減るわけだから……」
「ツンデレでもデレればいいの!」
「中々デレられないからツンデレなのよ、仲間、ナカーマ」
「ふっ、貴方と一緒にしないでくださる?」
何だかよく分からない会話になってきたなとアリス自身も思い始めていると、そこでクリスが、
「仲が良い所で悪いが、食事の注文を先にしてくれ」
いつの間にか注文を聞きに来たウエイトレスさんが待っていたのだった。
照り焼きに焼いた鶏肉のサンドやら野菜サンドやらホットサンドやらの盛り合わせ朝食セット。
もちろん食事をとった後のアリスとクリスはそれぞれ、甘いホットチョコレートとコーヒーを頼んでいた。
その食事を取りながら、クリスは彼女達に問いかけた。
「それで、“黄昏の、闇へと誘う愚者”って、何なんだ?」
「もぐもぐ、ごっくん。世界の破滅を望む者達ですわ」
口に入れたものを咀嚼しながら、リリアーヌは告げる。
それにクリスが不可解そうに、
「魔王と関係があるのか?」
「いえ、まあ……確かに魔王は、物語の中では世界征服を望んでいますし、昔の魔王もそんなことを言っている者もいましたが、彼らは違います。ただただ破滅を望むだけです」
「なぜだかは分かっているのか?」
「いえ、何も。ただ、勇者や魔王を狙ってくる、そんな存在です」
躊躇するでもなく、落ち着いて話すリリアーヌ。
初めから答えが用意されているような気がするなとアリスは思いながら黙っていると、クリスが深刻そうな顔になり、
「……俺が勇者だから、まずはアリスという人質を取ろうと?」
クリスの問いかけにリリアーヌは一瞬瞳を瞬かせて、次にアリスを意味深に見てから、
「……そうですね。アリスはクリス様にとっても重要な方のようですから」
「それはまあ、幼馴染だから」
けれどそこでリリアーヌが更に笑みを深くして、
「やはりご存じ無いのですね」
「リリアーヌそこまでにして。それ以上はまだ話せませんわ」
エレオノールがそう叱咤し、カミーユも視線でリリアーヌを責める。
重要な理由があるようではあるのだが、ちらちらと三人がアリスを見る視線が、『クリス様に心配されて許せない! キーッ!』というものと違い、アリス自身を様子見するように感じる。
アリスはなんとなーく自分が魔王であるとバレている気がした。
そこでクリスが三人の様子に苛立ちを隠しきれずに、
「何を隠しているんだ?」
「いずれお分かりになることですから、今はもう少しお時間を頂きたいです。クリス様には必ず理解していただかないといけない内容ですし」
「……隠し事はしないって言っていなかったか?」
「時期があるのです」
リリアーヌはそう告げて、それ以上話を続けなかったのだった。
僧侶のリリアーヌがそれ以上は話しませんわ、でも、もしもクリス様が私と……などという誘惑が始まり、なるほど、こうするとクリスはたじたじになるんだなとアリスは冷静に観察していた。
しかも他のカミーユやエレオノールまで、その女同士のアピールという戦いに参加している。
それにクリスは焦っているようだった。
しかも周りの席に座っていた二人ほどの男性が、嫉妬に満ちた瞳でクリス達を見ている。
これでは男の親友というか友達を作れないだろうな、ヘタをすると親友の彼女がクリスに一目惚れしてという、ドロドロな大人向け小説のような展開になってしまうことだろう。
「早い所、この祝福も何とかしないとね」
ぼそっとアリスは口にしてみて、そのうちクリスのその祝福を調べて制御できるかどうか見てあげようと思う。
こう見えてもアリスは能力的にはとても優秀な魔法使いであるはずなのだ。
ただ戦闘馴れしていないだけで。
それに幼馴染という確たる位置にいるのでまだ他の三人よりはクリスに近いという自負があるからアリスはまだ落ち着いていられるのかもしれない。
そんな目の前でクリスが更に積極的に腕に抱きつかれたり食事を強制的にさせられそうになったりして、顔を青くしている。
ここまで女の子に反応がないのも、大丈夫なんだろうかとアリスはかすかな不安を覚えた所でアリスは思い出した。
クリスには好きな女性がいるのだ。
多分あの花屋の人だと思うが他にもいるのかもしれない。
自分の本当のライバルは目の前の三人ではなくまだ見ぬクリスの想い人である。
それが誰なのか、そのうち幼馴染の立場を利用して聞き出してやろう、アリスはそんなこと心の中で決めたのだった。