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自身のアピールポイントが減った事に気付いた(泣)

 この街で、情報を集めるという名の偉い人への挨拶が控えているらしい。

 ただ時間がもう少し後なので、近場で朝食をとることとなった。

 なので荷物は宿においたままで、好きな物を自由に食べて最終的に宿に戻る……好き嫌いが食事にはあるだろうから、という話になったのだが。


「クリス様は、何を食べたいですか?」


 僧侶であるリリアーヌが真っ先にクリスに問いかける。

 しなを作るようにクリスに近づいていて、相変わらず聖職者というには妙にけしからん長さのスカートにニーソを履いている。

 そういえば以前クリスが絶対領域がどーのこーのと言っていたのを思い出しつつ、その先手必勝というリリアーヌの行動的な様子にアリスは、なるほど、こうやってクリスを攻め立てる方法があるのねと参考にした。


 ちなみにアリスがどうしてこれほどまでに余裕があるかといえば、クリスの目が死んだ魚のようにトロンとしているからだ。

 確かにそれほど敏い方ではないとはいえ鈍くないクリスである。

 その好意は感じ取れるだろうが、それが自分に与えられた祝福によるものだと思えば、真面目な所もあるのできついのかもしれない。


 そういえば初めは嬉しかったと言っていたが、すでにこのような状態である。

 こんな状態では、なびかないアリスという存在は心安らげるものではないのかと自分自身の価値に関してアリスは冷静に分析した。

 そうでもしないと焦燥感から、彼女達のようにアリスもクリス争奪戦に参加してしまいそうだからだ。


 現在のアリスに対する評価は、自分になびかない幼馴染であるはずだ。

 そしてそれ故に安心できるという位置にいる。

 しかもその祝福の影響を受けていないという……待てよ、そうアリスは思考を中断する


 それって魔王だってバレるのではないか?

 だってそれ以外他の子達との違いは考えられないのだから。

 どうしようと三回ほど心の中で繰り返して、そこでアリスは別の理由を思いつく。


 逆にどうあがいても恋愛対象にならない相手を惚れさせない効果があるのかもしれない。

 そう考えて、アリスは更に告白の道程は遠い落ち込んだ。

 そこでお腹が空いたなと思って、このままだとご飯にいつありつけるか分からないと思ってアリスは、


「じゃあ私、先に一人でご飯を食べてくるから」


 やっぱりご飯を食べないと元気が出ないよね、きっとお腹が空いているからこんな不安になるんだわと思いながら一人で歩いて行く。

 それを見たクリスの瞳に生気が宿る。


「俺、一人で食べたいから! それじゃあ、また後で」


 そう叫んでからその他三人の女性を放り出して逃げるようにクリスは走り去る。

 それはアリスが向かった後を追いかけるようにだ。

 そんな二人の後を黒いローブの男が追っていくのを、リリアーヌ達は見ていた。


「……やっぱり出てきましたね。別の本命が」


 そんなリリアーヌにカミーユが、


「それでどうする? クリス様を追いかけて食事をするのも手だけれど」

「あれを捕まえたほうが今後のクリス様に手を出せる時間が増える」


 したたかに告げるリリアーヌにカミーユもそうだなと答える。

 そこでエレオノールが、


「では私は、先回りしてクリス様達と……」

「抜け駆けは許さないです、エレオノール」

「三人一緒の協定は忘れたか、エレオノール」


 にこやかに怒ったように言う二人にエレオノールが、お嬢様に似つかわしくない舌打ちしたのだった。






 朝からガッツリ肉でも食べるか、そう思って焼き肉定食のお店の看板を見ながら、どのお値段の朝食にしようかと、アリスは黒板に白いチョークで書かれた値札を見比べていると、


「アリス、一緒に食事をしないか?」

「あれ、クリス。あの三人はどうしたの」

「……一人で食べたいからって撒いた。それにこの店はいい、男しか見ると中にいないじゃないか」


 アリスはクリスの今の発言に不安を感じた。

 女がいないからいい、だと?

 だから男に走る……その可能性は完全否定できないのでは?


「……クリス、その発言は男に走るととっていいのかしら」

「どうしてそうなる! 俺は好きな人が、女の人がいるんだって」

「そうなの? なら大丈夫かな?」

「疑問符を付けないでくれ、頼むから」

 

疲れ果てたようにクリスが言うので、それ以上はアリスは話題を引っ張らずにお店に入る。

 そんな二人を見つめる黒い影に、アリスもクリスも最後まで気付かなかった。

 





 定食を二つ頼んで出来上がるまでの時間、クリスの愚痴にアリスは付き合っていた。


「初めは一緒に旅する女の子が好意を持ってくれるだけで嬉しかったんだ。柄にもなくはしゃいだりして、一生懸命になって。でもあの子達の強さだと、守るとか手伝うって感じでもないし。それに……俺自身を好きになってくれているわけじゃないからな」

「祝福で惑わされているだけなのが嫌なの? クリスは」

「そうだな。女の子にモテモテになればいいってものでもなかったな」


 悲しげに呟くクリスを気の毒に思いながらも、重症だなとアリスは気づく。

 これでは告白してもクリスには受け入れてもらえないとアリスは納得しつつ、


「でもどうして私には効かないのかしらね」

「あー、そういえばちょっとだけ条件つけてやるって言われたな」

「へー、どんな?」


 そこでクリスはアリスをじっと見た。

 何かを言い出したいらしいが、その瞳を見つつ、うむ、平均以上とアリスはクリスの顔の造形レベルを再確認していると、


「俺、本当は……」

「はい、お待ち。ミミノレ牛の香草炒め定食二つ!」


 白い湯気を立てるその定食。

 クリスが何かを言いかけていた気がしたが、これは出来たてを食べた方が良いわね、といただきま~すと声を上げて手を付ける。

 モグモグと食べ始めるアリスを見て、クルスはどことなく意気消沈しているようにみえる。

 なので咀嚼してその肉汁の旨味をアリスは堪能してから、


「どうしたの? クリス。何だかがっかりしているみたいだけれど」

「……黙れこのツンデレ」

「! 最近は少し素直だもの」

「認めるのか……まあ、そうだよな。アリスは最近ツンデレじゃないよな」

「そうそう」


 そう答えながらアリスははたと気づく。

 これはアピールポイントがまた減ったのではないかと。

 けれどそんな不安は目の前で湯気を立てる食事の前では些細な事で、モグモグとアリスは食べ始めたのだった。


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