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幼馴染という、信頼される立場って素晴らしい(棒)

 立て付けの悪い宿のドア。

 鍵を開けたのにすぐに開かないので、取っ手を持って内側にひく。


「うわぁああ!」

「きゃぁああっ」


 自分の口から甲高い女の声が出たとアリスは思う。

 同時にドアを開けたとともにクリスが部屋の中に倒れ噛むようにして現れて……体重がどう考えてもクリスよりも少ないアリスは、倒れこんできたクリスの下敷きになった。

 普通、逆じゃないのかと冷静に考えているうちに押しつぶされてアリスは悲鳴を上げた。


 ぎりぎり手をクリスが床についてくれたおかげで、クリスの体重をそのまま受け止めることはなくなった。

 とはいえ身体は密接に触れ合って重なっている。


 しかし、こんな押し倒されるような状況でいるのはこう、確かに告白したいというか、好きという感情は理解しているのだけれど、もう少し手順とか順序というものに関して考えるのはいかがでしょうかと提案したいという気持ちにかられるもここで一歩その先に進んでしまえばいいんじゃないかと混乱しているうちに、弾かれたようにクリスがアリスから体を放した。


「ご、ごめんごめんごめん」

「う、うん、不幸な事故だから別にいい……というか、この前まで飛び蹴りしても受け止めてたし、なんで今さら焦っているのよ」

「いや、当たっていたし……」

「足が? 体が?」

「……気にしてないならいい。というかそうか、俺ってそうなのか……」


 何やら俯いてブツブツぼやいているクリス。

 何が不満なのかアリスにはわからないのだが、こうやって訪ねてきたからには何か用があったのだろう。


「所でクリス、どうしたの?」

「いや、アリスに相談があって……」


 それにエレオノールが反応した。


「クリス様! 私も……」

「幼馴染の気心の知れているアリスに頼みたいんだ。それにアリスは……俺に興味が無いんだろう?」

「そ、そうよ、当たり前じゃない」


 アリス上ずってしまったのは、信頼に対して嘘を付いている罪悪感。

 けれどそれでも自分が頼られていると思うと嬉しい。


「そうね、それなら、クリスの部屋で話を聞いたほうがいいかな?」


 頷くクリスに付いて行き、アリスは部屋へと向かったのだった。






 

 やってきたクリスの部屋はアリス達の部屋と同様、量産品の毛布などが敷かれたベッドと机と椅子がおいてある簡素だが、清潔感のある部屋だった。

 そこにある椅子に座り、それに向かい合うようにクリスが座る。

 そこでクリスは深々と嘆息した。


「まともなのはお前だけだ、アリス」

「疲れているわね……どうしたの?」


 頼られたのが嬉しくてはしゃぎそうになりながらもアリスは、いつもと変わらない風を装って問いかけると、


「女の子達が俺を取り合うんだ」

「? 男ってそういうのが嬉しいんじゃないの?」

「……初めは嬉しかった。で、でも少しだけだからな!」


 何故か言い訳をしているかのようなクリスに、アリスは首を傾げる。

 けれどそんなアリスに何故か嘆息してから気落ちしたように話を始めるクリス。


「そもそもが、突然あのアオバ神に呼び出されたんだ。勇者の血統だとその時俺は知ったんだが……そこで、とりあえず勇者やってこい、祝福を与えてやるからって言われたんだ」

「ハーレムになる祝福だっけ」

「そうだ。でも、俺、そんなものよりももっと戦闘に有利そうなものにしてくれって言ったんだ。お願いしたんだ。なのに……」


 悔しそうにクリスが言うには、そのアオバ神に考え直すようにお願いしたらしい。

 それはそうだ。

 勇者に選ばれたので敵と戦わないといけないといけないのだ。


 ハーレム能力よりも、戦闘に有利な力が欲しいと思うのは切実だ。

 だが、その時アオバ神は、


「男なら女の子、それも何人もにチヤホヤされたいだろう! ちょっと高飛車で自分の容姿に自信があるような短気な女一人ではなくて!」

「いえ、あの、俺は別に……」

「彼女はいないんだろう? だったらいいじゃないか」

「でも、俺、好きな人がいるんです」

「おお、それなら丁度いいじゃないか。じらしてやって、お前の魅力に気づかせるのだ!」


 といった会話の後、ハーレム能力を無理矢理押し付けられたらしい。

 それを悲しげに言うクリスに、アリスはそれよりも気になる部分があった。つまり、


「好きな人って、誰?」

「あ、いや……」


 しどろもどろになるクリスだが、アリスは聞き捨てならない。

 思い当たる交友関係についてざっと頭の中で考えてみるが、クリスが興味を持っていそうな女子は……確か以前、花屋のお姉さんが綺麗で、よくそこで花を買っているのを目撃した。

 似合わない花なんて買ってどうするのとアリスが言えば、男らしいアリスには少しでも花でも愛でたらどうだと返されて、その花をもらったのだ。


 その後も何回かは、アリスはクリスに貰った気がする。

 こういうのは幼馴染の役得だとアリスは思う。と、


「言葉のあやだ。そう言っておけば、ハーレム能力なんてよこされないと思ったんだよ」


 なのに結果はこの様だとクリスは嘆く。

 そしてそれから、初めは女の子達が集まってきてこういうのもいいかもとちょっと思ったクリスだが、そのすぐ後で、ヤンデレになったり女の子同士の熾烈な争うを目撃したりと色々あったらしい。それを聞きながらアリスは、


「あれ? 私が会う何日も前に勇者になってたの?」


 それでは、告白しようとアリスが言ってもクリスは家にいなかった可能性が高い。

 けれどここにアリスを仲間にしようと戻ってきていたし、家に立ち寄っていたかもしれないとかリスが考えていると、


「そうだ。ただ、勇者としての活動として初めの、俺たちが住んでいる街周辺の森で魔物を退治していただけだったが。そしてようやく魔王城に旅に出ると決まったのを僧侶のリリアーヌから伝えられて度に出ることになったんだ」

「なんでリリアーヌが取り決めているの?」

「よく分からないがそういった形態になっているらしい。話を戻すが、それで今度魔法使いが来るって聞いて、ぜひ男がいいですってお願いしたのにアリスが来たんだ」

「……悪かったわね」

「でも、恋愛感情を持たない女の子がいるのは心強いよ。正直心労で倒れそうだ」

「……まあ、幼馴染だし、気心がしれているしね」


 そうだよなと頷くクリス。本当に安堵しているようだ。

 それを見ながらアリスは、またも告白の機会が遠のいているように感じたのだった。

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