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女同士の戦い(笑)

 そんなこんなで、冒頭のようにクリスと合流してアリスは旅に出たわけだが。

 街道を歩いているというのに次々と襲いかかる魔物達。

 街道なので人通りも激しいためか、荷馬車もトラックも行き来する。


 そんな場所には事前に警備隊の方達が魔物の相当をこまめに行なっているはずなのだが、随分と沢山アリス達襲いかかってくるのである。

 あざといミニスカートのような格好をした僧侶の女の子が最終目的である魔王城に向かう隣の村までは徒歩で移動しようと言い出し、反対意見がない事もあって歩いて行く。

 本来ならばたまに遭遇するかな程度の魔物達が、何故がアリス達の前に魔物が現れて仕方がない。


 こいつら魔王である私を本気で殺そうとかかってきているんじゃないかと思いつつ、そういえばこういった魔物って魔王の配下と物語にはなっていたけれど、実際どうだったんだっけと考えて、何かがおかしい気がした。

 そもそも野生動物のような魔物は支配して操る術はあるが、それは訓練された魔物達であることのほうが多く、野生の魔物も沢山いる。

 そしてこれは、野生の魔物のたぐいなのだろう。


 なので害獣駆除も兼ねて倒そうと、アリスは杖を構えて呪文を唱えようとするが、そこで先程の三人の女性の仲間が走り出て、次々と連携して倒していってしまう。

 確かにそのまま襲いかかって剣や弓で倒していったほうが早いのだが、先手必勝にこだわり、怪我をするかもしれない敵の目前に真っ先に飛び込む度胸は流石にアリスはない。


 そこで僧侶が治癒用の魔法を唱えているのに気づく。

 特に戦士の彼女が大剣をふるうために魔物に近い位置にいるためか、細い切り傷をたまたま負った際に即座に治療している。

 それが終わればまた僧侶の彼女は弓の矢に相乗効果のある魔法をかけて威力を増大させるなど、次々と的確に傷を癒やしたり補助魔法で防御を高めたり、手馴れている。


 こんな方法もあるんだとアリスは気づいて、魔法使いならではの方法でちょっとでも手助けしよう……そう思っている間に戦闘は終了した。

 そんな魔物を見下ろして、戦士と僧侶と弓使いの女の子がそれぞれ、


「何だこんな雑魚か」

「勇者様はお怪我がありませんか?」

「といよりは私達がクリス様に怪我なんてさせるわけがないじゃないですか」


 そんな三人の、クリスへの自分達アピールを見ながら魔法を唱えようとしたアリスはぽつんと見送る。

 自分は、全く役に立たないとアリスは気づいた。

 確かに魔力は高いし魔法の技術はあるが、それを実践で使うことはほぼ想定していなかった。


 訓練のようなものはあったが、それは所詮は訓練でイザという時に反応できない。

 けれど今のうちに戦闘がどういったものかを確認してどう魔法を使っていこうか考えられる余裕が有るのだから、幸運だとアリスは自分を慰めた。

 そこで、三人のうちの一人がアリスに振り返り、確か弓使いの人だよなと思っていると、


「貴方、魔法使いなのに一体何をしてらっしゃるの?」

「え? えっと呪文を唱えるうちに戦闘が終わっちゃって」


 そう答えるアリスだが、それに彼女は睨みつけて、


「どうしてそんな素人が勇者様のパーティに選ばれたんですの?」

「え、えっと、多分私はクリスの幼馴染だから」

「なるほど、幼馴染だったから勇者様と一緒に要られるだけの無能ということですわね」


 ザクッと胸をえぐるような攻撃的な言葉が漏れる。

 何でそんな敵対心も露わに言われているのかアリスには少しも分からない。

 けれど敵には敵として対処していくのみなので問題ないとアリスは切り替えて、


「一応こう見えても魔法の才は結構あるんですよ」

「でも使えなければただの宝の持ち腐れね」


 いちいち癇に障る言い方しかできな人だなと思いながらもアリスは微笑みながら、


「何が気に喰わないのか存じませんが、そういった態度で無用の敵を作るといつか足元をすくわれますよ?」


 そう微笑むアリスに彼女はむっとしたようだが、そこで、


「もうそろそろ止めにしよう。こんな初めの町で仲違いはしたくない」

「クリス様がそうおっしゃるのでしたら」


 そう弓使いの子は引いてくれて、クリスは安堵しているようだった。

 けれど私、アリスからすれば悔しくてたまらなかったわけで、どうしようかと対策を考え始めたのだった。








 魔族と人間は仲が悪い、という時代は今は昔の事で、歴史の教科書でならう程度である。

 なのでそこかしこで猫耳の少女がしっぽを揺らしながら歩いていたりするのも珍しい光景ではない。

 そもそも人間以外の人型種族を全て魔族とくくってしまうことに問題があると近年言われており、それぞれの種族の個性が……以下略。


 そう思いながらアリスは自分が今何を言うべきかに迷う。

 目の前には弓使いのエレオノールがいる。

 但しベッドの上で猫耳が出て、体を震わせていたが。


「よ、よくも見たわね」

「……混血の人だったんですか」

「感情が高ぶると出るのよ! ああもう、こんな足手まといにまで知られるなんて」


 レオノールの言葉にアリスはぴくりと反応した。

 そもそもの原因はこのエレオノールにあるのだ。

 この街について宿を探そうとなった時、


「部屋が3つしか無い?」


 戸惑ったようなクリスの声に、何故か側にいた仲間三人が色めきだつ。

 何でもクリスと一緒の部屋になれるかもと喜んでいたらしいのだが、当のクリスは、瞳から生気がなくなっていた。

 一応年頃の男女なので分けるべきではある、というのは普通の考えなのだが、彼女達は自分をアピールするのに夢中で気づかないらしい。


 ここまで女の子が寄ってくるのは今まで見た事がないわとアリスは珍しい光景を傍観者のような立場で見ていた。

 本来危機感を持っていなければならないとは思うが、クリスの状態を見ていると、そこに愛が生まれる気配が見いだせないのでアリスには心の余裕があった。

 そもそもがクリスとはいえ健全な男子で、女の子に囲まれて嬉しかったりするものだと思うのだが、あの表情は……そろそろ相談に乗らないと限界かもしれないとアリスは幼馴染として長年連れ添ってきていただけに気づいていた。


 そこでそんな淀んで瞳で、クリスがアリスを見る。

 そしてそれに他の彼女達も表情を消してアリスを見る。

 一人の男を取り合うという、女の戦いの舞台に引きずり出されたような気がアリスにはした。


 だが、確かに彼女達とはアリスはクリスとの関係は年季が違うし、いい加減告白しようと思ったのだ。

 この程度で引いていては先が思いやられる。なのでアリスは、


「クリスが困っているからやめたほうがいいんじゃない? それに男女分けるのが普通でしょう?」


 そこで彼女達はお互い顔を見合わせて、


「確かにぬけがけ防止には丁度いいですわね」

「お互いが監視ってことね」

「それでどう分けるんだ?」


 と胸の大きい戦士の人が言い出したので、ここでようやくアリスは三人の名前を教えてもらえることになった。

 今までそんな雰囲気ではなかったので当然だが。

 そして名前を教わりくじ引きをする。


 取りまとめたのは戦士のカミーユ。姉さんのような立ち位置らしく取り纏めは上手い。

 そのクジの結果、そしてアリスと一緒の部屋に入ったのは弓使いのエレオノール。

 黒い長い髪に赤い瞳の、どこかお嬢様っぽい傲慢な雰囲気の彼女だった。

 そして宿の簡素な机とベッドが二つあるだけの部屋に入るなり、アリスを挑発したのだ。


「貴方、見るからに戦闘慣れしていませんわね。こんな素人を連れて行けなんて、どうなっているんだか……」

「申し訳ありません。ただ、クリスと一緒にいる時間は私のほうが長いですから、信頼できる仲間として選ばれたのかと」


 試しに幼馴染である利点を使って挑発してやれば、さっと彼女の顔に朱が走る。

 この程度の挑発に乗るほどに単純なのか、それともそのクリスが貰った祝福の影響で頭が恋愛脳になっているのかと、アリスが冷静に相手を見ている間にそこで。


 ぴょこん。


 彼女の頭に何かが生えた。

 それはネコミミのように見えたが彼女は気付いていないらしい。

 どうやら魔王になっただけで、変なものが見えるようになったらしいとアリスは嘆息したくなる。


 けれどそう思いつつ試しに手を伸ばして、その耳をアリスはぎゅっと力を込めて握りしめた。


「うぎゃあああああ」


 すさまじい悲鳴がエレオノールの口から漏れて、どうやら本物らしいとアリスは確信した。

 この手に握るけの感触もまた本物のようで、ネコミミカチューシャでも幻覚でもないらしい。ついでに、


「貴方魔族だったの?」

「!、ち、違うわ! 混血なの! 母が魔族で、くぅ……これが出るのはもう私や従兄弟くらいの貴重なものなの。……うぐ、まだカミーユやリリアーヌにも秘密なのに……」

「? クリスは知っているの?」

「ええ、この耳を見ても内緒にしていてくれるからって。あの時クリス様が好きと自覚したの……」


 ぼんやりと恋する乙女のように頬を染めて、うっとりと呟くエレオノールに、アリスはこれは扱いが大変だろうなとも思う。

 アリスも女の子でもあるし、今までこんな風になってしまった女友達もよく知っている。

 恋に狂って周りが何も見えなくなっている乙女の顔だ。


 クリス自体が女性に免疫がないから気付いていないのかもしれない。

 あのハーレム能力の影響なだけでクルスが好きなのだと、クリスは思っている。

 けれどこのエレオノール達は、“今”は本気でクリスが好きなのだ。


 祝福の影響にしろ何にしろ、それは事実のようだ。

 しかも、その能力以外で彼女の好感度が上がっていて……アリスの余裕が一気に削れた。

 その祝福とやらがいつ切れるのかをそのうちクリスに聞いておかないと、焦りを覚えるアリス。


 そして目の前でぼやき出すエレオノールに、人の嫌がることを好きで言いふらす性格ではなかったのでアリスは、


「恥ずかしいなら秘密にしておいてもいいわよ?」

「……まさかそれをネタにゆすろうなんて……」

「バラすわ」

「やめてぇえええ、うう、分かりました。こんな耳が出るなんて理知的な私には似合いませんもの……」

「貸一つね。そのうち何かあったらよろしく」


 こういう所は上手くやっていかないとと思ってアリスは告げるが、そこでエレオノールは、


「幼馴染って、遊び友達で“女”として意識してもらえなさそうですしね。余裕だわ」

「……許さない」

「ふみゃああああ」


 耳を掴んでエレオノールに悲鳴を上げさせる。

 そこで部屋のドアが叩かれたのだった。

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