茶番の締めは、魔王の城にて
ウィント達に連れてこらえて魔王城にやってきたアリス達。
「魔王様、おかえりなさいー」
「ようやく帰ってきてくれた―」
幼女二人、エコとミコが走り寄って来る。
待ってたよ、寂しかったよというふうに懐かれて、こんなに私は子供に好かれていただろうか? といったささやかな疑問を持つ。
だが疑問に思った所でウィントが微笑み、
「ソリッドちゃんもそんな仏頂面をしていないで、あんなに魔王様の事を心配して傷んだから少しぐらいはそういう所を見せたほうがいいんじゃない?」
「な、べ、別に私は……」
「程度に魔王様のことを見な心配していたんですよ~」
そう言われればそれはそれで嬉しかったりするのだがそこでクリスが、
「それで勇者としての戦いはどうするんですか?」
声をかけた。途端、クリスに気づいた幼女二人が、ぱぁあっと目を輝かせて頬を染める。
アリスはそれを見てクリスに、
「……子供に手を出したら犯罪だからね?」
「な、あ、あたりまえじゃないか。何を言うんだ急に……ああ、なるほど」
どうやらハーレム能力の影響を受けているらしい。
そんな子供達だが、やはり子供好きな所もあるクリスなので、懐いてくる幼女二人の頭を撫ぜたり話をしている。
いいお父さんになりそうだなと思いつつアリスはクリスを見て、その時隣に自分が立っていられればなとも思う。
けれどそんな三人の背後にいる二人、ウィントとソリッド。
その二人は影響を受けていないようだとアリスは思った所でウィントが、
「では対戦する組み合わせを決めますがよろしいでしょうか。こちらで決めても構いませんか?」
「それはそちらに有利ということか?」
クリスの問に、ウィントは笑みを深くする。
「そうとも言えますが、結局は茶番ですし、それに……貴方方の実力が知りたいですし」
「試されるのは好きじゃない」
「大丈夫です、手加減はしますから。組み合わせも最適のものにします。……死なないようにね?」
「随分と自身がおありのようで」
「それはそうでしょう、だって人間は“弱い”ですもの」
微笑むウィントに嘲りが見え隠れする。その挑発にクリスは何か言おうとするが、すぐに我慢するよう押し黙り、
「分かった、組み合わせはそちらで決めていい。但し命の保証はしてくれるんだな?」
「ええ、こちらで選ぶ限りは」
さり気なく脅しをにじませるウィントにクリスが睨みつけるが、それ以上は言わない。
そして、ウィントがエレオノール、幼女二人がリリアーヌとカミーユ、クリスがアリスとソリッドに別れることになったのだが、そこでリリアーヌが、
「こんな子供相手で、私達の実力がはかれると?」
その言葉に幼女達はむっとしたようにリリアーヌを睨みつけるがそこでウィントが、
「それは彼女達の力を見てからにしてくださいね。この子達は近年魔族きっての天才ですから」
ウィントが楽しそうに笑って告げる。
それにリリアーヌはカミーユと顔を合わせてから頷いて、そして、魔族側は準備を始めたのだった。
十分ほど待って配置についた頃になって、そこでクリスがはっとした顔になった。
「あのソリッドという魔族の女……おかしいぞ」
「どうしたのですか、クリス様」
「俺はすぐに行かないと……先に行く」
叫んでクリスは走って行ってしまう。
途中まで一緒に行けたらなと思っていた三人は残念というように肩を落としてからクリスの向かった方にゆき、3つの扉の前にやってくる。
真ん中の扉が開いているので、クリスがそこを通って行ったのだろうと分かる。
「またあとで」
「分かった」
「分かりましたわ」
そう言って別れたのだった。
扉をくぐるリリアーヌとカミーユ。
特に罠もなく辿り着いたその場所は、幼女二人が待ち構えていた。
赤い髪の少女と青い髪の少女。
赤い髪の少女は子供らしい、傲慢さが見て取れ、青い髪の少女は大人しく、けれど見透かすような眼差しでリリアーヌ達を見ている。
可愛らしく将来さぞ美しく育つであろうと思わせる彼女達。
けれど魔族といえど子供なその幼女二人に戦士のカミーユはとりあえず剣を構え、僧侶も援護用の魔法を唱えようとする。
そこで幼女二人はリリアーヌとカミーユを見て笑い、次にお互いと片手を合わせて、
「行くよ、エコちゃん」
「うん、ミコちゃん」
その掛け声とともに二人が光で包まれる。
魔力が噴出すのを感じて、目の前の相手が手加減など出来ない存在だとカミーユとリリアーヌに示される。
その光が収まると、そこには赤い髪が先の方になればなるほど青くなる、二人の幼女を大人にしたような美少女だった。
服装も彼女達の着ていた赤と青の服が織り交ぜられて、より華やかな印象を受ける。
だがそれを一目見たリリアーヌの感想といえば。
「く、胸が私よりまたしても大きい」
「……リリアーヌ、気になる所はそこか」
呆れたようにため息をつくカミーユに、胸の大きい人には私の気持ちはわからないわよと涙ぐむリリアーヌ。
そこで先ほど幼女だったものが、涙目なリリアーヌを鼻で笑う。
「強ければ強いほど胸が大きくなるだけよ! 分かってないわね!」
「……この幼女、子供だからって容赦しないんだからぁあああ」
「リリアーヌ、闇雲に突き進むな!」
カミーユの静止も聞かず、リリアーヌがそう言ってスカートを翻して、中から短剣を取り出して急所を狙うように放り投げる。
けれどそれは幼女の防御の魔法によって、見えない壁にぶち当たり阻止されてしまう。
「何だこの程度なんだ。じゃあ、こちらから行くわね!」
幼女は二人手を大きく振り上げて、炎の攻撃を仕掛けたのだった。