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雑魚っぽい、ちょっと強いラスボス

 あまりの話に、アリスも頭がついていかない。


「少し時間がほしいかも」

「……俺もだ」


 そんなわけでクリスとアリスは二人して街のガイドブックに載っていた公園に来ていた。

 その一角のベンチに並んで座りながら、二人してぼんやり空をみあげていた。

 もう少ししたら夕暮れ時かもしれないわけだが、そこでクリスは口を開いた。


「本当にとんだ茶番じゃないか」

「茶番だね。……でもクリスと殺し合わないといけないわけでもないし」

「そうだよな……俺ずっと、アリスのこと守ってやるって思っていたんだ」

「そっか。でもこう見えて私だって魔法が使えるのよね」

「そうだよな、そういえば腕前は知らなかったな。あ、攫われる時に落とした杖は、ずっと俺が持っていたんだが」

「うん、助かったよ」


 そんな会話をしながら、ぼんやりと空を見上げる二人。

 アリスは、脱力する感覚に陥る。


「あの変な奴らさえいなければ、平和に事が運ぶのにね」

「そうだな。……どの道アリスが狙われるんなら守ってやるよ。俺は勇者だしそれに……す……幼馴染だし」

「ありがとう。そういえばさ魔王を倒したら、私に言いたいことがあるんだっけクリスは」


 それを言われてクリスは顔を赤くしたがすぐに、


「そうだ」


 そう答えて黙る。何を考えているのかその時アリスには分からなかったけれど、何かを消えた表情のクリスは男らしい気が捨てさらに惚れてしまいそうだとアリスは思う。

 それにこうやって二人で並んでいるだけでも幸せだなとアリスは思えてしまう。

 ささやかなこと全部が、クリスと一緒ならどれもアリスには魅力的だった。

 そのまま空をしばらく見上げたまま二人黙って次に、


「帰ろうか」


 アリスが提案して二人は宿に戻る。

 そこで待ち構えていたリリアーヌに提案されたのだった。





 ショートカット案。そのままの意味で、ショートカットする案。

 これをすることで、旅という過程をなくしても装置の負荷を減らせるのではないかという理由から実験をするらしい。

 平和な時代である今くらいしか機会がないとの事だった。


「他の方々を巻き込まないで、かつ、人目につかぬ場所で転送を行いますので、次の街に行く途中……出来れば夜間にお願いします」


 と、魔族のウィントさんから言われていたので、現在アリス達は真夜中の道を明かりを灯して歩いていた。

 月明かりがあたりを照らす、そんな雲一つない夜空だったのは僥倖だった。

 そんな中、リリアーヌとエレオノールはどこかふてくされているようだった。

 アリスが思い当たる理由といえば、ウィントとの会話で、


「いいのですか? 魔族秘蔵の転移魔法を我々に見せて」


 リリアーヌが挑戦的に言うが、ウィントは笑みを深くして、


「そちらに出入り口を作るだけですから問題あいりませんし、それは魔族の魔法です。人間には使えませんし、そもそも解読できませんわ」

「へぇ、それを写しとって、解析専門の方に見せれば……」

「それでどうこうできるほどコチラは甘くありませんし、単純でもないのですよ?」

「魔族がどうというなら、半分魔族の血がはいっているエレオノールならどうかしら」

「無理ですね。貴方程度の魔力と知識では太刀打ち出来ないでしょう。もっともアリス様が手をお貸しにならなければ、の話ですが」


 ウィントが笑いながらアリスを引き合いに出す。

 何で私の名前を如何なとアリスが思っていると、リリアーヌが、


「魔王といっても魔力の強いだけの魔法使いでしょう?」

「……なるほど、その程度の知識しか貴方方には与えられていないと」

「どういう意味かしら」

「聞けば教えてくれるほど生優しい関係ではないでしょう? 私達は、ね?」


 笑いながらも何処か小馬鹿にした表情をするウィント。

 それにエレオノールとリリアーヌが睨みつけて、けれど表立っては喧嘩できないらしく黙るしか無い。

 そしてやがてどの地点で待ち合わせするかが決まり、そこに向かってアリス達は歩いていた。


「まさかこんな展開になるなんてね」

「アリスは何も知らないのか?」

「うん、だって魔王だって知らないもの。そんな関係だって話も知らないし……クリスは?」

「そこまでは聞いていなかった。しかも相手は……アリスだし」

「そうだよね幼馴染みだよね。戦うのは躊躇しちゃう?」


 軽く冗談めかしてアリスは聞いてみる。

 昔は取っ組み合いで喧嘩をしたものだが、今はそうできるとは思えない。

 それにクリスはちょっと黙ってから、すぐに睨めるように前方を見る。


 アリスには分からなかったが、アリスをかばうようにクリスが前へと出て、そこでゆらりと人影が一つ。

 黒いローブのとこがまた一人現れる。

 クリスが剣をむけると、


「よくも我々をコケにしてくれたな。だがお前達ごと灰にしてやる」

「魔王が必要なんじゃないのか?」

「この程度の魔法で死ぬような魔王ではない。魔王とはそういう存在だ。だから死ぬのはお前達だけだ」


 笑う黒ローブの男だが、そこでクリスが剣を構えて走りだす。

 それを他の三人が続いていくが……アリスは動けなかった。

 足手まといというのもあるのだが独特の魔力の気配。


 ゆらゆらと揺れる大気の動きから幾つか推定していき、以前一度、予定外にも手合わせすることになったあの怪物の気配を感じる。

 まさか。

 そんなはずはないとは思うし、ここはそんな場所と近くはない。


 以前の練習の時に偶然遭遇したのは、その時期とその時間は大丈夫だからという理由があったからだ。

 それの様子を見に行こうという訓練出会ったも間違いのもとで

皆阿鼻叫喚だったから、アリスも無我夢中だった。

 結局あの時は、あの怪物を引かせるにとどまったがもしも……今回呼ばれたならば?


 倒すまで出来るだろうかという不安がアリスを襲う。

 同時に光が柵状に繋がれて何かを呼び出し、アリスは予想が正しかったと確信する。

 光の円陣が浮かび上がりそこからまず首が現れ、次に臙脂色の胴体が現れる。

 巨大な牙と体育を持つその怪物の名を、クリスが驚きを持って呟いた。


「何だあれは……ドラゴン?」


 人類の魔族以外に当たる恐ろしい敵が、その黒ローブの漢によってアリス達の前に呼び出されたのだった。

 





 爬虫類のような首に、獰猛な鋭い爪。

 その背に羽ばたく大きな羽がある。

 それが羽を動かすと同時に突風を巻き起こす。


 確か口から業火を吐き出したはずだとアリスは思って、そのドラゴンを見上げる。

 身長はアリスの三倍程度とあの時に比べて小柄だった。

 それでも凶悪な部類であることには変わりなかったが。


「ははは、我々はドラゴンを使役できるのだよ」

「言っていることは雑魚っぽい悪役だけれどシャレになりませんわね」


 エレオノールが呟いて、そこで戦士のカミーユが、


「それで約束の場所までどれくらいだ?」

「後もう少しですわ」

「そこまでクリスとアリスを届けるのが私達の仕事だ」


 カミーユがそう言い切ってまずくろローうの男に斬りかかるが、


「お前達の相手はそのドラゴンだ。まずはお手並み拝見か」


 そう言って後ろに下がりドラゴンの後ろに隠れてしまう。

 一方クリスはドラゴンに剣と魔法で攻撃を仕掛けるが、


「爪で抑えられるし、風を当てられるし、その風も魔法で操っているから……さすがは凶悪な魔法生物と言われるだけはあるな」


 クリスは呟きながら更に攻撃を仕掛けていく。

 同時に、エレオノールが弓を使い、それに更に魔法でリリアーヌが炎を上乗せして攻撃していく。

 クリスが外して攻撃をカミーユが受け止めながら更に連携しての攻撃を繰り返す。

 そんな時、ドラゴンが口をモゴモゴさせる。


 それに嫌な予感がしたのだろう。

 四人がドラゴンから離れるが、すぐにそのドラゴンの口から炎がはかれる。

 ドラゴンのその息吹は、人間など一瞬にして蒸発させてしまう。


 とっさに彼等は防御の魔法を使うがそれはあまりにも心もとない。

 そこでようやくアリスが呟いた。


「“愛しき風よ、守りの盾となれ”」


 呪文の最後の一文をつぶやき、アリスは杖を手前に振る。

 あの時はこれで大丈夫だったのだから、問題ないだろう、そんな確信がアリスの中にあった。

 そして実際にその全てをアリスは防御することに成功する。


 クリスを含めて他の三人が驚いたようにアリスを見るのだどこか気分が良かった。なので、


「もう足手まといなんて言わせないんだから。クリス、合図をしたら地面に伏せてよね」

「あ、ああ、分かった」


 クルスの答えはそれで、ドラゴンに攻撃を仕掛ける。

 その間に、今の所の必殺技というべき呪文をアリスは唱えていく。そして、


「クリス、下がって!」

「分かった!」

「“凍える風よ、剣となりて敵を撃て”」


 その力ある言葉とともに冷気が噴出して、ドラゴンを凍りづけにする。

 この種のドラゴンは低温になると活動が鈍くなるとあの後に知ったためだ。

 それくらい恐ろしい相手にあの時アリスは遭遇して生き残ったのである。


 そして動けずに東証まで与えたであろうその攻撃後アリスはクリスに、


「クリス、後はよろしくね、勇者様」

「わかっているさっ! はぁあああああ」


 掛け声とともに剣に魔力が宿る。そしてドラゴンに斬りかかるクリス。

 勝負は一瞬。

 真っ二つにされるドラゴンとその絶叫が聞こえる。

 同時に黒ローブの男が逃げ出すのが見えるが、こちらからは倒したドラゴンの関係で動けない。

 けれどとりあえず当面の危機は去ってホッと一息つくと、リリアーヌがやってきて、


「アリス、貴方あんなに強かったの?」

「戦闘には従事したことはないけれど訓練はしたって言ったじゃない」

「でもあれだけの魔法は……」

「使える人他にもいるしもっと強い人もいるもの」

「でも魔力を抑えられた状態なのでしょう?」

「そういえばそんな話はあったかな。でも私は気にしていないしね」


 大したことないわよとアリスはかたをすくめて答えるとリリアーヌは、小さく鼻で笑って、


「……恐ろしくも凄いものを見てしまった。でも、足手まといには変わらないわね」

「何でよ」

「だってあんな凶悪な敵は早々出てこないもの」


 その言葉アリスが反論しようとした所で、


「今の様子見せていただきましたわ。さすが魔王様ですね」


 そう、ウィント達含めてアリスの出会った魔族の貴族、四人が現れたのだった。


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