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男女で取っ組み合いの戦い(最終決戦)

 そんなこんなで部屋に荷物をおいて、もちろん連絡用の鏡と財布だけは自分で持ってアリスはクリスのいる部屋に向かった。

 部屋の扉を叩いて返事があるので、開けてアリスは入る。


「それでクリス、話って何?」

「色々と。……アリスはこの魔王との戦いについてどう思う?」


 やけに真剣に思いつめた表情で問いかけてくるクリスにアリスはといえば……自分がその魔王なので今戦っちゃえば終わりなんじゃないかという、とても楽な事実に気づいたのはいいとして。


「この平和な時代に、勇者と魔王の戦いなんて、どうなんだろうなというくらいかな」

「だよな、普通そうだよ。魔族の人達とも異種族結婚も進んでいるし、その他もろもろの権利も進んでいるし」

「なのに今更その、なんだっけ、子供の考えた僕の最強の剣みたいな……」

「“破滅の剣”だ。勇者が持つ剣になんて名前をつけるんだとは思うんだが、そういえば幾つかの事を思い出したから、アリスにも話を聞いてもらおうと思ったんだ」

「そうなの?」

「ああ、所でこれまでの魔王と勇者の戦いについてどの程度アリスは知っている?」


 そう言われても歴史の専門家ではないので、それほど良くは知らないというのが現状だ。

 大雑把に全体の歴史をこんなことがあったよ程度で、特にここ近代の歴史がすっぽり抜けている。

 せいぜい教師が面白い雑学をちょろっと説明した程度が記憶の中に残っている歴史に色付けしている程度だ。


 確かその時知ったのが、前回の勇者と魔王が肉弾戦で戦ったとか何とか……。


「あれ、前回の勇者と魔王は素手で戦って、友情を確かめたんだっけ?」

「そうだ。そしてその前の戦いも妥協と言われているが……ほとんど素手での戦いになっている」

「……その凄そうな剣は?」

「名前だけ出てきて、使用された形跡がない」


 勇者の剣なのに、魔王との戦いで使用されない。

 どういう意味だと思ってアリスがクリスを見ると、クリスが話しだす。


「そもそもこの剣、確かに相手を倒すために炎の魔法やら強力な魔法をまとえるようになっている。けれどそれら使える魔法全てを持ってしても、繊細に施された魔法道具としての模様、魔法構造があまりにも多すぎる」

「つまり別の何かが隠されていると。見せてもらえる? ついでに使える魔法を全部教えてもらえるかしら。あと、経験や能力によって使える魔法が見えない可能性は?」

「こう見えても剣士としての魔法能力も俺、高くて。使用できるこの剣の魔法は全部使えるらしい」

「そういえば稀代の天才とかもてはやされていたわね。女の子も一時期クリスの周りをそわそわしながらうろついていたし」

「あの頃は良かった。ちょっと好意を寄せられるだけでよかったんだ、俺は。本命いるし」


 目をトロンとさせながらクリスが呟いた。なので、


「積極的な女の子がいいって言っていなかったっけ」

「……そんな事、俺は言ったか?」

「言ってたわよ。だから今の状況は嬉しいんじゃない?」


 言っていて冗談めかしているが、アリスは胸に痛みを覚える。

 するとクリスが更に死にそうな顔になって、


「俺に群がってくる女の子同士って仲が良くないんだ」

「……いや、クリスの愛を受けたいっていうライバルだから仲が悪いのは当然じゃないかと。今の三人が珍しいんじゃない? それを考えれば」

「そうなんだ。いや、初めちやほやされてきている気がして嬉しくなっていたんだが彼女達が俺のいない時何をやっているのか目撃してさ。……女の子が仲良く取り合うハーレムなんて存在しないだろうなと思っていたけれど……想像以上だった」


 更に目が死にかけているクリスにそろそろ話題を変えようとアリスは思って、


「でも勇者と魔王を今更という気がするわね。別の目的がありそう」

「そうなんだよな。さっき捕まえたおかしな奴らのこともあるし」

「ついでに魔王とどうして拳で殴り合いになったかだよね」

「そうだな、しかも今代の魔王は女らしいし、肉弾戦はちょっと……セクハラにもなりそうだからな」

「男女で取っ組み合いの戦い」


 ポツリとつぶやいたアリスにクリスも黙る。

 何となく別の意味にも聞こえてしまいそうな単語だが、


「あの三人もまだ何を考えているのかよくわからないんだよな。別の目的もあるっぽいし」

「別の目的、ね。私もちょっと探りも入れてみるから安心して」

「アリスは嫌われているみたいだからな」

「でも一人とは仲良くなったよ?」

「本当か。どうやって?」

「弱みを握って……冗談よ」


 クリスが黙ってアリスを見て、嘆息した。


「あまり仲が悪くなるようなことはしないでくれ。アリスに何かあったら俺……」

「大丈夫よ」


 言い切るアリスにクリスは、程々にしてくれといったのだった。







  部屋に戻ってくると、まだ僧侶のリリアーヌや弓使いのエレオノールが戻ってきていなかった。

 ついでに、側の椅子でカミーユが菓子を食べながら何かを読んでいる。


「剣の手入れに必要な魔力石の値段がこうで、旅費に上乗せして、食費を……なんだい?」


 何を読んでいるのかなと思ったアリスは、機嫌の悪そうなカミーユに言われて慌てて、


「いえ、何をしているのかなって」

「ああ、旅費とは別に装備用の費用が幾らか出るから、予算ギリギリまで買っておこうかと思って。月の終わりに新しくなるからさ」

「そうなんですか?」

「そういえばそっちは系統が違うんだったか。私達の場合は、国から直接雇われていて、月初めに給料が支払われて、装備といったその他諸々の費用は一定の予算が組まれていてそこから出してもらえるんだ」

「そうなんですか……私は旅費のお金を渡されて、がんばってね~といった感じでした」

「ちなみにどれくらい貰ったんだ?」

「お金の話は争いになるので言わないことにしているんです」

「なるほど、違いない」


 屈託なく笑うカミーユ。

 クリスが関わらなければ、意外に良い関係が築けるのではないかという欲がアリスを襲う。

 でもこの前の僧侶のリリアーヌのように、本気になる切っ掛けみたいな話を聞かされるのも困るなと思っているとそこで、


「でもあんたはクリス様の幼馴染だからな……」

「う、いえそれはクリスがハーレムの祝福を……」

「別にそれだけで私はクリス様を好きになったわけじゃないしな」


 あ、やっぱりそんな展開ですかとアリスは思う。

 思ってライバルが増えかけたことにアリスは心の中で涙しつつ、


「そもそもクリス様に会ったのは私が家で、親の代わりに弟や妹達の面倒を見ていた時だったからな。あ、親の代わりって言っても親は出稼ぎに行っている最中で、私が面倒を見ていたんだが……妹や弟になつかれていて好印象で、あの人に似ているなって思ってさ」

「あの人?」

「そう、好きだった人、というか憧れていた人に似ている。しかも最近告白したら歳の差を理由に断られた」


 ははっと笑いながらどこか遠くを見るように呟くカミーユ。

 でもそう言われてしまえばアリスとしては黙っていられないわけで、


「そんな誰かの代わりに私の幼馴染のクリスをしないでよ」

「愛せると思ったんだからいいだろ? それにクリス様は私の好みだし」

「でも、幼馴染として何となく嫌なの」

「幼馴染ね……幼馴染はあまり恋愛対象にならないらしいんだよな」

「その話はおいておいて、私が納得出来ないから駄目」


 アリスは言い切った。

 たとえアリス自身がクリスに振られたとしても、誰かの身代りみたいにされるのは嫌だった。

 確かにアリスはクリスが好きだが、幼馴染で兄弟のように育ってきたのでそういった情のような物もある。

 そう言い切るアリスにカミーユは笑った。


「うーん、困った。こういう答えが来るとは思わなかった」

「どんな答えが来ると思ったんですか?」

「私の好きなクリスを取らないで、とか?」

「つまり私がクリスを好きだと?」

「それも含めて、そういった素振りを見せているという自覚症状がないようだ。じゃあ私にも勝機はあるかな?」


 アリスはいつもの様にクリスと会話しているじゃないと思うのだが、そこでカミーユは、


「何か聞きたいことがあるのだろう? 私達三人がどうして選ばれたのか別の目的があるのか、彼らは一体誰なのか、とか」

「そうです、教えてください」


 そのカミーユが言った全部が、アリスの聞きたいことなのだ。そんな食いついたアリスに、カミーユは小さく笑う。


「大体の事は、計画的な犯行なんだ」

「ミステリ小説じゃないのに、物騒な単語ですね」

「そういえばそうだな。まあ、誰もが平和に穏便に終わらせたいのは、事実だろうね」


 それをそのまま信じるかどうかに迷いがアリスにはある。

 けれどまだアリスの情報はあまりにも少なすぎるので、


「分かりました。そう思っておきます」


 そうアリスは答えると同時に、ほほ笑むカミーユとの距離が縮まったように感じたのだった。



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